日英同盟不滅なり

竹本田重朗

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第16話 歩兵戦車頑強なり

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 ハルハ川にて大規模な戦車戦が勃発した。



 ソ連軍はT-26が対戦車砲により各個撃破されて大損害を出したことを学習する。T-26は化学戦車を除いて下げるとBT-5とBT-7の快速戦車を投入した。45mm戦車砲を装備した高速戦車である。一気に防御線を突破して満州まで雪崩込もうと画策した。日英軍は航空偵察から察知するや否や戦車隊を防壁に配置している。



 ここにハルハ川戦車戦が幕を開けた。



「弾種徹甲! まだ遠い!」



「この距離ならやれます!」



「黙れ! あの速さでは当てられない! 必中距離で確実に仕留める! 統制射撃だ!」



 BT-5とBT-7は小型で軽量に大馬力エンジンの組み合わせを以て最高時速50キロの健脚を発揮した。平原においては脚の速さが戦車の威力に直結する。敵軍の態勢が整わぬ間に突破して内側から切り崩した。それに45mm砲の威力は脅威以外の何ものでない。ソ連製45mm砲は37mm砲が主流の中では高威力を誇った。八九式中戦車と九五式軽戦車はアウトレンジから撃破されかねない。



「歩兵戦車による鶴翼の陣形を侮るなよ」



「装填完了!」



「まだだ。まだ撃たない」



「敵弾が来ますよ」



「大丈夫だ。ハルダウン戦術と歩兵戦車なら耐えられる」



「平べったいですからね」



「それ関係あるか?」



 日英軍は戦車を用いた防御線を敷いていた。機動的な防御線で柔軟に対応できる。しかし、前述の通り、旧式化の著しい中戦車と軽戦車は容易く突破された。ここでイギリス陸軍から供与された歩兵戦車の出番である。昔から付き合いのあるヴィッカース社の私案を拾った。イギリス陸軍仕様と別個に開発してもらう。九五式軽戦車の2倍近い重量だが主力中戦車と変わらなかった。



 歩兵戦車は文字通りの歩兵の盾となる。歩兵が付いていける速度があればよいのだ。敵陣からの銃撃と砲撃を受け止める防御に大半を割く。その結果として最高時速20キロの鈍足だ。機動戦は巡航戦車に委ねているため特に気にならない。むしろ、足回りへの負担が少なかった。さらに、民生品を入れ込むことで信頼性に優れる。価格も安上がりで助かった。



「バレンタインねぇ。チョコじゃなくて徹甲弾をくれてやる」



「距離はおよそ500まで!」



「砲撃開始!」



「うてぇ!」



 イギリス陸軍の歩兵戦車と言えばマチルダⅡであるが、今日だけはバレンタインが並んでいる。簡易的な盛り土に車体を隠して砲塔だけを見せた。いわゆる、ハルダウン戦術という。砲塔だけを出して車体を障害物に隠すことで被弾面積を減らして間接的な防御力を高めた。バレンタインにピッタリである。



 バレンタイン日本陸軍仕様は当初から57mm砲の運用を想定した。後にイギリス陸軍において逆輸入される。砲塔は大型化したが車長・砲手・装填手の3名運用により指揮は円滑化した。砲塔の正面装甲は60mmという分厚さを有する。45mm砲の徹甲弾を真正面に受けても砕いて無力化できた。敵弾を無力化しつつ57mmの徹甲弾を吐き出す。



「絶対に動くな! ここで受け止める! 敵が逃げても追うな!」



「じれったいです。何をすれば」



「相田が疲れたら交代してやってくれ。それまで待機」



「仕事がないのも…」



 これも移動式のトーチカだ。その重装甲を押し立て突撃を受け止めつつ、その主砲から炎を噴いて攻勢を挫き、ソビエト連邦の悪逆非道に正義の裁きを下す。45mm砲よりも一回り大きな57mm砲の徹甲弾はBT快速戦車の装甲をいとも簡単に切り裂いた。BT軽戦車は快速の代償に防御力を支払っている。57mm砲はおろか37mm砲や20mm機関砲に破られる程だ。それを補う機動力と火力だろうが、バレンタインには通用せず、迂回しようにも伏兵が潜んでいる。



「俺たちの間を縫おうたって甘いぜ」



「うおっ!」



「大丈夫か!」



「すいません。目の前に落ちたもんですからビックリしました」



「無事ならいい。仮に食らっても大丈夫だと思うが」



 砲手が反射的に仰け反るも至近弾に驚いたようだ。彼我の距離は500mと見積もられた。この時代としては一般的な交戦距離である。戦車戦がキロメートル単位になるのはもう少し先のことだ。500mであれば互いに必中距離である。現に57mm徹甲弾を次々と命中させてBT-5とBT-7は擱座が相次いでいた。一部はエンジンの燃料に引火して大炎上を見せる。敵兵が炎に包まれて息絶える様子を見せられた。



 敵戦車も負けじと撃ち込んでくる。戦車の大部隊らしく数で押してきた。45mm徹甲弾は手前か後方に飛んでいる。ハルダウン戦術が効力を発揮した。バレンタインの砲塔は大型化したと言うが小型に該当する。その分だけ窮屈で居住性に欠けて不評が聞かれた。今度の歩兵戦車は砲塔を大型化して改善が求められる。A22試製歩兵戦車に反映を予定した。



「食らったみたいだが…」



「エンジン関係は何ともありません。当たり前ですが」



「主砲異常無し。ただ、機銃がやられました」



「同軸機銃の弱点だな。まぁ、どうにかなる」



「埋込式迫撃砲もありますし」



「まぁ、こうして受け止めていると…」



「騎兵隊です!」



「違う、違う。巡航戦車隊だろうが」



 被弾しないとは一言も言っていない。ソ連兵でも下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるだった。しかし、45mm徹甲弾は60mmの装甲の前に砕かれている。イギリスの装甲技術は洗練された。日本の装甲技術を底上げて数値以上の防御力を叩き出す。ただし、同軸機銃である7.7mm機銃を破壊された。歩兵掃討が難しくなるが謎に砲塔に40mm迫撃砲を装備している。



 これ以上は損害を増すばかりと判断したのか踵を返して迂回を試みた。快速戦車らしい動きである。BT快速戦車のクリスティー式サスペンションはイギリス生まれだ。イギリス生まれの足回りを有する快速戦車がイギリス生まれで日本育ちの歩兵戦車と戦う。何とも歴史とはわからないものだった。



 それはさておき、敵戦車の迂回して突破を許すはずがない。バレンタイン隊に隠れていた巡航戦車隊が姿を現した。巡航戦車は敵軍を側面から奇襲したり、背後を断って包囲殲滅したり、快速を活かした機動戦が込められている。BT快速戦車と似ていたがバランスの良さで勝った。これも日本陸軍仕様であるがMk-4巡航戦車を素体にする。エンジンを国産のガソリンエンジンに変えた。それ以外は小幅な変更に収まる。



「ここで仕留める! エンジンが焼けるまで走るぞ!」



「だいぶ食われてしまいましたが、残飯を処理していきましょう」



「全車へ被弾に気を付けろ。こいつの装甲は脆い。機動力でかき回す! あえて混戦に持ち込む!」



「味方に撃たれちゃ堪りませんが」



「BTと似てはいない。ちゃんと狙ってくれる。彼らは止まっているんだ。一方で俺たちは動き回り続けて翻弄する。これぞ分業制だな」



 BT快速戦車には負けるが最高時速48キロを発揮した。ハルハ川沿いの平原ではフルパワーである。イギリス陸軍仕様のカヴェナンターは灼熱地獄で知られた。これと同時並行のクルセイダーは故障で泣かせてきた。日本陸軍仕様は川崎重工業の航空機用液冷ガソリンエンジンを車載用に変えてデチューンした上である。車高はバレンタインよりも高く防御力は低い方だが機動力の高さで補った。歩兵戦車と巡航戦車に分けることは意外と理にかなっている。



「弾を惜しむな。40mmは腐るほどある!」



「軽いから幾らでも入りますぜ」



「2ポンドは幾らだ」



「わかりません」



「まぁ、いい。ここで押し戻すぞ!」



 ハルハ川戦車戦は日本軍有利に推移した。



続く
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