【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十五章 試練

3-4 記憶の中の少女神

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*****



 ああ……

 体が重い。

 思った以上にうまく動かない。

 力のコントロールも出来ていない。

 昔、雷を呼び、国一つ消滅させた事もあるというのに…………。

 ”セフィラン”の体は、邪神の器として最良なのだが、残された元の持ち主の残留思念にスノーデュークは少々手こずっていた。

 三千年前、リンスロットの体に移った時はここまでじゃなかった。

 あの時は、彼の心を弱らせ、壊してから移った為、前の体の主の意志を感じる事は少なかったのである。

 その上、残されたその弱弱しい魂さえ千々に切り裂き、当時気に入りだった邪鬼達の餌として与えたのだ。邪鬼達は神子の魂の片鱗を得、巨大な邪気へと変貌したが、三千年前の剣と玉の神子によって封印されてしまった。今もこの世界のどこかで深い眠りに就いているはずだ。封印が弱まる度にその時代の神子が封印をし直している為、今の自分では彼らを呼び寄せる事も出来はしないだろう。

 あの時、リンスロットの魂の片鱗を与えられ、己が邪気への糧とした邪鬼で今傍にいるのは、サイレンただ一鬼。

 イプロスがこの残酷な事実を知ったらどうするか。

 楽しみでならない。

 だが、今はそれ所ではなく……



「まったく、忌々しい」

 そう呟いて浅い眠りから目を覚ましたスノーデュークは、自分が横たわっていた寝台傍に控えるサイレンに語りかけた。

「今回も僕が移る前にセフィランを壊しておいてくれれば良かったのに。今、僕の中でその魂を徐々に消滅させていっているけれど、すごく面倒くさいし、時間がかかっている。おかげでなかなか本調子にならないよ」

 子供のかわいい悪戯を軽く咎める大人のような困った顔でそう言った主に向かい、サイレンは深く頭を下げる。

「申し訳ありません、マスター」

「ううん、わかってる。リンスロットの体に限界がきていたから、一刻も早く移る必要があったしね。仕方がなかったんでしょう? セフィランを創り出すのにも手間取ってしまったし……」

 邪神の邪気は強過ぎて、邪混鬼の母となれる素質を持つ女は少なかった。選んだ娘達の大半が死んだ。それか、うまく身ごもったとしても産み落とすのは失敗作ばかり。

 ”セフィラン”は、ようやく産まれた唯一の成功例だったのだ。

「大丈夫、可愛い吾子の体だ。時間をかければきっと馴染むよ。あの子の思念は僕の中で確実に消化してあげる」

 心配そうなサイレンを安心させるようにそう言うと、眠る前に指示していた事の確認をした。

「あれらはどうしたの? うまくいってる?」

 その言葉にサイレンは頷き答える。

「はい。ご命令通りに。上手く事は進んでおります」

「そう。失敗したとはいえ、せっかくたくさん出来たんだし、使わないと損だもの。ここにいられても邪魔だったからね。我ながらいい考えだったと思わない?」

 クスクスと笑いながらそう言ったスノーデュークは、サイレンの編み込まれた長い金髪を指先で弄びながら、今思いついたのか、ついでのように言った。

「ああ、そうそう、今の神子達の事だけど、三千年前のような力を手に入れられたら、今の僕じゃまた封印されちゃうよ。そうなる前に姉上のどちらかを消しておきたいんだ」

「しかし、マスター。神子達のいるセイントクロス神殿本部は、姉神様の神気がとても強く、私でも手出し出来ません」

 腹心の部下のその言葉を聞き、スノーデュークもげんなりとした顔をする。

「そうなんだよねぇ。元の僕ならあんなのどうって事ないんだけど。困ったなあ。ねえ? ジル、ベル。協力してくれない?」

 寝台の上に再び寝ころび、うつ伏せになって頬杖をついたスノーデュークは、部屋の隅に控えていた双子のドラゴンに呼びかけた。

「…………俺達も神殿内部に干渉する事は出来ないよ」

 ベルの答えを聞き、スノーデュークは緩く首を振る。

「そんな事は分かってる。神殿内は無理だけど、周囲の森は君達の縄張りだろ? そこにおびき出してよ。その後は僕がやるからさ。君達が迎え入れてくれれば、森の中までなら今の僕でも入れるし」

「神子が俺達の呼び出しに答えるとは思えない」

 スノーデュークの願いを受け、今度はジルが答えた。

「姉上達を呼び寄せる事は出来なくても、君達に深い負い目を感じているあの者をおびき出す事は出来るだろう? 彼も姉上達の大事な大事な人間の一人だ。彼を助ける為に必ずやって来るんじゃないかな?」

「…………」

「ついでに殺っちゃいなよ。僕からしても邪魔な人間だし、君らだって、殺しても殺し足りない位憎いんじゃないの? なんだったら手伝ってあげる。転生も出来ない位に魂ごと壊す事も出来るし。…………その卵、孵化させたいんでしょう?」

 大切そうにジルが懐に抱える石の卵を指差してそう言った邪神に対し、ベルははっきりとした口調で返した。

「手出しは無用。言われなくても、あの男だけは許さない。必ず俺達の手で葬ってやる」

 一族の再興を願うドラゴンの末裔はそう言い残し、音を立てずに部屋を出て行く。

 虹色の瞳をした不可思議な生き物。

 姉神が創ったわけでも、自分が創ったわけでもない幻獣。

 媒体となったのはあの石だ。

 姉神が可愛がっていた少女神からもらった守り石。

 なんという名だったか……。


 翠緑の髪を揺らしながらゴロンと寝返りをうち、仰向けになると、古の記憶をなんとか思い出そうとする。


 ああ

 思い出した……。



「”アナスタシア”」



 スノーデュークは己が記憶の中から、頬を染めて嬉しそうに笑う少女神の顔を呼び起こし、目を閉じた。



 懐かしい

 神々の記憶だ。

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