いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

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第一部 第三章 ドラゴンを従えし王

王家の山 パート3

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鉛の重しよりも重い沈黙を破ったのはエヴァ・フォン・ハーケン・クロインツであった。彼女は聞く人を包み込むような優しい声で言った。
「初めまして、異世界のお姫様……いや、卑怯なる簒奪者と仰るべきでしょうか?」
「簒奪者?私が?」
ガラドリエルはエヴァの言葉を笑い飛ばす。だが、エヴァも彼女と同様の澄ました笑顔で答えて、
「ええ、我々ハーケン・クロインツ家やローゼン・クロインツ家の面々が使う筈の王の守護者たちを横取りしようとしているのでしょう?だから、私は『簒奪者』とお呼びしたのです」
「ふん、この山は王となる資格を認められれば、誰でも神々から守護獣を得られると聞いたぞ」
「あなたはそんなデマを信じておられるのですか?」
エヴァの口調が強くなっていく。語気を強めてガラドリエルを牽制しているらしい。
だが、ガラドリエルは相変わらずの冷笑を浮かべるばかりで、エヴァの言葉には答えようとはしない。
と、痺れを切らしたのか、エヴァは「生意気」と耳をすまさなければよく聞こえない程の小さな声で宣戦布告を宣言してガラドリエルに斬りかかっていく。
エヴァが鞘から抜き出したレイピアがガラドリエルの心臓を突き刺そうとした時だ。不意にレイピアの剣先はその場から動かなくなってしまう。エヴァが目を丸くして上空を眺めると、そこにはかなり上玉とも言える程の美男子がエヴァのレイピアを防いでいた。
「ふふ、あなたはその女の護衛なのですか?楽しみだわ。ねえ、あなたとは『お友達』にはなれるかしら?」
目の前の男は彫像のように固く口を閉ざして答えようとはしない。
だが、答えないというのは自身との対話を拒んだに違いない。
エヴァは一度レイピアを下げて、再びレイピアの刃先を青年に突き刺そうとする。
青年は今度もエヴァの剣を受け止め、しかも、青年はエヴァのレイピアを滑らせるように自身の剣で受け流す。
一瞬の隙が生じたエヴァに青年の剣が襲い掛かる。
エヴァは剣を構え直して、その剣先を青年に向けた。剣先が青年の頬に当たるよりも前に青年は顔全体を逸らして、エヴァの剣が額に直撃するという最悪の展開を回避した。
ホッとしている青年に向かって、エヴァは口元に左手を当てて笑い始めた。
「オホホホ、私ね、いつもね私は私とお友達になろうと思っている人にはと思っているの」
エヴァは相変わらずのご機嫌の笑みで話を続けていく。
「私や兄に逆らって何の罰も受けずに済むなんて、そんな虫の良い話ってないでしょ?私を不快にさせた分だけあなた達には拷問を受けてもらうわ、目玉をスプーンでほじくり出したり、お腹からあなたの膵臓やら胃やらを抉り出したり、後はそうね……」
エヴァは考え込む素振りを少しの間だけ見せてから、満面の笑顔で叫んだ。幼い子供が新しい遊びを考え付いたかのような純粋な笑顔だったために、ディリオニスは背筋に冷たい水が流れていくのを感じた。
「道具を使った水責めに火責め……そして、指を一本一本切っていく『小鬼達の舞踏会』という罰を受けてもらうわ。あなたの罪を私が許したと思うまで……神様だって復讐の正当性は認めているわ。当然の事でしょう?」
彼女は笑顔で語るからこそ恐ろしい。狂気のような物の片鱗が見えたような気がした。
その時にディリオニスの心を怯える気持ちが支配した。だが、同時に体の中に潜む英雄ジークフリードは囁く。
背後を振り返るのだ、と。ディリオニスは英雄の言葉に従い目を見開かせて背後を振り向く。
背後に構えるのは自身の守るべき主人の姿。ディリオニスは唇を噛み締めて剣を構えて目の前の女に向かって行く。
ディリオニスが重い足を踏み出そうとした時。突如、彼の体を何か恐ろしいものが襲った事に気が付く。
彼が恐る恐る目をエヴァに向けると、鎧を着たキャラメル髪の女は唇を舐め回し、ディリオニスを観察していた。
「いやだわ、私が自分の趣味をひけらかすためだけにあんな会話をしたと思っているの?私が話した本当の目的は毒が回るまでの時間稼ぎ」
彼女は心の底から楽しいと言わんばかりの笑顔を顔に浮かべている。
彼女は明るい声で話を続けた。
「さてと、ここで問題です。あなたに残された選択肢は二つあります。一つは私に跪いて私と『お友達』になる事。二つ目はそのまま毒が回って苦しんで死ぬ事……あなたはどちらが良いかしら?」
ディリオニスはか細い声を繋いで口を開く。
「どちらも嫌だね。お前に返す言葉一つだけ……あの世に逝けクソ野郎。この一言だけだ……いや、お前の兄もお前も王になる資格はないの方が良いかな?」
エヴァの眉が引きつる。青筋が立っており、気を悪くしているのは誰の目にも分かるだろう。
「とっととくたばれクソ野郎。正当なる王国の王女を怒らせた罪は大きいと思いやがれ」
それだけ呟くと、剣に塗られた毒により虫の息とかしているディリオニスに襲い掛かる。
だが、ディリオニスの前に黒いローブを着た見た目麗しい女性が立ち塞がったためにエヴァは立ち止まるざるを得なかった。彼女は突進していく足を抑えて、目の前の女性に一礼をしてから自身の名前を名乗る。
黒いローブに身を包んだ女性もローブの端を掴み、丁寧に頭を下げた。
「異世界のお姫様ですのね?私の名前はユーノ・キルケと申します。ヴァレンシュタイン家にてガラドリエル女王陛下のお供を務めさせていただいております」
「あら、これはこれはご丁寧に、どうやらあなたはとやらが分かっているらしいわね?」
エヴァは落ち着きを取り戻したらしく、いつもの聴く人全てを癒しかねないウィスパーボイスでユーノに向かって言葉を返す。
「あら、そうですの。それにしても儀式前までの天気は良い天気でしたよね?ところであなたの能力は何ですの?いきなり、私とこのお方との前に割り込んできたのですから、私にあなたの能力をお教えするのは当然かと思いますが……」
「魔道士……と先程申し上げましたわ。それだけで十分なのでは?」
相手の質問を拒絶するかのような態度にエヴァは不快感のようなものを感じた。
エヴァは人差し指を立てて、
「良いですか?これがラストチャンスですよ。私にあなたの魔法を教えなさい?」
「最後通告というわけですか?実は器が小さいんですね?」
「まさか、あっ、そうだ。私の方から能力を説明しておきましょうか?私はこの辺りでは取れない毒とこの辺りで取れる毒を混ぜて全くの未知の毒を作り上げた、ちょっと凄い人なんですよ」
エヴァがユーノの心臓に向かってレイピアの先端を突きつけようとした時だ。
突如、緑色の弾がエヴァに襲い掛かり、そのためにエヴァはその場から飛び上がらざるを得なかった。
「すごいですね?それがあなたの魔法ですか?」
「ええ、私の得意魔法の一つです。あっ、そうですわ、私の特徴としては他ならぬ偉大なる魔導師の一人である事が大きく影響しており、他の魔道士や魔法を使える人と違ってすごく早く魔法が放たれるんですよ」
エヴァは感心したような表情でユーノを見つめている。
ユーノはエヴァに向かってもう一度弾を飛ばしてから、背後を振り返り即座に解毒の魔法をディリオニスに向かって放つ。
ディリオニスはユーノの魔法を受け取るなり、体全体が楽になったような気がした。そして、次の瞬間にもう一度大きく飛び上がり、同じく飛び上がってきたエヴァの剣を受け止める。
「あら、本当に毒が治ったのね?」
「そうだよッ!」
ディリオニスは強い力で剣を振り、剣を振った衝撃によってエヴァを弾き飛ばす。エヴァは尻餅をついて起き上がる。
彼女が体勢を取り戻した時には、もう反撃の準備は出来ていたらしい。
エヴァは無言でディリオニスに向かって斬りかかっていく。
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