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1章 追放までのあれこれ。
20 国王の決断と『アリサ』の策
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国王は数分黙った後玉座に深く腰掛け、長い長い溜息を着いた。
「成程、成程。だからそなたは国外追放処分も一緒に願い出たのだな……。もしや我が愚息が婚約破棄を願い出ることも全て承知の上で勝負を仕掛けたということか? それとも敢えてそうなるようにこの状況を作り出したと? 私はそなたの能力を高く評価している。だから簡単に手放すことはないと承知の上での行動であろう? 全くもってしてやられた。そなたは大した策士だ。本当に手放すには惜しすぎる……」
「僭越ながら出過ぎたことをしているのは百も承知の上でございます。私の行動が結果的に陛下のご信頼を裏切る形になったことは弁明の余地もございません。しかし、どうしても私はこの未来を変えたかったのです」
神籍剥奪はアルメニア王国では死刑よりも重い罪とされている。余程のことがない限りはまず執行されることのない刑罰である。
だからどうしても断罪イベントを利用する必要があった。
勿論、大親友であるセジュナの願いを叶えたいという思いに嘘はない。
それにセラーイズル王子がイズル君だったことが判明した今、その思いは強くなる一方である。
この世界において私は『所詮脇役』の『悪役令嬢』。
王子の隣に相応しいのはいつだって可憐な主人公と相場が決まっている。二人に幸せな未来を歩んで欲しいと願っているからこそ、潔く身を引きたかったのだ。
それに私にはやりたいことができた。
この世界のどこかに居るかもしれない黒臣くんを探し出すためにもやはり私はここで立ち止まっている訳には行かない。それに他にもやるべき事はまだある。
まだ決断に逡巡を見せている様子の国王に更なる一手を打つべく、顔を上げた私は次の策を明かした。
「恐れながら申し上げます陛下。私は何も無為に国外追放をされたいのではありません。身分を捨て自由になったからこそできることもあるのです。むしろそのために私は自分からこの願いを申し出ております」
「ほう、それはなんなのだ?」
「私がアリーシャ・ウルズ・オーウェンとしての身分を捨てアリーシャの魂を抹消したところで、大元の脅威が存在する限り魔王が復活しないという保証はどこにもありません。これはあくまで保険です。ではそもそも何故私が魔王に乗っ取られてしまったのか、という話です。魔王は歴代の聖乙女の力で強固に封印されているはずです。それなのに何故私の身体を乗っ取ることができるのか」
「それは確かにそうだな。歴代の聖乙女の封印がそんな簡単に破られるとは思わぬし、そもそもそれができていたなら我が国はとっくに滅んでいる。……いや待て。まさか……それが今なのか?」
やはり国王も同じ答えに辿り着いたようだ。
私は問いかけるような国王の視線に頷いた。
「陛下も同じ考えのようですね。魔王が私を乗っ取り表に出てこられた理由……それは聖乙女の封印自体が弱まっているからだと考えられます」
この世界に最後に現れたという先代の聖乙女は約二百年前。
魔王は復活する度に同じ時期に覚醒した聖乙女によって封印され続けてきた。
それは乙女ゲームに出てきた聖乙女の伝承と一致する。
『聖オト』ではアリーシャが婚約破棄を受けそのまま追放された直後にヒロインは聖乙女の力に目覚め、その一年後に魔王が完全復活を果たす。
約一年のタイムラグがある理由はゲームで魔王が語っていた『この身体の持ち主は大した精神の持ち主だ。心を消滅させるのに一年も要したのだから』という台詞があり、アリーシャが魔王に抗っていたからだと予想される。
しかし、私の行動のせいかゲームと異なり一夜たっても私は追放には至らずセジュナが聖乙女の力を発現した様子もない。
これは多分、ゲームのシナリオとズレつつあるためだと予想できる。
乗っ取る依代がなければ魔王は封印が綻び始めているとはいえ復活することはできない。
魔王の元となったミューズ・フェリクスはミューズ素子の濃密度な集合体。
知性を獲得しても所詮素子の集合体でしかないため長くその場に留まることはできないのである。
器がなければ零れ続ける水のような存在。
依代がいなければ聖乙女でなくとも退治は容易である。
そのミューズ素子ごと再形成できないレベルにまで霧散させればよいのだから。
実際にその方法で魔王を滅ぼした例もある。
そう、深く考える必要はなかったのである。策は既に存在していたのだ。これは、前世であの乙女ゲームをやっていた私だからこそ導き出せた答え。
であればあとはそれを実行するだけ。
私は乙女ゲーム──『聖乙女の涙』における全てのエンドを攻略している。
それは勿論、魔王を完全討伐し、最後にはみなで笑って迎えるハッピーエンド──『真実のエンド』も含まれている。
そのヒロインの行動を私が実行すればいいだけなのである。
ヒロインとライバルとして張り合えるほどの容貌と能力を与えられていたアリーシャ。
最後にはラスボスとしてヒロインと再び対峙することになる悪役令嬢。
そのスペックが聖乙女と張り合える私だからこそ──私にしかできない役目。
みんなの幸せのために、私はそれを諦めない。
アリーシャの願いを叶え、自分の望みも果たし、私はこの世界をクリアしてみせる。
私は決意を込めて国王にもう一度目を向け、次の策を明かした。
「私は今こそ魔王を完全にこの世から消し去りたいのです。そのために国外追放されることを望んでいるのです。その方法も既に用意しております。それは──」
私が続けて告げた言葉に国王は目を見開き──そして。
「そうか、成程。それならばそなたが適任であろう。よし──そなたの望みを叶えよう! 神籍からそなたの名を抹消し、そなたを国外追放処分とする!」
玉座から立ち上がり高らかに告げられた国王の言葉に、私は今度こそ心からの笑みを浮かべた。
「成程、成程。だからそなたは国外追放処分も一緒に願い出たのだな……。もしや我が愚息が婚約破棄を願い出ることも全て承知の上で勝負を仕掛けたということか? それとも敢えてそうなるようにこの状況を作り出したと? 私はそなたの能力を高く評価している。だから簡単に手放すことはないと承知の上での行動であろう? 全くもってしてやられた。そなたは大した策士だ。本当に手放すには惜しすぎる……」
「僭越ながら出過ぎたことをしているのは百も承知の上でございます。私の行動が結果的に陛下のご信頼を裏切る形になったことは弁明の余地もございません。しかし、どうしても私はこの未来を変えたかったのです」
神籍剥奪はアルメニア王国では死刑よりも重い罪とされている。余程のことがない限りはまず執行されることのない刑罰である。
だからどうしても断罪イベントを利用する必要があった。
勿論、大親友であるセジュナの願いを叶えたいという思いに嘘はない。
それにセラーイズル王子がイズル君だったことが判明した今、その思いは強くなる一方である。
この世界において私は『所詮脇役』の『悪役令嬢』。
王子の隣に相応しいのはいつだって可憐な主人公と相場が決まっている。二人に幸せな未来を歩んで欲しいと願っているからこそ、潔く身を引きたかったのだ。
それに私にはやりたいことができた。
この世界のどこかに居るかもしれない黒臣くんを探し出すためにもやはり私はここで立ち止まっている訳には行かない。それに他にもやるべき事はまだある。
まだ決断に逡巡を見せている様子の国王に更なる一手を打つべく、顔を上げた私は次の策を明かした。
「恐れながら申し上げます陛下。私は何も無為に国外追放をされたいのではありません。身分を捨て自由になったからこそできることもあるのです。むしろそのために私は自分からこの願いを申し出ております」
「ほう、それはなんなのだ?」
「私がアリーシャ・ウルズ・オーウェンとしての身分を捨てアリーシャの魂を抹消したところで、大元の脅威が存在する限り魔王が復活しないという保証はどこにもありません。これはあくまで保険です。ではそもそも何故私が魔王に乗っ取られてしまったのか、という話です。魔王は歴代の聖乙女の力で強固に封印されているはずです。それなのに何故私の身体を乗っ取ることができるのか」
「それは確かにそうだな。歴代の聖乙女の封印がそんな簡単に破られるとは思わぬし、そもそもそれができていたなら我が国はとっくに滅んでいる。……いや待て。まさか……それが今なのか?」
やはり国王も同じ答えに辿り着いたようだ。
私は問いかけるような国王の視線に頷いた。
「陛下も同じ考えのようですね。魔王が私を乗っ取り表に出てこられた理由……それは聖乙女の封印自体が弱まっているからだと考えられます」
この世界に最後に現れたという先代の聖乙女は約二百年前。
魔王は復活する度に同じ時期に覚醒した聖乙女によって封印され続けてきた。
それは乙女ゲームに出てきた聖乙女の伝承と一致する。
『聖オト』ではアリーシャが婚約破棄を受けそのまま追放された直後にヒロインは聖乙女の力に目覚め、その一年後に魔王が完全復活を果たす。
約一年のタイムラグがある理由はゲームで魔王が語っていた『この身体の持ち主は大した精神の持ち主だ。心を消滅させるのに一年も要したのだから』という台詞があり、アリーシャが魔王に抗っていたからだと予想される。
しかし、私の行動のせいかゲームと異なり一夜たっても私は追放には至らずセジュナが聖乙女の力を発現した様子もない。
これは多分、ゲームのシナリオとズレつつあるためだと予想できる。
乗っ取る依代がなければ魔王は封印が綻び始めているとはいえ復活することはできない。
魔王の元となったミューズ・フェリクスはミューズ素子の濃密度な集合体。
知性を獲得しても所詮素子の集合体でしかないため長くその場に留まることはできないのである。
器がなければ零れ続ける水のような存在。
依代がいなければ聖乙女でなくとも退治は容易である。
そのミューズ素子ごと再形成できないレベルにまで霧散させればよいのだから。
実際にその方法で魔王を滅ぼした例もある。
そう、深く考える必要はなかったのである。策は既に存在していたのだ。これは、前世であの乙女ゲームをやっていた私だからこそ導き出せた答え。
であればあとはそれを実行するだけ。
私は乙女ゲーム──『聖乙女の涙』における全てのエンドを攻略している。
それは勿論、魔王を完全討伐し、最後にはみなで笑って迎えるハッピーエンド──『真実のエンド』も含まれている。
そのヒロインの行動を私が実行すればいいだけなのである。
ヒロインとライバルとして張り合えるほどの容貌と能力を与えられていたアリーシャ。
最後にはラスボスとしてヒロインと再び対峙することになる悪役令嬢。
そのスペックが聖乙女と張り合える私だからこそ──私にしかできない役目。
みんなの幸せのために、私はそれを諦めない。
アリーシャの願いを叶え、自分の望みも果たし、私はこの世界をクリアしてみせる。
私は決意を込めて国王にもう一度目を向け、次の策を明かした。
「私は今こそ魔王を完全にこの世から消し去りたいのです。そのために国外追放されることを望んでいるのです。その方法も既に用意しております。それは──」
私が続けて告げた言葉に国王は目を見開き──そして。
「そうか、成程。それならばそなたが適任であろう。よし──そなたの望みを叶えよう! 神籍からそなたの名を抹消し、そなたを国外追放処分とする!」
玉座から立ち上がり高らかに告げられた国王の言葉に、私は今度こそ心からの笑みを浮かべた。
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