【原案・完結】捕われ令嬢は籠の中で泡沫の夢を見る

蓮実 アラタ

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7 『能力』

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 ――その昔、まだこの地に王国が出来ていなかった時のお話。



 全ての大地を創り、統べる存在がおりました。
 膨大な力を持ち、全てのものを慈しむその存在は、大精霊システィリャという名で呼ばれていました。
 システィリャには大勢の眷属がおり、自然の加護を受け、皆豊かに平和に暮らしておりました。

 ある時、その平和な大地に異変が起きました。
 全ての自然が枯れ、死に絶えていきます。その原因は大精霊と言われるシスティリャの力をもってしても分かりませんでした。

 自然に異変が起き、死に絶えていく。その加護を受けているシスティリャの眷属たちはその影響をもろに受け、数を減らしていきました。
 減っていく眷属たち。死に絶えていく大地。
 システィリャは深く嘆き悲しみ、涙を落としました。とめどなく流れ落ちる涙は、枯れゆく大地全てを覆うほどでした。

 すると不思議なことに、システィリャの涙が浸透した大地から新たな息吹が芽生えました。
 小さな芽が生え、大地を覆い緑を作っていきます。
 最初は小さく点々としたそれは、次第に死に絶えたはずの大地に次々に芽吹き、やがてその全てを緑色に染めてしまいました。

 大精霊システィリャは涙を流し続け、力を使い果たしてしまいました。
 くたりと倒れたその体を、優しく緑の蔦が覆います。その周りには生き残った眷属たちがシスティリャを囲むように並んでいます。

 システィリャは最後の力を振り絞り、残った眷属たちに自らの力を分け与えました。
 それは眷属たちに新たな能力を宿らせました。
 システィリャはそれを見届けると、自らの眷属たちの繁栄と安寧を祈りながら、力なく瞼を伏せました。そのまま二度と目覚めぬ眠りについたシスティリャを眷属たちは敬い、この地にひとつの国を作り上げました。








「――その国がこのシステーナ王国であり、私達はその眷属の末裔とされている、でしたわね」


 この国の者ならば誰もが知っている昔話。
 絵本なんかにもなっているし、古い歌にもいくつか関連の歌がある。
 この誰もが知っている有名な話を何故今更出したのか。
 それは私が『能力持ち』であることに起因する。

 この古い昔話に出てきた生き残った眷属たち。
 新たな能力を宿した眷属たちは、それぞれが個々の特別な能力を持っていた。
 ある者は水を自在に操り、ある者は動物と意思疎通ができ、またある者は自在に空を飛ぶことができた。

 個々が強力な力を持った眷属たちはその後もシスティリャの祈り通りに繁栄を続けた。
 最初こそ数が少なかったが、長い繁栄でその数を増し、大国と呼ばれるに相応しいほどに子孫を残して。
 しかしそれと相反するように、特別な能力を持つものは減っていった。

 一説には数を増やしたことで血が薄まったため減ったという説もあるが、詳しい原因は分からない。今では何世代かに一人の割合でしか発現しなくなった『能力持ち』。
 一種の先祖返りと言われるその者達は、非常に希少な存在でこのシステーナ王国では貴重な人材として扱われる。

 発現する能力は先祖由来の個々で様々。
 先天的に持つものと何かをきっかけにして後天的に発現する者がいる。有用な能力ならば、本人が望めば王宮で保護して教育の場を与えられたりもする。
 過去にいた『能力持ち』はその能力を使って様々な偉業を成し遂げた。


「……お前はなんの能力も持っていなかったではないか? 儀式を受けた時はなんの力も確認されなかったぞ?」
「それはその時まだ私が力を発現していなかったからですわ」


 父の指摘に私は肩を竦めた。
 この国の者は4~8歳の間に王都に出向いて『選定の儀』なるものを受けることを義務付けられている。
 システィリャがかつて死した場所は結晶化した巨大な水晶石があり、それに『能力持ち』が触れると淡く光って反応する。それが選定の儀と呼ばれるいわば能力持ち発掘のための儀式だ。

 能力持ちは幼少時だとその力を完全に制御することが出来ず暴走させてしまうことがある。
 そのために選定の儀で能力持ちを見つけ、力の制御の仕方を学ぶ必要があるのだ。
 何故4歳から8歳なのかと言うと、その時期に能力が覚醒することが多いからだそう。

 しかし、先程にも述べた通り後天的に能力に覚醒するものも存在する。
 私が自分の能力を覚醒させたのは13歳のときだった。

 父の代わりにいった領地の視察でとある森の異変の調査を行っていた時、『声』が聞こえたのだ。
 その『声』に誘われるままたどり着いた場所は、巨大な樹がそびえ立つ場所だった。
 樹齢も全く予測できないほどのその巨大な樹は枯れかけていた。

『お願い……私をもう一度かつての緑あふれる姿に』

 傍に立っているだけで不思議とその巨木の望みが伝わってきて、自覚のないままに『能力』を使い、私はその巨大な樹を今にも枯れそうな状態から一気に緑溢れる若々しい姿に戻してしまった。

 それ以降、植物の『声』が聞こえるようになってしまった。どうやらそれが『能力』らしいと気づいたのはそのすぐ後だった。
 何故この能力を持つに至ったのかは分からない。
 けれどこの能力は使えると思った。だから私はこの能力の使い道を考えた。そして――見つけたのだ。


「ああそうでしたわ。グランツシルク。ここ最近特に評判もよく、先日王室御用達の指定を受けましたのよ。頑張った甲斐がありましたわ」


 私が目をつけたのは養蚕業。昔からグランツ子爵領で絹の製造は行われていた。
 温帯の気候で資源に恵まれたこの領地では桑がよく育った。桑の葉は蚕の餌になり、その繭がシルクの原料となる。シルクはグランツ領の特産品ではあったものの、当時は生産できる量にも限度があり、今ほどの産出量を誇ってはいなかった。

 そこで私の力を使って桑の樹の生息帯を増やし、葉は蚕の餌に、枝などの木材は作業場の増築のために使い、人手を増やして生産効率を上げ、良質なシルクの製造方法を研究し、『グランツシルク』を作りあげた。

 時間はかかったが協力してくれた人達の努力もあり、『グランツシルク』は今や貴族たちにも人気のある品となっている。注文が殺到していて、生産が追いつかないほどに。
 そのおかげで我がグランツ家は上位貴族に勝るとも劣らない程の資産家となった。
 さらに王妃の指名を受け、先日『グランツシルク』
 は王室御用達の認定も受けている。


「グランツシルクの功績と私の能力。条件は揃っておりますわよね?   お父様」


 さらに笑顔で圧力をかけるように父を眺めると、長い間逡巡していた父はようやくその首を縦にふった。


「……そうだな。私もこの状態だ。先は長くない……望み通りに当主の座は譲ろう」


 父が左手の薬指から指輪を抜き取ると、私に差し出した。
 黒い宝石が埋め込まれた金の意匠の指輪。裏側にはグランツ家の名が刻まれている。


「正式な手続きはまだだが先にこれを渡しておこう。グランツ家の代々当主が嵌めることを許されている指輪だ。……お前にこの家を託す」
「はい。ありがとうございます」


 父から指輪を受け取り、自分の指に嵌める。
 父と指のサイズは違うはずなのに、不思議とその指輪は私の指にピッタリとはまった。
 おそらく何らかの能力者が創った指輪なのだろう。

 光に照らされて黒い宝石が淡く輝くのを見届けながら、私は心の中で呟いた。


 これでひとつ。
 次は、思い上がった馬鹿共を蹴落とさなくてはね?
 慌ててはだめ。じわじわ追い詰めていくのよ。
 まだ私の反撃は、始まったばかりなのだから。
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