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オーエング編 2
しおりを挟む侍女ではなく使用人としては、下級の層。
オーエングは彼女が「メイド」というのが信じられなかった。
初めて出会った時の服装は、メイドでは到底着ることの出来ない上等な服装だったからだ。
そして今も……彼女に改めて注視すれば、他のメイドとは違い、胸元に高級なレースのリボンをつけている事に気が付く。
使用人はできるだけゲストや主人の視界に入らずに行動するし、逆に使用人にこれほどまで注目するゲストなどいないだろう。
普段ならオーエングも使用人など目をくれない。
しかし、彼女が視界にうつれば一挙一動が気になって目が離せない。
どうやら他の使用人からは、少し距離を置かれていると言うか、仲間というよりは……気を遣われているようだった。
彼女は謎が多すぎる。
一つ彼の頭の中に、そうであってほしくない可能性が浮かんだ。
そしてその予想は、段々と悪い方向へと向かっていく。
――彼女は、この家の誰かの愛人ではないか。
そうすれば、一介の若いメイドが高そうな服を持ち、使用人から一目置かれているのも仕方が無い。
その当たって欲しくない予想は、エンデの愛人という最悪の結果を引き寄せた。
夜、廊下で内緒話をするように見つめあう二人を見かけた。
その顔はとても楽しそうで……しかもお互いに、名前で呼び合っている。
オーエングの家では考えられない光景だ。
その親密さは主人と使用人の垣根を見るからに越えている。
――よりにもよって、エンデの!!
言いようのない感情にオーエングは支配される。
あんなに清楚な顔をして、エンデの愛人だったのかという怒り。
だまされたという怒り。
見つめられたいと思った優しげな眼差しは、よりにもよってエンデのものだった。
そんな自身の悲しみには怒りにばかり気を注ぎ、気づかないフリをするのは、彼のプライドが許さないからだ。
メイド如きに、今までの自分の純粋な気持ちを踏みにじられたと考えるだけでも苛立たしい。
忘れてしまえばいいと思った。ただの男に媚を売って生きている女で、娼婦と同じなんだと。
――娼婦と同じ?
初めの頃は裏切られたというような気持ちだった。
そのような女に気持ちが動いてしまったのだという事実を、素直に認める事が出来ないオーエングは暗い思考に支配された。
――娼婦なら、娼婦らしい扱いをすればいい。
エンデが商用で留守だというファンボルト家の夜会。
そこで、彼女を罠にかける。
人目がつかない場所で、彼女が一人になるのを見計らい声を掛けた。
オーエングを見て初対面といった対応をし、目を合わせない彼女に、失望と苛立ちはピークに達した。
メイドの作法として、こちらを注視してはいけない、目が合うはずもないという常識を忘れるほどに、彼女が自分を見ないことが腹立たしい。
――忘れられている。
あの思い出を大事に……特別なことのように思っていたのは自分だけで。
そして彼女も他の人間と同じように、エンデを贔屓するのだと思うと、オーエングの黒い衝動に歯止めは掛からなかった。
エンデのことで大事な話があると夜の庭園に誘い出し、エンデの友人ならと全く警戒心を抱かないでついてきた彼女を茂みの中に乱暴に突き飛ばした。
――やはりあの男は偽善者だ。
家でオーエングの悪口でも言っていれば、彼女はこんな簡単には引っかからなかっただろうに。
突き飛ばされた彼女は信じられないといった目で、オーエングを見上げている。
視線が合った瞬間、オーエングは目をそらした。
めくりあがったスカートから見えるのは、月に照らされた白い太股。それは官能的で、これからの行為を期待させるのには十分だった。
彼女の瞳に恐怖が浮かぶ前に、オーエングは彼女に馬乗りになる。
そうされることで、やっと彼女は今の状況を理解できたらしい。
助けを呼ぼうとする声を無視して、彼は胸元のリボンをゆっくりと解き、彼女の恐怖をあおると一気にブラウスのボタンを引きちぎるようにはずした。
彼女の下着があらわになると、それも裂くように脱がす。
そこから想像していたよりも豊満な胸が、まるで誘っているように零れ落ちる。
必死になって彼から逃げようとし、声をだし足掻く彼女に覆いかぶさると、耳元で囁いた。
「こんな姿を他の人にも見られたいなんて、たいした女だ」
「ちがっ……!!」
「呼べばいい、見られたいのならな」
そう言いながら、胸を揉むと彼女の体は硬直し言葉が詰まる。
「っ……」
「流石、エンデの愛人だけあって、淫乱だ。こんな姿を人に見せたいだなどと」
「違い。ます……やめて、ください」
その瞳は涙にぬれて、曇っている。
が、その仕草と裸の胸のアンバランスさが、男を誘うような逆効果だった。
「どうせ、この絹のストッキングも……体を売って手に入れたんだろう?」
「違っ、いやっ……!!」
太股の内側から膝に掛けて撫でつける感触は絹。
一介のメイドが持っていい代物ではない。
「ど、して……こんな」
「オレはあいつが大嫌いなんだ」
「嫌い?」
エンデの事が嫌いな人間がいるなんて信じられない、とでも言うかのような彼女の様子に、気持ちが乱される。
――その信じる瞳を、絶望で曇らせたい。
今までにあの男から受けた偽善者然とした態度を、鬱屈した思いをぶつけるかのごとく話すと、最後にこう付け加えた。
「自分の愛人が俺なんかに穢されたと知ったら、悔しがるだろうなぁ」
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