402 / 424
第十六章 闇射す光
5-2 石化①
しおりを挟む
滝のような汗をかいたリュセルは、まるで悪い夢から覚めたかのような感覚だった。目の前で心配そうに胡桃色の眉をひそめる兄のたくましい腕の中に体を預け、ほっと息をつく。
「リュセル様」
いつの間に同化を解いたのか、心配そうにリュセルの額の汗をハンカチで拭うティアラに微笑みかけると、自分が感知した内容を同胞達に告げた。
「嘆きの詩が聞こえた。子供の声で……」
リュセルの言葉に、ジュリナはレオンハルトと目を合わせ、不思議そうに尋ねる。
「嘆きの詩? 私達が手に入れた詩の力の中に、そのような詩はなかったはずだよ」
「当たり前だ。これは、レイデュークの詩じゃない。スノーデュークの扱う唯一無二の詩の力だ。奴は詩を得意とするレイデュークと違い、詩は不得手だった。それ故に使えた詩の力は唯一つ。それが、嘆きの詩」
本来ならば、その心に闇の安息をもたらす嘆きの詩。
しかし、邪神と化したスノーデュークの力を元に詩われたそれは、違ったものに大きく変質してしまっている。
「この、サンジェイラ王都の人々の石化は、その、嘆きの詩が原因だっていうの?」
ローウェンが泣きそうな顔をしながらそう言うのを聞いたリュセルは、小さく首を振った。
「分からない」
子供の声で詩われた嘆きの詩。リュセルが感知した内容だけでは、人々を石化の状況から救う手立ては思いつかない。
レオンハルトに支えられながらようやく立ち上がる事が出来たリュセルは、アルティスが差し出してきた水筒の水を一気に飲み干す。
「とても嫌な予感がするのですが、これって、本当にサンジェイラ王都だけの問題なのでしょうか?」
リュセルの様子を心配そうにじっと見つめていたティアラが、ぽつりとそう呟く。
瞬間
「…………ッ!」
「レオンハルト!」
互いの目を見合わせたレオンハルトとジュリナは、共に同じ事を考えているようだった。
「他の街や村でももしかしたら……。え!? きゃあ! お姉様!?」
サンジェイラ王都近隣の街や村の心配をしていたティアラの体は、不意にジュリナの腕に抱きかかえられる。
「行くぞ、リュセル。お前達も来なさい!」
「うわっ、な、なんだ!?」
嘆きの詩の感知により、うまく歩けないリュセルの体を肩に抱き上げたレオンハルトは、呆然としているローウェンとアルティスを促す。
「う、うん」
「どこへ行くのだ、ジュリナ殿、レオンハルト殿?」
自分の半身を抱え上げ、急ぎ駆けるジュリナとレオンハルトにアルティスが問いかける。
「お前達は先に神殿本部へ戻りなさい。私達はそれぞれ、ディエラ王都とアシェイラ王都の様子を見に行く」
いつものように何もなかった壁に地下への入り口の階段を出現させたレオンハルトは、リュセルを肩に担いだまま、後ろを来る二人にそう説明した。
レオンハルトが話している間にも、焦っているらしいジュリナの姿は階段の奥に消えて行く。
「ディエラと、アシェイラの王都に……って、レオンハルト兄さん、まさか」
階段を駆け下り、女神像の間に辿り着くと白銀の光が溢れ、ジュリナとティアラの姿が転移装置の中央から消えた所だった。
「それを確認する為に行って来るんだよ。一度、ここ(サンジェイラ王都)の浄化は後回しにする。ここだけの問題ではない可能性が高いからだ。分かるね?」
レオンハルトの言葉を聞くと、ローウェンとアルティスは戸惑いながらも小さく頷く。
ここだけの問題ではない。それは、まさか。
目的地をアシェイラ王都に向けて転移装置を発動させたレオンハルトは、担いでいた荷物(リュセル)をようやく地面に下ろした。
「レオン……。まさか」
口には出来なかった。あまりにも恐ろしくて。言った事が本当になってしまいそうで、怖くて。
「リュセル兄さん、レオンハルト兄さん、気をつけて」
ローウェンの不安そうなその声を最後に、リュセルの視界は白銀に染まった。
静寂。
そこは
かつての賑わいが嘘のような静寂に支配されていた。
嫌な予感に思考を支配されながら訪れた故郷。
アシェイラ王都もまた、サンジェイラ王都と同じように闇の静寂に支配され、人々はその姿を石像へと変貌させていた。
……これが、現実だった。
「誰か、誰かいないのか!?」
歩き慣れた自国の城の回廊を駆けながら、リュセルは祈るような気持ちで叫んだ。長い刻を過ごしてきた、見知ったこのアシェイラ城が、まるで見知らぬ城のようである。
回廊を行き交う侍女、侍従、小姓、騎士達……。皆石化し、リュセルの声に答える者は一人もいない。
「カイルーズ!」
飛び込んだ次兄の執務室には誰もいなかった。
ただ、あちこちに埃が溜まり、長い期間この部屋に誰も訪れていない事が察せられる。
「カイルーズ、カイエ!」
「落ち着きなさい、リュセル」
「しかし、レオン!」
今まで見てきた石化した人々。
とてもじゃないが、落ち着いてなどいられないリュセルは、一見落ち着いて見える兄の瞳が金の色を帯びているのを見て口を閉ざす。
レオンハルトは異世界育ちのリュセルよりも、この王都で過ごした時間が長い。この場所への執着も愛着も強いだろう。
それは、サンジェイラ王都の惨状を目の当たりにしたローウェンやアルティスも同じ事。
「すまない」
弟が一つ息を吐いてそう言うのを聞いたレオンハルトは、カイルーズの執務机にある一番上の引き出しを開ける。鍵のかかっていないそこに、弟が自分のスケジュールを書き込んだ手帳を入れている事を知っていたからだ。
上質な紙で作られた黒革の手帳には、カイルーズの字でビッシリと予定が書きこまれている。カイルーズのスケジュール管理は、基本、側近であるカイエが行っているが、カイルーズ本人も、自分でこうして細かく手帳に書き込んでいた。その事を知っている者は少なかったが、彼の勤勉さを表しているといってもいいだろう。
それを知る少ない者の内の一人であるレオンハルトは、クセの強い弟の字で書かれた予定の中に、急に付け足されたと思われる真新しいペン字の跡を見る。
「ディアルガ侯爵夫人との面会?」
手帳に記された×印を見るに、この侯爵夫人との面会が予定された日から、カイルーズはこの手帳を広げていない事が分かった。
おそらく、アシェイラ王都の人々が石化現象に襲われたのはこの日なのだろう。
(それにしても、いきなり何故、カイルーズは彼女と面会を?)
ディアルガ侯爵夫人。
アシェイラ王家と遠縁の親戚筋に当たる姫君だった女性だ。今はディアルガ侯爵という、高位に在るとはいえ一介の貴族に嫁ぎ、降嫁されたはずである。
レオンハルトも子供の頃に何度か面会をした事がある。自分よりいくらか年嵩の、おっとりとした女性だったように記憶していた。
「ディアルガ侯爵夫人。確か、彼女は慈善活動に熱心で、国が運営するものとは別に私立の孤児院を経営…………」
そこまで淡々と話していたレオンハルトの表情は一変する。
「孤児……?」
サンジェイラ城では、王都に住まう孤児を集めて王族主催の食事会を開いていた。
「謁見の間に行くよ、リュセル」
「あ、ああ」
リュセルは意味が分からないままカイルーズの執務室を出て、大股で廊下を歩く兄の後を慌てて追う。
そうしてしばらくして、サンジェイラ城、王宮のほぼ中心に位置する謁見の間にたどり着いたレオンハルトは、おもむろに扉を開け、そこに広がった光景に絶句した。
「カイルーズ、父上ッ」
玉座に腰かけ、真剣な眼差しで前方を見つめる父王ジェイド、その横に立つ、自分達の兄弟であり、この国の未来そのものである王位継承者、カイルーズ。
彼らもまた石化し、物言わぬ石像と化していた。
カイルーズは何かしら危機を感じたのだろう、父王を庇う為に動こうとしていたのが、その表情と体勢から分かる。
そして、二人の王族の傍に控えていたであろうカイエは、ジェイドとカイルーズが相対していた女性を助け起こそうとしていたようだ。
「ディアルガ侯爵夫人」
床に倒れ伏し、怯えた表情で何もない左側を見上げる女性の石像を確認したレオンハルトはそう呟く。
「リュセル、やれるか?」
強張った表情で、石化した自分の父親と二番目の兄を凝視していたリュセルは、同じようにショックを受け、顔色の悪いレオンハルトに頷き答えた。
「ああ」
今はこの兄のように感情を抑えこまなければならない。例え、親兄弟の無残な姿を目の当たりにしようとも……。
リュセルは石像と化したカイルーズの額に自分の額で触れ、固く目を閉じ、その中に眠る記憶を感知しようとする。
その瞬間
「……ッ!」
聞こえたのは
闇の詩。
見知らぬ子供の声。
リュセルはそれを聞き続ける事が出来ず、咄嗟にカイルーズの中に在る記憶を感知するのを中断する。
「駄目だ! 嘆きの詩の威力が大き過ぎて、それ以外何も感知できない!」
リュセルの答えを聞いたレオンハルトは、ある程度その答えを予測していたようだった。
「サンジェイラ王都と同じ……という事か」
おそらくサンジェイラのように、城だけでなく街の人々も石化してしまっているのだろう。
「私は念の為、城内とその周辺を見て来よう。お前は先に女神像の間に行っていなさい。見たところ、サンジェイラ王都と同じように王都内は濃い邪気は漂ってはいるが、邪鬼はいないようだ」
リュセルを連れて行くよりも、一人の方が身軽なのだろう。レオンハルトの言葉に頷くと、リュセルはカイルーズと父王にもう一度目を向けた。
「必ず、元に戻す。必ずッ……」
「…………」
同じ気持ちで弟の呻くような言葉を聞いていたレオンハルトは、痛みを堪えるように固く目を閉じたのだった。
兄が城内と街の様子を見に傍を離れ、別行動になると、リュセルは指示通りにすぐには地下の女神像の間には向かわず、一旦、長らく留守にしていた自室に立ち寄った。
特に用があった訳ではない。ただ、何となく足が向いてしまったのだ。
そして、そこで目にした自分付きの小姓の少年の石像に、リュセルはぐっと唇を噛みしめて衝撃を堪えるしかなかった。
「ただいま、ティル」
「リュセル様」
いつの間に同化を解いたのか、心配そうにリュセルの額の汗をハンカチで拭うティアラに微笑みかけると、自分が感知した内容を同胞達に告げた。
「嘆きの詩が聞こえた。子供の声で……」
リュセルの言葉に、ジュリナはレオンハルトと目を合わせ、不思議そうに尋ねる。
「嘆きの詩? 私達が手に入れた詩の力の中に、そのような詩はなかったはずだよ」
「当たり前だ。これは、レイデュークの詩じゃない。スノーデュークの扱う唯一無二の詩の力だ。奴は詩を得意とするレイデュークと違い、詩は不得手だった。それ故に使えた詩の力は唯一つ。それが、嘆きの詩」
本来ならば、その心に闇の安息をもたらす嘆きの詩。
しかし、邪神と化したスノーデュークの力を元に詩われたそれは、違ったものに大きく変質してしまっている。
「この、サンジェイラ王都の人々の石化は、その、嘆きの詩が原因だっていうの?」
ローウェンが泣きそうな顔をしながらそう言うのを聞いたリュセルは、小さく首を振った。
「分からない」
子供の声で詩われた嘆きの詩。リュセルが感知した内容だけでは、人々を石化の状況から救う手立ては思いつかない。
レオンハルトに支えられながらようやく立ち上がる事が出来たリュセルは、アルティスが差し出してきた水筒の水を一気に飲み干す。
「とても嫌な予感がするのですが、これって、本当にサンジェイラ王都だけの問題なのでしょうか?」
リュセルの様子を心配そうにじっと見つめていたティアラが、ぽつりとそう呟く。
瞬間
「…………ッ!」
「レオンハルト!」
互いの目を見合わせたレオンハルトとジュリナは、共に同じ事を考えているようだった。
「他の街や村でももしかしたら……。え!? きゃあ! お姉様!?」
サンジェイラ王都近隣の街や村の心配をしていたティアラの体は、不意にジュリナの腕に抱きかかえられる。
「行くぞ、リュセル。お前達も来なさい!」
「うわっ、な、なんだ!?」
嘆きの詩の感知により、うまく歩けないリュセルの体を肩に抱き上げたレオンハルトは、呆然としているローウェンとアルティスを促す。
「う、うん」
「どこへ行くのだ、ジュリナ殿、レオンハルト殿?」
自分の半身を抱え上げ、急ぎ駆けるジュリナとレオンハルトにアルティスが問いかける。
「お前達は先に神殿本部へ戻りなさい。私達はそれぞれ、ディエラ王都とアシェイラ王都の様子を見に行く」
いつものように何もなかった壁に地下への入り口の階段を出現させたレオンハルトは、リュセルを肩に担いだまま、後ろを来る二人にそう説明した。
レオンハルトが話している間にも、焦っているらしいジュリナの姿は階段の奥に消えて行く。
「ディエラと、アシェイラの王都に……って、レオンハルト兄さん、まさか」
階段を駆け下り、女神像の間に辿り着くと白銀の光が溢れ、ジュリナとティアラの姿が転移装置の中央から消えた所だった。
「それを確認する為に行って来るんだよ。一度、ここ(サンジェイラ王都)の浄化は後回しにする。ここだけの問題ではない可能性が高いからだ。分かるね?」
レオンハルトの言葉を聞くと、ローウェンとアルティスは戸惑いながらも小さく頷く。
ここだけの問題ではない。それは、まさか。
目的地をアシェイラ王都に向けて転移装置を発動させたレオンハルトは、担いでいた荷物(リュセル)をようやく地面に下ろした。
「レオン……。まさか」
口には出来なかった。あまりにも恐ろしくて。言った事が本当になってしまいそうで、怖くて。
「リュセル兄さん、レオンハルト兄さん、気をつけて」
ローウェンの不安そうなその声を最後に、リュセルの視界は白銀に染まった。
静寂。
そこは
かつての賑わいが嘘のような静寂に支配されていた。
嫌な予感に思考を支配されながら訪れた故郷。
アシェイラ王都もまた、サンジェイラ王都と同じように闇の静寂に支配され、人々はその姿を石像へと変貌させていた。
……これが、現実だった。
「誰か、誰かいないのか!?」
歩き慣れた自国の城の回廊を駆けながら、リュセルは祈るような気持ちで叫んだ。長い刻を過ごしてきた、見知ったこのアシェイラ城が、まるで見知らぬ城のようである。
回廊を行き交う侍女、侍従、小姓、騎士達……。皆石化し、リュセルの声に答える者は一人もいない。
「カイルーズ!」
飛び込んだ次兄の執務室には誰もいなかった。
ただ、あちこちに埃が溜まり、長い期間この部屋に誰も訪れていない事が察せられる。
「カイルーズ、カイエ!」
「落ち着きなさい、リュセル」
「しかし、レオン!」
今まで見てきた石化した人々。
とてもじゃないが、落ち着いてなどいられないリュセルは、一見落ち着いて見える兄の瞳が金の色を帯びているのを見て口を閉ざす。
レオンハルトは異世界育ちのリュセルよりも、この王都で過ごした時間が長い。この場所への執着も愛着も強いだろう。
それは、サンジェイラ王都の惨状を目の当たりにしたローウェンやアルティスも同じ事。
「すまない」
弟が一つ息を吐いてそう言うのを聞いたレオンハルトは、カイルーズの執務机にある一番上の引き出しを開ける。鍵のかかっていないそこに、弟が自分のスケジュールを書き込んだ手帳を入れている事を知っていたからだ。
上質な紙で作られた黒革の手帳には、カイルーズの字でビッシリと予定が書きこまれている。カイルーズのスケジュール管理は、基本、側近であるカイエが行っているが、カイルーズ本人も、自分でこうして細かく手帳に書き込んでいた。その事を知っている者は少なかったが、彼の勤勉さを表しているといってもいいだろう。
それを知る少ない者の内の一人であるレオンハルトは、クセの強い弟の字で書かれた予定の中に、急に付け足されたと思われる真新しいペン字の跡を見る。
「ディアルガ侯爵夫人との面会?」
手帳に記された×印を見るに、この侯爵夫人との面会が予定された日から、カイルーズはこの手帳を広げていない事が分かった。
おそらく、アシェイラ王都の人々が石化現象に襲われたのはこの日なのだろう。
(それにしても、いきなり何故、カイルーズは彼女と面会を?)
ディアルガ侯爵夫人。
アシェイラ王家と遠縁の親戚筋に当たる姫君だった女性だ。今はディアルガ侯爵という、高位に在るとはいえ一介の貴族に嫁ぎ、降嫁されたはずである。
レオンハルトも子供の頃に何度か面会をした事がある。自分よりいくらか年嵩の、おっとりとした女性だったように記憶していた。
「ディアルガ侯爵夫人。確か、彼女は慈善活動に熱心で、国が運営するものとは別に私立の孤児院を経営…………」
そこまで淡々と話していたレオンハルトの表情は一変する。
「孤児……?」
サンジェイラ城では、王都に住まう孤児を集めて王族主催の食事会を開いていた。
「謁見の間に行くよ、リュセル」
「あ、ああ」
リュセルは意味が分からないままカイルーズの執務室を出て、大股で廊下を歩く兄の後を慌てて追う。
そうしてしばらくして、サンジェイラ城、王宮のほぼ中心に位置する謁見の間にたどり着いたレオンハルトは、おもむろに扉を開け、そこに広がった光景に絶句した。
「カイルーズ、父上ッ」
玉座に腰かけ、真剣な眼差しで前方を見つめる父王ジェイド、その横に立つ、自分達の兄弟であり、この国の未来そのものである王位継承者、カイルーズ。
彼らもまた石化し、物言わぬ石像と化していた。
カイルーズは何かしら危機を感じたのだろう、父王を庇う為に動こうとしていたのが、その表情と体勢から分かる。
そして、二人の王族の傍に控えていたであろうカイエは、ジェイドとカイルーズが相対していた女性を助け起こそうとしていたようだ。
「ディアルガ侯爵夫人」
床に倒れ伏し、怯えた表情で何もない左側を見上げる女性の石像を確認したレオンハルトはそう呟く。
「リュセル、やれるか?」
強張った表情で、石化した自分の父親と二番目の兄を凝視していたリュセルは、同じようにショックを受け、顔色の悪いレオンハルトに頷き答えた。
「ああ」
今はこの兄のように感情を抑えこまなければならない。例え、親兄弟の無残な姿を目の当たりにしようとも……。
リュセルは石像と化したカイルーズの額に自分の額で触れ、固く目を閉じ、その中に眠る記憶を感知しようとする。
その瞬間
「……ッ!」
聞こえたのは
闇の詩。
見知らぬ子供の声。
リュセルはそれを聞き続ける事が出来ず、咄嗟にカイルーズの中に在る記憶を感知するのを中断する。
「駄目だ! 嘆きの詩の威力が大き過ぎて、それ以外何も感知できない!」
リュセルの答えを聞いたレオンハルトは、ある程度その答えを予測していたようだった。
「サンジェイラ王都と同じ……という事か」
おそらくサンジェイラのように、城だけでなく街の人々も石化してしまっているのだろう。
「私は念の為、城内とその周辺を見て来よう。お前は先に女神像の間に行っていなさい。見たところ、サンジェイラ王都と同じように王都内は濃い邪気は漂ってはいるが、邪鬼はいないようだ」
リュセルを連れて行くよりも、一人の方が身軽なのだろう。レオンハルトの言葉に頷くと、リュセルはカイルーズと父王にもう一度目を向けた。
「必ず、元に戻す。必ずッ……」
「…………」
同じ気持ちで弟の呻くような言葉を聞いていたレオンハルトは、痛みを堪えるように固く目を閉じたのだった。
兄が城内と街の様子を見に傍を離れ、別行動になると、リュセルは指示通りにすぐには地下の女神像の間には向かわず、一旦、長らく留守にしていた自室に立ち寄った。
特に用があった訳ではない。ただ、何となく足が向いてしまったのだ。
そして、そこで目にした自分付きの小姓の少年の石像に、リュセルはぐっと唇を噛みしめて衝撃を堪えるしかなかった。
「ただいま、ティル」
0
あなたにおすすめの小説
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。
天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】
さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。
英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。
この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。
「さあ気に入ったsubを娶れ」
「パートナーはいいぞ」
とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。
待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。
平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる