【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十六章 闇射す光

10-2 最終決戦②

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「他には何もいらない! 全部なくなってしまえばいいッ! 姉上、貴女さえいれば、僕は何もいらないんだよ! お願いだから分かってよ!」

「…………」

 痛みを堪えるような表情で自分を見つめているリュセルに気づき、スノーデュークは諦めたようにため息をついた。

「なんてね……。散々言っても姉上は分かってくれなかった。だから、今の姉上はいらない。新しい姉上を創る為に、君達は壊れて?」

 新しい……レイデューク?

 リュセルが訝し気に眉をひそめるのを楽しそうに見つめた後、スノーデュークはゆったりとした仕草で両手を胸の前で組む。

「なんだい? ありゃ」

 両手を組んで目を閉じたスノーデュークを見上げたまま、ジュリナは不思議そうに目を瞬かせた。しかし、レイデュークの中の記憶を垣間見て知っていたリュセルは、それを知っていた。

(……ッ来る!)

「散れ、避けろッ!」

 焦ったリュセルが同胞達にそう怒鳴るように告げるのと、ニヤリと不気味に笑ったスノーデュークがまるで舞を舞うかのように典雅に両腕を広げたは同時だった。

 次の瞬間

 膨大な量の邪気を秘めた紫電の雷が、地上へと落とされた。








「ディエラ……」

 女神と三神獣の描かれた絵画のある狭間の部屋で神子達の無事を祈り続けていたライサンは、ユリエの震えを孕んだ声を聞くと顔を上げ、彼女の顔を見上げた。

「大聖堂の神官や巫女も、石化してしまっている」

 ユリエの言葉を聞いたライサンは小さく頷き、祈りの姿勢を解いてゆっくりと立ち上がった。

「そうですか」

 この本殿での人々の石化現象を確認したユリエは、ライサンの指示により大聖堂の様子を見に行っていたのだ。

 神官巫女の大部分が、神子達の無事の帰還を祈る為、大聖堂に集結していた。

「ここ(本殿)も確認した所、同じ状況のようです。一気に石化の波が広がったのでしょう。おそらく、この世界で無事なのはここだけのようです」

 大聖堂も……という事は、ルークやリュカ老師も、既に石化してしまったのだろう。

「今、この地上で石化せずに動けている者は、俺達三人だけという事か」

 アシェイラのため息のような声にライサンは小さく頷く。

「今、この地上のどこかで戦っておられる神子様達を除けば……という形になりますでしょうが」

 世界の崩壊が迫っている。

 それを止められるかどうか、それはすべて神子達次第。

 しかし、スノーデュークと何度も戦った自分達だからこそ分かる。

 強かった。

 邪神スノーデュークは、まるで戯れのように自分達を一思いには殺さず、何度も再戦を受け続けたが、本気を出せば、自分達など一瞬でその魂までも消滅させる事は可能だったはずだ。

 すべては、神ゆえの傲慢さと余裕があったから。

 ライサン達三勇者がスノーデュークを封印出来たのは、そこに付け込む事が出来たからである。下等な人間如きに本気を出すなど、神としての矜持(プライド)が許さなかったのだろう。しかし今、それが無くなり、なりふり構わなくなっていたら?

「おそらく、もし、万が一にも神子様方に勝ち目はないでしょうね」

 修行を終え、レイデュークの力の一部を手にしたとはいえ、神子は半神。完全な神に敵うはずもない。

 ライサンの言葉を聞いたユリエもアシェイラも、世界の終焉を垣間見たような気がして、固く目を閉じたのだった。







「”守りの天蓋(まもりのてんがい)”」

 封印公布の鉄壁の結界を自分達の周囲に展開、形成させたジュリナとティアラは、神雷のあまりの強力さにそれを維持できず、その直撃を喰らった。

「「あああああああああッッ」」

 その衝撃に同化を維持出来なくなった姉妹の目前に瞬間移動していたスノーデュークは、倒れ伏すティアラはそのままに、ジュリナの喉を片手で締め上げ、うっそりと笑った。

「まずは、声を」

「ジュリナッ!」

 レオンハルトが邪神の手に堕ちた幼なじみを助け出そうと神剣を振り上げると同時に、ジュリナの喉の奥が焼け爛れた。

「…………ッッ!」

 うっそりと微笑んだままのスノーデュークは、目を大きく見開き、あまりの衝撃と痛みに涙を流すジュリナの体をレオンハルトに向かって無造作に投げ捨てると

「”光礫(こうてつ)”ッ!!」

 後ろに迫ったローウェンの腕を掴み、その体を引き寄せた。

「次はその、可愛い黒子かな?」

 そうしてローウェンの頭を左手で掴み、その左目を右手で覆う。

「……ッッうあああああああああああッ」

 ジュリナと同じ、焼けつくような痛みを感じて悶え苦しむローウェンの体から強制的に分離させられたアルティスが、咄嗟に弟の身を邪神から奪い返そうと動く。

 スノーデュークはそんなアルティスをあざ笑うかのように、無造作な動作でローウェンの顔の左半分を抉り取る。

「ロー!」

「あ~、しまった。左目もやっちゃった」

 左目から頬にかけて抉り取られ、原型をとどめていないローウェンを地面に投げ捨て、弟の無残な姿に激昂するアルティスの褐色の肌に手を這わせる。

「後、この色っぽい褐色の肌」

 腕を掴まれたアルティスは、掴まれたそこから体が急速に冷えていくのを感じた。

「ロ、ロー……」

「「アルティス、ローウェンッ!」」

 襲われた二人を救う為に動いたリュセルとレオンハルトの動きを阻む事なく、スノーデュークは二人の身をあっさりと引き渡す。その速過ぎる動きを目で追う事も出来ずに、奪い返したアルティスの体を見下ろしたレオンハルトは大きく目を見開いた。

 体温を奪われ、寒さに体を震わせるアルティスの肌は本来の色を失い、真っ白になっていたのである。

(声、黒子、肌。……まさか)

 その意味する事を悟ったレオンハルトは、咄嗟にティアラの姿を探す。

「きゃああああああああああああああッッッ」

 空気を切り裂くような、悲痛な悲鳴。

 ティアラの華奢な体を抱え宙に舞っていたスノーデュークが、彼女の顔を両手で押さえつけ、可憐な美貌を奪い去っていた。

「ティアラ姫ッ!」

 顔のすべてが焼かれ、見るも無残な状態になったティアラは、スノーデュークの腕の中でピクリとも動かなくなる。

「そして、容貌。……と、次は、ん~~~~? どっちがいいかなぁ? 同化してるから、瞳しかないか」

 ティアラを片腕に抱えたまま、スノーデュークはレオンハルトの繰り出す剣での攻撃をまるで舞うように軽々と躱すと、その両目を右手で覆った。

「ぐああああッ」

(ああああああッ!)

 同化してるが故に刺すような両目の痛みを同じように感じたリュセルは、両腕を掴まれ、自分の体ごとスノーデュークに引き寄せられた。

 レオンハルトの体から無理矢理に引き離され、同化を解かれたリュセルの銀の髪を愛しい者に触れるように優しく梳くと、スノーデュークはゆっくりとその銀の色に口づけた。

「リュセルッ!」

 リュセルの右手の指輪に背後から手を回し、白銀の銃を具現させたレオンハルトが背後から弟の肩越しに邪神に向かって浄化の弾丸を放つ。

 ダンッ

 白銀の光と共に放たれたその衝撃で僅かに散った自分の髪をリュセルは目に止め、驚きに見開く。銀の色を失ったそれは、真っ白な……まるで、ライサンのような白髪になっていたのだ。

「くっ……」

「レオン!」

 地面に降り立ったレオンハルトは、リュセルを腕に抱えたままその場に膝をつく。

「レオン、お前、目が…………」

 金の色を失くし、白く濁った兄の瞳を見上げ、リュセルは呆然とする。

「何も見えぬッ! リュセル、邪神は……、皆は、どうなっている!?」

 レオンハルトの聞いた事もないような切羽詰まった声に従い、周囲を見回したリュセルは愕然とした。

 そこは、まさに、地獄絵図だった。

 喉を焼かれ、声を失い、仰向けにその場に倒れるジュリナ。

 左目周辺の部位を失い、悶え苦しむローウェン。

 肌の色と共に体温を奪われ、信じられないような寒さに震えるアルティス。

 顔を生きながら焼かれ、意識を手放したティアラ。

 そして、瞳の色と共に見る力を失ったレオンハルトと、髪の色を失い、白髪となったリュセル。

 六人の中で外傷がないのはリュセルだけだ。

 一瞬だった。一瞬の内に、自分達は女神より授かった贈り物を奪われた。

 心に残る印象強い、声

 左目の下の可愛らしい、黒子

 色香を濃く感じる褐色の、肌

 春に咲く、色とりどりの花々を連想させる可憐な、容貌

 高貴な獣を思わせる、気高い金色の、瞳

 月の光を編んだような、儚い輝きを放つ銀の、髪

 すべて、創世の女神レイデュークの特徴。神子が一つずつ受け継ぐ、女神の恩寵である。

「ふふふふ、手に入れた。手に入れたよ、姉上の特徴。全部! これで、創れる! 僕の……僕だけの姉上!」

 感極まり涙を流す邪神を絶望と共に見つめていたリュセルは、次に彼がする事を知っていた。知っていても、どうする事も出来なかった。

「愛しくも憎らしい君達に、最後に”闇の詩”を送るよ」

 泣きながらにっこりと無邪気に笑うスノーデュークは、大きく深呼吸をすると口を開いた。


 そうして、リュセル達の魂は闇に呑み込まれたのだった。
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