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20 家族・後
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「私はお前を解放したいんだ。エマ」
穏やかな声音で告げられたその一言に、私は目を見開いた。
「解放……?」
何を解放するというのだ。父の言っていることの意味が理解出来ない。
私を自由にする? 解放する? まるで意味が分からない。
当主の座を手に入れ、義母の悪事を暴き、異母妹はこれから追い出す。父とは親子としての縁を切り、私を縛る要因だったものとは今後一切関わらないようにする。
これで私は自由になったはずだ。
これから私は自分の思うように子爵領を統治し、グランツ家の当主として生きてゆく。母の愛したこの地を守りながら。
これこそ私の望んだことであり、その望みはもうすぐで果たされる。
「何を言っておりますの? 意味がわかりませんわ」
知らず後ずさりながら父に告げる。声は震え、心の動揺が漏れる。
そんな私に父は表情を歪め、悲しげに瞼を伏せた。
「やはり自覚がないのか……。当然か。私がそうさせてしまったのだから……。なあエマ、何故サフィアを一人で捕らえようとしたんだ? セレンディナに遣いを出していたんだろう? だったらそれを待ってからサフィアを捕らえることもできたはずだ。自分から囮になるような真似をせずともよかったんじゃないか?」
セレンディナ叔母様にも似たようなことを聞かれた。戸惑いながらも私は先程と同じ答えを返した。
「お父様から当主の座を奪ったことでサフィアの望みは潰えました。だから計画を邪魔した私を狙うと踏んでそれを逆手に取ったまでですわ。わざわざ来ていただく叔母様の手を煩わせるのは心苦しいですもの」
叔母様は私のせいでわざわざ王都からグランツ領まで出向く羽目になったのだ。他の仕事もあるだろうに来てくれた。これ以上迷惑はかけられない。
そう言ったら叔父様と叔母様に叱られてしまったが、怒られる意味が理解できない。
何がいけないのか、さっぱり分からず首を傾げると父は重く溜息をついた。諭すように慎重に言葉を続ける。
「エマ。それではお前が危ないだろう? いくら対抗手段を用意していたとしても実際にサフィアはお前を毒殺しようとした。何故自ら命を投げ出すようなことをするんだ。心配する人達の身も考えなければならないぞ」
「──だから誰が心配しますの? ここには誰も私を心配するような人達はおりませんわよ」
自分でも思ったより低い声音が漏れた。そう、誰も心配なぞしない。私はその存在を否定されて生きてきたのだから。その私を誰が心配するというのだ。私は自分の価値を自分で示さなければならなかった。人に頼ってはならない。自ら動き、その価値を示し続けなければ、誰も私を必要としてくれない。
そうして生きてきた私には他の手段が分からない。そうして私は自分の身を守ってきたのだから。
冷たく突き放すように告げた私に、父は苦しそうに眉を寄せた。私の言葉が自身に突き刺さったと言わんばかりに。
暫くそうしていたかと思うと、父はよろよろと椅子から立ち上がった。危なっかしく杖を着きながら私に近づこうと歩いてくる。
「お父様……?」
父は私の呼びかけに応えず、よろよろと少しずつこちらに向かって歩いてくる。
途中何度か転げそうになりながら近づいてくる父に私は硬直したようにその場から動けなかった。
手を貸そうとすべきだったかもしれないが、父の行動の真意が分からない。
そのまま目を瞬かせている間に、私の前に黒髪の痩身が立っていた。
「エマ、もうお前を縛る鎖は存在しない。……私が作ってしまったその鎖をお前は自ら断ち切ったんだ。だから、もうお前は自分を苦しめなくていいんだぞ。お前は自由だ。私の存在を気にする必要は無い。もう自分で自分を苦しめるのはやめるんだ。悪いのは全て私だ。私が受けるべき咎だ。お前は何も悪くない。お前は自分の思う通りに生きなさい。愛しきラヴィスの娘、エメルダ。──自由になりなさい」
「──!」
父はそう言って私に一歩近づく。
私は何も言えず、反応できなかった。
ただふと気づけば父の痩せ細った肢体が私を包み込み、知らぬ間に流れていた涙が、一粒雫となって頬を伝い落ちた。
穏やかな声音で告げられたその一言に、私は目を見開いた。
「解放……?」
何を解放するというのだ。父の言っていることの意味が理解出来ない。
私を自由にする? 解放する? まるで意味が分からない。
当主の座を手に入れ、義母の悪事を暴き、異母妹はこれから追い出す。父とは親子としての縁を切り、私を縛る要因だったものとは今後一切関わらないようにする。
これで私は自由になったはずだ。
これから私は自分の思うように子爵領を統治し、グランツ家の当主として生きてゆく。母の愛したこの地を守りながら。
これこそ私の望んだことであり、その望みはもうすぐで果たされる。
「何を言っておりますの? 意味がわかりませんわ」
知らず後ずさりながら父に告げる。声は震え、心の動揺が漏れる。
そんな私に父は表情を歪め、悲しげに瞼を伏せた。
「やはり自覚がないのか……。当然か。私がそうさせてしまったのだから……。なあエマ、何故サフィアを一人で捕らえようとしたんだ? セレンディナに遣いを出していたんだろう? だったらそれを待ってからサフィアを捕らえることもできたはずだ。自分から囮になるような真似をせずともよかったんじゃないか?」
セレンディナ叔母様にも似たようなことを聞かれた。戸惑いながらも私は先程と同じ答えを返した。
「お父様から当主の座を奪ったことでサフィアの望みは潰えました。だから計画を邪魔した私を狙うと踏んでそれを逆手に取ったまでですわ。わざわざ来ていただく叔母様の手を煩わせるのは心苦しいですもの」
叔母様は私のせいでわざわざ王都からグランツ領まで出向く羽目になったのだ。他の仕事もあるだろうに来てくれた。これ以上迷惑はかけられない。
そう言ったら叔父様と叔母様に叱られてしまったが、怒られる意味が理解できない。
何がいけないのか、さっぱり分からず首を傾げると父は重く溜息をついた。諭すように慎重に言葉を続ける。
「エマ。それではお前が危ないだろう? いくら対抗手段を用意していたとしても実際にサフィアはお前を毒殺しようとした。何故自ら命を投げ出すようなことをするんだ。心配する人達の身も考えなければならないぞ」
「──だから誰が心配しますの? ここには誰も私を心配するような人達はおりませんわよ」
自分でも思ったより低い声音が漏れた。そう、誰も心配なぞしない。私はその存在を否定されて生きてきたのだから。その私を誰が心配するというのだ。私は自分の価値を自分で示さなければならなかった。人に頼ってはならない。自ら動き、その価値を示し続けなければ、誰も私を必要としてくれない。
そうして生きてきた私には他の手段が分からない。そうして私は自分の身を守ってきたのだから。
冷たく突き放すように告げた私に、父は苦しそうに眉を寄せた。私の言葉が自身に突き刺さったと言わんばかりに。
暫くそうしていたかと思うと、父はよろよろと椅子から立ち上がった。危なっかしく杖を着きながら私に近づこうと歩いてくる。
「お父様……?」
父は私の呼びかけに応えず、よろよろと少しずつこちらに向かって歩いてくる。
途中何度か転げそうになりながら近づいてくる父に私は硬直したようにその場から動けなかった。
手を貸そうとすべきだったかもしれないが、父の行動の真意が分からない。
そのまま目を瞬かせている間に、私の前に黒髪の痩身が立っていた。
「エマ、もうお前を縛る鎖は存在しない。……私が作ってしまったその鎖をお前は自ら断ち切ったんだ。だから、もうお前は自分を苦しめなくていいんだぞ。お前は自由だ。私の存在を気にする必要は無い。もう自分で自分を苦しめるのはやめるんだ。悪いのは全て私だ。私が受けるべき咎だ。お前は何も悪くない。お前は自分の思う通りに生きなさい。愛しきラヴィスの娘、エメルダ。──自由になりなさい」
「──!」
父はそう言って私に一歩近づく。
私は何も言えず、反応できなかった。
ただふと気づけば父の痩せ細った肢体が私を包み込み、知らぬ間に流れていた涙が、一粒雫となって頬を伝い落ちた。
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