9 / 92
送葬のコンサート②(静留side)
しおりを挟む
静まりかえったホールの中に、音を作ることができるのは静留だけ。
だからこそ、一音一音をいつも以上に丁寧に奏でようと思う。
ここにいる全ての人々が、静留と音楽を共有するために足を運んでくれている。コンサート会場の雰囲気が、静留は好きだ。
余韻が消えた後ぽつぽつとまばらな拍手が聞こえてきてそれがやがて盛大になる瞬間も、静留が再び鍵盤に手を置くと鮮やかな歓声がしんと鎮まりできる静けさも、とても心地がいい。
鍵盤に手をかけ、曲を弾き始める。
__そういえば、これ、西くんが初めて聴かせてくれた曲…。
1曲目を弾く中で、ふと、静留の脳内に西弥と出会ったあの日の思い出が再生された。
__あの日は、暑くて。
目を閉じれば、あの日のことがつい先ほどのように鮮明に思い出される。
たしか、6歳の時だった。
マンションのドアの前で体育座りをして、静留は母と男の人が出てくるのを2時間以上待っていた。
ちょうど日差しが照りつける時間帯で、ずっとこの場所で待っていると後で湿疹が出てしまうのだが、生憎静留には一緒に遊んでくれる友達もいなければ、どこか店に入るお金もない。
いつもなら周囲から聞こえる音を楽しんでいくらでも1人で過ごせるのだが、それにしても今日は暑すぎて。
顎から汗滴がポトリと落ちる。
__あつい。でも、入ったらおこられる…。
こつこつ、と足音が近づいてくる。母のものだろうか、と一瞬錯覚しかけたが、違う。これは外から聞こえてくる音だ。
なら、静留を助けてはくれない。
意識が朦朧としてきて、もう寝てしまおうかと体育座りの膝の間に火照った体を埋めていると、突然とん、と肩がたたかれた。
「おうち、入らないの?」
続いて声が聞こえてくる。
見上げると、優しそうな青年が心配そうにこちらをのぞいていた。
「はいれないの…。おかあさん、おとこのひとといるから。」
あまりにもかすれていた自分の声に驚きながら、静留は彼に家に入ることができない理由を語る。
彼は頷きながら真剣に静留のはなしを聞き、聞き終えると、真っ赤になった静留の腕を取り優しく微笑んだ。
「そう。そんなところにいたら倒れてしまうから、一度うちに入りなさい。」
彼は隣の部屋のドアを開け、静留にも入るように促す。
__おとなりさんなんだ。
「はいこれ。」
「あ、…ありがとう、ございます。」
涼しい部屋で、彼は冷蔵庫から缶のジュースを取り出し、プルタブを開けて静留に差し出してくれた。
一口含むと冷えた液体が乾いた身体に染みて、そのまま一気に飲み干してしまう。
飲み干したあとに部屋を見渡すと、リビングの中央に大きなピアノが一台置いてあった。
学校で見る古いものとは違い宝石のように輝いていて、その美しい黒に、静留の目は釘付けになる。
同時に、“ここから奏でられた音はどんな風に響くんだろう”、ということがとても気になって。
「弾きたい?」
青年に尋ねられ、静留は首を横に振る。弾きたいんじゃなくて…
「ききたい。」
静留が言うと、彼はこちらを見て目を丸くしたあと優しく頷いて、何も言わずに鍵盤に手をかけた。
そうして彼が奏でた音色は静留が今まで聞いた音の中で1番キラキラと輝いていて、静留はいつまでもいつまでも、その余韻に浸ったのだった。
__それから、西くんの家に行って、ピアノを教えてもらうようになって…。
コンサートでは大抵曲の情景を思い浮かべるのに、今日の静留は変だ。
何故か2曲目を弾いても、3曲目を弾いても、それぞれに特定の西弥との思い出がついてくる。
__どうしてだろう…。
ふわふわとした疑問を抱えながら、静留は西弥との優しい日々を奏でた。
そして、8曲目。
順番に思い出が引き起こされたからこそ、最後の曲を弾き始めた時、静留はなぜ自分がこの曲を聴いたことがあったのかを思い出した。
だからこそ、一音一音をいつも以上に丁寧に奏でようと思う。
ここにいる全ての人々が、静留と音楽を共有するために足を運んでくれている。コンサート会場の雰囲気が、静留は好きだ。
余韻が消えた後ぽつぽつとまばらな拍手が聞こえてきてそれがやがて盛大になる瞬間も、静留が再び鍵盤に手を置くと鮮やかな歓声がしんと鎮まりできる静けさも、とても心地がいい。
鍵盤に手をかけ、曲を弾き始める。
__そういえば、これ、西くんが初めて聴かせてくれた曲…。
1曲目を弾く中で、ふと、静留の脳内に西弥と出会ったあの日の思い出が再生された。
__あの日は、暑くて。
目を閉じれば、あの日のことがつい先ほどのように鮮明に思い出される。
たしか、6歳の時だった。
マンションのドアの前で体育座りをして、静留は母と男の人が出てくるのを2時間以上待っていた。
ちょうど日差しが照りつける時間帯で、ずっとこの場所で待っていると後で湿疹が出てしまうのだが、生憎静留には一緒に遊んでくれる友達もいなければ、どこか店に入るお金もない。
いつもなら周囲から聞こえる音を楽しんでいくらでも1人で過ごせるのだが、それにしても今日は暑すぎて。
顎から汗滴がポトリと落ちる。
__あつい。でも、入ったらおこられる…。
こつこつ、と足音が近づいてくる。母のものだろうか、と一瞬錯覚しかけたが、違う。これは外から聞こえてくる音だ。
なら、静留を助けてはくれない。
意識が朦朧としてきて、もう寝てしまおうかと体育座りの膝の間に火照った体を埋めていると、突然とん、と肩がたたかれた。
「おうち、入らないの?」
続いて声が聞こえてくる。
見上げると、優しそうな青年が心配そうにこちらをのぞいていた。
「はいれないの…。おかあさん、おとこのひとといるから。」
あまりにもかすれていた自分の声に驚きながら、静留は彼に家に入ることができない理由を語る。
彼は頷きながら真剣に静留のはなしを聞き、聞き終えると、真っ赤になった静留の腕を取り優しく微笑んだ。
「そう。そんなところにいたら倒れてしまうから、一度うちに入りなさい。」
彼は隣の部屋のドアを開け、静留にも入るように促す。
__おとなりさんなんだ。
「はいこれ。」
「あ、…ありがとう、ございます。」
涼しい部屋で、彼は冷蔵庫から缶のジュースを取り出し、プルタブを開けて静留に差し出してくれた。
一口含むと冷えた液体が乾いた身体に染みて、そのまま一気に飲み干してしまう。
飲み干したあとに部屋を見渡すと、リビングの中央に大きなピアノが一台置いてあった。
学校で見る古いものとは違い宝石のように輝いていて、その美しい黒に、静留の目は釘付けになる。
同時に、“ここから奏でられた音はどんな風に響くんだろう”、ということがとても気になって。
「弾きたい?」
青年に尋ねられ、静留は首を横に振る。弾きたいんじゃなくて…
「ききたい。」
静留が言うと、彼はこちらを見て目を丸くしたあと優しく頷いて、何も言わずに鍵盤に手をかけた。
そうして彼が奏でた音色は静留が今まで聞いた音の中で1番キラキラと輝いていて、静留はいつまでもいつまでも、その余韻に浸ったのだった。
__それから、西くんの家に行って、ピアノを教えてもらうようになって…。
コンサートでは大抵曲の情景を思い浮かべるのに、今日の静留は変だ。
何故か2曲目を弾いても、3曲目を弾いても、それぞれに特定の西弥との思い出がついてくる。
__どうしてだろう…。
ふわふわとした疑問を抱えながら、静留は西弥との優しい日々を奏でた。
そして、8曲目。
順番に思い出が引き起こされたからこそ、最後の曲を弾き始めた時、静留はなぜ自分がこの曲を聴いたことがあったのかを思い出した。
1
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
世界で一番優しいKNEELをあなたに
珈琲きの子
BL
グレアの圧力の中セーフワードも使えない状態で体を弄ばれる。初めてパートナー契約したDomから卑劣な洗礼を受け、ダイナミクス恐怖症になったSubの一希は、自分のダイナミクスを隠し、Usualとして生きていた。
Usualとして恋をして、Usualとして恋人と愛し合う。
抑制剤を服用しながらだったが、Usualである恋人の省吾と過ごす時間は何物にも代えがたいものだった。
しかし、ある日ある男から「久しぶりに会わないか」と電話がかかってくる。その男は一希の初めてのパートナーでありSubとしての喜びを教えた男だった。
※Dom/Subユニバース独自設定有り
※やんわりモブレ有り
※Usual✕Sub
※ダイナミクスの変異あり
ゲームにはそんな設定無かっただろ!
猫宮乾
BL
大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。
待てって言われたから…
ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
不透明な君と。
pAp1Ko
BL
Dom/Subユニバースのお話。
Dom(美人、細い、色素薄め、一人称:僕、168cm)
柚岡璃華(ユズオカ リカ)
×
Sub(細マッチョ、眼鏡、口悪い、一人称:俺、180cm)
暈來希(ヒカサ ライキ)
Subと診断されたがランクが高すぎて誰のcommandも効かず、周りからはNeutralまたは見た目からDomだと思われていた暈來希。
小柄で美人な容姿、色素の薄い外見からSubだと思われやすい高ランクのDom、柚岡璃華。
この二人が出会いパートナーになるまでのお話。
完結済み、5日間に分けて投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる