朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花

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送葬のコンサート②(静留side)

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静まりかえったホールの中に、音を作ることができるのは静留だけ。

だからこそ、一音一音をいつも以上に丁寧に奏でようと思う。

ここにいる全ての人々が、静留と音楽を共有するために足を運んでくれている。コンサート会場の雰囲気が、静留は好きだ。

余韻が消えた後ぽつぽつとまばらな拍手が聞こえてきてそれがやがて盛大になる瞬間も、静留が再び鍵盤に手を置くと鮮やかな歓声がしんと鎮まりできる静けさも、とても心地がいい。

鍵盤に手をかけ、曲を弾き始める。

__そういえば、これ、西くんが初めて聴かせてくれた曲…。

1曲目を弾く中で、ふと、静留の脳内に西弥と出会ったあの日の思い出が再生された。

__あの日は、暑くて。

目を閉じれば、あの日のことがつい先ほどのように鮮明に思い出される。

たしか、6歳の時だった。




マンションのドアの前で体育座りをして、静留は母と男の人が出てくるのを2時間以上待っていた。

ちょうど日差しが照りつける時間帯で、ずっとこの場所で待っていると後で湿疹が出てしまうのだが、生憎静留には一緒に遊んでくれる友達もいなければ、どこか店に入るお金もない。

いつもなら周囲から聞こえる音を楽しんでいくらでも1人で過ごせるのだが、それにしても今日は暑すぎて。

顎から汗滴がポトリと落ちる。

__あつい。でも、入ったらおこられる…。

こつこつ、と足音が近づいてくる。母のものだろうか、と一瞬錯覚しかけたが、違う。これは外から聞こえてくる音だ。

なら、静留を助けてはくれない。

意識が朦朧としてきて、もう寝てしまおうかと体育座りの膝の間に火照った体を埋めていると、突然とん、と肩がたたかれた。

「おうち、入らないの?」

続いて声が聞こえてくる。

見上げると、優しそうな青年が心配そうにこちらをのぞいていた。

「はいれないの…。おかあさん、おとこのひとといるから。」

あまりにもかすれていた自分の声に驚きながら、静留は彼に家に入ることができない理由を語る。

彼は頷きながら真剣に静留のはなしを聞き、聞き終えると、真っ赤になった静留の腕を取り優しく微笑んだ。

「そう。そんなところにいたら倒れてしまうから、一度うちに入りなさい。」

彼は隣の部屋のドアを開け、静留にも入るように促す。

__おとなりさんなんだ。

「はいこれ。」

「あ、…ありがとう、ございます。」

涼しい部屋で、彼は冷蔵庫から缶のジュースを取り出し、プルタブを開けて静留に差し出してくれた。

一口含むと冷えた液体が乾いた身体に染みて、そのまま一気に飲み干してしまう。

飲み干したあとに部屋を見渡すと、リビングの中央に大きなピアノが一台置いてあった。

学校で見る古いものとは違い宝石のように輝いていて、その美しい黒に、静留の目は釘付けになる。

同時に、“ここから奏でられた音はどんな風に響くんだろう”、ということがとても気になって。

「弾きたい?」

青年に尋ねられ、静留は首を横に振る。弾きたいんじゃなくて…

「ききたい。」

静留が言うと、彼はこちらを見て目を丸くしたあと優しく頷いて、何も言わずに鍵盤に手をかけた。

そうして彼が奏でた音色は静留が今まで聞いた音の中で1番キラキラと輝いていて、静留はいつまでもいつまでも、その余韻に浸ったのだった。





__それから、西くんの家に行って、ピアノを教えてもらうようになって…。

コンサートでは大抵曲の情景を思い浮かべるのに、今日の静留は変だ。

何故か2曲目を弾いても、3曲目を弾いても、それぞれに特定の西弥との思い出がついてくる。

__どうしてだろう…。

ふわふわとした疑問を抱えながら、静留は西弥との優しい日々を奏でた。

そして、8曲目。

順番に思い出が引き起こされたからこそ、最後の曲を弾き始めた時、静留はなぜ自分がこの曲を聴いたことがあったのかを思い出した。
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