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18 疑問
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「さて、どうしましょうかねぇ……」
震える義母に視線を合わせてしゃがみこみ、実ににこやかにどう調理してやろうかと悩んでいると。
扉が突然なんの前触れもなく開き、部屋に黒髪の女性が荒々しく入ってきた。
女性は血相を変え、綺麗な顔に切羽詰まった表情を浮かべている。赤い瞳で部屋のあちこちを見て、私と視線があった。あら、この方は……。
「エマッ!? 無事なの!?」
「叔母様? 随分と早いお着きなのですね── へぶっ 」
あと一日はかかると思っていたのに……と言葉を続ける間もなく私は乱入してきた黒髪の女性に抱き締められた。あの、叔母様、苦しいです。
「無事ね? 何事もないわね!?」
「……」
「エマ? どうしたの? なぜ何も言わないの? どこか悪いの!?」
──だから叔母様、苦しいですってば。
女性の豊満な胸が丁度私の顔に当たり、まともに息が出来ない。胸の感触は非常に心地よいのだが、力の加減をして欲しい。抱きしめられすぎて骨が軋み始めており、さすがに痛い。
叔母の胸に埋まってどうにかしようとバタバタ手を動かす私を見かねたシーラが助けに入ってくれた。
「セレンディナ様、エマ様が苦しがっておられます」
「え? あら、私のせいだったの。ごめんなさい」
叔母はようやく私を解放してくれた。ぷはっと息をつき、深呼吸をする。相変わらず羨ましいほどの巨乳と見事なプロポーション……ではなく。突然現れた闖入者に、私は歓迎の意を込めて笑顔を浮かべた。
「わざわざお越しくださり感謝しますわ、セレンディナ叔母様。騎士達はどうしたのですか?」
こちらの問いに艶やかな黒髪を結い上げた騎士装の女性は妖艶な笑みで応えた。
「勿論控えさせてるわよ。シーラからの報せを受け取った時、丁度転移を使える能力もちがいてね? グランツ子爵邸まで転移で送ってもらったのよ。でも肝心のエマがいないからどうしたのかってヨシュアに聞いたら『悪者を捕獲しに行った』って言うから慌てて場所を聞き出してここまで来たのよ? 丁度いたからラズーリも引っ張ってきたわ。何かあったら困るもの。それより、なぜ一人で行動したの!? 危ないじゃないの!! 何故私が来るまで待てなかったの!」
叔母の連撃にどう返そうか考えあぐねていると、その後ろにまだ人がいることに気づいた。
「おい、俺が随分な扱いだな……。だが、セレンディナには同意だ。何故そんな危ないことをした。毒が効かない体質なのは知ってるが動物性の毒だったらどうする気だったんだ。お前ならもう少し慎重な行動をすると思っていたのに……囮になるなんて」
叔母の後ろから現れた思わぬ人物に私は目を見開いた。
「ラズーリ叔父様……」
アッシュブラウンの髪に、紫紺の瞳。
瞳の色以外は母様によく似たその容貌。違いは男性で、髪が短いことくらい。
黒髪の美麗な騎士装の女性の名はセレンディナ・ヴァイト。現ヴァイト伯爵で父オニキスの妹であり、実力で近衛騎士にまで上り詰めたエリート騎士。私の叔母にあたる人だ。
サフィアの身柄を引き渡すために事情を話してシーラに呼んでもらった。
母様に瓜二つの顔立ちをした男性はラズーリ・フォレスタ。貴族としての呼称はフォレスタ男爵。
『奇跡の手』を持つと呼ばれる名医で、病や傷を治すという治癒能力を持つ稀少な能力持ち。ラヴィス母様の弟で私の叔父にあたり、父の病気を診てもらうために呼んだ。父の今後の療養も任せる予定だ。
その二人が揃いも揃って厳しい顔つきで私を見ている。その様子から伺えるのは純粋な私への心配。
しかし、それが私には理解できなかった。なぜこの二人は私を心配しているのだろう?
「毒については叔父様からあらゆる毒への中和剤を頂いておりましたし、シーラもいましたから。結果的に義母の悪事を暴けましたし、大丈夫でしたわよ? 安心なさってくださいな!」
何も心配はいらない。シーラの協力もあり、義母は無事に捕らえることが出来た。
何も問題はなかった、そう言わんばかりの私の言葉に返ってきたのは二人の怒号だった。
「「問題しかない!!」」
意図して揃えた訳では無いだろうにピッタリ重なった二人の怒声にきょとんとする。
美貌の人は怒っても綺麗だな。そんな場違いな思考をしている私に二人が詰め寄る。
「もし他に仲間がいたらどうする気だったの! 危ないじゃない!! 少しは考えて、どうして周りを頼らなかったの?」
「偶然上手くいったからよかったものの、下手をすれば死んでいたんだぞ!? 大怪我をしていたかもしれない! 心配するじゃないか!」
叔父と叔母の言葉に、違和感を覚えて私はふと真顔になる。
──心配する? 誰かを頼る? 誰が? この家において、誰が私の心配をするというのだろうか。
父が関心を持っていたのは義母と異母妹だけ。私は終始お人形と化して望み通りに振舞っていただけ。
周りの大人は皆信用できなかった。私は当主代行で皆を導き、引っ張る存在。誰かを頼るなんてそんな甘えは許されない。一人で頑張らなければならなかった。誰を頼れというのか。そして、そんな私を誰が心配するだろうか。
そんな純粋な疑問から、ぽつりと漏らしてしまった。
「誰が心配するんですかね? ──あの家において、私を心配する人なんていませんでしたよ? それに頼る人なんてどこにもいませんでしたし」
使用人や領地の皆は私を慕ってくれてはいるけれど、彼らの助けは借りられない。彼らには別の仕事がある。私なんぞのために手を煩わせてはならない。
父に失望され、自分を押し殺して生きてきた私にはそれが当然だと思っていた。誰も助けてはくれないのだから自分で行動するしかない。捨てられないよう望み通りに振る舞う。そうすれば、少なくとも無視されることはなくなる。
この返答に二人は先程の猛烈な勢いはどこへやら、押し黙ってしまった。
何かおかしいことを言ってしまっただろうか。
首を傾げて考えていると、セレンディナ叔母様の表情が変わった。
眉が跳ね上がり、麗しい赤の双眸は明らかに怒りに燃えていた。肩を震わせ、本気で怒っている。
「……そう、それがあなたの『普通』だったのね。そうするしかなかったのね。……気づいてあげられなくてごめんなさい。……任務で姪の様子を見ていられなかったなんて言い訳はできない。私の不覚だわ。ここまでオニキス兄様が馬鹿だとは思わなかった」
そして怒った表情のまま、後ろを振り返る。
「──兄様、今のエマの発言聞いておりましたわよね? 貴方は今まで何をしていたのですか? 実の娘にこんな事を言わせて。それほどまでそこの女に現を抜かしていたのですか?」
叔母の言葉に釣られるようにして振り向くと、そこには叔母と同じ黒髪の男性がいた。昼間に見た白い寝間着に、ヨシュアに支えられながら杖をついて、その人物は私を見ていた。
「お父様……?」
父、オニキス・グランツが無言のまま私の目の前に立っていた。
震える義母に視線を合わせてしゃがみこみ、実ににこやかにどう調理してやろうかと悩んでいると。
扉が突然なんの前触れもなく開き、部屋に黒髪の女性が荒々しく入ってきた。
女性は血相を変え、綺麗な顔に切羽詰まった表情を浮かべている。赤い瞳で部屋のあちこちを見て、私と視線があった。あら、この方は……。
「エマッ!? 無事なの!?」
「叔母様? 随分と早いお着きなのですね── へぶっ 」
あと一日はかかると思っていたのに……と言葉を続ける間もなく私は乱入してきた黒髪の女性に抱き締められた。あの、叔母様、苦しいです。
「無事ね? 何事もないわね!?」
「……」
「エマ? どうしたの? なぜ何も言わないの? どこか悪いの!?」
──だから叔母様、苦しいですってば。
女性の豊満な胸が丁度私の顔に当たり、まともに息が出来ない。胸の感触は非常に心地よいのだが、力の加減をして欲しい。抱きしめられすぎて骨が軋み始めており、さすがに痛い。
叔母の胸に埋まってどうにかしようとバタバタ手を動かす私を見かねたシーラが助けに入ってくれた。
「セレンディナ様、エマ様が苦しがっておられます」
「え? あら、私のせいだったの。ごめんなさい」
叔母はようやく私を解放してくれた。ぷはっと息をつき、深呼吸をする。相変わらず羨ましいほどの巨乳と見事なプロポーション……ではなく。突然現れた闖入者に、私は歓迎の意を込めて笑顔を浮かべた。
「わざわざお越しくださり感謝しますわ、セレンディナ叔母様。騎士達はどうしたのですか?」
こちらの問いに艶やかな黒髪を結い上げた騎士装の女性は妖艶な笑みで応えた。
「勿論控えさせてるわよ。シーラからの報せを受け取った時、丁度転移を使える能力もちがいてね? グランツ子爵邸まで転移で送ってもらったのよ。でも肝心のエマがいないからどうしたのかってヨシュアに聞いたら『悪者を捕獲しに行った』って言うから慌てて場所を聞き出してここまで来たのよ? 丁度いたからラズーリも引っ張ってきたわ。何かあったら困るもの。それより、なぜ一人で行動したの!? 危ないじゃないの!! 何故私が来るまで待てなかったの!」
叔母の連撃にどう返そうか考えあぐねていると、その後ろにまだ人がいることに気づいた。
「おい、俺が随分な扱いだな……。だが、セレンディナには同意だ。何故そんな危ないことをした。毒が効かない体質なのは知ってるが動物性の毒だったらどうする気だったんだ。お前ならもう少し慎重な行動をすると思っていたのに……囮になるなんて」
叔母の後ろから現れた思わぬ人物に私は目を見開いた。
「ラズーリ叔父様……」
アッシュブラウンの髪に、紫紺の瞳。
瞳の色以外は母様によく似たその容貌。違いは男性で、髪が短いことくらい。
黒髪の美麗な騎士装の女性の名はセレンディナ・ヴァイト。現ヴァイト伯爵で父オニキスの妹であり、実力で近衛騎士にまで上り詰めたエリート騎士。私の叔母にあたる人だ。
サフィアの身柄を引き渡すために事情を話してシーラに呼んでもらった。
母様に瓜二つの顔立ちをした男性はラズーリ・フォレスタ。貴族としての呼称はフォレスタ男爵。
『奇跡の手』を持つと呼ばれる名医で、病や傷を治すという治癒能力を持つ稀少な能力持ち。ラヴィス母様の弟で私の叔父にあたり、父の病気を診てもらうために呼んだ。父の今後の療養も任せる予定だ。
その二人が揃いも揃って厳しい顔つきで私を見ている。その様子から伺えるのは純粋な私への心配。
しかし、それが私には理解できなかった。なぜこの二人は私を心配しているのだろう?
「毒については叔父様からあらゆる毒への中和剤を頂いておりましたし、シーラもいましたから。結果的に義母の悪事を暴けましたし、大丈夫でしたわよ? 安心なさってくださいな!」
何も心配はいらない。シーラの協力もあり、義母は無事に捕らえることが出来た。
何も問題はなかった、そう言わんばかりの私の言葉に返ってきたのは二人の怒号だった。
「「問題しかない!!」」
意図して揃えた訳では無いだろうにピッタリ重なった二人の怒声にきょとんとする。
美貌の人は怒っても綺麗だな。そんな場違いな思考をしている私に二人が詰め寄る。
「もし他に仲間がいたらどうする気だったの! 危ないじゃない!! 少しは考えて、どうして周りを頼らなかったの?」
「偶然上手くいったからよかったものの、下手をすれば死んでいたんだぞ!? 大怪我をしていたかもしれない! 心配するじゃないか!」
叔父と叔母の言葉に、違和感を覚えて私はふと真顔になる。
──心配する? 誰かを頼る? 誰が? この家において、誰が私の心配をするというのだろうか。
父が関心を持っていたのは義母と異母妹だけ。私は終始お人形と化して望み通りに振舞っていただけ。
周りの大人は皆信用できなかった。私は当主代行で皆を導き、引っ張る存在。誰かを頼るなんてそんな甘えは許されない。一人で頑張らなければならなかった。誰を頼れというのか。そして、そんな私を誰が心配するだろうか。
そんな純粋な疑問から、ぽつりと漏らしてしまった。
「誰が心配するんですかね? ──あの家において、私を心配する人なんていませんでしたよ? それに頼る人なんてどこにもいませんでしたし」
使用人や領地の皆は私を慕ってくれてはいるけれど、彼らの助けは借りられない。彼らには別の仕事がある。私なんぞのために手を煩わせてはならない。
父に失望され、自分を押し殺して生きてきた私にはそれが当然だと思っていた。誰も助けてはくれないのだから自分で行動するしかない。捨てられないよう望み通りに振る舞う。そうすれば、少なくとも無視されることはなくなる。
この返答に二人は先程の猛烈な勢いはどこへやら、押し黙ってしまった。
何かおかしいことを言ってしまっただろうか。
首を傾げて考えていると、セレンディナ叔母様の表情が変わった。
眉が跳ね上がり、麗しい赤の双眸は明らかに怒りに燃えていた。肩を震わせ、本気で怒っている。
「……そう、それがあなたの『普通』だったのね。そうするしかなかったのね。……気づいてあげられなくてごめんなさい。……任務で姪の様子を見ていられなかったなんて言い訳はできない。私の不覚だわ。ここまでオニキス兄様が馬鹿だとは思わなかった」
そして怒った表情のまま、後ろを振り返る。
「──兄様、今のエマの発言聞いておりましたわよね? 貴方は今まで何をしていたのですか? 実の娘にこんな事を言わせて。それほどまでそこの女に現を抜かしていたのですか?」
叔母の言葉に釣られるようにして振り向くと、そこには叔母と同じ黒髪の男性がいた。昼間に見た白い寝間着に、ヨシュアに支えられながら杖をついて、その人物は私を見ていた。
「お父様……?」
父、オニキス・グランツが無言のまま私の目の前に立っていた。
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