【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
416 / 424
第十六章 闇射す光

11-2 戦いの果て

しおりを挟む
「スノーデューク」

 痛い痛いと泣くスノーデュークを見上げたローウェンは、再生と同時に忌色を失い、蒼色となった双眸を悲し気に揺るがせる。

「愛しい弟神」

 かつての姿を思い出し、やるせなさにアルティスは目を閉じる。

「愛しているわ。いつまでも……」

 優しい闇の神。いつまでもその気持ちは変わらぬと、ティアラは優しくささやく。

「きっといつか……。いつかきっと、また共に在れる日が来る」

 遠い未来への希望を抱き、ジュリナは力強く微笑む。

「その時は、あの頃のような優しい微笑みを、必ず見せておくれ」

 過去の優しくも頼もしかった彼の姿を思い浮かべながら、レオンハルトは願う。

 言葉を贈ると同時に、ローウェン、アルティス、ティアラ、ジュリナ、レオンハルトの順にその姿は陽炎のように揺らめき、リュセルの中へと消えていく。

 一人、また一人と吸収される内に、リュセルの容姿は変化を遂げた。

 ローウェンと同化すると共に、左目の下に黒子が現れ

 アルティスと同化すると共に、肌の色が褐色に染まり

 ティアラと同化すると共に、容貌が可憐な少女のものになり

 ジュリナと同化すると共に、声が印象深い女性のものになる。

 そして、レオンハルトと同化すると共に目を見開いたリュセルの瞳は金色に輝き、短かった髪が一気に足元まで広がった。

 白色の神衣を身にまとったリュセルは、レオンハルトとの神化をする事無く、同胞達のスノーデュークへの想いの力を借りて女神の姿と力を取り戻したのだ。

 今のリュセルはリュセルであってリュセルではない。レオンハルトであり、ジュリナであり、ティアラであり、アルティスであり、ローウェンなのである。

 六人の魂と意識が一緒になっている状態だ。

「姉……上?」

 レイデュークの姿を確認したスノーデュークは、痛みに耐えながら手を伸ばす。

「憎い……姉上を奪ったすべてが憎い…………ッ」

 幼い執着心は、ただ、欲しい欲しいとレイデュークを求め、彼女を奪った世界を憎む。

「違う……、憎いのはレイ様、貴女。貴女さえいなければ、スノウ様はあたくしを見てくれた!」

 取り戻した記憶に苦しむスノーデュークの意識を押しのけ、その内に眠る邪心がアナスタシアの心を映し出し、表へと現れる。

 そして、懐に忍ばせていたスノーデュークの舞扇を開くと、それを漆黒の神剣に変化させた。

「貴女が憎い、レイデューク!」

 漆黒の髪を振り乱し、スノーデュークの姿をしたアナスタシアは漆黒の剣を振り下ろす、リュセルは片手に持った白銀の神剣で受け止めると、それをはじき返す。

「お前はもう消滅した、アナスタシア! 神としての禁忌に触れ、消えたんだ! デューク神の元では、既に新しい真実神が誕生しているはず……。お前はスノーの中で育ったアナスタシアの邪心。その感情を写し取ったに過ぎない。アナの偽物だ!」

 リュセルはそう言うと同時にアナスタシアに斬りかかった。

「スノーを返してもらうぞ!」

「返さない、返さないわ! あたくしのスノー様。あたくしだけの……」

 アナスタシアの邪心の妄執は激しく、神化したリュセルの攻撃を阻んだ。


 ”起て 闘士達よ 鬨の声を聞け”


 破魔の詩を詩い、己の中の士気と闘志を高めながら激しいアナスタシアの反撃を受け流すリュセルは、その胸の奥にそれを見つけた。

 邪心の核。

 アナスタシアの邪心の意志が表に現れた影響で、隠されていたそれが見えるようになったのだろう。

「ああああああッ」

 しかし、怒声と共に繰り出される剣を躱し、防戦一方のリュセルでは、見えた所でそれを浄化する事も出来ない。

 大気を伝い叩きつけられる殺気に、美しかった草原は荒れた野原へと戻っていた。リュセルの纏う女神の衣装も所々裂け、漆黒の神剣に切り裂かれた肌からは血が滲む。


 ”汝らの敵は 我が前に
 我が敵は 汝らの前に

 万物を味方に 想いを武器に
 誇りを剣に 望みを盾に

 駆ける戦場 望みのままに”


 破魔の詩で浄化の力の底上げをしても、まだ、ふとすると、攻撃の手を緩めてしまう。

 ここまで歪めてしまったアナスタシアの心に気づけなかった自分自身への慚愧の念、弟神が邪心を埋め込まれていた事に気づけなかった後悔の念。それらが全力で戦う事を躊躇わせていた。

 気づいていれば、スノーデュークは邪神に堕ちる事はなかったかもしれない。アナスタシアは消滅するまで追い込まれる事がなかったかもしれない。

 でも、今となっては後の祭りだ。前を見なければならない。

 進まなければ

 戦い、倒さなければ、大事なものすべてが失われる。

 全力で激情をぶつけるように戦うアナスタシアの邪心と、迷いのあるレイデュークの意志を継ぐリュセル。

 神格としてはレイデュークの方が上であるにも関わらず、その戦いはいつまでもいつまでも続き、決着がつかないと思われた。

 その時までは…………。

 互いに満身創痍になりながらも永遠に決着がつかぬと思われた矢先、ピタリとアナスタシアの動きが止まったのだ。

 アナスタシアの繰り出した剣での攻撃を肩に受け、顔を大きく歪めていたリュセルは、目の前に在った虹色が紫電へと戻るのを見つめた。

「スノー? いや、違う……」

 その表情を一変させ、リュセルを睨み見た彼は、アナスタシアの邪心ではなく、ましてやスノーデュークでもなかった。

「何やってるんだ、相変わらず甘い奴だな!」

 アナスタシアの邪心とスノーデュークの意識を抑え、表に現れたのは、目の前にある体の本来の主。

「セフィ……ッ」

 その名を咄嗟に呼ぼうとしたリュセルを叱りつけるように彼は怒鳴った。

「迷わずやれと言っただろうがッ!」

 苦しいのだろう。力ある神々の意志を押さえつけておくのは……。

 彼の表情が苦痛に歪む。

 しかし、その苦痛に耐え、彼は、リュセルの……リュセル達の背を押した。

「殺れ、リュセル!」

 その言葉にリュセルは顔を上げると、持っていた剣を一振りし、長杖の玉に変化させた。

「死ね、レイデュークッ!」

 再び瞳を虹色に変化させ、襲い来るアナスタシアに、玉から放たれる浄化の光が降り注ぐ。その神気はすさまじく、アナスタシアの中にため込まれた邪気が破魔の力で払われる。

「いやあああああああああッ!」

 失われていく邪気を恐れ、逃げようとするアナスタシアは体が動かない事に気づいた。

「なんで、なんで体が動かないの? あたくしの体!」

(お前のじゃない、俺の体だ!)

 脳裏に響く声。

 愛しい闇の神、スノーデュークの子。

 闇の器となった、邪混鬼。

「お前、消滅したはずじゃ…………ッ」

 相手が狼狽え、意識を逸らした、その僅かな間に、リュセルは武器を玉から鏡に変えた。鏡から溢れる封魔の力で封じられたアナスタシアは、怯えながら目の前に迫る白銀の神を見た。

「待って……、あたくしを殺せば、この体の主も無事ではないわよッ」

「お前の言葉はまやかし。お前の瞳は真実ではなく偽りを見る。お前はアナでもスノーでもない。それでも、この後悔と慚愧は、俺達が死ぬまで、ずっと持って生きて行く。この生涯が終わるまで、ずっとずっと貴女の為に祈り続けるから。……だから、もう終わらせてあげてくれ」

 そうして鏡を剣へと戻したリュセルは、目の前の体を切り裂き、崩れ落ちる体のその胸の奥、スノーデュークの心の奥に植え付けられていた邪心の核に剣を突き立てた。

「…………ッッ」

 神剣を中心に、二神の周囲に白銀の光が溢れる。

 世界中に溢れた邪気の源ともいえる邪気の浄化には、六人の神子の浄化の力、レイデュークの力を以ってしても時間がかかり、その状態のまま、リュセルは身動きする事もなく浄化の力を送り続けた。


 長い長い、時間。


 そうして、気の遠くなるような長い時間を経た後、胸に剣を突き立てられたまま目を閉じ、ぐったりとしていたスノーデュークの目が開いた。

 その色は、美しい菫色。

 力のない、かすれた優しい声で、彼はささやくように告げた。

「申し訳……ありませんでした、姉上」

 それにリュセルは目を固く閉じ、大きく息を吐く。

 泣きたかった。

 目の前の青年神の体を掻き抱いて、その菫色の瞳に自分を映し出して欲しかった。

 でも、それは許されない。

 許してはならない。

 内に在った邪心は浄化されたが、いくらアナスタシアの邪心に支配されていたとはいえ、彼が犯した神としての罪は大きい。

 大き過ぎた…………。

「お前は……、お前の魂は、この罪を償う為、神としての力も姿も記憶も失くし、この世界の生き物として生まれ変わりなさい」

「…………」

「転生し、わらわ以外の誰かを愛するのだ。唯一無二の相手。それを見つけ、己の魂をかけて愛し抜き、すべてを終えたら……、罪がすべて洗われたら、また共に在ろう。もう逃げぬよ。お前からも、自分の気持ちからも、もう逃げぬ」

 そう告げた姉神の体をスノーデュークは抱き締める。


「いつか、きっと」


 昔のような優しい微笑みを残して、スノーデュークは消えた。

 この世界の輪廻の輪に加わったのだ。

 いつか再び、レイデュークと出会う為に…………。



「いつか、きっと。また出会おう……スノー」

 スノーデュークとしての姿を失くし、翠緑の髪の神官服の青年の姿に戻った彼の体を抱きしめて、レイデュークは涙を流し続けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...