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9.オメガ
③
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(僕、今、クレイドに『触って』って言った……?)
自分の言葉が信じられず、リオンは口を押えた。湧き上がる恐怖にかたかたと身体が細かく震え始める。
「ごめ……ごめんなさ……」
自分は今、クレイドの手のひらを自分の下半身に押し付けようとしたのだ。
誘ったのだ、そういう行為に。
クレイドは驚愕した顔のまま、動かなかった。唇だけがわずかに開いては閉じる。
「……リオン、様……俺は……」
クレイドが茫然と呟いたとき、扉を押し開ける音がした。ばたばたと慌ただしくドニが入ってくる。
「すみません、遅くなりました! この抑制剤を飲んでいただいて……」
そこまで言いかけたドニは、リオンとクレイドの間に流れるおかしな空気に気が付いたようで、首を傾げた。
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない……」
クレイドは答え、視線を逸らすと寝台の上からさっと立ち上がった。
「そうですか? さあリオン様、これが抑制剤です。普通は錠剤なのですが、効きが早いように煎じ薬をお持ちしました」
「うん、ありがとう、ございます……」
リオンは指示されたとおりに煎じ薬を飲み、クレイドの方へと恐る恐る視線をやった。クレイドは寝室の窓の側に立ち微動だにしない。その背中はリオンを拒絶しているように見えた。
(そんなの当然だ……。あんなに気持ちの悪いことをしたんだから……)
胸がずきんと痛み、また涙が込み上げてくる。
「あれあれ。ブルーメ様。そんなにお薬苦かったです? 困りましたねえ、そんなに泣いたら目が溶けてしまいますよぉ」
ドニが優しく言ってくれたが涙は止まらない。ついには嗚咽まで出てしまい、さすがにクレイドがこちらを振り向き、そばまで戻ってきた。
だがどうしたらいいのかわからないようで、寝台の前に立ったクレイドは固まっている。「リオン様……」と声を掛けられて、リオンは涙を拭って背中を向けた。
「大丈夫」
寝台にのぼり、掛け布を頭からすっぽりとかぶって横たわる。
「大丈夫だから一人にして」
「ですが……」
戸惑ったクレイドの声に、ドニの声がかぶさる。
「しょうがありませんね。陛下がそばにいない今、ブルーメ様も他の者といっしょにいるのはお辛いでしょう。部屋を出ましょう、クレイド殿」
「しかしそれではリオン様の身が安全が確保できない」
「部屋の前に複数人の護衛を立たせるしかないでしょうな。幸いこの部屋は三階だ。窓側からは誰も入ってこれない」
「それはそうだが……」
「……そうして、お願い」
リオンはか細い声で言った。
クレイドはしばらく思案するように黙り込んでいたようだが、やがて渋い声で「わかりました」と引き下がった。
「ブルーメ様、大丈夫ですよ。オースティン陛下の兄上は二人ともブルーメでした。ですから、私たちもあなたのサポート体制は万全です。陛下もブルーメのことをよく理解なさっている」
ドニが優しく声をかけてくれたが、リオンは何も言えなかった。早く出て行って欲しいという気持ちでいっぱいだった。
返事もせずに身を固くしていると、やがて「それではリオン様、私たちは下がりますので」というクレイドの声が聞こえ、足音と人の気配が遠ざかって行く。部屋の中がしんと静まった。
「う……う、うぅ……っ」
堤防が決壊したように、リオンの目から涙が次々とこぼれ落ちる。どれほど泣いても泣いても涙が止まらない。
(クレイドに嫌われた……)
突き放された時のクレイドの顔を思い出すと、胸が痛んでしょうがない。
『信じられない』
『どうしてそんなことをするんだ』
クレイドの表情はそう言っていた。きっと淫らな人間だと思われた。
「う……っ、ぁ、……あ……」
こんなに悲しくて心が張り裂けそうなのに、オメガの本能は決して去ってはくれない。固く冷える心を置き去りに、肉体はどんどん熱を帯びていく。
リオンは引きつった嗚咽を漏らしながら、衣を寛げ、自分の下半身へと手を伸ばした。
その部分はすでに昂ぶって熱くなり、しっとりと濡れている。
(嫌だ……)
そう思うのに、勝手に指は動く。濡れた先端を包み込み上下させると、一気に快感の水位が上がってくる。厭らしい水音が静かな部屋に響き、かあっと耳が熱くなる。
(……こんなのしたくない……)
掛け布の中に、自分の熱い息と熱がこもる。はあはあと喘ぎながら、リオンは一回目の熱を吐き出した。
「んっ……」
一度精を吐き出したというのに身体の熱は全く引いていかない。
今までの発情期は、いったん熱を発散すると少し楽になっていた。でも今回は違う。まったく楽にならず身体が熱いまま、指はまた勝手に動く。
「……ん……ぁ……あっ……」
リオンは全身を強張らせ、痙攣しながら二度目の熱を吐き出した。でも駄目だ。すぐに甘ったるい熱が下半身に集まっていく。
「なんで……どうして……ぼく、は……」
どうして僕は、こんなことをしなくてはならないのだろう。
――どうして僕は、オメガなのだろう。
自分の言葉が信じられず、リオンは口を押えた。湧き上がる恐怖にかたかたと身体が細かく震え始める。
「ごめ……ごめんなさ……」
自分は今、クレイドの手のひらを自分の下半身に押し付けようとしたのだ。
誘ったのだ、そういう行為に。
クレイドは驚愕した顔のまま、動かなかった。唇だけがわずかに開いては閉じる。
「……リオン、様……俺は……」
クレイドが茫然と呟いたとき、扉を押し開ける音がした。ばたばたと慌ただしくドニが入ってくる。
「すみません、遅くなりました! この抑制剤を飲んでいただいて……」
そこまで言いかけたドニは、リオンとクレイドの間に流れるおかしな空気に気が付いたようで、首を傾げた。
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもない……」
クレイドは答え、視線を逸らすと寝台の上からさっと立ち上がった。
「そうですか? さあリオン様、これが抑制剤です。普通は錠剤なのですが、効きが早いように煎じ薬をお持ちしました」
「うん、ありがとう、ございます……」
リオンは指示されたとおりに煎じ薬を飲み、クレイドの方へと恐る恐る視線をやった。クレイドは寝室の窓の側に立ち微動だにしない。その背中はリオンを拒絶しているように見えた。
(そんなの当然だ……。あんなに気持ちの悪いことをしたんだから……)
胸がずきんと痛み、また涙が込み上げてくる。
「あれあれ。ブルーメ様。そんなにお薬苦かったです? 困りましたねえ、そんなに泣いたら目が溶けてしまいますよぉ」
ドニが優しく言ってくれたが涙は止まらない。ついには嗚咽まで出てしまい、さすがにクレイドがこちらを振り向き、そばまで戻ってきた。
だがどうしたらいいのかわからないようで、寝台の前に立ったクレイドは固まっている。「リオン様……」と声を掛けられて、リオンは涙を拭って背中を向けた。
「大丈夫」
寝台にのぼり、掛け布を頭からすっぽりとかぶって横たわる。
「大丈夫だから一人にして」
「ですが……」
戸惑ったクレイドの声に、ドニの声がかぶさる。
「しょうがありませんね。陛下がそばにいない今、ブルーメ様も他の者といっしょにいるのはお辛いでしょう。部屋を出ましょう、クレイド殿」
「しかしそれではリオン様の身が安全が確保できない」
「部屋の前に複数人の護衛を立たせるしかないでしょうな。幸いこの部屋は三階だ。窓側からは誰も入ってこれない」
「それはそうだが……」
「……そうして、お願い」
リオンはか細い声で言った。
クレイドはしばらく思案するように黙り込んでいたようだが、やがて渋い声で「わかりました」と引き下がった。
「ブルーメ様、大丈夫ですよ。オースティン陛下の兄上は二人ともブルーメでした。ですから、私たちもあなたのサポート体制は万全です。陛下もブルーメのことをよく理解なさっている」
ドニが優しく声をかけてくれたが、リオンは何も言えなかった。早く出て行って欲しいという気持ちでいっぱいだった。
返事もせずに身を固くしていると、やがて「それではリオン様、私たちは下がりますので」というクレイドの声が聞こえ、足音と人の気配が遠ざかって行く。部屋の中がしんと静まった。
「う……う、うぅ……っ」
堤防が決壊したように、リオンの目から涙が次々とこぼれ落ちる。どれほど泣いても泣いても涙が止まらない。
(クレイドに嫌われた……)
突き放された時のクレイドの顔を思い出すと、胸が痛んでしょうがない。
『信じられない』
『どうしてそんなことをするんだ』
クレイドの表情はそう言っていた。きっと淫らな人間だと思われた。
「う……っ、ぁ、……あ……」
こんなに悲しくて心が張り裂けそうなのに、オメガの本能は決して去ってはくれない。固く冷える心を置き去りに、肉体はどんどん熱を帯びていく。
リオンは引きつった嗚咽を漏らしながら、衣を寛げ、自分の下半身へと手を伸ばした。
その部分はすでに昂ぶって熱くなり、しっとりと濡れている。
(嫌だ……)
そう思うのに、勝手に指は動く。濡れた先端を包み込み上下させると、一気に快感の水位が上がってくる。厭らしい水音が静かな部屋に響き、かあっと耳が熱くなる。
(……こんなのしたくない……)
掛け布の中に、自分の熱い息と熱がこもる。はあはあと喘ぎながら、リオンは一回目の熱を吐き出した。
「んっ……」
一度精を吐き出したというのに身体の熱は全く引いていかない。
今までの発情期は、いったん熱を発散すると少し楽になっていた。でも今回は違う。まったく楽にならず身体が熱いまま、指はまた勝手に動く。
「……ん……ぁ……あっ……」
リオンは全身を強張らせ、痙攣しながら二度目の熱を吐き出した。でも駄目だ。すぐに甘ったるい熱が下半身に集まっていく。
「なんで……どうして……ぼく、は……」
どうして僕は、こんなことをしなくてはならないのだろう。
――どうして僕は、オメガなのだろう。
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