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3 ヴィクター・アレグナーの混乱
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「まずいまずいまずい不味い」
アレグナー家のヴィクターと言えば冷静沈着、仮面のように表情を変えない美貌が特徴の氷の魔術師と呼ばれる男である。
巷では『氷の貴公子』と呼ばれ、その涼やかで怜悧な美貌から世の令嬢たちの人気を集める彼は今、史上最大の危機にあった。
それは誰よりも大切な愛しの妻リューンに「離縁してください」と言われたからだ。
三年前、アレグナー侯爵家に嫁いできた妻リューンは輝かしいプラチナブロンドと、愛らしい水色の大きな瞳を持つ、可憐な令嬢だった。
当時王子殿下の護衛として参加した夜会で、ヴィクターは初めてリューン・レズローを見た時、ヴィクターは彼女から目が離せなくなった。
大きな瞳に、蠱惑的な唇。同年代の女性達よりか一回り小さな身長。そして可愛らしい声と、控えめな性格。その全てがヴィクターにクリーンヒットし、思わずその場でリューンの父、カルロスに縁談を申し入れたくらいなのだ。
その頃のリューンの生家、レズロー伯爵家は先代が抱えた巨額の借金により、緩やかに傾きかけていた。
アレグナー家の財力があれば、そんな借金など補填してもあまりある。
その場で土下座する勢いで、借金の肩代わりでもなんでもするので、娘さんと是非婚約させて頂きたいとカルロス伯爵に申し出た時、それはもう困惑されたものだ。
「娘との婚約は有難いのですが、そちらに何も利点はないと思うのですが……」
傾きかけた伯爵家と、王国でも名高い名家の侯爵家。普通に考えればこちらになんの利害もない婚約ではある。
しかしヴィクターには大いに熱弁しまくった。
「リューン嬢に一目惚れしたのです。彼女ほどの可愛らしい存在はこの世にいません。わが生涯をかけて必ず幸せにすると約束します。この身に変えても幸せにします!」
小一時間ほど熱弁を奮ったところで、カルロスが「分かりました。それほどこの縁談をお望みなのであれば、その方向で娘にも話してみます」と前向きな返信を貰った時は思わずガッツポーズを決めたものだ。
そして紆余曲折あり結婚式まで漕ぎ着けた時、ヴィクターは怜悧な表情のまま婚前で神に誓った。
「リューンを幸せにできないようなら俺はこの世にいる価値はない。今後全身全霊を込めて、彼女に苦労はさせない!」
そしてその誓い通り彼女にはなんの不安もなく過ごしてもらおうと屋敷を整え、環境を整え、誠心誠意努めたつもりだった。
屋敷に彼女がいると思うだけで胸がいっぱいで、その姿を一目見ただけで「妻が尊い……」と両手を合わせて神に彼女が存在する事実に感謝していた。
彼女と挨拶し、言葉を交わした時などは自室で小躍りしかけたものだ。
「一体なんの不備があった……。私が何かを間違えていたんだ。考えろ、考えるんだヴィクター。リューンが私の元を去ってしまう……。まずは考えるための十分な環境と時間が必要だ。リューンとも話し合わなければ……。そうなるとやはり」
自分の職業が、宮廷魔術師であることが足を引っ張る。
ヴィクターの最優先事項は妻のリューン、そして越えられない壁で仕事だ。
――よし、ならばこうするしかないな。
先程帰ったはずの王宮に戻ってきたヴィクターは迷いなく廊下を歩き、とある扉の前で止まる。
そこはヴィクターを宮廷魔術師に任命した張本人がいる場所だった。
近衛騎士を顔パスし、ノックすることなく扉を開けたヴィクターは宣言する。
「陛下! 今日限りを以て私は宮廷魔術師を辞めます。その許可を下さい!」
この言葉を聞いた陛下は、玉座から転げ落ちそうになっていた。
アレグナー家のヴィクターと言えば冷静沈着、仮面のように表情を変えない美貌が特徴の氷の魔術師と呼ばれる男である。
巷では『氷の貴公子』と呼ばれ、その涼やかで怜悧な美貌から世の令嬢たちの人気を集める彼は今、史上最大の危機にあった。
それは誰よりも大切な愛しの妻リューンに「離縁してください」と言われたからだ。
三年前、アレグナー侯爵家に嫁いできた妻リューンは輝かしいプラチナブロンドと、愛らしい水色の大きな瞳を持つ、可憐な令嬢だった。
当時王子殿下の護衛として参加した夜会で、ヴィクターは初めてリューン・レズローを見た時、ヴィクターは彼女から目が離せなくなった。
大きな瞳に、蠱惑的な唇。同年代の女性達よりか一回り小さな身長。そして可愛らしい声と、控えめな性格。その全てがヴィクターにクリーンヒットし、思わずその場でリューンの父、カルロスに縁談を申し入れたくらいなのだ。
その頃のリューンの生家、レズロー伯爵家は先代が抱えた巨額の借金により、緩やかに傾きかけていた。
アレグナー家の財力があれば、そんな借金など補填してもあまりある。
その場で土下座する勢いで、借金の肩代わりでもなんでもするので、娘さんと是非婚約させて頂きたいとカルロス伯爵に申し出た時、それはもう困惑されたものだ。
「娘との婚約は有難いのですが、そちらに何も利点はないと思うのですが……」
傾きかけた伯爵家と、王国でも名高い名家の侯爵家。普通に考えればこちらになんの利害もない婚約ではある。
しかしヴィクターには大いに熱弁しまくった。
「リューン嬢に一目惚れしたのです。彼女ほどの可愛らしい存在はこの世にいません。わが生涯をかけて必ず幸せにすると約束します。この身に変えても幸せにします!」
小一時間ほど熱弁を奮ったところで、カルロスが「分かりました。それほどこの縁談をお望みなのであれば、その方向で娘にも話してみます」と前向きな返信を貰った時は思わずガッツポーズを決めたものだ。
そして紆余曲折あり結婚式まで漕ぎ着けた時、ヴィクターは怜悧な表情のまま婚前で神に誓った。
「リューンを幸せにできないようなら俺はこの世にいる価値はない。今後全身全霊を込めて、彼女に苦労はさせない!」
そしてその誓い通り彼女にはなんの不安もなく過ごしてもらおうと屋敷を整え、環境を整え、誠心誠意努めたつもりだった。
屋敷に彼女がいると思うだけで胸がいっぱいで、その姿を一目見ただけで「妻が尊い……」と両手を合わせて神に彼女が存在する事実に感謝していた。
彼女と挨拶し、言葉を交わした時などは自室で小躍りしかけたものだ。
「一体なんの不備があった……。私が何かを間違えていたんだ。考えろ、考えるんだヴィクター。リューンが私の元を去ってしまう……。まずは考えるための十分な環境と時間が必要だ。リューンとも話し合わなければ……。そうなるとやはり」
自分の職業が、宮廷魔術師であることが足を引っ張る。
ヴィクターの最優先事項は妻のリューン、そして越えられない壁で仕事だ。
――よし、ならばこうするしかないな。
先程帰ったはずの王宮に戻ってきたヴィクターは迷いなく廊下を歩き、とある扉の前で止まる。
そこはヴィクターを宮廷魔術師に任命した張本人がいる場所だった。
近衛騎士を顔パスし、ノックすることなく扉を開けたヴィクターは宣言する。
「陛下! 今日限りを以て私は宮廷魔術師を辞めます。その許可を下さい!」
この言葉を聞いた陛下は、玉座から転げ落ちそうになっていた。
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