いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

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第一部 第三章 ドラゴンを従えし王

王家の山 パート2

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「何?王の山に私以外にも登ろうとする不埒な奴がいるだと?」
鉤十字ハーケン・クロインツ家の王太子フィリップだった。
フィリップは眉目の鋭く整った容姿の美しい青年で、美貌もさる事ながら彼は演説の名人だった。彼の民族意識と国防を強く意識させられる演説は聴衆の心を射抜いていた。彼の演説を聞いた民衆たちは『王太子閣下御命令を!我々はそれに従います!』であった。
フィリップはそれに気を良くし、大衆の支持を得る中で父を弁舌でたらし込み、無能なる兄ヨーゼフを追放し、次男であったのにも関わらず王太子に任命されたのだった。その彼にとって王の山に登り神々から王の器だと認められて、王として認められるために邪魔があってはならない。彼が眉を潜めるのも当然とも言えよう。彼は鉤十字の印を肩に付けた鎧を着た部下の報告を受け、従者にして不調時や向かえない場所における自身の演説の代行者。そして、彼自身の実の妹をも兼ねていた腹心のエヴァ・フォン・ハーケン・クロインツに視線を移す。
エヴァは顎に手を当てて考える素振りをフィリップにアピールしていた。
やがて、彼女はフィリップに淡々とした口調で一つの事実を告げた。
「お兄様……私は王の山にて遺憾なる賊を討伐するのが賢明な判断だと思われますわ」
「他にやり方はないのか?例えば、我々の軍で王の山を包囲して、賊どもを包囲殲滅すると言う方法はどうだ?」
エヴァは人差し指を左右に動かして、唇を大きく緩めて、
「ダメです。王の山は聖なる土地。護衛獣ガーディアン・ビーストを得る筈の王候補者とその儀式に使うための人員のみしか登れないと言う決まりはお兄様が一番ご存知の筈ですわ」
エヴァはとろけるような甘い声で兄の耳元で囁く。
フィリップは唇を噛み締め、ならばと次の案を提示した。
「父上に提案して、今回の儀式は中止にするのだッ!その上で賊どもを我々の手で狩ればいいッ!」
「お兄様は聴衆の支持を失いたいのですか?」
エヴァはチョコレート色のつぶらな瞳で兄の顔を映す。彼女も兄に似て美しい女性である事は間違い無いだろう。
キャラメル色の髪に見る者を恋の虜にしてしまう程の美しい体。
とろけるような甘い声。まさに神話の夢魔が女として人間界に現れたのだとしたら彼女こそがその例なのかもしれない。
実の妹はそれ程美しい女性であったのだ。
彼女は兄が認める美しい声で先程の話を続けていく。
「もし、ここで中止を宣言なされたのなら、大衆はお兄様を王の山で王として認められない偽の王太子として思われるのではないでしょうか?お兄様だってそれはお嫌でしょう?」
エヴァの言葉をフィリップは首肯する。どうやら、彼女の指摘は事実らしい。
「ならば、限られた人数とお兄様自身の力で賊を討伐なさいませ。なぁにご心配には及びませんわ、私の力を信じていれば、お兄様は安心して王になれましょう」
エヴァは肉付きの良い赤色の唇を右に吊り上げて笑ってみせた。





「やっぱり、高いよぉ~無茶なんじゃないの?」
ディリオニスは山を登る中で、思わず先頭を切って動く主人に愚痴を吐いてみせる。主人は下僕の愚痴を寛大な笑顔で流してみせ、王への道を説き始めた。
体を曲げて項垂れるディリオニスを妹は優しく支える。
「大丈夫よ。お兄ちゃんは強い子だから、お兄ちゃんならできるよ!ファイト!」
満面の笑みで最愛の人間から言われると、ディリオニスも苦笑して答えずにはいられない。
彼は背中に背負っていた革のリュックサックを一度大きく揺らして足を大股に開いて歌を歌い始めた。
いつものアニメの曲ではない。ディリオニスが死亡した後に生まれ変わった世界で学んだ民謡だ。
朗らかなディリオニスの歌声に釣られて全員の頬が緩む。
気が付けば、明るいパーティに変わり山を進んでいく。
幸にして、頂上に着くまで妨害は一度として無かった。
ディリオニスは山の頂上と思われる開かれて小さな三段の机と思われるオブジェクトの置かれた場所に着くと、荷物を下ろして溜息を吐く。
「やっと着いたよぉ~本当に大変だったよ」
「お兄ちゃんお疲れ様。それよりも見てよ!この山の景色を!」
マートニアは兄の手を引いて、山の頂上から見える景色を見せる。
山の景色は美しく、そして壮観な光景だった。
「すごいね」
ディリオニスの一言にマートニアは黙って首を縦に振る。
「うん、覚えてないかな?死ぬ前に家族で山にハイキングに出かけた時の事……」
マートニアの一言にディリオニスは思わず頬が熱くなるのを感じた。
家族と出掛けたあのハイキングは辛くて長かった高校入学の期間で一番楽しい思い出だったかもしれない。
とりわけ、あの時は二人と歳の離れた愛が二人て仕切りに手を繋がりたがり、二人の手でブランコの真似事をするのが幼い愛は好きだった。
その様子が両親には微笑ましく映ったに違いないし、二人ももし許されない関係が許されて、結ばれて家庭を作れて、子供ができたらこんな感じになっていたかもしれないという空気に酔っていた。
二人は手を取り合って山の上からの景色を眺めていた。
二人が過去を思い出しながら、山の景色を眺めていると、背後から声を掛けられた。二人は主人の呼ぶ声に従って景色を見る事を中断して戻って行く。
戻った二人を待ち構えていたのは奇妙な像が飾られた祭壇だった。
祭壇の上には無数とも言える数の小さな像がこちらをジロリと睨んでいるような気がした。
ディリオニスはたじろいでしまう。他の面々も恐怖を隠しきれないらしい。
だが、ガラドリエルだけは恐れる様子を見せずに、堂々とした調子で祭壇の前へと歩いて行き、両手を開いて毅然とした調子で抑揚を付けた大きな声で、
「私の名前はガラドリエル・フォン・ヴァレンシュタインッ!偉大なるガルマン民族の統治者にして広大なるプロイセン大陸の支配者。そして、全ての人々の守護者であるッ!異なる世界の神々よッ!我を真の王とみなすのなら、姿を現し、我に守護獣ガーディアン・ビーストを与えて、我に王としての務めを果たさせよッ!」
ガラドリエルが王の儀式として必要な言葉を述べ終えると、突風が吹き、冷たい風がその場にいた5人の頬を撫でていく。
空が夜のように暗く染まり、雷の轟く音が聞こえる。
恐ろしさと寒さのためにガラドリエルを除く4人は地面に立ってはいなかった。
恐怖に引きつった顔の4人とは対照的にガラドリエルは澄ました顔で天を眺めていた。
やがて、暗雲が割れて中からは様々な数の小人が現れた。
大きな髭を生やした神に引き連れられた小さな神々はガラドリエルの前に現れて、お前が王かと問う。
ガラドリエルは神々の前に跪き首肯した。神はガラドリエルの態度に満足したらしく、満面の笑顔で首を縦に動かし、ガラドリエルの前に杖を振りかざして、守護獣ガーディアン・ビーストを与えようとしたまさにその時。
聞く人間を癒してくれそうな程の心地の良い声が神々とガラドリエル一行の元に届く。
声の主は美しい顔をした女性だった。女王の一行が女性の居る背後を振り向くと、女性の他には10名ばかりの男がいるばかりだ。
エヴァは神々に向かって丁寧に頭を下げて名前を名乗る。
「初めまして、私の名前はエヴァ・フォン・ハーケン・クロインツと申します。偉大なるギリアード人の統治者にして全ての人々の守護者であるハーケン・クロインツ家の娘にして、次期王の妹です。神様方騙されてはなりませんわ。その女は神様方を唆して、力を悪用しかねない不埒な輩ですッ!」
無礼とも言える抗議の言葉にガラドリエルは冷静な声で言い返した。
「神々に言いたい……私はこの二人こそがあなた方を唆して、力を悪用しかねない不埒な輩だとな」
ガラドリエルは腕を組んで、エヴァを睨み付けた。
エヴァとその兄も睨み返したために、二人の対決は決定付けられたらしい。見えない剣と剣が交わっているように見えて、二人を除くその山にいた人物たちの頬を冷たい風が撫でた感触が伝わってくる。
ここに、和解という言葉は吹き飛び、彼らの間に残ったのは『戦闘』の二文字だった。
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