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第13話 11月8日 その2
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「楽しかったぁ。なんか久しぶりに“遊んだ”って感じがする」
「水族館なんて小学生の遠足以来だけど楽しかったな」
「また来たいね」
「そうだな。また来るか?」
「うんっ。それでね、ハルくん?」
「ん?」
水族館からの帰り道。バス停へ向かう海沿いの遊歩道を並んで歩いていると琴音が不意に俺の腕を掴み立ち止まった。
「どうかしたか?」
「あのね、少し寄り道しない?」
「何処か行きたいとこでもあるのか」
「そんなのじゃないの」
「琴音?」
「家に帰ったら姉弟に戻っちゃうから」
「え?」
「姉弟に戻ったら“ハルくん”って呼べなくなるから。だから――」
「……琴音」
琴音から二人で遊びに行こうと誘われた時から本当は期待していた。今度はちゃんと返事をくれるだろうと。そんな気はしていた。
なのに、なぜか今になって聞きたくないと思う自分もいた。
琴音の答えは分かっている。けれども、もし違っていたら、それこそ元の関係にすら戻れなくなってしまう。そんな事が頭を過ってしまう小心者の俺とは裏腹に琴音は俯きながらも想いを言葉にしてくれた。
「あの時、ハルくんの気持ちが聞けて良かった。わたしと同じだったんだって、それだけで嬉しかった」
「……そっか」
「だから、いまはまだ恋人になれなくても大丈夫って思ったの。でもね、やっぱり無理だよ」
下を向いたまま胸の内を吐露する琴音の声は弱々しく、声色から今にも泣きだしそうだった。
「もう……“お姉ちゃん”はヤダよ」
「…………」
「でもね、このまま“お姉ちゃん”じゃないといけないの」
「――それは絶対なのか」
「絶対だよ。でもハルくんの事は好き。だからどうしたら良いのか分かんなくなるの」
「琴音……」
そっか。あれかずっとこんな風に葛藤してたんだな。
自分の気持ちに正直になりたくて、俺の想いに応えたくて、けどやっぱり理性もあって。いろいろごちゃ混ぜになったんだな。そう思うと辛い思いをさせてしまったなと胸が痛くなる。
俺は罪悪感を紛らわすように琴音を抱きしめ、そっと彼女の髪を撫でた。
「……ごめんね。困らせるようなこと言って」
「謝るなよ。琴音の言ってることは全部正解じゃん」
「……うん。なんでかな。ハルくんにこうやってギュっとして貰うとすごく落ち着く」
「そっか」
「きっとハルくんだから、好きな人だから安心できるんだと思う」
「なら好きなだけしてやるよ」
「ねぇ、ほんとにわたしで良いの?」
「他に誰もいないだろ」
「もう、戻れなくなるよ?」
「戻るつもりなんかねぇよ」
「ほんとに? 後悔しない?」
「琴音、ちょっとこっち見ろ」
「え、な――――っ⁉」
これでほんと戻れなくなったな。心のどこかでそんなことを思いながらも俺は琴音と唇を重ねたままギュっと彼女を抱きしめた。
時間にすれば10秒にも満たない出来事。だが、永遠にも思えた数秒間だった。
「後悔なんてしねぇよ。する訳ねぇだろ」
「……ハルくん」
「琴音――」
「――なんか違った」
「え?」
「ファーストキスってもっとドキドキするものだと思ってたけど、なんか違った。って言うか反則っ!」
「え、えっと……悪い」
「わたしじゃなかったらセクハラだよ。犯罪者だよ!」
「すまん。ちょっと調子乗った……てかそんな空気だっただろ⁉」
「それでもだよっ。少しは雰囲気とか考えてよ!」
「わ、悪かったよ」
「……でもね?」
「なんだよ」
「初めての相手がハルくんで嬉しかったよ。ねぇハルくん?」
「な、なんだよ」
「改めて言わせてください……わたしも貴方が好きですっ」
…………ったく。
反則はそっちだろ。さっきまで顔を真っ赤にして怒っていたのに、いまは満面の笑みを見せている。
「わたしは貴方が好きです。ハルくんの気持ち、聞かせてください」
「あー、うん。今更だけどさ」
「うん」
「俺も琴音の事が好きだ。俺と付き合ってほしい」
「ほんと、今更だね」
「うるせぇ」
「もう。そんな言い方しちゃダメだよ? ねぇ、もう一回してくれる?」
「なにを」
「キス。もう一回して?」
「怒らねぇ?」
「怒らないよ。だから今度はちゃんと、ね?」
「わかったよ。琴音、ちょっと目瞑れ」
「ハルくん、これからもよろしくね」
琴音の言葉に応えるように俺はそっと唇を彼女のそれに重ねた。
「水族館なんて小学生の遠足以来だけど楽しかったな」
「また来たいね」
「そうだな。また来るか?」
「うんっ。それでね、ハルくん?」
「ん?」
水族館からの帰り道。バス停へ向かう海沿いの遊歩道を並んで歩いていると琴音が不意に俺の腕を掴み立ち止まった。
「どうかしたか?」
「あのね、少し寄り道しない?」
「何処か行きたいとこでもあるのか」
「そんなのじゃないの」
「琴音?」
「家に帰ったら姉弟に戻っちゃうから」
「え?」
「姉弟に戻ったら“ハルくん”って呼べなくなるから。だから――」
「……琴音」
琴音から二人で遊びに行こうと誘われた時から本当は期待していた。今度はちゃんと返事をくれるだろうと。そんな気はしていた。
なのに、なぜか今になって聞きたくないと思う自分もいた。
琴音の答えは分かっている。けれども、もし違っていたら、それこそ元の関係にすら戻れなくなってしまう。そんな事が頭を過ってしまう小心者の俺とは裏腹に琴音は俯きながらも想いを言葉にしてくれた。
「あの時、ハルくんの気持ちが聞けて良かった。わたしと同じだったんだって、それだけで嬉しかった」
「……そっか」
「だから、いまはまだ恋人になれなくても大丈夫って思ったの。でもね、やっぱり無理だよ」
下を向いたまま胸の内を吐露する琴音の声は弱々しく、声色から今にも泣きだしそうだった。
「もう……“お姉ちゃん”はヤダよ」
「…………」
「でもね、このまま“お姉ちゃん”じゃないといけないの」
「――それは絶対なのか」
「絶対だよ。でもハルくんの事は好き。だからどうしたら良いのか分かんなくなるの」
「琴音……」
そっか。あれかずっとこんな風に葛藤してたんだな。
自分の気持ちに正直になりたくて、俺の想いに応えたくて、けどやっぱり理性もあって。いろいろごちゃ混ぜになったんだな。そう思うと辛い思いをさせてしまったなと胸が痛くなる。
俺は罪悪感を紛らわすように琴音を抱きしめ、そっと彼女の髪を撫でた。
「……ごめんね。困らせるようなこと言って」
「謝るなよ。琴音の言ってることは全部正解じゃん」
「……うん。なんでかな。ハルくんにこうやってギュっとして貰うとすごく落ち着く」
「そっか」
「きっとハルくんだから、好きな人だから安心できるんだと思う」
「なら好きなだけしてやるよ」
「ねぇ、ほんとにわたしで良いの?」
「他に誰もいないだろ」
「もう、戻れなくなるよ?」
「戻るつもりなんかねぇよ」
「ほんとに? 後悔しない?」
「琴音、ちょっとこっち見ろ」
「え、な――――っ⁉」
これでほんと戻れなくなったな。心のどこかでそんなことを思いながらも俺は琴音と唇を重ねたままギュっと彼女を抱きしめた。
時間にすれば10秒にも満たない出来事。だが、永遠にも思えた数秒間だった。
「後悔なんてしねぇよ。する訳ねぇだろ」
「……ハルくん」
「琴音――」
「――なんか違った」
「え?」
「ファーストキスってもっとドキドキするものだと思ってたけど、なんか違った。って言うか反則っ!」
「え、えっと……悪い」
「わたしじゃなかったらセクハラだよ。犯罪者だよ!」
「すまん。ちょっと調子乗った……てかそんな空気だっただろ⁉」
「それでもだよっ。少しは雰囲気とか考えてよ!」
「わ、悪かったよ」
「……でもね?」
「なんだよ」
「初めての相手がハルくんで嬉しかったよ。ねぇハルくん?」
「な、なんだよ」
「改めて言わせてください……わたしも貴方が好きですっ」
…………ったく。
反則はそっちだろ。さっきまで顔を真っ赤にして怒っていたのに、いまは満面の笑みを見せている。
「わたしは貴方が好きです。ハルくんの気持ち、聞かせてください」
「あー、うん。今更だけどさ」
「うん」
「俺も琴音の事が好きだ。俺と付き合ってほしい」
「ほんと、今更だね」
「うるせぇ」
「もう。そんな言い方しちゃダメだよ? ねぇ、もう一回してくれる?」
「なにを」
「キス。もう一回して?」
「怒らねぇ?」
「怒らないよ。だから今度はちゃんと、ね?」
「わかったよ。琴音、ちょっと目瞑れ」
「ハルくん、これからもよろしくね」
琴音の言葉に応えるように俺はそっと唇を彼女のそれに重ねた。
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