【原案・完結】捕われ令嬢は籠の中で泡沫の夢を見る

蓮実 アラタ

文字の大きさ
21 / 25

21 真意

しおりを挟む
 瞬けば涙が零れ落ち、頬へと伝う。
 複雑に入り混じったこの感情をなんと表せばいいのか私には分からない。ただ、涙が落ちた理由ははっきりとしていた。


「何故、今更……」


 ポツリと言葉が漏れ、心に浮かんだ感情を乗せていく。
 怒りと、悲しみと。──そして憎悪。


「なぜ今更父親面するのですか。何故貴方がそれを言うのですか。私をこうしたのは貴方でしょう。貴方が私を勝手に見捨てて、そして失望したのでしょう。……触らないでくださいな!」


 肩に回されていた父の手を無理やり剥がし、キッと傍にあった赤い瞳を睨みつける。
 歯を噛み締め、これ以上ない程の怒りに震えながら父を睥睨する。私のそんな態度に、しかし父はこちらに向かって笑顔を見せた。


「それでいいんだ。決して私を許さないで欲しい、エマ。それがお前の当然の権利だ。私はお前に父親面する資格などない。お前を不幸にしか出来なかった私が父を名乗る資格はない。だからお前はお前の思う通りに生きるといい。お前はもう私を気にしなくていいのだから。お前を縛るものはもう何も無いのだから」
「当然です!   許されると思っていたのなら大間違いですわ。私はもうお父様とは二度と関わりませんもの。私は私の意思で生きていきます!    誰にも縛られることなく、私の心のままに。私は貴方が大っ嫌いです。先程貴方がサフィアに仰ったことをそのまま返しますわ!    二度と私にその顔を見せないで下さい!!」


 一気に言い切り、肩で荒く息をする。
 内に溜め続けていた父への憎悪を吐き出し、不思議と心がすっきりしていた。
 私の言葉を黙って聞いていた父は一瞬だけ顔を歪めると、次の瞬間晴れやかな笑みを浮かべた。
 無理矢理笑みを浮かべたような気がしたのだが、父は確かに笑っていた。


「そうか、それを聞いて安心した。『私』という存在がお前の心に植え付けたものを解放できたと言うなら、私にもう思い残すことは無い。嫌な思いをさせたな。……すまなかった」


 そう静かに言い残すと、直ぐにヨシュアを呼びよろよろと歩きながら父は去って行った。
 パタン、と音を立てて扉が閉まるまで私はそちらを見向きもしなかった。まだ父への怒りは治まってはいない。けれど心の底からの父への本音が言えたおかげか妙に頭がすっきりしている。

 暫くそのまま微動だにせず固まっていたが、ふと、扉の方へ振り向く。木製の何の変哲もない扉が視界に入るが、私の脳裏には去り際に一瞬だけ見えた父の顔がよぎった。私に向かって浮かべて見せた笑顔を消し、あの時の父は確かに──泣いていた。
 違和感を感じて眉根を寄せた私は続けて父の言葉を思い出す。


 ──『私』という存在が心に植え付けたものを解放できたというのなら私にもう思い残すことは無い。
 ──思う通りに生きるといい。お前を縛るものはもう何も無いのだから。


 私の心に植え付けられていたもの……?    解放……?   
  
 私を真に自由にするために自分の話を聞いてくれと告げた父。無理矢理浮かべた作り笑い。去り際に見せたあの表情。
 ところどころに感じた違和感を思い出し、考え──そして全てが繋がる。


「まさか、わざと私を怒らせたの……?   お父様……」


 呆然と呟いて出した結論の答えを確かめるように父が去った方を見つめるが、そこには固く閉ざされた扉があるのみだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

毒姫ライラは今日も生きている

木崎優
恋愛
エイシュケル王国第二王女ライラ。 だけど私をそう呼ぶ人はいない。毒姫ライラ、それは私を示す名だ。 ひっそりと森で暮らす私はこの国において毒にも等しく、王女として扱われることはなかった。 そんな私に、十六歳にして初めて、王女としての役割が与えられた。 それは、王様が愛するお姫様の代わりに、暴君と呼ばれる皇帝に嫁ぐこと。 「これは王命だ。王女としての責務を果たせ」 暴君のもとに愛しいお姫様を嫁がせたくない王様。 「どうしてもいやだったら、代わってあげるわ」 暴君のもとに嫁ぎたいお姫様。 「お前を妃に迎える気はない」 そして私を認めない暴君。 三者三様の彼らのもとで私がするべきことは一つだけ。 「頑張って死んでまいります!」 ――そのはずが、何故だか死ぬ気配がありません。

政略結婚の指南書

編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】 貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。 母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。 愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。 屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。 惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。 戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい…… ※R15は保険です ※別サイトにも掲載しています

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

私、竜人の国で寵妃にされました!?

星宮歌
恋愛
『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』の番外編として作っていた、シェイラちゃんのお話を移しています。 この作品だけでも読めるように工夫はしていきますので、よかったら読んでみてください。 あらすじ お姉様が婚約破棄されたことで端を発した私の婚約話。それも、お姉様を裏切った第一王子との婚約の打診に、私は何としてでも逃げることを決意する。そして、それは色々とあって叶ったものの……なぜか、私はお姉様の提案でドラグニル竜国という竜人の国へ行くことに。 そして、これまたなぜか、私の立場はドラグニル竜国国王陛下の寵妃という立場に。 私、この先やっていけるのでしょうか? 今回は溺愛ではなく、すれ違いがメインになりそうなお話です。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

【完結】どうやら時戻りをしました。

まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。 辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。 時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。 ※前半激重です。ご注意下さい Copyright©︎2023-まるねこ

『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』

しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。 どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。 しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、 「女は馬鹿なくらいがいい」 という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。 出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない―― そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、 さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。 王太子は無能さを露呈し、 第二王子は野心のために手段を選ばない。 そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。 ならば―― 関わらないために、関わるしかない。 アヴェンタドールは王国を救うため、 政治の最前線に立つことを選ぶ。 だがそれは、権力を欲したからではない。 国を“賢く”して、 自分がいなくても回るようにするため。 有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、 ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、 静かな勝利だった。 ---

処理中です...