【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十六章 闇射す光

3-3 敵アジトへの侵入

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 無言のレオンハルトを不思議に思い、リュセルが小首を傾げていると、先を歩いていたジュリナが呼ぶ声が夜の砂漠に響いた。

「お~い、そこの馬鹿兄弟! 置いて行くぞ~~~~~!」

 ジュリナの言葉を聞いたリュセルは、レオンハルトの手を握ったまま歩き出す。

「行くぞ、置いていかれてしまう」

「…………」

 相変わらず無言な兄の手を勝手に引っ張って、リュセルは先を行く同胞達の背を追った。



 どこまでも続く白砂漠。真っ白な世界の中周囲を漂うのは、眩暈をおこす程の強い神気。創世の女神、レイデュークの力の名残である。

「しかし、敵もこんな強い神気の中によくアジトを作ろうと思ったよな。ここって、邪鬼達にとっては、セイントクロス神殿と同等に、近づく事も出来ない禁忌の地だろう?」

 周囲を見回しながらのジュリナの言葉にリュセルも頷く。

「邪鬼からすれば、ここの空気は猛毒にも等しいだろうからな。どうやってこんな場所にアジトを築けたのかは謎だが、もしかすると、絶対ここにはありえないという俺達の裏をかいたのかもな」

「確かに、こんな場所に邪神のアジトがあるとは思いませんものね」

 宝鍵として感知能力に秀でるティアラは、周囲を漂う神気の濃密さに眉根を寄せた。

 唯人と違い、神子である自分達は、ここの強過ぎる神気に対して何の影響もないが、普通の人間だったら一分たりともいる事は出来ないだろう。良くて発狂、悪ければ廃人になるか死んでしまう。

「あ、見て、オアシスがあるよ」

 進む先に泉を見つけたローウェンは、アルティスの手を引っ張り、駆け出す。

「……リュセル様」

「ええ、ティアラ姫」

 感知能力の高い宝鍵として、その泉の異常性に気付いたティアラはリュセルに厳しい視線を向け、それを受けたリュセルは小さく頷く。

 そして、目線で状況を尋ねる兄にリュセルは伝えた。

「あそこが入り口のようだ」



 真っ白な砂漠の中に不意に出現した泉の水は美しく、周囲には瑞々しい草木が生い茂っている。

「ドラゴンの森で見たのよりずっと小さいケド、これって、レイデの木だよね」

 泉の周囲の木々に目を向けていたローウェンの言葉通り、その独特な香りと形をした木は、神木として尊ばれているレイデの木だった。

「これだけ神気の強い場所だからな。砂漠の中ではあるが、自然に生えたのだろう」

 弟の言葉にそう答えたアルティスは、レイデの木々に囲まれた問題の泉の中央から感じる邪気に目を細める。

「中央から邪気を感じるな」

 場所が泉の真ん中である事から、ジュリナは懐から女神の鏡を取り出し、ティアラに呼びかけた。

「おいで、ティア」

「はい、お姉様」

 姉の呼びかけにティアラが応え、その右手を鏡にかざした瞬間、周囲に白銀の光があふれる。

「”封印光布”」

 同化したジュリナの口を借りてティアラが技を発動させると、両手で掲げ持つ鏡から不可思議な紋様が描かれた光布が飛び出し、それは泉の中央まで一気に伸びる。

「行くよ」

 封印光布で簡易的な橋を形成したジュリナがそれを渡り、リュセル達も足早に続く。そのまま泉の中央まで辿り着くと、リュセルとアルティスは前方に両腕を伸ばす。レオンハルトとローウェンには、何も見えないし感じられない程の微弱な邪気。ティアラと同化し、感知能力の上がっているジュリナには、リュセルとアルティスが手を伸ばした先に入口がある事が分かった。

「閉まっておるな。開けられそうか?」

「やってみる」

 試練の塔で体験した、様々な神々の部屋からの脱出のやり方と原理は似ている。感知能力で見つけた入口の扉を無理矢理にこじ開けるのだ。

「うう、もう……少しッ」

 額に汗をかいたリュセルがそう唸ると、周囲に風が吹き荒れた。

 ゴオオオオオオオッ

「俺では応用が効かず、視覚化が出来ない。アルティスッ!」

「承知」

 名を呼ばれたアルティスは感知能力を応用させ、リュセルが開いたそれを視覚化し、誰にでも見えるようにする。

 そうして現れたのは、人一人が通れる程の大きさの、ぽっかりと空いた闇。まるで、そこだけファスナーで縦に穴を開けたかのように楕円の形をしている。

「この中に、スノーが……」

 ぽっかりと開いた闇を見つめ、そう呟いたリュセルに対し、腰から下げていた女神の剣を目の前に掲げたレオンハルトが呼びかける。

「来い、リュセル」

「ああ」

 中がどのような状態になっているか分からない以上、最初から同化していた方がいい。

「来て、アルティス」

「承知」

 その場に白銀の光が溢れ、リュセルとレオンハルト、ローウェンとアルティスは、ジュリナ達と同じように同化を果たした。

 そうして六人から三人になった彼らは、仲間の顔を確認し合い、小さく頷く。

 この先何が待ち構えているのかまったく分からない。果たして戻って来られるのか……? 先程から緊張に体が強張っているのを感じる。恐怖故にだ。しかし、自分達に”行かない”という選択肢はない。
 行かないと、戦わないと、自分達の大切なもの、いや、自分だけではない、この世界を生きるすべての者の大切なものが奪われてしまう。

 それらを守る為に、戦い、討たなくては……。

「……ッ」

 翠緑の髪の青年の面影を、リュセルは脳裏から無理矢理に追い出す。彼の中では、今だ迷いが捨てられずにいたのである。



*****



「ここは……」

 そこは、僅かな光のみが射す大きな暗闇の世界だった。光の根源は、壁に設置されたランプに灯された紫色の炎だ。

「邪神の火か」

 異空間への入口を抜けた途端、結構な大きさの、広間らしき場所に出たリュセル達は、邪神どころか邪鬼が一鬼もいない現状に少々拍子抜けをしていた。

 そんな中、周囲を薄明るく照らす炎の存在に気づいたレオンハルトがそう言ったのである。

「邪神の火?」

 ローウェンの問いかけに、今度はレオンハルトと同化したリュセルが答える。

「スノーデュークの力の片鱗だ。レイデュークの記憶内の奴は、紫電の雷と闇の炎を操るのが得意だったようだからな。その代り、詩はレイデュークと違い不得手だったようだ。詩えなくはないみたいだが……。しかしこの火、弱過ぎるな」

 周囲を照らしてはいるが、この火の根源は闇の力。その弱さに気づいたリュセルは目を閉じ、感知能力を使ってこの異空間内を軽く探索した。

「スノーは、既にもう、ここにはいないのかもしれない」

 邪神の気配も邪鬼の気配も感じられない。周囲を覆う邪気は、今まで邪神がいた名残なのだろうか?

「邪神はいなくても、その行方の手掛かりはあるかもしれない。せめてそれを探そうじゃないか。ここまで来て意味がないなんて冗談じゃないよ」

 リュセルの言葉を聞いたジュリナは、自分の朱金の髪をかき混ぜながら、苛々とそう言った。

「ジュリナ殿の言う通りだ。それに急いだ方がよい。なんだか、ここは長くもたない気がするぞ」

 主のいなくなったこの空間が、かなり不安定になっている事を感じ取ったアルティスは、そう言って眉をひそめる。

「では、行くよ」

 そう言ったレオンハルトが先を行き、その後ろをローウェン、後ろをジュリナが行く。周囲を警戒しながら広間を横切り、その後に現れたいくつかの部屋を調べた。この異空間は邸のような造りになっているようで、部屋数もそれなりに多い。ただ、部屋が使われていたかどうかは、あまりの生活感のなさから不明だったが……。

「何もないね~。あれ? 階段がある。地下室があるみたいだよ、レオンハルト兄さん」

 邪神への手がかりが何も掴めないのかと焦り始めた頃、ローウェンが最初の広間の隅にある階段を見つけた。

 しかし、その階段を見つけた瞬間、心臓が締め付けられるように痛んだ。ローウェンの痛みではない。これは宝鍵であるアルティスの痛みだ。

 嫌な予感がした。とてもとても、嫌な気持ちだ。

 それは、ローウェンの後ろに立つレオンハルトとジュリナも同じだったらしく、自分の中に同化した弟妹達の感情がひどく揺らいでいるのを感じていた。

 ルルドの木に侵されたサンジェイラのメルティス前王を前にした、あの時のような不快感。いや、あれ以上に気分が悪い。

 言い知れぬ恐怖。

 リュセルはそれらを気力で抑えると、階段を下った。ジュリナとローウェンもそれに続く。



「…………」

 階段を下りた先に在るのは、鳥籠の形をした牢だった。

「何……、これ」

 無言のままのレオンハルトの横で、ローウェンはそう呻き声を上げる。

「……誰の血だい? こりゃあ」

 さすがのジュリナも顔色を悪くして、その場に片膝をついた。

 牢の中。

 そこは真っ赤に染まっていた。

 床を濡らすおびただしい量の血液で……。

「やめろッ!」

 レオンハルトの中で、その場で起きた事を感知していたリュセルは、ジュリナが床の血液に触れようとするのを咄嗟に防いだ。

 こんな光景、ティアラに見せてはならない!

「レオンハル……、リュセル?」

 自分を止めたのが幼なじみではなく、その弟である事を悟ったジュリナは、目の前の傾国の美貌に浮かぶ大量の汗に気づいた。

 金色に変化した瞳は大きく見開かれ、ここではない何かを映し出しているようだ。

「あ……、ジュリナ、殿」
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