いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

文字の大きさ
34 / 106
第一部 第三章 ドラゴンを従えし王

王家の山

しおりを挟む
「いつまで寝ておるのだッ!」
主人の大きな声にディリオニスは反射的に飛び起きた。
眠い目を擦りながら辺りを見渡すと、そこには自身の主人であるガラドリエル女王とその護衛であるガートールードが眠っている自分を見下ろすように立っていた。ガラドリエルは腰に手を当てて小さな溜息を吐く。
「貴様、主人を何日待たせるつもりなのだ?私は早く王の山に登りたくてうずうずしておるのにッ!」
「お、王の山?」
ディリオニスはかすれた声で返す。
「そうか、お前にはまだ話していなかったな」
しゃがれた声のディリオニスの質問に答えたのは主人ではなく、同じ護衛騎士のガートールードだった。
「我々はこれから、王家の山に登るのだッ!女王陛下の護衛獣ガーディアン・ビーストをこの世界の神に求めるためになッ!」
「ええーー!?」
ディリオニスは目を丸くする。
「じょ、冗談じゃないよ!第一ここはぼくらの住む世界とは違う世界なんだよね?それなのに、陛下は戻らないつもりなの?」
「失敬な奴だ。私は利用するべき物は利用する……それだけだ」
「つまり、陛下の仰られたい事は陛下と対立する黒十字シュヴァルツ・クロインツ家と白十字ヴァイス・クロインツ家の二勢力を牽制するためにこの世界で力強い怪物を得たいと言う事なのだッ!」
ガートールードはベッドに横たわるディリオニスに向かって人差し指を突きつけて言った。
「わ、分かったよ。王家の山とやらに同行する事は了承するから、陛下の方からも教えてくれないかな?」
対価との交換パーターか?良いだろう?何だ?」
ディリオニスは一度息を吸って自身の置かれた状況も確認する。部屋は金色と白色を基調とした壁紙に覆われており、緑色の柔らかそうなクッションが部屋全体に敷き詰められていた。家具は自身が横たわる大きな天蓋付きのベッドとオーク材の小さなサイドテーブルと一人だけが使える一人用のテーブルと椅子が一脚。それだけだった。
ディリオニスははやる気持ちを抑えてガラドリエルに尋ねた。
「ぼ、ぼくがブルーノを討ち取った後の事を教えて欲しいんだッ!結局、陛下はあの後はどうしたの?」
「成る程な」
ガラドリエルは机に用意されていた紅茶をすすりながら言った。
「私とガートールードはあの後にゾンダーブルグ家の私兵共と対決した」
ガラドリエルは遠い目でディリオニスが倒れた後の事を話し始めた。
ディリオニスが嫌悪感をそそられる触手に覆われた顔を持つ巨人に向かった後はガートールードの手を引き、屋敷の廊下に出て甲冑姿の兵士たちと対峙し、ガートールードと二人で屍の山を築いていったらしい。
そして、次々と出来ていく死体の数に嫌気が差したと思われる執事の男の喉元にガラドリエルが剣を突き刺して勝負は付いたらしい。リーダー格の男が殺されて兵士たちは恐怖に囚われたらしい。
全員が武器を放棄して、両手を上げて降伏のボディーランゲージをしてみせたらしい。この時点でゾンダーブルグ家の屋敷はガラドリエル一行の手に落ちたと言えよう。
そのタイミングで倒れる音が聞こえ、ガラドリエルが屋敷の庭へと出ると、そこに運良く体を触手に守られて倒れていたディリオニスの姿があったらしい。
ガラドリエルは触手を手で押し除けて、ディリオニスを救出したらしい。
ガラドリエルはその時に手に温かみのような物を感じた。
目の前で澄ました顔で紅茶を啜りながらこちらに冷徹な視線を向ける主人の顔が目に映る。
と、目が合ったのだろう。主人が急いで視線を紅茶の中に移す。
懸命に紅茶を啜るガラドリエルに向かってディリオニスは満面の笑顔を向けて、
「ありがとう、女王陛下」
甘い声で囁かれると流石の女王も気が弱くなったしまったのだろう。耳を赤く染めて、顔を真っ赤にして向き直り、
「か、勘違いするなッ!わ、わ、私は自分の家来を助けただけだッ!国の民や兵を助けるのはじょ、女王の義務であるだけだッ!そ、そこの所を間違えてもらっては困るぞ!」
ガラドリエルは最後に空咳を起こして、紅茶を飲む作業に戻った。
ディリオニスは温かい目でガラドリエルが紅茶を飲む姿を眺めていると、ガートールードが自身の元にまでやって来て、自分のベッドの上に腰を下ろす。
ガートールードはディリオニスを見つめて、優しい微笑みを向ける。
まるで何者をも包み込む慈愛の女神のような笑顔にディリオニスは普段とのギャップに怯えてたじろいでしまう。
何とか口を動かそうとパクパクさせていると、ガートールードはディリオニスの顎を右手で持ち上げ、彼女の唇とディリオニスの唇が重なりかねない程の距離に近付け、
「いいか?お前は陛下を全力でゾンダーブルグの魔の手から守った。感謝しておる。そんなお前だからこそ、陛下を山でもお守りできると思っておるのだ」
ディリオニスは両手をバタバタと動かして、口を動かさないで唇と唇が重なりかねない状態を表していたのだが、そのためにガートールードから不審な目で見られてしまう。
ガートールードは両眉をしかめて、
「どうしたのだ?何をそんなに慌てふためていておる」
「ち、近いんだよォォ~!!この距離だとキミと僕がキスする状態になっちゃうんだよォォォォォ~!!!」
ディリオニスはようやくこみ上げた声を鳥の鳴き声よりも大きく叫んだために、ガートールードもようやく事態を飲み込んだらしい。
慌ててディリオニスの顎を持ち上げていた右手を離す。
「すまなかった。お前の安全が確認できて、どうやら私も安心し切っていたらしいな」
確かに今の彼女には普段の冷徹を身に纏った厳かな様子はどこにもない。
余程、自身の身を案じてくれたらしい。
ガートールードはわざとらしく咳を出して、
「ともかくだ。お前も揃ったし、もう王の山とやらに登る準備は整ったのだ。明日、出発だ。忘れるなよッ!」
この言葉でディリオニスはようやく本来聞かなければならない事を思い出す。
二人の口から姉とあの魔道士の安否を聞いていない。ディリオニスは「あの」と申し訳なさそうに切り出し、二人の安否を問う。
だが、ガラドリエルは自信満々の表情で二人の安全を保障した。同時に居場所もディリオニスに告げた。
「そうだな、お前にも教えておくか……実はな、我々がゾンダーブルグの屋敷を落とした後に我々の元いた世界と我々が現在居る世界を繋ぐ霧が晴れてしまったのだ」
ディリオニスは思わずに顔に驚愕の色を浮かべてしまう。彼は強い口調でその後の事を尋ねた。
「まあ、落ち着け、それでな、我々がお互いに首を傾げていたところに、ユーノとお前の妹が現れたのだ。何でも、魔道の世界には昔から、異なる世界と我々の世界を繋ぐ霧を発生させる魔法があったらしい。それで……」
ディリオニスはガラドリエルの説明が終わる前に、恐るべき速さで部屋を飛び出し、大声で最愛の恋人の名前を呼んでいた。そして、かつてブルーノ・フォン・ゾンダーブルグに案内された大きな玄関を通り過ぎ、怪物の倒壊によって半壊した庭で復旧作業を行う鎧を着た可憐な女騎士と黒のローブを身に纏った世にも類な美貌を持つ女性を発見したのだった。
ディリオニスは他の屋敷の従僕たちと立派な庭で瓦礫を取り除く作業を行なっていた最愛の恋人にして実の妹の姿を見かけると、大きな声で彼女の名前を呼び、妹の元に近付くと、彼女の体を強く抱き締めた。
ユーノは涙を流して互いの無事を喜ぶ兄妹の姿を眺めながら、保護者じみた優しい微笑を浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...