女たらし魔法使いの弟子

草部昴流

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第六話

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「紅茶です」

 白磁のティーカップを差し出すと、バーナードは笑顔になった。

「凄いな。ルーフレッドとは長い付き合いだけれど、この家に来てお茶が出て来たのは初めてじゃないかな。茶器があったとは知りませんでした。いったいどこから探して来たんです?」

「埃の積もった倉庫から発掘しました」

 バーナードは快活に笑った。

 端麗な顔に茫然と見入る。ルーフレッドに匹敵する美男であるが、印象の爽やかさは大きく上回っていた。笑顔が輝くようだ。

 その上、ひと目見ただけで裏表がないと信じられるような、押しつけがましくない爽涼感をただよわせている。

 この人、モテるだろうなあと心中で呟く。

 くわしく人柄を知っているわけではないが、断言できる。ある種の夢見がちな女の子の理想が衣服を着て座っているようだ。

 この容姿と、鍛え抜かれた体格、その上、騎士団の筆頭なのだから、神は人に何物も与えるものである。

 それはルーフレッドもそうなのだろうが、かれの場合は与えたものに相当する何かを差し引かれていると思えるのに対し、バーナードはそういうところがなさそうだ。

 あるいは、こういう人こそ意外なところに欠点を抱えているのかもしれないが……。

「どうしました?」

 優しく問いかけられ、初めて自失に気づいた。

「ごめんなさい! バーナードさまがあまり爽やかなものだから、つい見入ってしまって」

「よく云われます」

 それこそ爽やかな笑顔で云い切る。うん、やっぱりこの人は師匠の友達だ。

「それにしても、あの気むずかしいルーフレッドが弟子を取るとは思いませんでした。どうやって口説き落としたんです?」

「内緒です」

 まさかカエルから助けてあげたとは云えない。あるいは、古い友人ならその弱点も知っているかもしれないが、自分から口にすることは考えられなかった。

「なるほど。ところで失礼ながらこんな可愛らしいご令嬢が、ルーフレッドのような女たらしとひとつ屋根の下に住んでいて、身の危険を感じることはありませんか?」

「はい、ありません。師匠は云っていました。身内は女じゃない、それにおれは胸と尻の大きい女が好きだ、万が一にもおまえに発情することはない、何も心配するな、と」

「なるほど。わが友ながら最低ですね。申し訳ない」

「いいえ。おかげで安心して暮らしています。まあ、これからわたしの躰が育たなければの話ですけれど」

 いささか寂しい気もする胸もとを見下ろす。そんなに魅力がないだろうか。前のお店ではわりに人気があったのだけれど。

 バーナードが気まずそうに咳払いしたので、アナベルは失言に気づいた。かれは何ごともなかったように続けた。大人だ。

「もし、危険を感じるようなら教えてください。一発殴ってやりますから。素手の殴りあいなら、いまでもわたしのほうが強い」

 怖いことを云う。男同士は殴りあって友情をたしかめると聞いたことはあるが、本気にしたことはなかった。しかし、その話には真実も含まれていたのだろうか。

 しばらく、茶飲み話に花を咲かせた。

 バーナードとルーフレッドは幼少からの友人で、いつもかれの妹を含め三人で遊んでいたという。

 一時期、ルーフレッドは遠い町に住んでいたらしいが、その期間を含めれば、十数年来の関係だそうだ。

 騎士は友人の失敗談を面白おかしく話してくれた。旧知の間柄しか知らないことばかり。思わず笑い転げる。知人の裏話は面白いものである。

 どのくらい話しあっただろう、陽が天頂を過ぎた頃、魔法使いが帰宅した。

 友人と弟子が仲良く談笑しているところを見て、複雑な表情を浮かべる。状況をどう判断したら良いのかわからないのかもしれない。

「バーニー、なぜ、うちのダメ弟子と茶を飲んでいる?」

「師匠ひどい。まだダメとは限らないじゃないですか」

「黙れ。おまえのような凡人、才能なんてないに決まっている。それで、どうしてお喋りしているんだ? 家事が忙しいんじゃなかったのか?」

「お客様の相手も大切なお仕事です」
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