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第十六章 闇射す光
12-1 ラストメッセージ
しおりを挟む愛し子達よ
その目に映るは未来という光のみ
その魂は石のごとく揺るぎがない
光と闇の祝福を受けしその心
彼らが戦うは
尊いものを守るため
愛しいものを救うため
身を焦がすような闇の渦
悲哀をともなう心の痛み
彼らが挑むは酷なれど
希みは決して絶たれはしない
愛し子よ 愛し子よ
我が詩声は風となる
お前達を守る光となる為
我が心は共にある
お前達を導く影となる為
愛し子よ 愛し子よ
共にありし我が想い
万物に宿りし我が祈り
そは彼らの為に在る
そはお前達の為に在る
あの子の為に奏でし祈りの詩
喜びも悲しみもすべて忘れ
我が腕で眠れ 愛し子よ
光の詩から女神は産まれ
我ら闇の子
すべてに響く安らぎの
すべてを覆う慈しみの
我らの心は悲哀に溢れる
宿命の渦に捕らわれて
逃れられぬ運命(さだめ)恨みぬく
安息の闇を従えて
黒銀の風を追い風に
吐息に乗せた憎しみはすべてを切り裂き
眼差しに込めた悲しみはすべてを恐れる
我らに救いを
我らに癒しを
闇を恐れよ
闇を称えよ
灯(ひ)は沈んでも我らは共に在る
お前達と共に在る
あの子の為に詩いし闇の詩
憎しみと哀しみを抱いて
あの子の為に我は眠ろう
闇の詩から、その対神となる弟神が産まれた。
詩の中から産まれた柱神達の手を離れ、世界は動き出す刻(とき)がきたのだ。
絶望を希望に変える。
そんな力が、お前達人間に在ると、わらわは信じておる。
母の手を離れ、信じる道をお行きなさい……。
「レイデュークッ!」
優しい母神からの最期の言葉(ラストメッセージ)を聞いたリュセルは、深い眠りから一気に目覚めた。
「ここは……?」
ゆっくりと身を起こし周囲を見回す。目の前には、一面が翠緑の美しい草原が広がっていた。しばらくぼうっとそれを眺めていると、草原の中に巨木が立っている事に気づく。
遠目でも分かる。レイデの木だ。
まるでドラゴンの森にあるもののように、立派な木。
「あんな大きな木、ここ(エリュシオン)にあったか?」
そう呟いた時
「う……っ」
近くで低い呻き声が聞こえ、リュセルは咄嗟に声のした方へ顔を向ける。
「レオン!」
自分と同じように倒れていたレオンハルトが身を起こしているのを見ると、リュセルはほっと安堵し、胸を撫で下ろす。
「……レイデュークは眠ったようだね」
夢の中で同じように母神からの言葉(メッセージ)を聞いていたレオンハルトは、そう言うと、泣きそうな顔をしているリュセルの顔を引き寄せて抱き締めた。
「ああ。罪を洗い流し終えたスノーと再び合い見える、その時まで。彼女は再び眠り続ける。だから、俺の記憶もお前の力も、共に眠りについたのさ」
三千年前の、邪神を封印する為に就いた眠りとは違う、弟神を待つ為の眠り。
リュセルとレオンハルトが今生の生を終え、魂が再び一つに還る時、女神は目覚め、今度こそ、愛しい弟神と共に自分の足で歩き始めたこの世界を見守り続けるのだ。
その、終焉まで……。
「ふああああああっ~! よく寝たねぇ」
去った母神の事を想い、レオンハルトに抱かれながら目を閉じていたリュセルは、不意にのん気な声を聞き、軽くこけた。
「なんで、あなたはそうなんだ! せっかくのレイデュークからの最後の言葉(ラストメッセージ)をちゃんと聞いていたのか!?」
朱金の髪をわしゃわしゃとかき混ぜながら起き上ったジュリナは、リュセルの怒声を気にかけた様子もなく、自分の隣で眠るティアラを優しく揺り起こしていた。
「ああん? 聞いてた、聞いてた。だから、そんなわめくんじゃないよ。うるさい男だね、まったく」
相変わらずのジュリナ節にリュセルが顔を引きつらせていると、レオンハルトが少し離れた所に倒れているローウェンとアルティスに気づいた。
「リュセル。ローウェンとアルティスの様子を見るから来なさい。ジュリナ、ティアラ姫は頼んだぞ」
「ティアは私の半身だよ。頼まれるまでもないよ」
そう言いながらニヤリと笑ったジュリナにため息をつきながら、レオンハルトは互いの手を繋いだまま向かい合って眠る少年達を起こす事にする。
レオンハルトは眠るアルティスの肩を掴み軽く揺らし、同じようにローウェンの肩を叩く。
「起きなさい。アルティス、ローウェン」
「ん……」
「うう~?」
目を覚ました二人は、互いの手を握ったまま起き上がる。
「ほえ? リュセル兄さん……、母様は?」
ローウェンの寝起きの言葉から、彼らもリュセル達と同じ夢を見ていた事が分かる。
母神の最後の言葉(ラストメッセージ)
「信じる道をお行きなさい…………か」
リュセルがレイデュークの言葉をなぞり小さな声で呟くと、皆、そう言った彼女の優しい声を思い出したのか目を閉じた。
「何はともあれ……、終わったねぇ」
リュセル達の元へと歩み寄ってきたジュリナは、傍らのティアラを抱き寄せながら周囲に広がる草原を眺める。
「ええ、お姉様」
長い戦いの終結に、ティアラも涙ぐみながら小さく頷く。
「ロー、お前、左目の色が変わっておるぞ!」
そんな中、アルティスの驚きの声が響く。
「え!? 嘘! 何、何? 変な色になってるの!? 僕、スノーデューク……アナスタシア? ……どっちだっけ? まあ、そのどっちかに黒子と一緒に左目も取られちゃったんだケド、その所為!?」
自分で自分の目が見えるはずもなく、ローウェンは慌てて、意味もなく両目を忙しなく左右に動かす。それを見たアルティスは、緩く首を横に振った。
「いや、変ではない。綺麗な蒼天の色だ」
そうして弟の華奢な体を抱きしめる。
菫色をしていた左の瞳がローウェン自身の本来の瞳の色に変化したのをアルティスは喜び、本人であるローウェンは不安そうにリュセルの顔を見上げた。
嬉しい。けど、どうして?
その表情からそれを読み取ったリュセルは、優しく微笑みながらその金の髪を撫でた。
「必要なくなった。だから元の色に戻ったんだ。それだけの話さ、ローウェン。右目と同じその色が、本来のお前の色だ」
女神が眠り、邪神が消え、神子の一人に在った忌色も無くなった。菫色が忌色と呼ばれなくなる日は、きっと、そう遠くない未来の話だ。
「失った女神の特徴が再生した、あの時、ローウェンの忌色も消えたのだろう」
そう言いながらレオンハルトは同胞達が次々と倒された時の事を思い出し、眉をひそめた。
厳しい戦いだった。
そんな中、一人も欠ける事無く同胞達が皆無事であるという事実に、レオンハルトも安堵の声を漏らした。
「皆、無事で良かった」
途中、何度も駄目かと思ったが……
事実、諦めかけていた。
そんな中、彼が助けてくれたのだ。
そう、彼が…………!
「セフィランッ!」
リュセルは大声で叫ぶと、周囲を見回した。翠緑の髪の青年の姿はどこにも見当たらない。
「リュセル殿、あそこに!」
そんな中、同じように周囲を見回していたアルティスが、草原の中心に在るレイデの巨木の傍に人影を発見し、指差した。
それを目にすると同時に、リュセルは弾かれるようにして駆け出した。
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