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第十五章 試練
4-1 一年後
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それから……
リュセル達が扉の向こう側の世界に足を踏み入れてから、一年の月日が過ぎた。
いや、正確には、リュセル達のいる場所の時間が、一年経ったのだ。扉の外側の世界の時間がどれ位流れたか、それは六人共知らない。
最初の二日間以降、ライサンとユリエはパッタリと姿を見せなくなったし、たまに様子を見に現れるアシェイラも、忙しいのかすぐにいなくなってしまう。
ローウェンが日付を数えて記録に残しているから、一年もの刻が流れたという事が分かっているのである。
「さて、どうなっていますかね」
修業の間の一部屋の扉を開き、ライサンが鏡の姉妹の様子を見に来ると、栗色の髪の子供と朱金の髪の美女が死闘を繰り広げている真っ最中だった。
「”封印光布”」
瞬息の勢いで栗色の髪の子供が攻撃を仕掛けると、高らかな少女の声が聞こえ、同時に朱金の髪の美女が持っていた女神の鏡から帯状に輝く光の布が現れる。
「…………」
襲い来る光の布を避け、子供……、リンスロットは鏡に力を集中させる。
「”蒼き連鎖”」
するとすぐに、絡めとられたら決して逃れる事の出来ない蒼い鎖がジュリナを襲う。
しかし
「”朱の刺繍(しゅのししゅう)”」
ジュリナの操る封印光布は細い糸へと変化し、それらは瞬時に空間を縫い上げるようにして柔らかな朱金の結界を形成する。
リンスロットの操る鎖は、見事に縫い上げられた壁に阻まれ、攻撃は柔らかく受け流された。そして、リンスロットが別の攻撃手段に移る前にティアラは素早く先手を打つ。
「”薔薇の檻”」
周囲に形成していた守りの壁を解き、薔薇の蔓に変化させると、それでリンスロットの小さな体を襲った。
「……ッ」
盗まれた自分の技で攻撃されたリンスロットは、その攻撃を避けるが、避けきれなかった一撃がその頬を掠める。
……と、そこで。
「はい、そこまでです」
久方ぶりに聞く柔らかな声と共に、リンスロットの姿は一瞬で消えた。
「セリクス神官長!?」
驚きの声を上げるジュリナに向かい、ライサンはにっこりと微笑んだ。
「腕を上げましたね、御二人共」
一見変わらぬが、その中身はライサンが期待した以上にたくましく成長しているようだ。
「だって、もう一年も経ちましたのよ?」
同化を解き、現れた少女がそう言うのを見て、ライサンは驚きに目を見開いた。
元々持っていた女性らしさ可憐さはそのままに、たくましく凛々しくなっている。それは、春の女神のような柔和な美しさの中に感じる厳しさ。
「驚きましたよ、鏡鍵様。髪を切られたんですね」
緩くウエーブを描くフワフワとしていた長い髪をしていたティアラの髪は、現在肩につく位のボブスタイルにまで短くなってしまっていて、ライサンは度肝を抜かれていた。だが、フワフワな柔らかい髪質は変わりなく、サイドを可愛らしい薔薇のヘアピンで留めている。髪が短くなった所為か、外見は前よりも可愛らしく見えていた。
女性って、髪が長い方が大人っぽく見えるのか。とライサンが不思議に思っていると、ジュリナがティアラが髪を切った経緯を軽く説明した。
「一回、同化前に戦闘になった事があってねぇ。その時、あの、ドS王子イプロスに髪を掴まれて、この子は何も考えずに護身用の短剣で自分の髪を切り落としちゃったんだよ。相手にやられた傷は治るが、自分でやった傷は治らないみたいで、次の日になってもそのままだったティアの髪を見て、私とリュセルは同時に絶望に沈んだものだよ。しかも、この子の髪、全然伸びてこないしさ~。とりあえず、リュセルがいい感じに可愛く切りそろえてアレンジしてくれたんだ。この時程、あいつの手先の器用さに感謝した事はないよ」
「戦闘で傷つけられて切られたレオンハルト様の髪は、次の日、元の長さに戻っていましたものね。リュセル様がとても心配されていましたけれど」
ティアラの言葉を受けて、ジュリナは面白そうに笑う。
「そ~そ~、大騒ぎしてたよな~~。しかし、短髪のレオンハルトは初めてだったからね、貴重なものが見れたと思うね。リュセルが死にそうな顔してたけどな。あははははははッ」
「もう、お姉様ってば」
思い出し大笑いしている姉を呆れたように見上げたティアラは、ライサンに向き直った。
「”あちら”の様子はどうですか?」
「変わりないですよ。あなた方がここに入って、向こう側はまだ三日程しか経っていませんから」
ライサンが穏やかな声で告げた事実に、ジュリナもティアラも驚きに目を見開く。
「なんだって!?」
「まあ!」
「最初に説明した通り、こちらとあちらでは時間の進み方が大きく異なります。こちらの時間は、向こうでは非常にゆっくりと流れるのですよ」
そう説明をしながら扉を出現させ、姉妹を促して部屋を出るライサンにティアラは言った。
「わたくしが十七歳になりましたように、皆、こちら側で一年の年を重ねていますけれど……。わたくし達の時はここでの時間に合わせて進んでいるのですか?」
「いえ、肉体の時は止まっているはずです」
ライサンの答えを聞き、ジュリナは納得したように頷いた。
「おかしいと思ったんだよ。老化の止まった私やレオンハルトはともかく、成長期真っ只中のローウェンやアルティスがそのまんまなんだからねぇ」
「この空間は特殊なのです。それ故に耐えられる肉体を持つのは神子と神獣のみ。ここは、刻の止まった空間。その為、先程十七歳になったと鏡鍵様はおっしゃっておりましたが、正確には十六歳のままですよ」
「え? そうなんですの!? 今までずっと、誕生日になった方の誕生パーティをやってきてしまいました」
ティアラが驚きの声を上げると、ライサンは笑って答えた。
「それはそれは、楽しそうですねぇ」
閉鎖された空間の為、六人で仲良く仲間の誕生日を祝ったのだろう。
ライサンの説明から得た結論にジュリナも頷く。
「じゃあ、私達はこの部屋に入った時の肉体の状態を、ずっと維持しているという事か」
だから、ティアラのようなアクシデントでも起きない限り、肉体に傷は残らないし、髪や爪も伸びない。
「鏡鍵様の髪は、この空間を出れば普通に伸びるようになりますよ。心配いりません」
ライサンの言葉にジュリナはほっと安堵の息を吐く。
「わたくしはこのままでもいいと思いますのよ。軽くてとても楽ですし」
「だ、だめだめだめだめ、何言ってるんだい!? お願いだから私の為にまた伸ばしておくれ、ティア」
情けない姉の姿を見たティアラは、にっこりと笑って頷く。
「もう、お姉様ったら。分かりましたわ」
そんな風に談笑しながら三人が部屋の外に出ると、すぐに銀髪の青年の後ろ姿が目に入った。
「剣鍵様」
「…………」
ライサンの呼びかけに振り返った青年の印象も変わっていない。月の女神の寵児の名を戴く銀の王子。女性達がうっとりとするような甘い美貌は健在で、男でさえ見惚れる程の美丈夫である。
「おい、今はどっちだい?」
リュセルの姿を見ると同時にジュリナが謎の問いかけをした。
「……私だよ」
その問いかけに答えたリュセルの口調は、普段の彼のものではない。
「なんだい、まだ戻ってないのか?」
「戻りたくても、当人があの調子では戻れんだろう」
両腕を組み、目線で彼が指示した方向には、長い胡桃色の髪を右サイドで緩くまとめたレオンハルトの姿がある。彼は、軽やかな動きで立ち回る金髪の少年の組手の相手をしていた。
「たあああああっ」
ドゴッ
「なんの、これしき!」
バシッッ
天使のような容貌の美少年と傾国の美女のような美貌の麗しの美青年の戦い。それを眺めていた審判役のアルティスが、ローウェンの蹴りが決まると右手に持った白の旗を上げ、レオンハルトの拳が相手の肩を掠めると赤の旗を上げていた。
「いくら自分の体じゃローウェンの修業の相手が出来ないからって、いつまでレオンハルトの体を奪っているつもりだい、あいつは?」
ジュリナの呆れ声に同意するように銀の王子は頷く。
「まったくだ」
それを聞いたライサンは驚きの声を上げた。
「え? また入れ替わってしまっているんですか?」
セイントクロス神殿到着前まで、アシェイラ襲撃の折に行った神化の影響でリュセルとレオンハルトの体と心が入れ替わってしまっていたが、まさかまた同じ事が起きてしまったのかと、ライサンは懸念に顔を曇らせる。
「ああ、故意的に入れ替わっているんだ。あの子の我儘につき合わされて、私としてもいい迷惑だよ」
リュセルの体と声で淡々とそう言うと、レオンハルトは、その真面目さ故に汗をかきながら一生懸命旗を振るアルティスに近づき、褐色の手から旗を奪い取った。
今まで様子を見守っていたレオンハルト(見た目リュセル)の行動を見て、ローウェンは組手の終了を感じ、動きを止める。リュセルも膝を床についた姿勢のまま動きを止め、兄の動向を見守った。
「ほら、戻るよ」
「折角、必殺技の”美麗必殺・女顔拳”を発動しようとしていたのだが……」
「何、それ!? すっげ~~見たい!」
「お姉様!」
リュセルの必殺技に心を奪われたジュリナがそれ以上何か言うのを、ティアラはその腕を掴んで止める。
(僕も見たい気がする)
(……実を言うと我もだ)
北の少年コンビは、ジュリナのように声に出す勇気がないので、互いに目線を合わせて会話していた。
自分の体でおかしな必殺技を使おうとしていた弟に、レオンハルトはそれに対しては何も言わず、その頬を両手で挟み込み、顔を近づけ、目線で相手を促す。渋々ながら兄の指示に従ったリュセルは、自分の顔を見上げた姿勢のまま、真っ直ぐに相手の銀の瞳を見返した。
瞬間、今はリュセルのものになっているレオンハルトの琥珀の瞳が金の色を孕む。銀と金、二つの色が交わった瞬間、二人を覆う空気が一気に入れ替わった。
相手を見下ろしていた銀髪の青年の表情が一瞬で無表情から情けないものに変わり、見上げていた胡桃色の髪の青年は無表情になる。
「では、今回の勝負は引き分けという事だな」
元の体に一瞬で戻ったリュセルを慰めるようにアルティスが言うと、ローウェンが不満そうに桃色の唇を尖らせる。
「え~~!? ”美麗必殺・女顔拳”発動してないし、僕の勝ちだよ!」
「こ、これ、ロー!」
リュセル達が扉の向こう側の世界に足を踏み入れてから、一年の月日が過ぎた。
いや、正確には、リュセル達のいる場所の時間が、一年経ったのだ。扉の外側の世界の時間がどれ位流れたか、それは六人共知らない。
最初の二日間以降、ライサンとユリエはパッタリと姿を見せなくなったし、たまに様子を見に現れるアシェイラも、忙しいのかすぐにいなくなってしまう。
ローウェンが日付を数えて記録に残しているから、一年もの刻が流れたという事が分かっているのである。
「さて、どうなっていますかね」
修業の間の一部屋の扉を開き、ライサンが鏡の姉妹の様子を見に来ると、栗色の髪の子供と朱金の髪の美女が死闘を繰り広げている真っ最中だった。
「”封印光布”」
瞬息の勢いで栗色の髪の子供が攻撃を仕掛けると、高らかな少女の声が聞こえ、同時に朱金の髪の美女が持っていた女神の鏡から帯状に輝く光の布が現れる。
「…………」
襲い来る光の布を避け、子供……、リンスロットは鏡に力を集中させる。
「”蒼き連鎖”」
するとすぐに、絡めとられたら決して逃れる事の出来ない蒼い鎖がジュリナを襲う。
しかし
「”朱の刺繍(しゅのししゅう)”」
ジュリナの操る封印光布は細い糸へと変化し、それらは瞬時に空間を縫い上げるようにして柔らかな朱金の結界を形成する。
リンスロットの操る鎖は、見事に縫い上げられた壁に阻まれ、攻撃は柔らかく受け流された。そして、リンスロットが別の攻撃手段に移る前にティアラは素早く先手を打つ。
「”薔薇の檻”」
周囲に形成していた守りの壁を解き、薔薇の蔓に変化させると、それでリンスロットの小さな体を襲った。
「……ッ」
盗まれた自分の技で攻撃されたリンスロットは、その攻撃を避けるが、避けきれなかった一撃がその頬を掠める。
……と、そこで。
「はい、そこまでです」
久方ぶりに聞く柔らかな声と共に、リンスロットの姿は一瞬で消えた。
「セリクス神官長!?」
驚きの声を上げるジュリナに向かい、ライサンはにっこりと微笑んだ。
「腕を上げましたね、御二人共」
一見変わらぬが、その中身はライサンが期待した以上にたくましく成長しているようだ。
「だって、もう一年も経ちましたのよ?」
同化を解き、現れた少女がそう言うのを見て、ライサンは驚きに目を見開いた。
元々持っていた女性らしさ可憐さはそのままに、たくましく凛々しくなっている。それは、春の女神のような柔和な美しさの中に感じる厳しさ。
「驚きましたよ、鏡鍵様。髪を切られたんですね」
緩くウエーブを描くフワフワとしていた長い髪をしていたティアラの髪は、現在肩につく位のボブスタイルにまで短くなってしまっていて、ライサンは度肝を抜かれていた。だが、フワフワな柔らかい髪質は変わりなく、サイドを可愛らしい薔薇のヘアピンで留めている。髪が短くなった所為か、外見は前よりも可愛らしく見えていた。
女性って、髪が長い方が大人っぽく見えるのか。とライサンが不思議に思っていると、ジュリナがティアラが髪を切った経緯を軽く説明した。
「一回、同化前に戦闘になった事があってねぇ。その時、あの、ドS王子イプロスに髪を掴まれて、この子は何も考えずに護身用の短剣で自分の髪を切り落としちゃったんだよ。相手にやられた傷は治るが、自分でやった傷は治らないみたいで、次の日になってもそのままだったティアの髪を見て、私とリュセルは同時に絶望に沈んだものだよ。しかも、この子の髪、全然伸びてこないしさ~。とりあえず、リュセルがいい感じに可愛く切りそろえてアレンジしてくれたんだ。この時程、あいつの手先の器用さに感謝した事はないよ」
「戦闘で傷つけられて切られたレオンハルト様の髪は、次の日、元の長さに戻っていましたものね。リュセル様がとても心配されていましたけれど」
ティアラの言葉を受けて、ジュリナは面白そうに笑う。
「そ~そ~、大騒ぎしてたよな~~。しかし、短髪のレオンハルトは初めてだったからね、貴重なものが見れたと思うね。リュセルが死にそうな顔してたけどな。あははははははッ」
「もう、お姉様ってば」
思い出し大笑いしている姉を呆れたように見上げたティアラは、ライサンに向き直った。
「”あちら”の様子はどうですか?」
「変わりないですよ。あなた方がここに入って、向こう側はまだ三日程しか経っていませんから」
ライサンが穏やかな声で告げた事実に、ジュリナもティアラも驚きに目を見開く。
「なんだって!?」
「まあ!」
「最初に説明した通り、こちらとあちらでは時間の進み方が大きく異なります。こちらの時間は、向こうでは非常にゆっくりと流れるのですよ」
そう説明をしながら扉を出現させ、姉妹を促して部屋を出るライサンにティアラは言った。
「わたくしが十七歳になりましたように、皆、こちら側で一年の年を重ねていますけれど……。わたくし達の時はここでの時間に合わせて進んでいるのですか?」
「いえ、肉体の時は止まっているはずです」
ライサンの答えを聞き、ジュリナは納得したように頷いた。
「おかしいと思ったんだよ。老化の止まった私やレオンハルトはともかく、成長期真っ只中のローウェンやアルティスがそのまんまなんだからねぇ」
「この空間は特殊なのです。それ故に耐えられる肉体を持つのは神子と神獣のみ。ここは、刻の止まった空間。その為、先程十七歳になったと鏡鍵様はおっしゃっておりましたが、正確には十六歳のままですよ」
「え? そうなんですの!? 今までずっと、誕生日になった方の誕生パーティをやってきてしまいました」
ティアラが驚きの声を上げると、ライサンは笑って答えた。
「それはそれは、楽しそうですねぇ」
閉鎖された空間の為、六人で仲良く仲間の誕生日を祝ったのだろう。
ライサンの説明から得た結論にジュリナも頷く。
「じゃあ、私達はこの部屋に入った時の肉体の状態を、ずっと維持しているという事か」
だから、ティアラのようなアクシデントでも起きない限り、肉体に傷は残らないし、髪や爪も伸びない。
「鏡鍵様の髪は、この空間を出れば普通に伸びるようになりますよ。心配いりません」
ライサンの言葉にジュリナはほっと安堵の息を吐く。
「わたくしはこのままでもいいと思いますのよ。軽くてとても楽ですし」
「だ、だめだめだめだめ、何言ってるんだい!? お願いだから私の為にまた伸ばしておくれ、ティア」
情けない姉の姿を見たティアラは、にっこりと笑って頷く。
「もう、お姉様ったら。分かりましたわ」
そんな風に談笑しながら三人が部屋の外に出ると、すぐに銀髪の青年の後ろ姿が目に入った。
「剣鍵様」
「…………」
ライサンの呼びかけに振り返った青年の印象も変わっていない。月の女神の寵児の名を戴く銀の王子。女性達がうっとりとするような甘い美貌は健在で、男でさえ見惚れる程の美丈夫である。
「おい、今はどっちだい?」
リュセルの姿を見ると同時にジュリナが謎の問いかけをした。
「……私だよ」
その問いかけに答えたリュセルの口調は、普段の彼のものではない。
「なんだい、まだ戻ってないのか?」
「戻りたくても、当人があの調子では戻れんだろう」
両腕を組み、目線で彼が指示した方向には、長い胡桃色の髪を右サイドで緩くまとめたレオンハルトの姿がある。彼は、軽やかな動きで立ち回る金髪の少年の組手の相手をしていた。
「たあああああっ」
ドゴッ
「なんの、これしき!」
バシッッ
天使のような容貌の美少年と傾国の美女のような美貌の麗しの美青年の戦い。それを眺めていた審判役のアルティスが、ローウェンの蹴りが決まると右手に持った白の旗を上げ、レオンハルトの拳が相手の肩を掠めると赤の旗を上げていた。
「いくら自分の体じゃローウェンの修業の相手が出来ないからって、いつまでレオンハルトの体を奪っているつもりだい、あいつは?」
ジュリナの呆れ声に同意するように銀の王子は頷く。
「まったくだ」
それを聞いたライサンは驚きの声を上げた。
「え? また入れ替わってしまっているんですか?」
セイントクロス神殿到着前まで、アシェイラ襲撃の折に行った神化の影響でリュセルとレオンハルトの体と心が入れ替わってしまっていたが、まさかまた同じ事が起きてしまったのかと、ライサンは懸念に顔を曇らせる。
「ああ、故意的に入れ替わっているんだ。あの子の我儘につき合わされて、私としてもいい迷惑だよ」
リュセルの体と声で淡々とそう言うと、レオンハルトは、その真面目さ故に汗をかきながら一生懸命旗を振るアルティスに近づき、褐色の手から旗を奪い取った。
今まで様子を見守っていたレオンハルト(見た目リュセル)の行動を見て、ローウェンは組手の終了を感じ、動きを止める。リュセルも膝を床についた姿勢のまま動きを止め、兄の動向を見守った。
「ほら、戻るよ」
「折角、必殺技の”美麗必殺・女顔拳”を発動しようとしていたのだが……」
「何、それ!? すっげ~~見たい!」
「お姉様!」
リュセルの必殺技に心を奪われたジュリナがそれ以上何か言うのを、ティアラはその腕を掴んで止める。
(僕も見たい気がする)
(……実を言うと我もだ)
北の少年コンビは、ジュリナのように声に出す勇気がないので、互いに目線を合わせて会話していた。
自分の体でおかしな必殺技を使おうとしていた弟に、レオンハルトはそれに対しては何も言わず、その頬を両手で挟み込み、顔を近づけ、目線で相手を促す。渋々ながら兄の指示に従ったリュセルは、自分の顔を見上げた姿勢のまま、真っ直ぐに相手の銀の瞳を見返した。
瞬間、今はリュセルのものになっているレオンハルトの琥珀の瞳が金の色を孕む。銀と金、二つの色が交わった瞬間、二人を覆う空気が一気に入れ替わった。
相手を見下ろしていた銀髪の青年の表情が一瞬で無表情から情けないものに変わり、見上げていた胡桃色の髪の青年は無表情になる。
「では、今回の勝負は引き分けという事だな」
元の体に一瞬で戻ったリュセルを慰めるようにアルティスが言うと、ローウェンが不満そうに桃色の唇を尖らせる。
「え~~!? ”美麗必殺・女顔拳”発動してないし、僕の勝ちだよ!」
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