朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花

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第二部

迷子になった③(東弥side)

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「こちらですね。本日はご利用ありがとうございました。」

カフェに戻り店員さんに声をかけるとすぐにメトロノームが渡されて、静留はそれを受け取り、宝物を見るように愛おし気に笑いかけた。

「よかったね。」

「うん!」

カフェから出て、手を繋ぎながら来た道を戻る。

静留は繋いでいない方の手にメトロノームを握りしめ、無理に気丈に振る舞っているように見えた。

東弥はそれでも、彼がパニックを起こさずこの場にいることに安心する。

__これならまた来れそうだ。

いつも通り、好きなぬいぐるみの売り場の前を通れば触りたそうにうずうずしているし、知っている音楽が流れればメロディーを口ずさんでいるから、2度とここに来れないほどのトラウマになるのは避けられたらしい。

しかし、あと少しで駐車場というところで静留の足が不自然に止まった。

「静留…?」

ぎゅっと東弥の手を握りしめ震えている、明らかにおかしい彼の振る舞いに粗方の事情を悟る。

目の前には3人組の男性がいて、そのうちの1人が静留に対して不気味な笑みを浮かべ言ったのだ。

「先ほどのお嬢さんじゃん。」

「えっ、なにさっき言ってた子?めちゃくちゃ美人じゃん!」

「そうそう。さっきは1人だったから逃げられちゃったけどさ?」

残りの2人もにやにやと静留のことを見だしたから、静留は東弥の後ろに隠れてしまった。それでも約束通り繋いだ手は離さない。

「静留、ちょっと隠れててね。」

努めて冷静に言うと、彼は東弥の背にしがみつく力を強くした。

正直胸ぐらを掴んでglareを放ち殴り倒したい気分だったが、静留を怖がらせてしまうといけないからとなんとか堪える。

「そこ、どいてくれますか?」

にこやかに笑みながらglareを放つと、3人とも一瞬で引きつった表情を浮かべ固まってしまった。

__低ランクのDomでよかった。

「静留、もう大丈夫だよ。行こう?」

背中にしがみついている静留の方を振り返り、弱いglareで緊張を解いてやる。

「うん…。」

静留はまだ怯えた表情のままだったが、東弥に手を引かれればしっかりと歩いてくれた。

この場から去りたい気持ちが勝ったのか、もしくは安心したのか。

“やばい俺、失禁するかと思った…。”
“いや怖えよなにあの人…。あんな冷たいglare放つ奴初めて見たわ… ”

後ろから声が聞こえてきて、失禁くらいして仕舞えばよかったのにと思う。

なんなら地獄に落ちてほしいくらいだ。

車に行くと、静留は助手席に座りすぐに寝息を立ててしまった。コンサートで疲れていた上にこんなことがあったのだから無理もない。

「おやすみ、静留。」

隣から手を伸ばし長い髪をかき分けてやれば、強張っていた寝顔はあえかに笑んで。

「とーや…さん…。」

愛らしい寝言と共に、誰よりも美しい音を奏でる指が、無意識に東弥の左手を掴んで弱く握った。






家に帰っても静留は東弥にしがみついて離れず、ピアノを弾こうとすらしない。

ソファーに座り彼の髪をずっと撫でている間に、東弥はふと彼の手首が赤くなっていることに気がついた。

「静留、これ…。痛い?」

先ほどの男に加減を考えず強くつかまれていたのだろう。

実に腹立たしい話だが、この場で怒っても意味がないし、なにより静留の身体が心配だ。

「…これ、いや…。…いたくない、けど、きもちわるい…。」

東弥が示した赤くなった場所を見て、彼は泣きそうな顔をする。どうやら気付いていなかったらしい。

それと共に落ち込んだ様子に拍車がかかってしまった。

「…東弥さんじゃないひとにさわられた痕、きもちわるい…。」

ずっとその場所を見て顔をしかめているから、東弥は心配になる。これではピアノを弾くときすら嫌な気持ちになるのではないかと。

__せめて何かで隠せないか…。

ぐるりと部屋を見渡し、手の届く位置にある丁度いいものが目に入った。

「静留、こうしたら気持ち悪くない?」

気にしている部分に、痛くないように優しくそれをつけてやる。

東弥が試合で使っているリストバンドだ。

「…東弥さんの…?」

「そう。俺がつけてたやつ。流石にコンサートとかではつけられないと思うけど、静留にあげるよ。」

静留が大きく目を見開く。

「東弥さんのしるし…。」

安心したように笑んだのがあまりにも愛らしかったから、東弥はついその唇を奪ってしまった。

「んっ… 」

驚いた声が彼の口から漏れる。

本当は、自分以外の人間がこの腕に触れたことが許せない。

静留は東弥の大切な恋人なのだ。

だから今まで一度もしたことがなかった行為を、東弥は無意識に行なっていた。

弱い力で結ばれた唇の間に舌をねじ込み、上歯茎、頬の内側を丁寧になぞってから静留のそれと絡ませると、拙い舌づかいが必死に応えてくれる。

執拗に中を侵してから唇を離し、東弥が我に返ったときには静留は両手で顔を覆っていた。

隙間から、真っ赤な頬がのぞいている。

「ごめん静留、苦しかった?嫌だった?」

慌てて尋ねると、静留はふるふると首を横に振った。

そして指の間から大きな瞳をのぞかせて。

「きもちかった…から、また、…おくち、してくれる…?」

東弥の様子を伺うように上目遣いに言ったのだった。

__やっぱりこの子は無防備すぎる…。

危機感を覚え、東弥はその場で小型GPSを注文し、届いたそばから静留の靴やメトロノームのお守りに忍ばせた。

話を聞いた幹斗たち友人はドン引きしたが、とうの静留はむしろ嬉しかったらしく、“東弥さんがどこにいても見つけてくれる魔法”、と言って余計にお守りを大切にするようになったと言う。

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