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第十六章 闇射す光
5-1 サンジェイラ王都の変異
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その後、すぐにリュセル達はビゼンテの街を発った。
連れてきた四頭の魔道馬の内三頭を使い、それぞれ半身ずつのペアで夜道を全力で駆ける。
猶予は一刻もない為、夜目が効き、運動能力の高い宝主が手綱を握り、宝鍵達はそのスピードに振り落とされないように、ただただ、目の前の半身の体にしがみ付く。昼夜問わず駆け続ける三頭の馬を見た民達は、何か起きたのかと不思議に思うに違いない。しかし、行きの旅と違い、その事に配慮している余裕が六人にはまったくなかったのだ。
そのおかげで、サンジェイラ王都への帰還は行きの旅の半分の日程で成し遂げる事が出来たのだった。
もうすぐ王都の門が見えてくる。その瞬間、リュセルは懐に忍ばせていた聖銃を空に向けて撃った。
ダアアアアアァァァンッ
銃を撃った音が響くのを聞いたジュリナとローウェンは、驚きに目を見開く。
「リュセル!?」
「リュセル兄さんッ?」
その時
「避けろッ!」
レオンハルトの声が響くとほぼ同時に、空から大きな鳥のような邪鬼が落ちてくる。
大きな地響きと共に地面に落ちてきた邪鬼を咄嗟に避ける事に成功した彼らは、自分達の上を飛ぶ鳥型の邪鬼に気づく。鳥型の邪鬼だけではない、いつの間に囲まれていたのだろうか、獣型の邪鬼も襲い掛かってくる。
「ローウェン!」
レオンハルトの声を聞いたローウェンは、器用に馬を操りながら玉を掲げる。
「来て、アルティス!」
「承知」
兄と同化し、女神の玉を解放させたローウェンは、大きな声で叫んだ。
「さあ、浄化の時間だよ!」
掲げた玉を中心に周囲を白銀の光が包みこみ、六人を囲んでいた邪鬼達は一瞬で浄化される。
しかし
「まったく、キリがないね」
すぐに別の邪鬼が自分達に気づき、集団で襲い掛かってくるのだ。
広範囲の邪鬼を祓う事の出来る玉の力を使うが、これではキリがなく、目と鼻の先にある王都に辿り着くのが困難である。
「おいで、ティア」
「はい、お姉様」
玉の兄弟に引き続き、鏡の姉妹も同化を果たし、王都への道を無理やりに繋げる事にした。
「”封印光布”」
女神の鏡から現れ出でた光の布に、邪鬼が触れる事は不可能である。その上を魔道馬で駆け、滑り込むようにして門を潜り抜ける。
驚いた事に、王都周辺にはあんなにもたくさんいた邪鬼が内に入ると姿が見受けられなかった。
「え……? 邪鬼がいるのって王都の周辺だけで、中にはいないの?」
ローウェンは驚きの声を上げ、周囲を漂う邪気に眉根を寄せる。アルティスと同化し感覚の上がった今のローウェンには、その濃密さがよく分かった。
「ある意味、邪鬼が溢れている外よりもひどい状態だ」
口元を片手で覆いそう言ったジュリナは、隣のまだ未同化の兄弟に目を向ける。
「念の為、お前達も同化していた方がいいんじゃないか?」
感覚の鋭いリュセルを慮ってと、いつ邪鬼に襲われるかもしれない事態故の提案だったが、その言葉を聞いているのかいないのか、リュセルは真っ青な顔色のままじっと一点を凝視しているようだった。
「リュセル?」
ジュリナはその名を読んだ後、今度は馬の手綱を握る兄の方に視線を移す。
「…………」
レオンハルトも無言のまま、リュセルとは別の方向を凝視している。兄弟の視線の先に在るのは別々の人影だった。
「逃げ遅れの民か!?」
慌ててローウェンの意識の前に出て馬から降りたアルティスは、リュセルの視線の先にいる門番らしき中年の兵士へと近づく。
そして、気づく。
それは、石像だったのだ。
「え? 何これ。こんな場所に、こんな石像あったっけ?」
「石像じゃない」
同じように馬を降り、ローウェン(アルティス)の隣に移動していたリュセルが、顔を強張らせたまま、目の前の石の像に触れ、固く目を閉じる。
感知能力を使用し、それを探ると、力強い鼓動がそれの中で響いているのが分かった。
「これは、生きた人間だ」
リュセルはそう言いながら、嫌な予感が全身を覆うのを感じていた。
かつて活気に溢れていた市場。
学生達が勉学に励むトラキアの学塔。
美しき夜の蝶達が男達を魅了する歓楽街。
巨大な複合店(デパート)、デコレート商会のサンジェイラ支店。
神子に仕える聖職者達のいるサンジェイラ神殿。
サンジェイラ中を三手に別れて走り回り、誰か無事な者はいないかと探したが、王都に暮らすすべての国民は石像と化していた。
「駄目だ。こっちには無事な人間は一人もいない。そっちは?」
サンジェイラ神殿方面を見て来たジュリナはそう言うと、デコレート商会サンジェイラ支店内を見回って来たレオンハルトに目を向ける。
「こちらも、皆石化している。トラキアの学塔はどうだったんだい、ローウェン。……ローウェン?」
話しかけられたローウェンは、真っ青な顔色のまま驚きに目を見張り、慌てて答える。
「こ、こっちも動いている人は一人もいなかった……よ」
学友達が石像になってしまっているのを目の当たりにしたローウェンは、動揺を隠せず、目が涙で潤んでいる。
「気持ちは分かるがしっかりおし、ローウェン」
「う、うん。ごめんなさい、ジュリナ姉さん」
トラキアの学塔の同級生。クリス、ミリィ。図書室にいた二人は、読書の姿勢のまま石化していたのだ。
ただ、忍の頭領であるというクリスは異変を察知したのだろう。顔を上げ、鋭い目を図書室の窓に向けていた。
「窓……。外に何か見えたのであろうか。それとも、何かが聞こえたのか?」
クリスの石化の様子を同胞達に告げた後、街を調べる為に弟との同化を解いていたアルティスがそう呟く。
「聞きたい本人が石になってしまっているんじゃ、どうしようもないよ」
ローウェン達と違い、ティアラとの同化を解いていないらしいジュリナが、そう言ってリュセルの方に目を向ける。
「どうだい? 何か感じるかい?」
固く目を閉じ、周囲を漂う濃密な邪気を感知しているリュセルに尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「邪鬼の気配はまったく感じないんだ」
「は!? こんなにも濃い邪気が漂っているじゃないか!」
ジュリナの言葉を聞くと、リュセルは固く閉じていた目を開け、首を傾げる。
「俺にもよく分からない」
現代の女神の子供の中で最も感知能力の高いリュセルが分からないのでは、分かる者はこの世にいない。戸惑う同胞達の中、一人冷静に周囲を警戒していたレオンハルトは言った。
「ともかく、サンジェイラ城に行くしかあるまい」
街中の状態を見る限り、王宮内で無事な人間を見つける事は不可能に近いであろう事を、皆、言葉にはしないが悟っていた。
王宮に勤める侍女や兵士。
我が物顔で王宮を闊歩する王宮貴族達。
後宮に住まう前王の側室、兄弟姉妹達。
「サクラ……サクラァッ」
妹の石像に縋り付き、嗚咽を漏らすローウェンを支えながら、アルティスも冷たい石と化した妹の丸い頬を撫でる。
国元を離れている兄姉の無事を祈っていたのだろうか。サクラは両手を祈りの形に組み、王宮内にある女神像の前で両膝をついていた。
「くそっ、一体どうなっているんだ?」
その様子を見ていたリュセルは、両手を固く握りしめながらそう呟く。
「先程見た謁見の間にも、執務室や会議室にもアサギ王はいなかったが、王はどこにいるのだろうか」
レオンハルトのその疑問に答えたのは、青白い顔をしたアルティスだった。
「今の時期、ちょうど”育成会”が行われておるはず……」
「「育成会?」」
おうむ返しに返したジュリナとリュセルに頷き、アルティスはアサギの代になってから始まったそれについて説明する。
「月に一度、王が城に王都や周辺の街や村に住まう貧しい家の子や孤児院の孤児達を招いて食事会を行っておるのだ。定例通りなら中庭で行われるだろう。行くぞ、ローウェン」
「うんッ……うん。絶対元に戻すから。待ってて、サクラ」
最後に妹の小さな体を一度抱きしめたローウェンと同じように、アルティスもその石の頬に口づける。
「寂しいかもしれぬが、辛坊しておくれ」
そうして、妹の変わり果てた姿にショックを受けていた二人を中庭で待ち受けていたのは、同じように変わり果てた姿になった兄王の姿だった。
「兄上ッ……兄上、兄上!」
王として、この会の主催として、中庭に設けられた会場のメイン席に着くアサギは、優しい微笑みを浮かべ、じっと前を見つめている。
その一段下の席に、イズミ、シオン、レティシア元王妃の姿があり、そのまた一段下に、アサギが迎えた二人の側室の姿が在った。
兄王の膝に縋って泣きじゃくるローウェンの背をさすりながら、リュセルはアサギが見ている先、その視線が気になった。
石像になった他の者も皆、一様に中庭の中心を見つめている。
レオンハルトもジュリナもそれを察したのだろう。石像と化した人々の視線の向かう場所に目を向けるが、そこには何もない。
元はおいしそうであっただろうテーブルの上の食事は、時間の経過と共に、もはや食べ物ではなくなってしまっており、飾られた花々もしおれている。
そんな中、まるで微笑ましい何かを見つめるような表情で、王族達は笑っていた。
集められた子供達も皆楽しそうに笑っており、食べたこともないようなおいしそうな食事に目を輝かしているのがよく分かる。
そんな子供達も、王族達と同じように中庭の中心を見つめていた。
「失礼します、アサギ王」
石像と化したアサギの頬を両手で挟み、リュセルは自分の額で相手の額に軽く触れる。
瞬間
脳裏に響いたのは
闇の詩。
邪神を称える子供達の声。
ー我ら闇の子ー
不可思議な旋律の、聞いた事もないような言葉。
ーすべてに響く安らぎの
すべてを覆う慈しみの
我らの心は悲哀に溢れるー
それは、嘆き。
闇の神に捧げる”嘆きの詩”。
ー宿命の渦に捕らわれて
逃れられぬ運命(さだめ)恨みぬくー
闇の子供達が、嘆きの詩を詩っている。
ー安息の闇を従えて
黒銀の風を追い風にー
リュセルッ!
心の奥底へと届くような力強い声を聞き、嘆きの詩に支配されかけたリュセルの精神は、一気に現実へと呼び戻される。
「…………レオン」
連れてきた四頭の魔道馬の内三頭を使い、それぞれ半身ずつのペアで夜道を全力で駆ける。
猶予は一刻もない為、夜目が効き、運動能力の高い宝主が手綱を握り、宝鍵達はそのスピードに振り落とされないように、ただただ、目の前の半身の体にしがみ付く。昼夜問わず駆け続ける三頭の馬を見た民達は、何か起きたのかと不思議に思うに違いない。しかし、行きの旅と違い、その事に配慮している余裕が六人にはまったくなかったのだ。
そのおかげで、サンジェイラ王都への帰還は行きの旅の半分の日程で成し遂げる事が出来たのだった。
もうすぐ王都の門が見えてくる。その瞬間、リュセルは懐に忍ばせていた聖銃を空に向けて撃った。
ダアアアアアァァァンッ
銃を撃った音が響くのを聞いたジュリナとローウェンは、驚きに目を見開く。
「リュセル!?」
「リュセル兄さんッ?」
その時
「避けろッ!」
レオンハルトの声が響くとほぼ同時に、空から大きな鳥のような邪鬼が落ちてくる。
大きな地響きと共に地面に落ちてきた邪鬼を咄嗟に避ける事に成功した彼らは、自分達の上を飛ぶ鳥型の邪鬼に気づく。鳥型の邪鬼だけではない、いつの間に囲まれていたのだろうか、獣型の邪鬼も襲い掛かってくる。
「ローウェン!」
レオンハルトの声を聞いたローウェンは、器用に馬を操りながら玉を掲げる。
「来て、アルティス!」
「承知」
兄と同化し、女神の玉を解放させたローウェンは、大きな声で叫んだ。
「さあ、浄化の時間だよ!」
掲げた玉を中心に周囲を白銀の光が包みこみ、六人を囲んでいた邪鬼達は一瞬で浄化される。
しかし
「まったく、キリがないね」
すぐに別の邪鬼が自分達に気づき、集団で襲い掛かってくるのだ。
広範囲の邪鬼を祓う事の出来る玉の力を使うが、これではキリがなく、目と鼻の先にある王都に辿り着くのが困難である。
「おいで、ティア」
「はい、お姉様」
玉の兄弟に引き続き、鏡の姉妹も同化を果たし、王都への道を無理やりに繋げる事にした。
「”封印光布”」
女神の鏡から現れ出でた光の布に、邪鬼が触れる事は不可能である。その上を魔道馬で駆け、滑り込むようにして門を潜り抜ける。
驚いた事に、王都周辺にはあんなにもたくさんいた邪鬼が内に入ると姿が見受けられなかった。
「え……? 邪鬼がいるのって王都の周辺だけで、中にはいないの?」
ローウェンは驚きの声を上げ、周囲を漂う邪気に眉根を寄せる。アルティスと同化し感覚の上がった今のローウェンには、その濃密さがよく分かった。
「ある意味、邪鬼が溢れている外よりもひどい状態だ」
口元を片手で覆いそう言ったジュリナは、隣のまだ未同化の兄弟に目を向ける。
「念の為、お前達も同化していた方がいいんじゃないか?」
感覚の鋭いリュセルを慮ってと、いつ邪鬼に襲われるかもしれない事態故の提案だったが、その言葉を聞いているのかいないのか、リュセルは真っ青な顔色のままじっと一点を凝視しているようだった。
「リュセル?」
ジュリナはその名を読んだ後、今度は馬の手綱を握る兄の方に視線を移す。
「…………」
レオンハルトも無言のまま、リュセルとは別の方向を凝視している。兄弟の視線の先に在るのは別々の人影だった。
「逃げ遅れの民か!?」
慌ててローウェンの意識の前に出て馬から降りたアルティスは、リュセルの視線の先にいる門番らしき中年の兵士へと近づく。
そして、気づく。
それは、石像だったのだ。
「え? 何これ。こんな場所に、こんな石像あったっけ?」
「石像じゃない」
同じように馬を降り、ローウェン(アルティス)の隣に移動していたリュセルが、顔を強張らせたまま、目の前の石の像に触れ、固く目を閉じる。
感知能力を使用し、それを探ると、力強い鼓動がそれの中で響いているのが分かった。
「これは、生きた人間だ」
リュセルはそう言いながら、嫌な予感が全身を覆うのを感じていた。
かつて活気に溢れていた市場。
学生達が勉学に励むトラキアの学塔。
美しき夜の蝶達が男達を魅了する歓楽街。
巨大な複合店(デパート)、デコレート商会のサンジェイラ支店。
神子に仕える聖職者達のいるサンジェイラ神殿。
サンジェイラ中を三手に別れて走り回り、誰か無事な者はいないかと探したが、王都に暮らすすべての国民は石像と化していた。
「駄目だ。こっちには無事な人間は一人もいない。そっちは?」
サンジェイラ神殿方面を見て来たジュリナはそう言うと、デコレート商会サンジェイラ支店内を見回って来たレオンハルトに目を向ける。
「こちらも、皆石化している。トラキアの学塔はどうだったんだい、ローウェン。……ローウェン?」
話しかけられたローウェンは、真っ青な顔色のまま驚きに目を見張り、慌てて答える。
「こ、こっちも動いている人は一人もいなかった……よ」
学友達が石像になってしまっているのを目の当たりにしたローウェンは、動揺を隠せず、目が涙で潤んでいる。
「気持ちは分かるがしっかりおし、ローウェン」
「う、うん。ごめんなさい、ジュリナ姉さん」
トラキアの学塔の同級生。クリス、ミリィ。図書室にいた二人は、読書の姿勢のまま石化していたのだ。
ただ、忍の頭領であるというクリスは異変を察知したのだろう。顔を上げ、鋭い目を図書室の窓に向けていた。
「窓……。外に何か見えたのであろうか。それとも、何かが聞こえたのか?」
クリスの石化の様子を同胞達に告げた後、街を調べる為に弟との同化を解いていたアルティスがそう呟く。
「聞きたい本人が石になってしまっているんじゃ、どうしようもないよ」
ローウェン達と違い、ティアラとの同化を解いていないらしいジュリナが、そう言ってリュセルの方に目を向ける。
「どうだい? 何か感じるかい?」
固く目を閉じ、周囲を漂う濃密な邪気を感知しているリュセルに尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「邪鬼の気配はまったく感じないんだ」
「は!? こんなにも濃い邪気が漂っているじゃないか!」
ジュリナの言葉を聞くと、リュセルは固く閉じていた目を開け、首を傾げる。
「俺にもよく分からない」
現代の女神の子供の中で最も感知能力の高いリュセルが分からないのでは、分かる者はこの世にいない。戸惑う同胞達の中、一人冷静に周囲を警戒していたレオンハルトは言った。
「ともかく、サンジェイラ城に行くしかあるまい」
街中の状態を見る限り、王宮内で無事な人間を見つける事は不可能に近いであろう事を、皆、言葉にはしないが悟っていた。
王宮に勤める侍女や兵士。
我が物顔で王宮を闊歩する王宮貴族達。
後宮に住まう前王の側室、兄弟姉妹達。
「サクラ……サクラァッ」
妹の石像に縋り付き、嗚咽を漏らすローウェンを支えながら、アルティスも冷たい石と化した妹の丸い頬を撫でる。
国元を離れている兄姉の無事を祈っていたのだろうか。サクラは両手を祈りの形に組み、王宮内にある女神像の前で両膝をついていた。
「くそっ、一体どうなっているんだ?」
その様子を見ていたリュセルは、両手を固く握りしめながらそう呟く。
「先程見た謁見の間にも、執務室や会議室にもアサギ王はいなかったが、王はどこにいるのだろうか」
レオンハルトのその疑問に答えたのは、青白い顔をしたアルティスだった。
「今の時期、ちょうど”育成会”が行われておるはず……」
「「育成会?」」
おうむ返しに返したジュリナとリュセルに頷き、アルティスはアサギの代になってから始まったそれについて説明する。
「月に一度、王が城に王都や周辺の街や村に住まう貧しい家の子や孤児院の孤児達を招いて食事会を行っておるのだ。定例通りなら中庭で行われるだろう。行くぞ、ローウェン」
「うんッ……うん。絶対元に戻すから。待ってて、サクラ」
最後に妹の小さな体を一度抱きしめたローウェンと同じように、アルティスもその石の頬に口づける。
「寂しいかもしれぬが、辛坊しておくれ」
そうして、妹の変わり果てた姿にショックを受けていた二人を中庭で待ち受けていたのは、同じように変わり果てた姿になった兄王の姿だった。
「兄上ッ……兄上、兄上!」
王として、この会の主催として、中庭に設けられた会場のメイン席に着くアサギは、優しい微笑みを浮かべ、じっと前を見つめている。
その一段下の席に、イズミ、シオン、レティシア元王妃の姿があり、そのまた一段下に、アサギが迎えた二人の側室の姿が在った。
兄王の膝に縋って泣きじゃくるローウェンの背をさすりながら、リュセルはアサギが見ている先、その視線が気になった。
石像になった他の者も皆、一様に中庭の中心を見つめている。
レオンハルトもジュリナもそれを察したのだろう。石像と化した人々の視線の向かう場所に目を向けるが、そこには何もない。
元はおいしそうであっただろうテーブルの上の食事は、時間の経過と共に、もはや食べ物ではなくなってしまっており、飾られた花々もしおれている。
そんな中、まるで微笑ましい何かを見つめるような表情で、王族達は笑っていた。
集められた子供達も皆楽しそうに笑っており、食べたこともないようなおいしそうな食事に目を輝かしているのがよく分かる。
そんな子供達も、王族達と同じように中庭の中心を見つめていた。
「失礼します、アサギ王」
石像と化したアサギの頬を両手で挟み、リュセルは自分の額で相手の額に軽く触れる。
瞬間
脳裏に響いたのは
闇の詩。
邪神を称える子供達の声。
ー我ら闇の子ー
不可思議な旋律の、聞いた事もないような言葉。
ーすべてに響く安らぎの
すべてを覆う慈しみの
我らの心は悲哀に溢れるー
それは、嘆き。
闇の神に捧げる”嘆きの詩”。
ー宿命の渦に捕らわれて
逃れられぬ運命(さだめ)恨みぬくー
闇の子供達が、嘆きの詩を詩っている。
ー安息の闇を従えて
黒銀の風を追い風にー
リュセルッ!
心の奥底へと届くような力強い声を聞き、嘆きの詩に支配されかけたリュセルの精神は、一気に現実へと呼び戻される。
「…………レオン」
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