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第二部
お礼のコンサート①(東弥side)
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「じゃあ、いってらっしゃい。」
「うん、幹斗さんたちに、ありがとうしてくる。」
「ここで応援しているよ。」
世話になったお礼として幹斗達も呼んだコンサートの当日、舞台袖の中で珍しく少し緊張している様子の静留は、東弥の言葉を聞いて安心したのか大きく見開かれた目を柔らかに細めた。
たおやかな髪はゴムで後ろに纏められ、白い首元とそこに蝶結びにされたリボンの黒の対比が艶かしい。
このまま抱きしめ連れ帰りたいと考えながらも東弥はそっと彼の肩に手を置き、くるりとステージの方を向かせると優しく前へ押し出した。
こつんと革靴の音が響くのを合図に彼の纏う気配が変化する。
すっと伸びた背筋に堂々とした立ち振る舞い。
未だにコンサートで見るステージ上の彼を別人ではないかと考えてしまう。
彼は椅子に腰を降ろしペダルに足を、鍵盤に指をかけるその間さえ場の空気を支配していた。
静寂の中、彼が鍵盤から手を上げ短く息を吸い込む。
奏でられた伴奏のたった一小節で会場ごと別の世界に持っていかれたみたいにがらりと周囲の雰囲気が変わった。
轟々と吹く風のような、小さくも激しく重い左手の伴奏。その中を果敢に駆け抜ける凛とした右手のメロディー。
最近ずっと静留が懸命に練習していた曲だ。
指がその音階を奏でられるほど速く動くだけでもう東弥には信じられないのに、それでいてしっかりと聴き手にイメージを与え、のめり込ませる力を持っている。
スポットライトに照らされた彼に普段のような幼さはない。
こういうとき、彼が違う世界にいるような気がして東弥はふと寂しくなる。
家の中では彼の存在を確認しようと時折手を伸ばしてみるが、この会場の中ではそれも叶わない。
それにそっと触れたところで彼の身体が確かに存在していると理解できるだけだ。
ピアノを弾く彼の集中力は凄まじい。いくら彼が東弥を愛していようと鍵盤に手を触れた途端に彼の心は音楽の神様に渡ってしまう。
__いけない…。
寂しさを覚えるとともに焦りや嫉妬に似た醜い感情が押し寄せてきて東弥は必死にそれを噛み潰した。
触れたい、抱きたいと、そう思うことをもう自分に許してしまったから、時々抑えきれなくなりそうで恐ろしい。まだ一度も、彼の小さな入り口に触れることすらしていないというのに。
舞台袖のパイプ椅子に座りながら東弥はじっと彼の音を聞いていた。
激しい曲、甘い曲、優しい曲、切ない曲。多様な色を持つ曲を静留は一つ一つ丁寧に奏でていき、何度も会場の色を変えて。
やがて彼が立ち上がり、静かに礼をしてこちらへと歩いてくる。
舞台袖が彼の身体を隠す前に耐えきれず手を引き抱きしめれば、オニキスの瞳が一瞬驚いたように大きく見開かれた。
しかしその瞳はすぐに柔らかく笑んで。
「ただいま、東弥さん。」
耳元で囀った愛らしい唇を東弥はたまらず静かに塞いだ。
「うん、幹斗さんたちに、ありがとうしてくる。」
「ここで応援しているよ。」
世話になったお礼として幹斗達も呼んだコンサートの当日、舞台袖の中で珍しく少し緊張している様子の静留は、東弥の言葉を聞いて安心したのか大きく見開かれた目を柔らかに細めた。
たおやかな髪はゴムで後ろに纏められ、白い首元とそこに蝶結びにされたリボンの黒の対比が艶かしい。
このまま抱きしめ連れ帰りたいと考えながらも東弥はそっと彼の肩に手を置き、くるりとステージの方を向かせると優しく前へ押し出した。
こつんと革靴の音が響くのを合図に彼の纏う気配が変化する。
すっと伸びた背筋に堂々とした立ち振る舞い。
未だにコンサートで見るステージ上の彼を別人ではないかと考えてしまう。
彼は椅子に腰を降ろしペダルに足を、鍵盤に指をかけるその間さえ場の空気を支配していた。
静寂の中、彼が鍵盤から手を上げ短く息を吸い込む。
奏でられた伴奏のたった一小節で会場ごと別の世界に持っていかれたみたいにがらりと周囲の雰囲気が変わった。
轟々と吹く風のような、小さくも激しく重い左手の伴奏。その中を果敢に駆け抜ける凛とした右手のメロディー。
最近ずっと静留が懸命に練習していた曲だ。
指がその音階を奏でられるほど速く動くだけでもう東弥には信じられないのに、それでいてしっかりと聴き手にイメージを与え、のめり込ませる力を持っている。
スポットライトに照らされた彼に普段のような幼さはない。
こういうとき、彼が違う世界にいるような気がして東弥はふと寂しくなる。
家の中では彼の存在を確認しようと時折手を伸ばしてみるが、この会場の中ではそれも叶わない。
それにそっと触れたところで彼の身体が確かに存在していると理解できるだけだ。
ピアノを弾く彼の集中力は凄まじい。いくら彼が東弥を愛していようと鍵盤に手を触れた途端に彼の心は音楽の神様に渡ってしまう。
__いけない…。
寂しさを覚えるとともに焦りや嫉妬に似た醜い感情が押し寄せてきて東弥は必死にそれを噛み潰した。
触れたい、抱きたいと、そう思うことをもう自分に許してしまったから、時々抑えきれなくなりそうで恐ろしい。まだ一度も、彼の小さな入り口に触れることすらしていないというのに。
舞台袖のパイプ椅子に座りながら東弥はじっと彼の音を聞いていた。
激しい曲、甘い曲、優しい曲、切ない曲。多様な色を持つ曲を静留は一つ一つ丁寧に奏でていき、何度も会場の色を変えて。
やがて彼が立ち上がり、静かに礼をしてこちらへと歩いてくる。
舞台袖が彼の身体を隠す前に耐えきれず手を引き抱きしめれば、オニキスの瞳が一瞬驚いたように大きく見開かれた。
しかしその瞳はすぐに柔らかく笑んで。
「ただいま、東弥さん。」
耳元で囀った愛らしい唇を東弥はたまらず静かに塞いだ。
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