4 / 14
第4話 9月19日 その3
しおりを挟む
昼休みの教室での話。
「……ったく、なんだよ」
窓際の自分の席で寝ていると琴音から連絡メールが来た。ちなみにあいつは友達と学食に行って教室にはいない。
「人が気持ちよく寝てるのになんだよ。ま、無視してやるけど」
校内では俺と琴音は他人という“設定”になっている。本当の事を知っているのは担任と数人の教師、あとは彰仁だけだ。なので基本的に行動を共にすることはなく、当然クラスメイトの範疇を超える会話はご法度。故に家の事はすべてメールでやり取りしているのだが――
《やっぱりプリンも食べたい♪》
意味わかんねぇ。プリンもってことはエクレアも食べる気なのか。やっぱ無視して大丈夫な奴――じゃないな。
「続きがあるな。えっと――」
《次の日曜日、バイトないよね? 空けといて》
「空けとけって珍しいな。とりあえず『拒否権は?』っと」
《無いに決まってるでしょ》
「ないのかよ」
《ほら、わたしたちって一緒に暮らし始めて1年になるでしょ?》
『そうだな。つーかその表現やめろ』
《事実だから良いでしょ。それでね、お母さんたちへ記念に何かプレゼントしたいなって》
あぁ、なるほど。そういう事か。要はプレゼントを買いに行くから付き合えと。確かに拒否権は使えないな。
『プレゼントって何か当てがあるのか?』
《ハルくん何かある?》
「やっぱりそうなるのかよ」
思い付いたのは良いが、最後は俺に丸投げするいつものパターンだ。この間も「マカロンが食べたい」と言って、買いに行くのかと思えば俺に「作って」とか言ってきたからな。ま、作れるから良いけど。
《二人ともお酒好きだからワインとか良いかなと思ったけど、未成年じゃ買えないし……何が良いかな?》
前言撤回。それなりに考えたけど決まらないって感じか。なら俺も協力するしかないだろ。けどな?
「親父とおばさん、たしか好みが違うんだよな」
親父は日本酒専門、おばさんはワインなどの果実酒が好みだったはず。琴音がワインをチョイスしたのもおばさんの影響だろうな。
『酒は無理だから、グラスとかそういうのが良いんじゃないか?』
《グラスか! 考えてなかったよ。でも高くないかな?》
『ランク下げたら大丈夫じゃないか? それか肴になる食べ物とか』
《それもアリかも! あ、そろそろ教室戻るから》
「りょーかい。で、結局何にするんだよ」
昼休みもそろそろ終わるし、細かい事は家で話せば良い。それにしても、記念のプレゼントとか良く思いつくよな。
「きっとアレだな。育った環境の違いってやつじゃね?」
「うちはそんなことした事ないからなぁ……いつからいた?」
「ん~『一緒に暮らし始めて1年――』あたりから?」
「アキ、他人のメール盗み見するのは良くねぇぞ」
「良かったな。これってデートに誘われたのと一緒だろ」
「話を逸らすな。それにどう解釈したら“デート”になるんだ」
「そりゃ琴音ちゃんと二人ならデートだろ」
「じゃあ、おまえは姉貴とデートするのか」
「あれ? 琴音ちゃんの事、姉と思ってるのか?」
「……ったく、予鈴なるぞ。さっさと席に行け」
「はいはい。ま、頑張れよ~」
こいつはいったい何を言ってるんだ。姉とデートなんて――
――あいつとならアリなのか
そんな邪な考えを打ち消すようになる予鈴。それとほぼ同時に教室に入ってきた琴音は一人だった。どうやら隣のクラスのやつと居たみたいだが、
(……ん? いま、目合わせてきた?)
家族だし、一応姉貴だし(1日違うだけだけど!)、こんなことで一喜一憂するのはバカだけど、
「嫌われてはないんだよな」
と、思ってしまうのは、きっと午後特有の睡魔に襲われているからだ。
「それでね、考えたんだけどグラスとか記念に残るようなものが良いと思うの」
「そうか。それで良いんじゃね?」
「ちょっと、少しは真面目に考えてよね。あと“お姉ちゃん”だから」
「はいはい」
「もー、絶対分かってないでしょ。良い? 私の方が年上なんだよ」
「一日だけどな」
「何か言った?」
「別に」
「もう! いい加減“お姉ちゃん”って呼んでよ」
「はいはい」
二人での夕食の席。琴音から“お姉ちゃん”と訂正を要求されるのも慣れっこ。スルーして話を続けた。
「グラスとかで良いけどさ、どうするんだ。ネットで調べるか?」
「じゃあ、なんで日曜空けてって言ったと思ってるの?」
「なんでだ?」
「この間ね、ソラプラに新しい雑貨屋さんが出来たのっ」
「それ、ただ行きたいだけだろ」
「と、とにかく! 日曜日は10時に駅前ね」
「は? 待ち合わせするのかよ」
「当たり前でしょ。いつもみたいにわたしが出た後に出る事。良い?」
「はいはい」
「それから――」
「?」
「そっちの方が……な、なんでもないっ」
慌てて誤魔化す琴音だが俺にはしっかり聞こえた。いま「デートみたい」って言ったよな。
「あのさ――」
「だから何でもないって!」
「まだ何も言ってないだろ。チョコ増しエクレア、冷蔵庫に入れてるから勝手に食って良いから」
「買ってきてくれたのっ」
「あ、プリンは無いから」
「えー」
「最初にエクレアが食べたいって言ったの誰だよ」
「そこはプリンも買ってくるとこでしょー」
「今度買ってくるからそれで我慢しろ」
「うぅ~。こうなったらハルくんの分も食べちゃうから」
「好きにしろ。部屋にいるから、食べたら感想聞かせろよ。一応、新作だからな」
「知ってるよ。だから食べたいんだもん」
新作スイーツで一気に機嫌が良くなる“チョロい姉”をダイニングに残して俺は先に部屋へ戻る事にする。いつもなら一緒に食べていたかもしれないが今日はなぜかあいつと距離を取りたかった。
「デートって、何言ってんだよ」
琴音の事だ。そういう意味で使ったとは思えない。けどさ――
「……少しはこっちの気にもなれよ」
「……ったく、なんだよ」
窓際の自分の席で寝ていると琴音から連絡メールが来た。ちなみにあいつは友達と学食に行って教室にはいない。
「人が気持ちよく寝てるのになんだよ。ま、無視してやるけど」
校内では俺と琴音は他人という“設定”になっている。本当の事を知っているのは担任と数人の教師、あとは彰仁だけだ。なので基本的に行動を共にすることはなく、当然クラスメイトの範疇を超える会話はご法度。故に家の事はすべてメールでやり取りしているのだが――
《やっぱりプリンも食べたい♪》
意味わかんねぇ。プリンもってことはエクレアも食べる気なのか。やっぱ無視して大丈夫な奴――じゃないな。
「続きがあるな。えっと――」
《次の日曜日、バイトないよね? 空けといて》
「空けとけって珍しいな。とりあえず『拒否権は?』っと」
《無いに決まってるでしょ》
「ないのかよ」
《ほら、わたしたちって一緒に暮らし始めて1年になるでしょ?》
『そうだな。つーかその表現やめろ』
《事実だから良いでしょ。それでね、お母さんたちへ記念に何かプレゼントしたいなって》
あぁ、なるほど。そういう事か。要はプレゼントを買いに行くから付き合えと。確かに拒否権は使えないな。
『プレゼントって何か当てがあるのか?』
《ハルくん何かある?》
「やっぱりそうなるのかよ」
思い付いたのは良いが、最後は俺に丸投げするいつものパターンだ。この間も「マカロンが食べたい」と言って、買いに行くのかと思えば俺に「作って」とか言ってきたからな。ま、作れるから良いけど。
《二人ともお酒好きだからワインとか良いかなと思ったけど、未成年じゃ買えないし……何が良いかな?》
前言撤回。それなりに考えたけど決まらないって感じか。なら俺も協力するしかないだろ。けどな?
「親父とおばさん、たしか好みが違うんだよな」
親父は日本酒専門、おばさんはワインなどの果実酒が好みだったはず。琴音がワインをチョイスしたのもおばさんの影響だろうな。
『酒は無理だから、グラスとかそういうのが良いんじゃないか?』
《グラスか! 考えてなかったよ。でも高くないかな?》
『ランク下げたら大丈夫じゃないか? それか肴になる食べ物とか』
《それもアリかも! あ、そろそろ教室戻るから》
「りょーかい。で、結局何にするんだよ」
昼休みもそろそろ終わるし、細かい事は家で話せば良い。それにしても、記念のプレゼントとか良く思いつくよな。
「きっとアレだな。育った環境の違いってやつじゃね?」
「うちはそんなことした事ないからなぁ……いつからいた?」
「ん~『一緒に暮らし始めて1年――』あたりから?」
「アキ、他人のメール盗み見するのは良くねぇぞ」
「良かったな。これってデートに誘われたのと一緒だろ」
「話を逸らすな。それにどう解釈したら“デート”になるんだ」
「そりゃ琴音ちゃんと二人ならデートだろ」
「じゃあ、おまえは姉貴とデートするのか」
「あれ? 琴音ちゃんの事、姉と思ってるのか?」
「……ったく、予鈴なるぞ。さっさと席に行け」
「はいはい。ま、頑張れよ~」
こいつはいったい何を言ってるんだ。姉とデートなんて――
――あいつとならアリなのか
そんな邪な考えを打ち消すようになる予鈴。それとほぼ同時に教室に入ってきた琴音は一人だった。どうやら隣のクラスのやつと居たみたいだが、
(……ん? いま、目合わせてきた?)
家族だし、一応姉貴だし(1日違うだけだけど!)、こんなことで一喜一憂するのはバカだけど、
「嫌われてはないんだよな」
と、思ってしまうのは、きっと午後特有の睡魔に襲われているからだ。
「それでね、考えたんだけどグラスとか記念に残るようなものが良いと思うの」
「そうか。それで良いんじゃね?」
「ちょっと、少しは真面目に考えてよね。あと“お姉ちゃん”だから」
「はいはい」
「もー、絶対分かってないでしょ。良い? 私の方が年上なんだよ」
「一日だけどな」
「何か言った?」
「別に」
「もう! いい加減“お姉ちゃん”って呼んでよ」
「はいはい」
二人での夕食の席。琴音から“お姉ちゃん”と訂正を要求されるのも慣れっこ。スルーして話を続けた。
「グラスとかで良いけどさ、どうするんだ。ネットで調べるか?」
「じゃあ、なんで日曜空けてって言ったと思ってるの?」
「なんでだ?」
「この間ね、ソラプラに新しい雑貨屋さんが出来たのっ」
「それ、ただ行きたいだけだろ」
「と、とにかく! 日曜日は10時に駅前ね」
「は? 待ち合わせするのかよ」
「当たり前でしょ。いつもみたいにわたしが出た後に出る事。良い?」
「はいはい」
「それから――」
「?」
「そっちの方が……な、なんでもないっ」
慌てて誤魔化す琴音だが俺にはしっかり聞こえた。いま「デートみたい」って言ったよな。
「あのさ――」
「だから何でもないって!」
「まだ何も言ってないだろ。チョコ増しエクレア、冷蔵庫に入れてるから勝手に食って良いから」
「買ってきてくれたのっ」
「あ、プリンは無いから」
「えー」
「最初にエクレアが食べたいって言ったの誰だよ」
「そこはプリンも買ってくるとこでしょー」
「今度買ってくるからそれで我慢しろ」
「うぅ~。こうなったらハルくんの分も食べちゃうから」
「好きにしろ。部屋にいるから、食べたら感想聞かせろよ。一応、新作だからな」
「知ってるよ。だから食べたいんだもん」
新作スイーツで一気に機嫌が良くなる“チョロい姉”をダイニングに残して俺は先に部屋へ戻る事にする。いつもなら一緒に食べていたかもしれないが今日はなぜかあいつと距離を取りたかった。
「デートって、何言ってんだよ」
琴音の事だ。そういう意味で使ったとは思えない。けどさ――
「……少しはこっちの気にもなれよ」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
【朗報】俺をこっぴどく振った幼馴染がレンカノしてたので2時間15,000円でレンタルしてみました
田中又雄
恋愛
俺には幼稚園の頃からの幼馴染がいた。
しかし、高校進学にあたり、別々の高校に行くことになったため、中学卒業のタイミングで思い切って告白してみた。
だが、返ってきたのは…「はぁ!?誰があんたみたいなのと付き合うのよ!」という酷い言葉だった。
それからは家は近所だったが、それからは一度も話をすることもなく、高校を卒業して、俺たちは同じ大学に行くことになった。
そんなある日、とある噂を聞いた。
どうやら、あいつがレンタル彼女なるものを始めたとか…。
気持ち悪いと思いながらも俺は予約を入れるのであった。
そうして、デート当日。
待ち合わせ場所に着くと、後ろから彼女がやってきた。
「あ、ごめんね!待たせちゃっ…た…よ…ね」と、どんどんと顔が青ざめる。
「…待ってないよ。マイハニー」
「なっ…!?なんであんたが…!ばっかじゃないの!?」
「あんた…?何を言っているんだい?彼女が彼氏にあんたとか言わないよね?」
「頭おかしいんじゃないの…」
そうして、ドン引きする幼馴染と俺は初デートをするのだった。
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる