死神は世界を回る ~異世界の裁判官~

アンジェロ岩井

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第一部『人界の秩序と魔界の理屈』

人質救出作戦

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「さてと、お前たちの救世主である魔界執行官殿はいつ来るのかなぁ?」

 ラルフはいやらしい笑みを浮かべながら縄に囚われている二人を見下ろしながら嫌味混じりに問い掛けた。
 レイチェルもルイスも鋭い視線でラルフを睨んでいた。

 だが、ラルフはそんな風に睨まれたとしても意に返していなかったらしい。フンと鼻息を鳴らしながら囚われの身である二人を見下ろしていく。

「……こいつらを痛い目に遭わせてやれ。奴らが魔界執行官殿への期待を裏切るほどに」

 ラルフの手下二人は首を縦に動かし、ルイスに対する暴行を始めた。最初に女性であるレイチェルではなく、男性であるルイスを最初に狙ったのはせめてもの良心であったのかもしれない。

 手下の男たちに殴られ蹴られ、痛めつけられながらも人界執行官としての役割が頭の中に残っていたのだろう。ルイスは意に返す様子は見せなかった。
 それに加えて反抗的な目で見つめていたことも大きかった。ラルフは舌を打ち、そのまま手下の男を蹴り飛ばした。

「く、クソッタレ……」

「なんだッ!その言い方は!?」

 ラルフは激昂した。そのまま胸ぐらを掴み上げて地面の上へと放り投げた。
 勢いよく体を打ったことにより、ルイスは思わず痛みを訴える声を漏らした。

「ルイス様ッ!」

 悲痛な表情を見てレイチェルは思わず叫んでしまった。レイチェルは思わずルイスの元へと駆け寄ろうとしたが、手下によって阻まれてしまう。
 結果としてレイチェルは目の前で敬愛する主人の友人が殴られる場面を強制的に目撃させられることになってしまった。

 レイチェルは下唇を噛み締めながら目の前で繰り広げられている凄惨な場面を見つめていた。

 ラルフは酒瓶を片手にレイチェルへと嘲笑うような目で見つめていた。
 それから一気に酒を飲み干し、レイチェルに向かって下衆じみた笑みを浮かべながら言った。

「安心しろ、次は貴様の番だ。この男にも劣らぬような苦痛を味合わせてやるぞ。女め」

 言葉の中に含まれていたのはラルフの人間に対する深い憎悪の念が『人間の』という形容詞を強調する中に含まれていたことからもよく分かる。

 それを聞いてレイチェルはラルフに対して憐憫の目を向けていた。自身も人間ではある。けれども亜種族の主人に助けられ、その主人に今も仕えているので気持ちもよくわかるのだ。

 その態度が気に入らなかったのだろう。ラルフはレイチェルの前に近寄り、平手で強く殴り飛ばした。

「なんだッ! その目はッ! 忌々しい人間めッ!私を馬鹿にするなァァァァァ~!!! 」

「……あなたに何があったのかは分かりません。けれど、悲しみは伝わります」

 レイチェルの声に偽りはなかった。本気で彼女はラルフに対する同情の心を寄せていたのだ。

「黙れッ! 人間ごときに何がわかるッ! 」

 しかしラルフは怒りに任せて、腰に下げていた剣を引き抜いていた。剣は空を切り、その剣で斬り殺そうということを暗にPRしていたのである。
 それでもレイチェルは何も言わなかった。黙って剣を振るうラルフを見据えていた。

「待ってくださいッ! その人の代わりにおれが謝りますッ! なので、その人を殺さないでください。どうか……お願い致します」

 縄に縛られながらもラルフは必死になって頭を下げ出していく。
 それでもラルフの怒りは収まらなかったらしい。レイチェルの元を離れ、今度はルイスへと怒りをぶつけていく。

「よしッ! まずはお前から先に殺してやる。その代わりただでは殺さないぞ」

 ラルフはその後にわざわざ『なぶり殺し』という一文句を付け加えた。余程残酷に殺すつもりなのだろう。
 ルイスは人間の社会において適用されている多くの拷問刑のことを思い返していく。

 体のそれぞれの付け根に縄を括り、それを馬で引っ張って殺すという八つ裂きの刑にするつもりだろうか。はたまた飲めない量の水を無理やり体の中に流し込むという水責めというやり方もある。
 或いは生きたまま体を剣で生きたまま切り刻まれるかもしれない。

 どんなやり方でも考えられる。なにせ相手は反乱軍なのだ。正規の軍隊でのやり方を通してくれるとは到底思えなかった。

 ルイスの顔には絶望の色が浮かび上がっていた。だが、どのような目に遭ってもそれは自分で選んだことなのだ。後悔などあるはずがない。

 ルイスの両手をコクランが掴み上げた時だ。

「待ちな、魔界執行官、コクラン・ネロスだ。そこにいる坊やをとっとと離しなぁ」

 と、こちらに拳銃を構えたコクランの姿が見えた。その姿を見たラルフは剣を構えてコクランの元へと向かっていく。その剣先で真っ直ぐにコクランを貫くつもりなのだろう。
 それに対応するようにコクランは銃を構えた。
 遠距離と近距離とでは当然ながら銃や弓といった飛び道具の方が有利だ。

 だが、ラルフには魔法があった。鉄の魔法を用いて自らの身を鉄で覆い隠すことによって銃弾を弾いていく。
 コクランの吸収魔法が込められた弾丸も弾かれてしまった。魔法が込められた弾丸も当たらなければならない意味がなかった。

 次々と地面の下に落ちていく弾丸をコクランは舌を打ち、更に距離を取っていく。より遠距離からの攻撃を試みるためだ。

 だが、ラルフもそのことを理解しているからか怯むことなくコクランの元へと突き進んでいく。
 とうとう互いの距離は目と鼻の先にまで詰められることになってしまった。

 コクランは舌を打ち、その場から逃げ出そうとしたが、その前にラルフは自らの拳を鉄の魔法で込めて殴り付けた。
 完全に怒りを打ち出したものだった。
 凄まじい衝撃を喰らいコクランはその場で倒れ込んでしまう。それに対してラルフは腹に向かって蹴りを喰らわせていく。

「コクラン様ッ! 」

 レイチェルの悲鳴が聞こえてきた。
 慌てて駆け寄ろうとするもそれはラルフの手下たちによって静止されてしまう。
 それでも彼女は暴れていた。

「お前たちはそこで見ていろッ! お前たちの主人がそこで死にゆく姿を黙ってなッ! 」

 しかし注意を一瞬とはいえレイチェルに向けてしまったことは正しいことではなかったというべきだろう。
 その隙をついてコクランがラルフの元を潜り抜け、レイチェルとルイスの元へと向かって行っていた。

「し、しまったッ! 」

 ラルフは慌てて追い掛けたものの、追い付いた時には手下たちが撃ち殺され、ルイスとレイチェルの二人が解放された後のことだった。
速やかな手口だったのでコクランはすぐに銃をホルスターの中にしまってその場から逃げ出していた。

「お、おのれッ! 」

 激昂したラルフを放って二人は慌てて扉を破り、ラルフが使用していた町長の家の中へと逃げ込んでいく。
 町長の家は二階建てとなっており、日常的に町長は一階のスペースを公邸として用いており、二階のスペースを家族で過ごす私邸として用いていた。

 レイチェルとルイスの両名は二階へと逃げ込み、コクランは一階へと逃げ込んでいた。
 最初に忍び込んだ時に知ったのだが、一階には町長室の他に応接間や職員が業務を行う事務室が設置されていた。

 コクランはその町長室に世にも珍しい武器が掛けてあったことを思い出した。
 町長がかつてどこからか仕入れたという世にも珍しい刀剣が飾られていたのだ。
 コクランはその刀剣を使って相手を倒そうと目論んでいたのだ。

 反りのある刀身に片側だけに刃が付けられているという剣にしては珍しい付け方をした刃。丸い鍔に頭金と呼ばれるもので抑えられ、巻止と呼ばれる形で糸が巻かれた柄。間違いない日本刀だった。
 コクランは町長室に飾られた日本刀を手に取り、応接室の長椅子の後ろへと潜り込んだ。

 しかしその目的はラルフから逃げるためではない。ラルフの油断を誘うためである。ラルフが追いかけてきたところをこの刀で一突きにする予定である。
 どこか前世にやっていた時代劇で見たことのある場面だ。コクランは潜んでいる背後で忍び笑いを漏らしていた。
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