【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう

蓮実 アラタ

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1章 追放までのあれこれ。

17 国王との対談

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私の放った一言に対しゼウス王がとった行動は、


「……」


沈黙だった。

眉を寄せ普段の優しい顔つきからは考えられない険しい顔立ちになった国王は、しばし考え込むように玉座の肘置きに指を置き、トントンと叩いている。

謁見の間に重苦しい沈黙がおりる。
その間私は目を伏せ、ただじっと待った。
果たして国王はどうするのか。
焦れったいようなそうでないような不思議な心地で国王の返答を待ち続ける。

国王は私の願いの真意に気づけるだろうか。
いや、この国王ならば気づいてくれるはず。
私の無茶な願いを戯言として一蹴するのか。それとも──……。

私が内心でやきもきしている間にも時間は流れ。
そしてついに。


「……そなたは実に優秀だ。だから我が息子を支え、時には導く存在となって欲しいと私が直々に婚約者に指名した。聡いそなたのことだ。戯言などではそんな願いは口にすまい。……なにか考えがあってのことだろう?    差し支えなければ教えてくれまいか?」


──よし、『対話』に持っていけた。
これで第二関門を突破した。
私はまた小さく拳を作り、伏せていた顔を上げる。


「はい、陛下。恐れながら私は陛下にお伝えしたいことがございます」
「ほう、何かね?」
「私が強大なミューズ許容量を保持していることは陛下もご存知ですね。そのおかげで私はある魔術を行使できるようになりました」
「それはなんだ?」
「『未来視』と『未来観測』……未来の事象を視て、観測する力を私は手にしました。私はその魔術を行使して様々な未来を視てきました。……その中にはアルメニア王国の未来の行く末も含まれています」
「なんと、それは夢のような力だな……。それで何をみたのだ?」


国王の問いかけに私は一拍間をおき、そして答えた。


「近い将来、魔王フェリクスが復活します。復活した魔王は人間を滅亡させるために動き出し、結果──アルメニア王国は滅びの道を辿ります」
「なんと……それは誠か……?」
「はい。私もその未来を回避するために様々な観測を行いました。しかし結果は同じ。必ず魔王は現れこの国は滅びる」


かつて『アリーシャ』が観続けたあの悪夢のような未来。
この世に『彼女』が存在する限り、それは現実のものとなる。
だから彼女アリーシャは死を願い、アリサはその願いを叶えるために前世の魂として甦った。

──『魂の分離』という禁呪の魔術を無自覚に発動させて。


魔王フェリクスはこの『私』という存在を依代として復活を果たします。この世に『アリーシャ・ウルズ・オーウェン』という存在がいる限り、魔王フェリクスは復活します。私は『未来観測』を行使し回避の道を模索しましたが、魔王の依代となる最期だけは変えることができませんでした。けれど私は魔王の依代になどなるつもりはありません。であれば、私がすべきことはただ一つ。私は、私という存在を完全に抹消しなければならないのです」


全ては彼女アリーシャの願い通りに。
私は彼女の魂を抹消する。今度こそ完全に。
彼女を絶望と悲しみから救うために。


「お父様とお母様……オーウェン公爵夫妻にも昨日全ての事情は話してあります。今ここにいる私は十歳の頃から『アリーシャ』の代わりをしている存在です。私は死を願う『アリーシャ』から分離した、アリーシャとは違う一つの存在です。しかし私はかつては彼女の一部だった。だから根幹の部分では繋がっている。それを完全に切り離すために、『神籍』からアリーシャの名前を外す必要があるのです」


いきなりこんな話をされても困惑するだけだろうに、国王はただ静かに話を聞いてくれた。

この国王なら私の話を理解してくれる。一種の賭けではある。
しかしこのゼウス王は『賢王』と呼ばれるほど優秀な王である。
今回はそれに賭けた。


「──うすうす、気づいてはいたのだ。そなたは婚約した歳からどんどん人が変わったようになっていった。部屋に篭もりきりでやつれ果て、ヒステリーを起こすようになったと公爵から相談されていたからな」


それはアリーシャが悪夢に捕らわれていた時期のことか。
あの二年間、確かにアリーシャはやつれ果て今にも死にそうな状態だった。


「しかしある時を境にして嘘のように元の明るさを取り戻したと聞いた。以前よりも歳相応の少女のようになってくれて嬉しかったと聞き、私も安心していたのだ。そなたが『アリーシャ』になったのはその時だったのか?」
「はい」
「そして本物のアリーシャは死にたいと願っている、と」
「そうです」
「ある意味、信じ難い話だが……前例がないことはない。魂が分離しているのだな。本来のアリーシャが禁呪を行使するほどに死を願った、ということか」
「はい。それで、あの……」


口ごもった私に対し、国王は静かに笑った。


「事情は分かった。公爵にも話を通しているということはあれらも了解しているということだろう?   ソナタの望みを叶えよう」
「……!    ありがとうございます!」


心からの礼を言うと国王は大袈裟な、と手を振る。


「しかし、『神籍』を抹消とは……そこまで徹底する必要もあるのか?    具体的に存在を抹消とはどういうことなのだ?」
「その事なのですが、陛下に一つ確認したいことがございます」
「なにかね?」


ある意味当然な国王の質問に対し、私は逆にとある疑問を投げかけた。


「陛下は『自殺』という言葉をご存知ですか?」


私の質問に対してまたしても国王は眉根を寄せる。


「なんなのだその言葉は?    


──やっぱり。
この返答により、私は自分の予想が正しいことを確信した。



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