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水の惑星『カメーネ』
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兵士の意見を聞き、意気揚々とした態度で『ロアーヌ』の間へと突入していった悠介たちの前にはカプセルを握り締めた金髪の女性の姿が見えた。
見知らぬ女性だ。断じてシーラではない。確かに美人ではある。シーラが純粋無垢な花と例えるのならば彼女は差し詰め危険な棘を持つ真紅の薔薇といった美しさであった。
妖しげな色と香りを併せ持つ危険な女。それが悠介が最初に抱いた感想だった。
そうした色気よりも生き物としての生存本能が囁いたこともあり、悠介はニヤケ面になることもなく、カプセルを握り締めながら目の前にいる女性を睨み付けながら問い掛けた。
「お前は誰だ? シーラはどこにいる!?」
悠介の発した言葉は日本語である。当然ながら目の前の女性が理解できるはずなどなかった。そのためカエデが悠介の言葉をクレスタリア王国の言葉に翻訳して伝えたものの、彼女は今一つと言わんばかりの顔を浮かべていた。どこか釈然としないと言わんばかりの顔だ。
それならば……とカエデは次にフランス語での翻訳を試みた。すると、意味が通じたらしく、彼女は薄くそして正確に整えられたルージュを塗った唇を動かして言った。
「シーラはここには居ないわ。今頃、国王と一緒にお昼でも食べているんじゃあないかしら?」
彼女の言葉はそのまま直接的に悠介へと伝えられた。言葉の意味を知った悠介は怒りで両頬をプルプルと震わせながら女性に問い掛けた。
「彼女を出せ! 出さないのならばタダじゃおかないぞ!!」
悠介は実力行使も辞さないとばかりに彼女の目の前に自身のカプセルを突き出した。
「まぁまぁ、そんなに興奮しなくてもいいじゃない。それよりもどう? マリアージュフレールでも飲む? それとも音楽でも聴く? 私の端末にはいいオーケストラの曲が入っているのよ」
彼女はそういうとオーケストラの実力者であるかのように見えない指揮棒を振ってみせた。
いちいち小馬鹿にしてみせるような仕草に苛立ちを感じた。
「エトワールからコンコルド広場まで聞こえるようなオーケストラなんだからね。きっとそんな女のことなんて忘れて聴き惚れるに決まってるわ」
カエデの通訳によって彼女の挑発が耳に入るのと同時に悠介は我を忘れた。通訳を行ったカエデを押しのけ、『ゼノン』のパワードスーツを身に纏うと、女性に向かって襲い掛かっていった。
しかし自身に危機が迫っているにも関わらず、彼女は慌てる様子も見せずに口元を三日月の型に歪めて笑い掛けた。
「そう、残念ね……坊やとは見知らぬ二人から遊び友だちにでも慣れるとでも思ったんだけど」
彼女は残念そうに吐き捨てると、『ロベール』のカプセルを押していった。
同時に彼女の姿が異様の化け物へと姿を変えていく。それはあまりにも悍ましい怪物だった。
パワードスーツのヘルメットの全面部にはハサミムシの目を思わせるような赤いサングラス部分が付着している他に口元には宇宙空間でも活動できるようにしているためか、ギザギザした歯を思わせるようなチューブが付着していた。
まるで、古のヒーロー番組に登場するような怪物のようだ。
ヘルメットだけでも異様な存在であったが、何よりも目を引いたのは右手についていた巨大な鋏である。
地球の稲刈りで使うような大きな鎌のような刃物が二つも付いており、それが装着者の意思のみで自由に動かせるのだ。
脅威であるというより他に仕方がない。
悠介が思わず足を背後によろめかせようとした時だ。
彼女が鋏を振り上げながら襲い掛かってきたのだ。この時初手が遅れたのは悠介が僅かでありながらも恐怖感というものを覚えたからだろう。
思わず両目を瞑って最期の時を覚悟した悠介であったが、真横からレーザー光線が放射されたことによって自身の無事が約束されることになった。
悠介が恐る恐る横を振り向くと、そこにはレーザーガンを構えた麗俐の姿が見えた。
彼女は自身にレーザー光線を放たれ、命の危機を感じたことによって標的を悠介から麗俐へと変えたらしい。鋏を振り上げながら麗俐の元へと挑みかかっていく。麗俐はそんな彼女の鋏を自らのビームソードで受け止めたのだった。
「お、お姉ちゃん!」
悠介は思わず声を上げてしまった。まさか姉が恐ろしい怪物を止めてくれるとは思いもしなかったからだ。てっきり自分と同様に怯えて縮こまってしまっているとばかり考えていたので援護に入ってくれることは思いもしなかったのだ。
予想外の行動に思わず留まってしまった悠介に対して麗俐は声を張り上げて言った。
「行って!こいつはあたしが引きつけておくからねッ!」
「む、無茶です! あなた一人で戦えるような相手とは到底思えません!」
カエデの忠告はもっともであった。事実彼女ーーリディはハイドラ部隊の指揮官を任ぜられていた女である上にヴィシー財閥の戦闘部員として多くの惑星で戦闘経験を積んでいる。
ベテランともいえるリディに対して麗俐はあくまでも一般人に毛が生えた程度の強さしか持っていない。そんな彼女が対等に戦えるはずがなかった。
だが、麗俐はビームソードを使って上手くリディと立ち回る姿を見せてカエデの不安を打ち払ってみせた。
「早く行って! 玉座の間だよ!」
カエデはそれを聞いても何か言おうとしていたが、その前に悠介が独断で『ロアーヌ』の間を飛び出していってしまった。
「カエデさんも早く! 悠介一人だけだとシーレさんとは何も話せないよ!」
(それはフランス人と戦闘を行っているあなたもでしょ……)
カエデは心の内で麗俐の身を案じていたものの、このまま部屋に留まっていたのでは麗俐の覚悟を無駄にすると判断したのだろう。慌てて悠介の後を追って部屋を出ていった。
『ロアーヌ』の部屋に潜入した時とは打って変わり、パワードスーツを身に付けた悠介は堂々と廊下の上を走りながらビームソードを振り回してあてもなく玉座の間を目指していた。
カエデはビームポインターを使って熱線を繰り出し、襲い掛かろうとする兵士たちやその場に居合わせた女官たちを牽制しながら悠介へと追い付いた。
「カエデさん! よかった!」
全力で走っていることもあり、悠介は息を切らしながら言った。
「よくないですよ! こんな無謀なことをするなんて……」
「ぼやかない、ぼやかない。それよりも玉座の間ってどこだ?」
「そこら辺の兵士を捕まえて聞いてみたらどうですか?」
カエデはその言葉を口にした直後に黒雲のようなモヤモヤとした思いが心の中をよぎった。
思えばあの女性が本来シーレが待機している寝室で待ち伏せをしていたのも兵士たちに事の顛末を伝え、待ち伏せをして一網打尽にしようとしていたからに違いなかった。そうでなければ部屋に辿り着いた瞬間に彼女が待ち伏せをしていた理由が説明できなかった。
もう一度同じ方法を取って、玉座の間にも待ち伏せがあった場合は先ほどのように上手く脱出できる自信はなかった。
だが、尋問によって口を割らせること以外の方法を思い付かないのも事実だ。
それに偽りの場所を語り、二人を拷問室へと案内する可能性も捨てきれない。
様々な可能性がカエデが頭を抱えていた時だ。この二つの懸念を解消するよい方法を思い付いた。
少々乱暴ではあるが、それでも単に尋問を行うよりも確実な方法であることは間違いなかった。
カエデは悠介に気付かれるよりも先に作戦を実行に移すべく動いた。
カエデは近くで逃げ遅れた女官の一人を羽交い締めにし、その頭にビームポインターの先端を突き付けながらクレスタリア王国の言葉で叫んだ。
「さぁ、この女の命が惜しければ玉座の間の場所を教えなさい!」
ブルブルと手の内で震える女官を見て、兵士たちも興を削がれたのか、槍や剣を突きつける腕が震えていることに気が付いた。
非戦闘員を人質にして戦意を削いだ上で教養のある人物であれば喋れるクレスタリア王国を使うことでそれ相応の身分の人物を呼び出し、玉座に案内させる。
それがカエデが咄嗟に立案した作戦であった。カエデの作戦が功を奏したのか、兵士たちが慌てて背後へ下がっていくのが見えた。
何やら協議をしている姿も見受けられた。しばらくの後に長い茶色の髭を生やした甲冑姿の男が姿を見せた。
「私は責任者のセラトクスという者だ。頼む、彼女を離してやってくれ」
甲冑姿の男は流暢なクレスタリア王国の言葉で言った。どうやらコルテカ王国にあっても教養のある人物はクレスタリア王国の言葉を喋ることができるらしい。
我々地球人が地球において教養のある人物は必ず英語を喋ることができるように。
クレスタリア王国が、この星最大の国家であるからと読んだのだが、予想は的中した。
カエデは競馬の予想が的中し、予想以上のオッズを受け取った予想師のような笑みを浮かべて言った。
「いいわよ、ただし、あなたが私と悠介さんの前に立って玉座の間に案内しなさい」
かねてよりの要求をカエデは完全に勝ちに入っていった。
あとは上手くいくことを願うばかりだ。どうもあの一件以来自分は人間に近付いてしまったと、カエデは苦笑した。
見知らぬ女性だ。断じてシーラではない。確かに美人ではある。シーラが純粋無垢な花と例えるのならば彼女は差し詰め危険な棘を持つ真紅の薔薇といった美しさであった。
妖しげな色と香りを併せ持つ危険な女。それが悠介が最初に抱いた感想だった。
そうした色気よりも生き物としての生存本能が囁いたこともあり、悠介はニヤケ面になることもなく、カプセルを握り締めながら目の前にいる女性を睨み付けながら問い掛けた。
「お前は誰だ? シーラはどこにいる!?」
悠介の発した言葉は日本語である。当然ながら目の前の女性が理解できるはずなどなかった。そのためカエデが悠介の言葉をクレスタリア王国の言葉に翻訳して伝えたものの、彼女は今一つと言わんばかりの顔を浮かべていた。どこか釈然としないと言わんばかりの顔だ。
それならば……とカエデは次にフランス語での翻訳を試みた。すると、意味が通じたらしく、彼女は薄くそして正確に整えられたルージュを塗った唇を動かして言った。
「シーラはここには居ないわ。今頃、国王と一緒にお昼でも食べているんじゃあないかしら?」
彼女の言葉はそのまま直接的に悠介へと伝えられた。言葉の意味を知った悠介は怒りで両頬をプルプルと震わせながら女性に問い掛けた。
「彼女を出せ! 出さないのならばタダじゃおかないぞ!!」
悠介は実力行使も辞さないとばかりに彼女の目の前に自身のカプセルを突き出した。
「まぁまぁ、そんなに興奮しなくてもいいじゃない。それよりもどう? マリアージュフレールでも飲む? それとも音楽でも聴く? 私の端末にはいいオーケストラの曲が入っているのよ」
彼女はそういうとオーケストラの実力者であるかのように見えない指揮棒を振ってみせた。
いちいち小馬鹿にしてみせるような仕草に苛立ちを感じた。
「エトワールからコンコルド広場まで聞こえるようなオーケストラなんだからね。きっとそんな女のことなんて忘れて聴き惚れるに決まってるわ」
カエデの通訳によって彼女の挑発が耳に入るのと同時に悠介は我を忘れた。通訳を行ったカエデを押しのけ、『ゼノン』のパワードスーツを身に纏うと、女性に向かって襲い掛かっていった。
しかし自身に危機が迫っているにも関わらず、彼女は慌てる様子も見せずに口元を三日月の型に歪めて笑い掛けた。
「そう、残念ね……坊やとは見知らぬ二人から遊び友だちにでも慣れるとでも思ったんだけど」
彼女は残念そうに吐き捨てると、『ロベール』のカプセルを押していった。
同時に彼女の姿が異様の化け物へと姿を変えていく。それはあまりにも悍ましい怪物だった。
パワードスーツのヘルメットの全面部にはハサミムシの目を思わせるような赤いサングラス部分が付着している他に口元には宇宙空間でも活動できるようにしているためか、ギザギザした歯を思わせるようなチューブが付着していた。
まるで、古のヒーロー番組に登場するような怪物のようだ。
ヘルメットだけでも異様な存在であったが、何よりも目を引いたのは右手についていた巨大な鋏である。
地球の稲刈りで使うような大きな鎌のような刃物が二つも付いており、それが装着者の意思のみで自由に動かせるのだ。
脅威であるというより他に仕方がない。
悠介が思わず足を背後によろめかせようとした時だ。
彼女が鋏を振り上げながら襲い掛かってきたのだ。この時初手が遅れたのは悠介が僅かでありながらも恐怖感というものを覚えたからだろう。
思わず両目を瞑って最期の時を覚悟した悠介であったが、真横からレーザー光線が放射されたことによって自身の無事が約束されることになった。
悠介が恐る恐る横を振り向くと、そこにはレーザーガンを構えた麗俐の姿が見えた。
彼女は自身にレーザー光線を放たれ、命の危機を感じたことによって標的を悠介から麗俐へと変えたらしい。鋏を振り上げながら麗俐の元へと挑みかかっていく。麗俐はそんな彼女の鋏を自らのビームソードで受け止めたのだった。
「お、お姉ちゃん!」
悠介は思わず声を上げてしまった。まさか姉が恐ろしい怪物を止めてくれるとは思いもしなかったからだ。てっきり自分と同様に怯えて縮こまってしまっているとばかり考えていたので援護に入ってくれることは思いもしなかったのだ。
予想外の行動に思わず留まってしまった悠介に対して麗俐は声を張り上げて言った。
「行って!こいつはあたしが引きつけておくからねッ!」
「む、無茶です! あなた一人で戦えるような相手とは到底思えません!」
カエデの忠告はもっともであった。事実彼女ーーリディはハイドラ部隊の指揮官を任ぜられていた女である上にヴィシー財閥の戦闘部員として多くの惑星で戦闘経験を積んでいる。
ベテランともいえるリディに対して麗俐はあくまでも一般人に毛が生えた程度の強さしか持っていない。そんな彼女が対等に戦えるはずがなかった。
だが、麗俐はビームソードを使って上手くリディと立ち回る姿を見せてカエデの不安を打ち払ってみせた。
「早く行って! 玉座の間だよ!」
カエデはそれを聞いても何か言おうとしていたが、その前に悠介が独断で『ロアーヌ』の間を飛び出していってしまった。
「カエデさんも早く! 悠介一人だけだとシーレさんとは何も話せないよ!」
(それはフランス人と戦闘を行っているあなたもでしょ……)
カエデは心の内で麗俐の身を案じていたものの、このまま部屋に留まっていたのでは麗俐の覚悟を無駄にすると判断したのだろう。慌てて悠介の後を追って部屋を出ていった。
『ロアーヌ』の部屋に潜入した時とは打って変わり、パワードスーツを身に付けた悠介は堂々と廊下の上を走りながらビームソードを振り回してあてもなく玉座の間を目指していた。
カエデはビームポインターを使って熱線を繰り出し、襲い掛かろうとする兵士たちやその場に居合わせた女官たちを牽制しながら悠介へと追い付いた。
「カエデさん! よかった!」
全力で走っていることもあり、悠介は息を切らしながら言った。
「よくないですよ! こんな無謀なことをするなんて……」
「ぼやかない、ぼやかない。それよりも玉座の間ってどこだ?」
「そこら辺の兵士を捕まえて聞いてみたらどうですか?」
カエデはその言葉を口にした直後に黒雲のようなモヤモヤとした思いが心の中をよぎった。
思えばあの女性が本来シーレが待機している寝室で待ち伏せをしていたのも兵士たちに事の顛末を伝え、待ち伏せをして一網打尽にしようとしていたからに違いなかった。そうでなければ部屋に辿り着いた瞬間に彼女が待ち伏せをしていた理由が説明できなかった。
もう一度同じ方法を取って、玉座の間にも待ち伏せがあった場合は先ほどのように上手く脱出できる自信はなかった。
だが、尋問によって口を割らせること以外の方法を思い付かないのも事実だ。
それに偽りの場所を語り、二人を拷問室へと案内する可能性も捨てきれない。
様々な可能性がカエデが頭を抱えていた時だ。この二つの懸念を解消するよい方法を思い付いた。
少々乱暴ではあるが、それでも単に尋問を行うよりも確実な方法であることは間違いなかった。
カエデは悠介に気付かれるよりも先に作戦を実行に移すべく動いた。
カエデは近くで逃げ遅れた女官の一人を羽交い締めにし、その頭にビームポインターの先端を突き付けながらクレスタリア王国の言葉で叫んだ。
「さぁ、この女の命が惜しければ玉座の間の場所を教えなさい!」
ブルブルと手の内で震える女官を見て、兵士たちも興を削がれたのか、槍や剣を突きつける腕が震えていることに気が付いた。
非戦闘員を人質にして戦意を削いだ上で教養のある人物であれば喋れるクレスタリア王国を使うことでそれ相応の身分の人物を呼び出し、玉座に案内させる。
それがカエデが咄嗟に立案した作戦であった。カエデの作戦が功を奏したのか、兵士たちが慌てて背後へ下がっていくのが見えた。
何やら協議をしている姿も見受けられた。しばらくの後に長い茶色の髭を生やした甲冑姿の男が姿を見せた。
「私は責任者のセラトクスという者だ。頼む、彼女を離してやってくれ」
甲冑姿の男は流暢なクレスタリア王国の言葉で言った。どうやらコルテカ王国にあっても教養のある人物はクレスタリア王国の言葉を喋ることができるらしい。
我々地球人が地球において教養のある人物は必ず英語を喋ることができるように。
クレスタリア王国が、この星最大の国家であるからと読んだのだが、予想は的中した。
カエデは競馬の予想が的中し、予想以上のオッズを受け取った予想師のような笑みを浮かべて言った。
「いいわよ、ただし、あなたが私と悠介さんの前に立って玉座の間に案内しなさい」
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