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第十五章 試練
10-2 故郷への別れ
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バリバリバリバリッ
激しい揺れの中、今度は無数のヒビが壁に入るのを綾香は目の当たりにする。
(ちょッ、もう立ってられない!)
立っていられずに、その場に膝ををついた綾香は、恐怖の中、近づいて来る青年を見つめていた。
掴まってしまう!
絶望の中、そう思った瞬間、近くで声がした。
<な~に、しゃがみこんでるんだい、馬鹿だねぇ。早く立ちな!>
強烈な印象の女性の声だ。
「え?」
キョロキョロと周りを見回すが、声の主は見つからない。
<どこ見てるんだい!? 下だよ、下>
言われた通り目線を下に移すと、そこにいたのは、一羽のうさぎ。茶色に白が入ったブチ柄の……。
「ラビ!?」
何故、うちの飼いうさぎがこんなところに!? しかも、しゃべった?
綾香が驚愕している前で、ラビは隣の階段を指示した。
<ともかく、早く逃げるんだ。奴が来るよ。>
(????)
綾香は意味も分からぬままラビを抱え上げ、階段を駆け上がり、やみくもに走った。
<もうすぐレオンハルトの奴が来るから、それまで持ちこたえな>
レオンハルト……?
誰の事だろうか? 名前からして外国人のようだが。
ただ何故か、その響きがひどく懐かしい。
「斎藤さん、どこに行っていたの!? 早くお客様を誘導するのを手伝って!」
気づいたら、自分の職場まで戻って来ていたらしい。遠くで自分を呼ぶ上司の声が聞こえる。
「ダメです! みんな、早く逃げて!」
「邪魔だなぁ」
綾香の叫び声に重なるようにして、すぐ横で雪村の声がした。
声と共に、売り場にあった棚が、風に吹き飛ばされるようにして倒されていく。
ダーーーンッ
ガターーーーーーーーンッ
「キャアアアアアッ」
「いやああああああああッ」
けたたましい音と共に悲鳴が響き、店内は正に阿鼻叫喚の図になってしまう。
「主任ッ!」
そんな中、綾香は全力で駆けて行き、棚の下敷きになりそうになった上司に体ごと体当たりして、直撃を免れさせる。
<この世界は、私達の世界とは違う! いくら神であるお前でも干渉の許されない世界だ。もう止めろ、スノーデューク!>
ラビが綾香の前に立ち、庇うようにしてそう言い放つ。
「なんか、全然その子の心を操れないと思ったら、君が媒体を送り込んでたのか。それこそ、こちらの世界への干渉になるんじゃないの?」
今までラビを通して綾香を守っていた彼女は、いつものように不敵に笑う。
<こいつがここにいる事自体がイレギュラーなんだ。それを元に戻す為に動いてるんだから、これ位許されるはずさ>
「斎藤さん! 主任も、早く店を出ましょう! お客様の誘導終了次第、私達も外に出るようにって指示が出てます!」
その間にも、勤務中だった同僚達が集まってきて、綾香は足を軽くひねった様子の主任を彼女達に預ける。そして、そんな彼女達を守るように、綾香は両腕を広げ、雪村の前に立ち塞がった。
「あなたには分からないでしょうね。ここは私を育ててくれた大切な場所。大切な世界。もう一つの私の故郷(ふるさと)。あなたに壊す権利などありはしない!」
「…………こんな世界が? この世界は、向こう以上に悲惨じゃないか。人間同士で争って、傷つけあって、殺し合って。親が子を殺し、子が親を殺す。他人を妬み、逆恨みし、騙し合う。ひどいねぇ。本当に醜い……醜悪な世界だ」
蔑むような、憐れむような声を聞き、綾香は一瞬声をつまらせる。
「そうだよ。この世界の人間は、向こうの世界の人間以上に弱い。……醜悪で脆弱だ。でも、だからこそ、たった一欠片でも誰の胸にも存在する、暖かな光が何よりも愛おしいんじゃないか!」
それでも負けずにそう言った綾香を見上げ、ラビは安心したように笑った。
その魂は、どこに在っても陰る事がない。
女であっても、男であっても、変わる事なくそこに在る。
「人間人間人間ッ! 姉上は、そればかりだッ! そんなに人間が好きなら、一緒に死んでしまえばいい!」
病んだような暗い目で綾香を凝視した雪村はそう叫び、紫電の光が綾香に向けて放たれた。
<やばい、リュセル!>
ラビの切羽詰まったような声が聞こえると同時に、彼女は咄嗟にその名を叫んでいた。
「レオンハルトーーーーーーッ!」
瞬間、白銀の光が周囲に満ち溢れ、綾香は眩しさから固く目を閉ざす。
<やれやれ、遅いよ。まったく>
ほっとしたような、呆れたようなラビの声がして、閉じていた目を開けた。
「リュセル」
いきなり目の前に現れた青年の顔を見上げ、綾香は驚きに目を見開く事しか出来ない。
背まで届くような長い胡桃色の髪。神々しい光を放つ金の瞳。雪のように肌は白く、唇は珊瑚のような色をしている。
見た事もないようなデザインの黒衣の衣装を着た、信じられない程に美しい男が目の前に立っていたのだ。
リュセル
その名を呼ばれた瞬間、綾香はそれが自分の名前であるのだと、本能的に理解した。
「…………」
無言のまま綾香の頬に片手を添えた青年に目を覗き込まれ、目の前の彼の背がとても高い事を知る。150cmに満たない自分からすると、目線を合わせるには、かなり上を見上げなくてはならなかった。
「誰?」
震える声で尋ねると、金の瞳の青年は不機嫌そうな顔をする。どこかで、同じようなやり取りをした事があるような気がした。
「私の名は、レオンハルト・レイデューク・アシェイラ。お前の兄で、半身だよ」
青年は静かな声でそう言うと、ゆっくりと優雅に腰を折り、茫然と立っている綾香の顔に顔を寄せる。
(あ……)
気づいたら、青年の端正な顔が目の前にあり、唇と唇が触れているのが分かった。
(ぎゃああああああっ! この年になってあれだけど、ファーストキスだったのにぃぃ!)
内心、そう悲鳴を上げた瞬間。
綾香の中を一陣の風が吹き抜けるように、大きな記憶の波が押し寄せる。
「……ぁあ」
触れるだけの口づけを終えると、レオンハルトが抱く華奢な女性の体が小刻みに揺れ、緩くウエーブのかかった栗色の髪が風もないのにふわりと舞い上がった。
そうして宙に舞った髪は、根元から一気に銀色に変化し、それは神々しいまでの光沢を放つ。
「ぁ……ああ……、すまないな、二人共。迎えに来てくれたのか」
いつもより低めの声でそう呟いた彼女は、ゆっくりと目を開ける。
その色は、銀。
リュセルとしての記憶のすべてを取り戻した彼女は、泣きそうな顔で自分の半身に手を伸ばした。
「すまない、レオン。また独りにしてしまった」
「リュセル」
再会を果たし、固く抱き合った兄弟を見ていた、ラビことジュリナは、大声で危険を訴える。
<ちょいと二人共、今はそれどこじゃないよ!>
ジュリナの声に反応したレオンハルトは、リュセルの体を横抱きに抱き上げ、スノーデュークの攻撃を間一髪避けた。そして、レオンハルトが屈んだ隙に、ジュリナは小さなうさぎの体を彼の肩上に落ち着かせる。
<リュセル、どこか水のある所はないのかい!?>
ラビの口を借りて聞こえるジュリナの声。それを聞いたリュセルは頷き答えた。
「一階に、小さな噴水というか、水のモニュメントみたいなのがある」
その言葉を聞いたレオンハルトは、繰り出されるスノーデュークの攻撃を避けながら店内を走り抜けると、モール側一階から三階まで、吹き抜けになっている中央部分に辿り着く。
タンッ
軽い音を立てて柵を飛び越えると、一気に一階へと飛び降りる。
「ひいいいいいいっ!」
<ふおおおおおおッ!>
成人女性とうさぎの体を抱えたまま、見事一階に着地したレオンハルトは、訪れた客達の憩いの場になっている、広場の中央にある噴水の中に勢いをつけて飛び込む。
バッシャーーーーンッ
音を立てて飛び込んだ二人+一羽の体は、水の中に深く沈んでいった。
噴水の底の浅さを考えると信じられないような深さである。
水の中、リュセルの体をしっかりと抱きかかえていたレオンハルトは、抱えていた体がゆっくりと変化していくのを見た。
肩先まであった髪は段々と短くなっていき、手足も身長も徐々に長く、伸びやかになっていく。柔らかな曲線を描いていた体は固い筋肉に覆われ、華奢だった体はたくましいものに変わっていった。
着ていた制服もあっという間に消え失せ、産まれたままの姿になっていたリュセルは、落ち行く水の中、がむしゃらに追って来ようとするスノーデュークに目を向け、その後ろに広がる、先程までいた世界の事を想う。
お父さん、お母さん、祐樹、ミーコ、みんな。
みんな、ありがとう。
ずっと想っている。今度は忘れない。
皆が幸せであるように、ずっとずっと祈っているよ。
ありがとう
さようなら
綾香を守り、育んでくれていた人達。
そう思ったと同時だった。
ーようやったな、吾子。試練は終了じゃー
レイデュークの優しい声が脳裏に響き、ずっと保留状態だった自分の試練が終了した事を悟った。
……という事は。
リュセルは水の中、声を使わずにそれを使用する。
ー愛し子達よー
祈りの詩が発動された事を悟ると同時に、スノーデュークの動きは緩慢なものになった。
ーその目に映るは未来という光のみ
その魂は石のごとく揺るぎがない
光と闇の祝福を受けしその心ー
姉上、姉上、愛してるんだ、愛してるんだ
ー彼らが戦うは
尊いものを守るため
愛しいものを救うためー
どうして拒絶するの?
どうして一緒にいてくれないの?
ー身を焦がすような闇の渦
悲哀をともなう心の痛み
彼らが挑むは酷なれど
希みは決して絶たれはしないー
これが最後のチャンスだったんだ。姉上と僕が一緒になれる、最後のチャンス。
激しい揺れの中、今度は無数のヒビが壁に入るのを綾香は目の当たりにする。
(ちょッ、もう立ってられない!)
立っていられずに、その場に膝ををついた綾香は、恐怖の中、近づいて来る青年を見つめていた。
掴まってしまう!
絶望の中、そう思った瞬間、近くで声がした。
<な~に、しゃがみこんでるんだい、馬鹿だねぇ。早く立ちな!>
強烈な印象の女性の声だ。
「え?」
キョロキョロと周りを見回すが、声の主は見つからない。
<どこ見てるんだい!? 下だよ、下>
言われた通り目線を下に移すと、そこにいたのは、一羽のうさぎ。茶色に白が入ったブチ柄の……。
「ラビ!?」
何故、うちの飼いうさぎがこんなところに!? しかも、しゃべった?
綾香が驚愕している前で、ラビは隣の階段を指示した。
<ともかく、早く逃げるんだ。奴が来るよ。>
(????)
綾香は意味も分からぬままラビを抱え上げ、階段を駆け上がり、やみくもに走った。
<もうすぐレオンハルトの奴が来るから、それまで持ちこたえな>
レオンハルト……?
誰の事だろうか? 名前からして外国人のようだが。
ただ何故か、その響きがひどく懐かしい。
「斎藤さん、どこに行っていたの!? 早くお客様を誘導するのを手伝って!」
気づいたら、自分の職場まで戻って来ていたらしい。遠くで自分を呼ぶ上司の声が聞こえる。
「ダメです! みんな、早く逃げて!」
「邪魔だなぁ」
綾香の叫び声に重なるようにして、すぐ横で雪村の声がした。
声と共に、売り場にあった棚が、風に吹き飛ばされるようにして倒されていく。
ダーーーンッ
ガターーーーーーーーンッ
「キャアアアアアッ」
「いやああああああああッ」
けたたましい音と共に悲鳴が響き、店内は正に阿鼻叫喚の図になってしまう。
「主任ッ!」
そんな中、綾香は全力で駆けて行き、棚の下敷きになりそうになった上司に体ごと体当たりして、直撃を免れさせる。
<この世界は、私達の世界とは違う! いくら神であるお前でも干渉の許されない世界だ。もう止めろ、スノーデューク!>
ラビが綾香の前に立ち、庇うようにしてそう言い放つ。
「なんか、全然その子の心を操れないと思ったら、君が媒体を送り込んでたのか。それこそ、こちらの世界への干渉になるんじゃないの?」
今までラビを通して綾香を守っていた彼女は、いつものように不敵に笑う。
<こいつがここにいる事自体がイレギュラーなんだ。それを元に戻す為に動いてるんだから、これ位許されるはずさ>
「斎藤さん! 主任も、早く店を出ましょう! お客様の誘導終了次第、私達も外に出るようにって指示が出てます!」
その間にも、勤務中だった同僚達が集まってきて、綾香は足を軽くひねった様子の主任を彼女達に預ける。そして、そんな彼女達を守るように、綾香は両腕を広げ、雪村の前に立ち塞がった。
「あなたには分からないでしょうね。ここは私を育ててくれた大切な場所。大切な世界。もう一つの私の故郷(ふるさと)。あなたに壊す権利などありはしない!」
「…………こんな世界が? この世界は、向こう以上に悲惨じゃないか。人間同士で争って、傷つけあって、殺し合って。親が子を殺し、子が親を殺す。他人を妬み、逆恨みし、騙し合う。ひどいねぇ。本当に醜い……醜悪な世界だ」
蔑むような、憐れむような声を聞き、綾香は一瞬声をつまらせる。
「そうだよ。この世界の人間は、向こうの世界の人間以上に弱い。……醜悪で脆弱だ。でも、だからこそ、たった一欠片でも誰の胸にも存在する、暖かな光が何よりも愛おしいんじゃないか!」
それでも負けずにそう言った綾香を見上げ、ラビは安心したように笑った。
その魂は、どこに在っても陰る事がない。
女であっても、男であっても、変わる事なくそこに在る。
「人間人間人間ッ! 姉上は、そればかりだッ! そんなに人間が好きなら、一緒に死んでしまえばいい!」
病んだような暗い目で綾香を凝視した雪村はそう叫び、紫電の光が綾香に向けて放たれた。
<やばい、リュセル!>
ラビの切羽詰まったような声が聞こえると同時に、彼女は咄嗟にその名を叫んでいた。
「レオンハルトーーーーーーッ!」
瞬間、白銀の光が周囲に満ち溢れ、綾香は眩しさから固く目を閉ざす。
<やれやれ、遅いよ。まったく>
ほっとしたような、呆れたようなラビの声がして、閉じていた目を開けた。
「リュセル」
いきなり目の前に現れた青年の顔を見上げ、綾香は驚きに目を見開く事しか出来ない。
背まで届くような長い胡桃色の髪。神々しい光を放つ金の瞳。雪のように肌は白く、唇は珊瑚のような色をしている。
見た事もないようなデザインの黒衣の衣装を着た、信じられない程に美しい男が目の前に立っていたのだ。
リュセル
その名を呼ばれた瞬間、綾香はそれが自分の名前であるのだと、本能的に理解した。
「…………」
無言のまま綾香の頬に片手を添えた青年に目を覗き込まれ、目の前の彼の背がとても高い事を知る。150cmに満たない自分からすると、目線を合わせるには、かなり上を見上げなくてはならなかった。
「誰?」
震える声で尋ねると、金の瞳の青年は不機嫌そうな顔をする。どこかで、同じようなやり取りをした事があるような気がした。
「私の名は、レオンハルト・レイデューク・アシェイラ。お前の兄で、半身だよ」
青年は静かな声でそう言うと、ゆっくりと優雅に腰を折り、茫然と立っている綾香の顔に顔を寄せる。
(あ……)
気づいたら、青年の端正な顔が目の前にあり、唇と唇が触れているのが分かった。
(ぎゃああああああっ! この年になってあれだけど、ファーストキスだったのにぃぃ!)
内心、そう悲鳴を上げた瞬間。
綾香の中を一陣の風が吹き抜けるように、大きな記憶の波が押し寄せる。
「……ぁあ」
触れるだけの口づけを終えると、レオンハルトが抱く華奢な女性の体が小刻みに揺れ、緩くウエーブのかかった栗色の髪が風もないのにふわりと舞い上がった。
そうして宙に舞った髪は、根元から一気に銀色に変化し、それは神々しいまでの光沢を放つ。
「ぁ……ああ……、すまないな、二人共。迎えに来てくれたのか」
いつもより低めの声でそう呟いた彼女は、ゆっくりと目を開ける。
その色は、銀。
リュセルとしての記憶のすべてを取り戻した彼女は、泣きそうな顔で自分の半身に手を伸ばした。
「すまない、レオン。また独りにしてしまった」
「リュセル」
再会を果たし、固く抱き合った兄弟を見ていた、ラビことジュリナは、大声で危険を訴える。
<ちょいと二人共、今はそれどこじゃないよ!>
ジュリナの声に反応したレオンハルトは、リュセルの体を横抱きに抱き上げ、スノーデュークの攻撃を間一髪避けた。そして、レオンハルトが屈んだ隙に、ジュリナは小さなうさぎの体を彼の肩上に落ち着かせる。
<リュセル、どこか水のある所はないのかい!?>
ラビの口を借りて聞こえるジュリナの声。それを聞いたリュセルは頷き答えた。
「一階に、小さな噴水というか、水のモニュメントみたいなのがある」
その言葉を聞いたレオンハルトは、繰り出されるスノーデュークの攻撃を避けながら店内を走り抜けると、モール側一階から三階まで、吹き抜けになっている中央部分に辿り着く。
タンッ
軽い音を立てて柵を飛び越えると、一気に一階へと飛び降りる。
「ひいいいいいいっ!」
<ふおおおおおおッ!>
成人女性とうさぎの体を抱えたまま、見事一階に着地したレオンハルトは、訪れた客達の憩いの場になっている、広場の中央にある噴水の中に勢いをつけて飛び込む。
バッシャーーーーンッ
音を立てて飛び込んだ二人+一羽の体は、水の中に深く沈んでいった。
噴水の底の浅さを考えると信じられないような深さである。
水の中、リュセルの体をしっかりと抱きかかえていたレオンハルトは、抱えていた体がゆっくりと変化していくのを見た。
肩先まであった髪は段々と短くなっていき、手足も身長も徐々に長く、伸びやかになっていく。柔らかな曲線を描いていた体は固い筋肉に覆われ、華奢だった体はたくましいものに変わっていった。
着ていた制服もあっという間に消え失せ、産まれたままの姿になっていたリュセルは、落ち行く水の中、がむしゃらに追って来ようとするスノーデュークに目を向け、その後ろに広がる、先程までいた世界の事を想う。
お父さん、お母さん、祐樹、ミーコ、みんな。
みんな、ありがとう。
ずっと想っている。今度は忘れない。
皆が幸せであるように、ずっとずっと祈っているよ。
ありがとう
さようなら
綾香を守り、育んでくれていた人達。
そう思ったと同時だった。
ーようやったな、吾子。試練は終了じゃー
レイデュークの優しい声が脳裏に響き、ずっと保留状態だった自分の試練が終了した事を悟った。
……という事は。
リュセルは水の中、声を使わずにそれを使用する。
ー愛し子達よー
祈りの詩が発動された事を悟ると同時に、スノーデュークの動きは緩慢なものになった。
ーその目に映るは未来という光のみ
その魂は石のごとく揺るぎがない
光と闇の祝福を受けしその心ー
姉上、姉上、愛してるんだ、愛してるんだ
ー彼らが戦うは
尊いものを守るため
愛しいものを救うためー
どうして拒絶するの?
どうして一緒にいてくれないの?
ー身を焦がすような闇の渦
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彼らが挑むは酷なれど
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