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13.騎士として
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ヴァルハルトとの国境付近で小競り合いが起きてから三日。王宮は落ち着きを失ったままだった。城の中を常に騎士たちが慌ただしく行き交っていて、侍従たちも一様に不安な顔をしている。
そんな異様な雰囲気の中、リオンは不安を抱えながらいつも通りの生活を続けていた。というよりも、何も出来ることがなかったのだ。
クレイドやオースティンに状況を聞きたかったが多忙な二人に会うことは出来ず、話が出来るのはリオンの部屋付きの女官や護衛の騎士だけ。
だが、何を聞いても皆一様に「リオン様が心配なさらなくても大丈夫ですよ」などと言って質問に答えてくれないのだ。しかも「出来るだけお部屋か中庭でお過ごしください」と言われてしまえば、外に出て聞きまわることも出来ない。
それならば自分で情報を集めよう……と図書塔から国史についての本を何冊か借りてきてもらったが、書物はどれも難しく、なかなか一人では読み進めることが出来なかった。
万策尽きて困り果てていたが、ある日の午後散歩に出た先で、見知った騎士が中庭の警護にあたっているのを見つけた。以前護衛についてもらい、顔なじみになっていた若い赤毛の騎士だ。
(もしかして、この人なら教えてくれるかな……)
彼は今、リオンの護衛の任務についていないので、箝口令が敷かれていないかもしれない。
リオンはそんなことを考えながら、背後に付く護衛の騎士たちを伺った。彼らはリオンから少し離れたところに立って話し込んでいる。中庭にはたくさんの警備兵がいるので、気を抜いているのだろう。
今しかない、とリオンは赤毛の騎士に声を掛けた。
「あの……。ヴァルハルトとの間に何があったのか……今ノルツブルクの国はどうなっているのか教えてくれませんか?」
挨拶もそこそこにリオンがそう切りだすと、赤毛の騎士は困ったように首を振った。
「いえ、それはちょっと……。ブルーメ様に余計なことを話してはいけないことになっていますし」
この騎士にまで口止めをされていたのか……と驚きながらも、リオンは懇願を込めて彼の顔をじっと見つめた。
「お願いします。あなたにしか頼れないのです」
「え? わ、私ですか!?」
騎士は何故か顔を真っ赤にして驚いていたが、やがて「私から聞いたってことは言わないでくださいね」と念を押して教えてくれた。
ノルツブルクの国境警備隊が、ヴァルハルトとの国境沿いの森で不審な賊を発見し追跡し、その際に攻撃を受けたとのことらしい。
接近して剣を交えた騎士が相手の剣にヴァルハルト伝統の彫りを見たと証言していて、さらに落ちていた矢尻の形状からを見ても、相手がヴァルハイトの兵士である可能性が高いという。
だが当のヴァルハルト側は『自国の兵ではない』と頑なに言い張り、それどころか言いがかりだと主張して、ノルツブルクへ抗議を申し入れているそうだ。
「まさか……そんなことになっているなんて……。このまま戦争になったりしないですよね?」
話を聞いたリオンが不安を口にすると、騎士は安心させるように微笑んで言った。
「ブルーメ様、心配には及びません。ヴァルハルトとの和平交渉に、宰相が向かうことになっています。護衛にはクレイド隊長が付くとのことなので、いくらヴァルハルトでもおいそれと手出しは出来ませんよ」
「え?」
クレイドが宰相とともにヴァルハルトに向かう――?
「あれ、大丈夫ですか、ブルーメ様? なんか顔青いですが……」
「う、うん。だいじょうぶ、です……」
ありがとうございますとその騎士に礼を言って別れる。
中庭を出て自分の部屋へと戻りながらも、リオンの心臓は狂ったように冷たい鼓動を打っていた。
(クレイドがヴァルハルトに向かう? 緊張状態の、戦争に発展するかもしれない国に? 嘘だよね?)
自室に戻ってもクレイドのことばかりを考えてしまい、気が付くと部屋の中は薄暗くなっていた。
(あ……そろそろランプをつけなくちゃ……)
リオンがのろのろと椅子から立ち上がったとき、部屋の扉がノックされた。
「リオン様」
扉越しのその声にリオンは一瞬息を止め、それから急いで部屋の入口に駆け寄った。扉を開けると、そこにはクレイドが立っていた。
「クレイド……!」
夢か幻かと思い一瞬呆けてしまったが、そんなはずはない。本物だ。
(やっと会えた……)
言葉にならない気持ちが込み上げて声が出ない。涙をこらえて見上げるリオンに、クレイドは微笑んでくれた。
「中に入ってもよろしいですか?」
「う、うん。もちろん。入って」
クレイドは少し頬がこけたようだった。目の下にも黒ずんでいる。きっとかなり疲労がたまっているのだろう。
部屋に入ってきたクレイドはしばらく窓の外を見つめていたが、ゆっくりと振り返った。
「明日からしばらくこの国を留守にします」
その言葉にさっと血の気が引いた。
そんな異様な雰囲気の中、リオンは不安を抱えながらいつも通りの生活を続けていた。というよりも、何も出来ることがなかったのだ。
クレイドやオースティンに状況を聞きたかったが多忙な二人に会うことは出来ず、話が出来るのはリオンの部屋付きの女官や護衛の騎士だけ。
だが、何を聞いても皆一様に「リオン様が心配なさらなくても大丈夫ですよ」などと言って質問に答えてくれないのだ。しかも「出来るだけお部屋か中庭でお過ごしください」と言われてしまえば、外に出て聞きまわることも出来ない。
それならば自分で情報を集めよう……と図書塔から国史についての本を何冊か借りてきてもらったが、書物はどれも難しく、なかなか一人では読み進めることが出来なかった。
万策尽きて困り果てていたが、ある日の午後散歩に出た先で、見知った騎士が中庭の警護にあたっているのを見つけた。以前護衛についてもらい、顔なじみになっていた若い赤毛の騎士だ。
(もしかして、この人なら教えてくれるかな……)
彼は今、リオンの護衛の任務についていないので、箝口令が敷かれていないかもしれない。
リオンはそんなことを考えながら、背後に付く護衛の騎士たちを伺った。彼らはリオンから少し離れたところに立って話し込んでいる。中庭にはたくさんの警備兵がいるので、気を抜いているのだろう。
今しかない、とリオンは赤毛の騎士に声を掛けた。
「あの……。ヴァルハルトとの間に何があったのか……今ノルツブルクの国はどうなっているのか教えてくれませんか?」
挨拶もそこそこにリオンがそう切りだすと、赤毛の騎士は困ったように首を振った。
「いえ、それはちょっと……。ブルーメ様に余計なことを話してはいけないことになっていますし」
この騎士にまで口止めをされていたのか……と驚きながらも、リオンは懇願を込めて彼の顔をじっと見つめた。
「お願いします。あなたにしか頼れないのです」
「え? わ、私ですか!?」
騎士は何故か顔を真っ赤にして驚いていたが、やがて「私から聞いたってことは言わないでくださいね」と念を押して教えてくれた。
ノルツブルクの国境警備隊が、ヴァルハルトとの国境沿いの森で不審な賊を発見し追跡し、その際に攻撃を受けたとのことらしい。
接近して剣を交えた騎士が相手の剣にヴァルハルト伝統の彫りを見たと証言していて、さらに落ちていた矢尻の形状からを見ても、相手がヴァルハイトの兵士である可能性が高いという。
だが当のヴァルハルト側は『自国の兵ではない』と頑なに言い張り、それどころか言いがかりだと主張して、ノルツブルクへ抗議を申し入れているそうだ。
「まさか……そんなことになっているなんて……。このまま戦争になったりしないですよね?」
話を聞いたリオンが不安を口にすると、騎士は安心させるように微笑んで言った。
「ブルーメ様、心配には及びません。ヴァルハルトとの和平交渉に、宰相が向かうことになっています。護衛にはクレイド隊長が付くとのことなので、いくらヴァルハルトでもおいそれと手出しは出来ませんよ」
「え?」
クレイドが宰相とともにヴァルハルトに向かう――?
「あれ、大丈夫ですか、ブルーメ様? なんか顔青いですが……」
「う、うん。だいじょうぶ、です……」
ありがとうございますとその騎士に礼を言って別れる。
中庭を出て自分の部屋へと戻りながらも、リオンの心臓は狂ったように冷たい鼓動を打っていた。
(クレイドがヴァルハルトに向かう? 緊張状態の、戦争に発展するかもしれない国に? 嘘だよね?)
自室に戻ってもクレイドのことばかりを考えてしまい、気が付くと部屋の中は薄暗くなっていた。
(あ……そろそろランプをつけなくちゃ……)
リオンがのろのろと椅子から立ち上がったとき、部屋の扉がノックされた。
「リオン様」
扉越しのその声にリオンは一瞬息を止め、それから急いで部屋の入口に駆け寄った。扉を開けると、そこにはクレイドが立っていた。
「クレイド……!」
夢か幻かと思い一瞬呆けてしまったが、そんなはずはない。本物だ。
(やっと会えた……)
言葉にならない気持ちが込み上げて声が出ない。涙をこらえて見上げるリオンに、クレイドは微笑んでくれた。
「中に入ってもよろしいですか?」
「う、うん。もちろん。入って」
クレイドは少し頬がこけたようだった。目の下にも黒ずんでいる。きっとかなり疲労がたまっているのだろう。
部屋に入ってきたクレイドはしばらく窓の外を見つめていたが、ゆっくりと振り返った。
「明日からしばらくこの国を留守にします」
その言葉にさっと血の気が引いた。
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