一番近くに。

沈丁花

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ss2「サンタさんの正体は」

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※主人公意識不明のためウィリアムsideでお送りします

「テオ、大丈夫か?」

傷の舐め合いで共にイブのディナーの約束をしたからと、ロナルドの会社へ彼を迎えにいった。そこで裏から鈍い音がしたから、何だろうと思って音の方へと向かった。

その場でウィリアムの目に入ってきたのは、悲惨な光景だった。

以前は想いを寄せていた友人が、真っ青で、この雪の中長袖のシャツ一枚の、状態で倒れている。肩を揺すっても反応はない。

「なにかあった?

…って、テオ!?」

あの音は彼のところにも響いたのだろう。ロナルドもその惨状を見るなり、血相を変えて駆け寄ってきた。

このままでは体温を奪うだけだからと、びしょ濡れの上を脱がせ、代わりに自らのコートを羽織らせる。迷いのない行動だ。

「ウィリアム、何があったかわかる?」

「いや、私もあの音を聞いてからここにきた。」

「呼吸はあるから、多分寝てるだけだ。でも、熱がある。どうするべきだと思う?」

ロナルドは少し混乱しているのか、少し早口になっている。彼は昔からそうだ、と、ウィリアムは少し懐かしく思った。

慌てるとすぐに人に判断を委ねる癖がある。その相手は、信頼を置いている相手だけだに限るのだが。

「医者を呼んでもいいが…

これは、あの人に任せたほうがよさそうだな。交代であそこまで運ぼう。」

「俺もそう思う。」

あのテオがアシュリーといいずいぶんと慕っている美人は、かわいいテオが帰ってこなかったらおそらく混乱するだろう。それはテオも望まない。

そして、彼がどんな仕事をしているかわからないが、ウィリアムとロナルドが彼の存在を知ってからテオはよく、忙しい彼に心配をかけたくないと漏らしていた。

テオを交互に背負い、駅まで行くと、混雑した汽車に乗り込む。席の交渉にさほど時間はかからなかった。

「…ある意味、テオとのクリスマスデートが実現したね。ある意味。」

皮肉交じりにロナルドが言う。彼の声音には明らかに怒りが混じっていた。

「そうだな。」

高い料金を払い譲ってもらった席に横たわるテオを見て、ロナルドの手は固く握られていた。

何か、思い当たる節があるのだろう。普段隠していても、幼い頃から親同士の関係でロナルドと接点があったから、ウィリアムにはそれが悔しがっているのだとわかる。

「何か思い当たる節があったのか?話してくれたら、できることは協力しよう。」

あやすように、言ってやる。

「…俺が、パーティーに参加しろなんて言ったから…っ!!」

無理やり絞り出したような、悲痛な声で語られる言葉は、聞いているウィリアムまで辛くなるレベルだった。

「パーティーというのは、クリスマスイブ直前にやる、打ち上げのことかい??」

それでも、冷静に聞いてやる。

「…ああ。過去にもあれで、俺が気にかけていた女性が同じような被害を受けたことがあるんだ。

あの時は、閉じ込められたのがトイレくらいだったから、よかったけど。」

「これはもう、殺人のレベルだな。もちろん、処分は重くするのだろう?」

「ああ…。でも、どう特定するかだ。」

「それについては、私も一緒に考えよう。」

それからは、無言の時間が過ぎていった。小柄とはいえ、男1人分。列車が駅に着くと、交互に背負いながら、茶番のようにやけに賑やかな道を歩いていく。

「どう?」

テオを背負ったロナルドを置いて階段を上り、ベルを鳴らしても、ドアを強く叩いても、人のいる気配はない。

「…いない。」

「じゃあもう、一階の住人に預けよう。」

「いやしかし… 」

「流石に同じ建物に住んでたら何か分かるだろ。」

止める間もなくロナルドがだんだんと叩く。

「…はい?」

ドアを開けると、薬品の匂いが一気に鼻をつく。

出てきた白衣を着た若い黒い瞳の青年は、忙しいのか少し機嫌が悪そうにこちらを見る。

しかし、ロナルドの後ろに背負われているテオをみた途端に顔色を変えた。

「テオ!?
…ああよかった、意識はあるな。

事情は後で聞きます。適当にかけててください。」

早口にそういうと、その青年はテオを抱き、数ある部屋の一室に入っていった。どうやら病院らしい雰囲気だ。

「とりあえず、間違ってなかったみたい…?」

「ああ、そのようだな。」

一安心したロナルドとウィリアムは、そのまま看護師に案内され、誰も使っていない病室に通される。そしてベッドに倒れこむようにして眠りに落ちたのだった。

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