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第二部
幸せなクリスマス①(静留side)
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「着いたよ。ここから少し歩くけど、寒いから車の中で待ってる?」
クリスマスイブの日、一緒にケーキを取りに行った車の中で、ふと東弥に尋ねられ、静留はふるふると首を横に振った。
東弥と一緒にいられるのならば寒い方がいい。
「そっか。じゃあ一緒に行こうか。」
「うん!」
大きな手に頭を撫でられる感覚が心地良くて静留は目を細める。
解鍵音とともに外に出れば、身体の芯まで凍りつきそうな冷たい空気にさらされた。
「寒い?」
いつものように手を繋ごうと運転席側から静留のそばに歩いてきた東弥が、静留の様子を見て心配そうに問いかける。
「…すこし…でも、いっしょにいく!!」
彼がポケットから鍵を取り出そうとしたので静留は目と口で一緒に行きたいと訴えた。
東弥はすこし考えるようにしたあと、自らのマフラーをほどき、ふわりと静留の首元にかけてくれた。
「じっとしていてね。」
甘いglareを放ちながら言われ静留はぴたりと固まる。
真剣な表情で静留のマフラーを結び始めた彼の、吐く息が頬にかかるほど距離が近い。
東弥の端正な顔立ちを至近距離で見た静留は急に心臓が早くなり、溜まった熱を紛らわせようとそっと視線を逸らした。
「できた。もう寒くない?」
マフラーを結び終えると、切れ長の瞳を愛しげに細めた彼が静留に優しく笑いかけてくれる。
「う、うん…。」
静留はしどろもどろになりながらうなずいた。
確かに寒くはなくなったが、それが東弥のマフラーのおかげなのか静留の体温が上がったせいなのかわからない。
「よかった。あとはこうして…行こうか。」
さらに東弥は静留の片手に自分がしていた手袋をはめ、静留と自分の手袋をしていない手同士を繋ぐとコートのポケットに入れた。
__あったかい…。
彼の温もりに安心して静留は口元を綻ばせる。
「静留、かわいいね。似合ってる。」
「!!」
しかし不意打ちで東弥がそう言ったから収まり始めていた胸の疼きがまた加速を始めた。
彼から貰うかわいいと言う言葉を不必要に意識し始めたのはいつからだろうか。
ふと、そんなことを考える。
少なくとも彼と出会うまで、静留はそれを言われたところで嬉しいとしか思わなかったはずだ。
今はその言葉を彼が紡いだ時、いつだってこうして身体が熱くなる。
__どうしてだろう…。
結局いくら考えたところで答えが出ることはなく、そうしているうちにお菓子屋さんに到着し、静留の意識は違う方向に向いた。
東弥が連れてきてくれたお菓子屋さんは物語の中から出てきたお菓子の家のような外観をしていた。
クッキー色の外壁にチョコレートのような見た目の三角屋根。ビスケットのようなドアにはキャンディーのようなドアノブがついていて、そしてお店の敷地からお店までの地面には道標のようにしてクッキーの飾りが埋め込まれている。
おとぎばなしのような光景を見た静留は感動で一旦足を止めた。
「きれい…。」
思わず声が漏れる。
「綺麗だね。…そうだ、一緒に写真を撮ろうか。」
「うん!」
提案にしずるが頷けば、東弥は手袋を外しスマホを取り出した。
手を繋いだままくるりと反転しお店やイルミネーションを背景に映す。
「ここ見ていてね。笑って。」
東弥の声につられて笑めばかしゃりとシャッターの音が響いた。
しかしその音とともにある記憶が蘇った静留は、とっさに東弥と繋いでいた手をほどき耳を塞ぐ。
“泣かないで、大丈夫だから。”
脳裏に浮かんだ無理に笑う東弥の姿は、血だらけでひどく苦しそうだった。
一度思い出してしまえば途端に怖くなり、静留はその場に小さく蹲る。
初めて静留が東弥と写真を撮ったあの日の帰り道、東弥が刺され、幸せな日常が一度壊れた。
「…る、静留。」
大好きな声が耳元で囁く。
しかしそのあとに続くかもしれない“大丈夫だよ”の言葉が怖くて静留はさらに強く耳を塞いだ。
あの時の彼は決して大丈夫ではなかったのに無理やり笑って大丈夫だと静留に言い聞かせてくれた。
“ねえ、あの子大丈夫?”
“そっとしておきましょう。”
塞いだ耳の隙間から、自分に向けられた声が聞こえてくる。
クリスマスイブのケーキ屋さんにはたくさんの客が訪れるから、きっと庭に蹲ってしまった静留は邪魔でしかない。
あの時辛かったのは東弥の方なのにこんなふうに怖くなり、さらに周りにまで迷惑をかける自分が嫌になる。
状況をどうにかしようとして立とうと思うのにうまく足に力が入らない。
今にも涙が溢れてしまいそうだ。
それでも泣けば東弥がもっと困ってしまう。
息が苦しい。
__どうしよう…。
ギュッと目を瞑ろうとしたと同時に東弥に強く抱きしめられ、驚いて力が抜けた隙に脇に手を入れられ立ち上がっていた。
「静留、これを見てみて。」
目の前に東弥のスマホが差し出される。
状況がうまくつかめないまま画面に目をやると、先ほどここで撮った写真が映し出されていた。
ふたりとも笑顔で、とても楽しそうだ。
なにより東弥と自分が一つの画面に映し出されていることが嬉しい。
「嫌なこと、起こりそうに見える?」
優しく穏やかな声に尋ねられ、静留は首を横に振った。
こんなに幸せそうな写真なのだから、嫌なことが起こりそうになど見えない。
「そうだね。悪いことなんて起こらない。これからもたくさん写真を撮って幸せを積み重ねていこうね。」
柔らかく微笑まれれば、安心して涙が止まる。
__しあわせを、つみかさねる…。
東弥の言葉を反芻し、静留の心は温かくなった。
「うん。」
「じゃあ、ケーキを取りに行こうか。」
「うん!」
頷けば、再び東弥の手が差し出される。
手を繋ぎながらキャンディーのドアノブをひねりビスケットのドアを開けると、中にはお菓子がたくさん飾られた大きなクリスマスツリーが立っていた。
「これをお店の人に渡してね。」
東弥からクリスマスツリーが描いてある可愛らしいチケットを渡され、静留は店員さんにそれを渡す。
チケットと引き換えに渡されたケーキは、静留の大好きな苺のケーキだった。
クリスマスイブの日、一緒にケーキを取りに行った車の中で、ふと東弥に尋ねられ、静留はふるふると首を横に振った。
東弥と一緒にいられるのならば寒い方がいい。
「そっか。じゃあ一緒に行こうか。」
「うん!」
大きな手に頭を撫でられる感覚が心地良くて静留は目を細める。
解鍵音とともに外に出れば、身体の芯まで凍りつきそうな冷たい空気にさらされた。
「寒い?」
いつものように手を繋ごうと運転席側から静留のそばに歩いてきた東弥が、静留の様子を見て心配そうに問いかける。
「…すこし…でも、いっしょにいく!!」
彼がポケットから鍵を取り出そうとしたので静留は目と口で一緒に行きたいと訴えた。
東弥はすこし考えるようにしたあと、自らのマフラーをほどき、ふわりと静留の首元にかけてくれた。
「じっとしていてね。」
甘いglareを放ちながら言われ静留はぴたりと固まる。
真剣な表情で静留のマフラーを結び始めた彼の、吐く息が頬にかかるほど距離が近い。
東弥の端正な顔立ちを至近距離で見た静留は急に心臓が早くなり、溜まった熱を紛らわせようとそっと視線を逸らした。
「できた。もう寒くない?」
マフラーを結び終えると、切れ長の瞳を愛しげに細めた彼が静留に優しく笑いかけてくれる。
「う、うん…。」
静留はしどろもどろになりながらうなずいた。
確かに寒くはなくなったが、それが東弥のマフラーのおかげなのか静留の体温が上がったせいなのかわからない。
「よかった。あとはこうして…行こうか。」
さらに東弥は静留の片手に自分がしていた手袋をはめ、静留と自分の手袋をしていない手同士を繋ぐとコートのポケットに入れた。
__あったかい…。
彼の温もりに安心して静留は口元を綻ばせる。
「静留、かわいいね。似合ってる。」
「!!」
しかし不意打ちで東弥がそう言ったから収まり始めていた胸の疼きがまた加速を始めた。
彼から貰うかわいいと言う言葉を不必要に意識し始めたのはいつからだろうか。
ふと、そんなことを考える。
少なくとも彼と出会うまで、静留はそれを言われたところで嬉しいとしか思わなかったはずだ。
今はその言葉を彼が紡いだ時、いつだってこうして身体が熱くなる。
__どうしてだろう…。
結局いくら考えたところで答えが出ることはなく、そうしているうちにお菓子屋さんに到着し、静留の意識は違う方向に向いた。
東弥が連れてきてくれたお菓子屋さんは物語の中から出てきたお菓子の家のような外観をしていた。
クッキー色の外壁にチョコレートのような見た目の三角屋根。ビスケットのようなドアにはキャンディーのようなドアノブがついていて、そしてお店の敷地からお店までの地面には道標のようにしてクッキーの飾りが埋め込まれている。
おとぎばなしのような光景を見た静留は感動で一旦足を止めた。
「きれい…。」
思わず声が漏れる。
「綺麗だね。…そうだ、一緒に写真を撮ろうか。」
「うん!」
提案にしずるが頷けば、東弥は手袋を外しスマホを取り出した。
手を繋いだままくるりと反転しお店やイルミネーションを背景に映す。
「ここ見ていてね。笑って。」
東弥の声につられて笑めばかしゃりとシャッターの音が響いた。
しかしその音とともにある記憶が蘇った静留は、とっさに東弥と繋いでいた手をほどき耳を塞ぐ。
“泣かないで、大丈夫だから。”
脳裏に浮かんだ無理に笑う東弥の姿は、血だらけでひどく苦しそうだった。
一度思い出してしまえば途端に怖くなり、静留はその場に小さく蹲る。
初めて静留が東弥と写真を撮ったあの日の帰り道、東弥が刺され、幸せな日常が一度壊れた。
「…る、静留。」
大好きな声が耳元で囁く。
しかしそのあとに続くかもしれない“大丈夫だよ”の言葉が怖くて静留はさらに強く耳を塞いだ。
あの時の彼は決して大丈夫ではなかったのに無理やり笑って大丈夫だと静留に言い聞かせてくれた。
“ねえ、あの子大丈夫?”
“そっとしておきましょう。”
塞いだ耳の隙間から、自分に向けられた声が聞こえてくる。
クリスマスイブのケーキ屋さんにはたくさんの客が訪れるから、きっと庭に蹲ってしまった静留は邪魔でしかない。
あの時辛かったのは東弥の方なのにこんなふうに怖くなり、さらに周りにまで迷惑をかける自分が嫌になる。
状況をどうにかしようとして立とうと思うのにうまく足に力が入らない。
今にも涙が溢れてしまいそうだ。
それでも泣けば東弥がもっと困ってしまう。
息が苦しい。
__どうしよう…。
ギュッと目を瞑ろうとしたと同時に東弥に強く抱きしめられ、驚いて力が抜けた隙に脇に手を入れられ立ち上がっていた。
「静留、これを見てみて。」
目の前に東弥のスマホが差し出される。
状況がうまくつかめないまま画面に目をやると、先ほどここで撮った写真が映し出されていた。
ふたりとも笑顔で、とても楽しそうだ。
なにより東弥と自分が一つの画面に映し出されていることが嬉しい。
「嫌なこと、起こりそうに見える?」
優しく穏やかな声に尋ねられ、静留は首を横に振った。
こんなに幸せそうな写真なのだから、嫌なことが起こりそうになど見えない。
「そうだね。悪いことなんて起こらない。これからもたくさん写真を撮って幸せを積み重ねていこうね。」
柔らかく微笑まれれば、安心して涙が止まる。
__しあわせを、つみかさねる…。
東弥の言葉を反芻し、静留の心は温かくなった。
「うん。」
「じゃあ、ケーキを取りに行こうか。」
「うん!」
頷けば、再び東弥の手が差し出される。
手を繋ぎながらキャンディーのドアノブをひねりビスケットのドアを開けると、中にはお菓子がたくさん飾られた大きなクリスマスツリーが立っていた。
「これをお店の人に渡してね。」
東弥からクリスマスツリーが描いてある可愛らしいチケットを渡され、静留は店員さんにそれを渡す。
チケットと引き換えに渡されたケーキは、静留の大好きな苺のケーキだった。
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