日英同盟不滅なり

竹本田重朗

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第20話 日本海軍カンタベリー航空隊

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=イギリス・カンタベリー=



 カンタベリー大聖堂という歴史的建造物のはるか上空を銀翼が通過していった。イギリスの歴史を守るために徴兵や配給など戦時体制が組まれている。まさに厳戒態勢という中で異色の日の丸が飛んでいた。



「最新の零戦だからな。大事に飛ばせよ」



「あ、あ、ああ」



「聞こえとるぞ。無線機に気をつけろ」



「すいません。慣れてなくて」



「九六式じゃなかったからな。仕方ないとしよう」



 日本海軍の基地航空隊はついにイギリス本国に展開を開始する。イギリスがナチス・ドイツのポーランド侵攻に合わせて交戦状態に突入したことを受けて派遣が決まった。実際はおいておくが奇しくもである。前大戦と同様に日英同盟に基づいて大日本帝国はナチス・ドイツと交戦状態に突入した。これにより大手を振って軍隊を派遣できる。



 もちろん、イギリス政府と交渉は必須だ。チャーチル卿の海軍大臣就任から風向きは明確に変わる。追い風が暴風が如く流れた。背中をグイグイと押されて遂に基地航空隊の進出が決まる。イギリス空軍を信頼していないのかと怒りの声が聞かれた。しかし、海軍の航空隊のため「空軍が怒る理由にならない」と上手く返す。イギリス海軍は自前の航空隊は日本ほどに持たなかった。むしろ、空母艦載機を逆輸入して戦術の研究と兵員の育成に努める。



 まずは国際的な要衝であるドーバー海峡を警戒した。カンタベリーの郊外部に基地を構える。Uボートの出現に備えて陸攻隊が哨戒機を兼ねた。その護衛という名目が戦闘機隊に与えられる。もっとも、大半は単独の運用が占めていた。ドイツ機の侵入は主力のメッサーシュミットの航続距離から不可能である。とはいえ、爆撃機が正々堂々と来るかもしれずと警戒した。今のうちに目印となる建物の目星を付けて航法を熟成する。



「ハリケーンがなんだ。スピットファイアがなんだ。俺たちは零銭だ」



「英語で言いますと?」



「ゼロファイターだ。サイダーの名前にもなっている」



「嬉しい事ですね。よけいに美味いです」



「サンドイッチとサイダーに勝るものなし」



 ドーバー海峡にむけて編隊飛行を行った。それは日本海軍の最新鋭機である。零式艦上戦闘機一一型だった。つい先日に採用されたばかりの先行量産型の一一型12機が配備される。これ以降の正規量産型は区別するために一一型甲と呼称された。さらに、着艦フックなどを追加した艦載機仕様と分けられる。日本海軍は明確に区別しているが、イギリス軍は一貫して「ゼロファイター」と括った。



 イギリス空軍が義勇兵にハリケーンやスピットファイアを派遣している。その恩返しと意気込んだ。満蒙国境線の軍事衝突において多大な貢献を果たしている。これからも果たしてくれるはずだ。我々が恩を返さずしてどうするのか。ドイツに兵なしと戦う気概を誇った。



「金星は良い調子だ。陸軍の軽戦闘機や重戦闘機にも負けん」



「うちも局戦を作ってるとか?」



「あぁ、三菱さんだから信頼できるが、俺は乗りたくない。零戦が良い」



「無駄話は要らんぞ。いつ爆撃機が飛んでくるかわからん」



「失礼いたしました」



 零戦は九六式艦上戦闘機の後継機と開発される。三菱の堀越二郎技師はフェアリー社と連携した。ハリケーンやスピットファイアを凌駕するように努力を重ねる。したがって、誰もが知る零戦とは少し異なることを神の視点から記しておいた。



 エンジンは自社の金星四六型を採用する。三菱の基本たる傑作エンジンであるが出力増強を続けた。過給機は一段二速に変えて高高度性能を高める。これにより最大1300馬力を発揮できた。三菱の基礎たる手堅い設計のおかげで信頼性は損なわない。しかし、これ以上の増強は難しいと考えられた。新たに空冷18気筒の開発を始めている。陸軍機担当の中島航空機に負けてはならんと発破をかけた。



 主翼は超々ジュラルミンを採用して強度維持と軽量化を実現している。当初は一般的な円形を採用する予定がスピットファイアの楕円形に衝撃を受けた。主翼設計の見直しが行われる。まさかの「翼端の切り落とし」が提案された。実験的に50cm程度を切ったところ、運動性は低下したが、速度向上と急降下耐性向上、ロール性能向上など悪くない。何よりも円形と比べて生産工程を減らすことができた。これらから角形の主翼が採用となる。フェアリー社が委託する際に条件にしたと聞かれたが真偽は不明だ。



 武装は機首7.7mm機銃2門と主翼12.7mm機銃4門になる。現場の声では「12.7mmが妥当である」と聞かれた。ブローニングM2の国産型を搭載すると同時に「7.7mm機銃が使い勝手に優れる」という声もある。したがって、どちらも積んでしまおうと計6門に膨れ上がった。機体の重量増加を招いたが航続距離はそこまで重視されていない。20mm機銃を装備する計画もあったが重戦闘機(局地戦闘機)と差別化するために見送られた。



 こうして、イギリスのスピットファイア、ドイツのメッサーシュミット、日本海軍の零式艦上戦闘機と並列である。日本の航空機が世界に追いついた瞬間だ。しかし、満足することなく、かつ適材適所を理解しており、今後も多種多様な航空機を送り出す。



「あれがレーダー基地ってやつか…」



「仕事が楽になるらしいです。スカがなくなるだけでもありがたいですよ」



「そしたら、迎撃戦の効率化が進み過ぎて空中弁当の時間が消える」



「あ、それは嫌だな」



「空で食べる弁当は至高さ」



「サンドイッチ、サイダー、チョコレートだ」



 ドーバー海峡に向けて飛行していると眼下にレーダー基地が広がった。ドイツ軍の侵入に備えて電子兵器の拡充に鋭意と努める。特にレーダーは注力した。日本の八木博士と宇田博士、帝国立東北大学がイギリスの技術者と協力している。軍事に使えそうな研究は保護する代わりに門外不出とする制度が敷かれた。その上で日英間で自由に使える協定が結ばれる。かくして、日英の技術が詰まった長距離と中距離、短距離の対空レーダーが沿岸部を中心に設けられた。その精度には未だ不安が残れど航空管制と組み合わせて迎撃戦の効率化に期待できる。



 ドイツの化学力と技術力は世界一と言った。日本の底力を舐めてもらっては困ると言わんばかり。零戦もレーダーも負けなかった。どこに戦う前から敗北を訴える軟弱者にして敗北主義者がいる。銀翼を連ねてドーバー海峡の哨戒飛行で見せつけた。メッサーシュミットなんぞ敵にあらず。ドルニエでもフォッケウルフでも、なんだっていいぞと誇りを抱き、新型機を受領して士気は最大に高まった。



「さすがに民間船は動いてないと思うが…」



「民間船どころじゃないですよ。バケモンが動いてます」



「バケモン?」



「まぁ、下りてみればわかります。エスコートしましょう。日本男児も紳士らしく」



 視力に優れる者が面白いものを見つけたようで緩やかに降下していく。無線機のおかげでコミュニケーションは円滑に行えた。エンジンの強化で重荷でない。背負い式落下傘も標準的な装備となった。日英同盟による様々な恩恵を知らず知らずのうちに受けられる。それはさておき、ゆっくりと高度を落とせば友軍の艦隊が航行した。Uボート対策に対戦警戒の陣形を組んでいる。いつみても軍艦とは美しいものだ。しかし、例外と言う例外が中央部で悠々と航行して操縦が狂うほどに驚いてしまう。



「な、なんだ! ありゃあ!」



「噂には聞いていたが…」



「本当にあったのかよ…」



「あれが双胴空母…翔鶴と瑞鶴か!」



続く
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