虹色の砂粒

真憂

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トラウマの訳

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その日は雨が降っていた、と思う。分からない。気圧が低い時父親が機嫌が悪い時が多かったから、そういうイメージがあるだけかもしれない。

「聞いてんのか!?このクソアマ!」

父の怒鳴り声の大きさに比例して、僕の聞いているコンポのボリュームも大きくなっていく。父がこうなったのはいつからだっただろうか。僕が小さかった時は優しかった気も、厳格だった気もする。少なくとも物心ついた時には母を痛めつけるのが父の日常だった。

「俺の金でお前は食えてんだよ!それをこんなまずい料理に使いやがって!金返せ、金!」

そんな僕を救ったのはいつでもステレオから聞こえる音楽だった。「うるせーよ!」と父に怒鳴られても、ギターを弾く瞬間だけが全てを忘れられた。その日もヘッドホンで固く耳を塞いでいた。

「…離婚します」

「あ?何だと?」

「前々から準備していたんです。そんなに私が嫌なら離婚したらどうでしょう。響は私が育てます」

「手加減してたら調子乗りやがって!お前は俺がいないと生きていけないんだよ!」

「そんなことありません!」

「あ?俺に歯向かうっていうのか?まだ分からせる必要がありそうだな」

「…これ以上殴るようなら通報します!響にだって悪影響だし、こんな人生嫌です!」

「あ?俺を犯罪者扱いか?食わせてやってるのに恩を知らねえのか!」

そう言ってドスドスと父が母に歩み寄る音がする。母がおそらく家の固定電話に手をかけた、その瞬間。

一際鈍い音がした。続いて母の倒れる音。

僕は咄嗟に反応できなかった。ただ、ただごとではない何かが起きた気配を感じ取っていた。

階下に下りてみる。そこで見た光景は…
頭から血を流す母。灰皿を持って肩で息をする父。

黙って見ているだけの僕に、父は言った。

「おめーは殺さねえよ。殺す価値すらない。クソアマだって流れでこうなっただけだ」

そう言って父は家を出ていった。僕は倒れている母に歩み寄る。
既に息をしていなかった。
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