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第十六章 闇射す光
13-1 未来開く鍵①
しおりを挟む神歴一万年。
邪神スノーデュークは、リュセル、レオンハルト、ジュリナ、ティアラ、ローウェン、アルティスという光の神子達の手によって浄化され、闇に覆われていた世界は再び光を取り戻したのだった。
邪気の影響で石化していた人々や動物、数多の生き物も息を吹き返し、世界は光に溢れると共に、闇の安らぎを思い出していた。
神の手を離れ、世界は自分自身の力で動き出そうとしていたのだ。
最後の神子となったリュセル達は、それぞれ自分の国へと帰還し、邪神が残した世界中に残る邪気の痕跡を浄化するという使命を、最後の邪気を浄化するまで続けていく。
亡くした命に答える為に……。
そうして、七年の月日が流れる。
「で、それで、アルはどう思う?」
人で賑わうサンジェイラ王都の街に、金髪の青年の声が響く。
金色の短髪、よく晴れた青空を思わせる蒼天の瞳。
年の頃なら、二十歳前後。美しいその容姿から大天使を連想させる青年は、傍らを歩く己の半身に意見を求めていた。
「……どう思うと言われても、我には分からぬよ。あの黒猫に関する事なら、リュセル殿に意見を求めた方がよいのではないか?」
少々げんなりとした面持ちでそう返した青年の年の頃は、金髪の青年より二~三歳上といったところだろうか。肩につくかつかないかという位の長さの黒髪はウエーブを描き、同じ色の瞳からは深い知性を感じられた。その褐色をした肌の所為か、強い色香を醸し出す妖しい雰囲気の青年である。
長旅から帰ったばかりなのか、二人共、よく似たサンジェイラ風の簡素な旅装束を身に纏っていた。
「う~ん、やっぱりそうか。今度会った時、聞いてみる。むしろ、リュセル兄さんの事だから、”黒猫ノンちゃんパーク建設計画”に参加させなかったら、逆に怒られそう」
「……そうよな」
あの黒猫が、そんなにいいのか…………。
アルティスは毎回思う事を、懲りもせずに再び思っていた。
賑やかな市場を抜け、遠くに見えるトラキアの学塔を横目に見ながら歩き進み、彼らはサンジェイラ城へと帰還する。
「ただいま戻りました、兄上」
兄王に帰還の挨拶をする為、真っ直ぐに”王座の間”へと進むと、玉座に座る王に金髪の青年は挨拶をする。
侍従より連絡を受けて弟達の帰りを知っていたサンジェイラ国王であるアサギは、安堵したような笑みを浮かべる。
「僻地での任務、ご苦労だったね。ローウェン、アルティス」
おっとりとした雰囲気の、垂れ気味の優しい目元が印象的な兄王は、無事帰還を果たした弟達の姿を見て、ほっと胸を撫で下ろしているようだった。
「兄上ももう若くはないのですから、あまり心労を与えないで下さいよ、二人共」
王の参謀として近くに控えていた青年が、かけていた黒縁の眼鏡を右手中指で押し上げながら苦言を呈した。
「若くないって……、ひどいな、シオン。まだ私は三十三歳だよ」
アサギは自分の片腕である弟の言葉に、苦笑いを浮かべながらそうぼやく。
「まあ、でも兄上の場合、妃である義姉上が若いのですから、バランスがとれていいんじゃないですか?」
そう言って肩をすくめたシオンの言葉を聞いて、アルティスは心配そうに眉をひそめた。
「そういえば、義姉上はどうされたのだ? 我らが旅に出る直前、体調を崩されていたようだが……」
自分より六歳も年下の、この国の正妃でもある少女の事を思ってそう言ったアルティスを見返し、アサギは照れたように顔を赤らめる。
「……? 何照れてるの、兄上?」
ローウェンが不思議そうに首を傾げる先で、シオンも嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「大丈夫です。病気ではありませんでしたから」
「……もしや」
シオンのもったいぶった言い回しに予測がついたアルティスは、驚きに目を見開く。
「ん? 何、何だよ、一体何の話?」
唯一、鈍いローウェンは話についていけず、眉をひそめていた。
その時
「ローウェン、アルティス、お帰りなさい」
柔らかな少女の声が響き、玉座の間に二人の女性が入室してくる。
一人は可憐な桜の花びらが描かれた振袖を着こなした、一七~十八歳位の年齢の、黒髪の女性。
「お兄様方、無事のご帰還お喜び申し上げますわ」
「サクラ、それに、義姉上も」
ローウェンは妹が手を貸している赤茶色の髪の女性を見て、安堵のため息をついた。用心の為サクラが付き添っているようだが、具合は悪くなさそうだ。
それでも、今まで休んでいたのだろう。
いつも可憐に結われていた、ふわふわとウエーブを描く母親譲りの赤茶の髪は、結われる事なくそのまま背中に広がっていた。
茜花柄の着物風ドレスに身を包んだ少女は、六年前に遠くディエラ国より嫁いだこの国の正妃。
若干十六歳の王妃である。
「ルナ、そんな、大丈夫なのですか? そんな風に出歩いて……」
己の妃の姿を認めると、アサギは慌てて玉座を立ち上がり、ルナの元へと駆け寄る。
「大丈夫ですわ、アサギ様。病気ではないのですから」
アサギに両手を取られたルナは嬉しそうに微笑みながら、夫である国王の優しい面差しを見上げる。
「そうよ、お兄様。心配し過ぎです。部屋にこもりっきりでは、逆にお義姉様の体に良くないし、お腹の赤ちゃんにだって悪いわ」
「そうかもしれないけれど」
やっぱり心配ですよ。と呟くアサギの顔と、ルナのまだ目立たないお腹を交互に見たローウェンは、驚きの声を上げた。
「えっ!? え、え、え~~~~ッ!? 赤ちゃん……赤ちゃんって、義姉上と兄上の!?」
「お祝い申し上げる、兄上。復興を果たしたこのサンジェイラで産まれる、初めての王の子だな」
王子であるか、王女であるか。跡継ぎの事を考えると王子が望ましいが、王女でも喜ばしい。
「うわ~、皆びっくりするだろうなぁ。発表はまだだよね? 街ではそんな話、出てなかったし。他の兄弟は? 知っているの?」
ローウェンの問いかけに、シオンが答える。
「スカイは知っています。今、王都郊外の整備企画の視察が忙しくて城を出ていますが、夜には戻る予定です。戴冠式の祝賀参加の為ディエラに行っているイズミにも手紙で知らせています。それと、レイン兄上とユリエ姉上にも同じように手紙で知らせたのですが……。二人共、レイン兄上に会って来たのではないのですか? 確か出立前に、ビゼンテに寄り道するって話していませんでしたか?」
「レイン兄上は、そんな事、全然話していなかった」
そう言う弟に習い、アルティスも頷く。
「そうよな。もしかすると、手紙が行き違いになったのかもしれぬな」
弟達の話を黙って聞いていたアサギは優しく微笑みながら、それを口にした。
「……レインは元気だったかい?」
「うん、元気だったよ。城にいた時の生活が嘘みたいに質素な生活をしていたけれどね」
「孤児院の院長として、真面目にやっておるようだったな」
サンジェイラ王都より遙か南に位置する、花の街。ルリカの花が咲き誇るあの街に、レインは六年前、孤児院を建てた。ルナがディエラ国より嫁いで、すぐの出来事だった。
周囲の反対を押し切って、王子としての身分も何もかも捨てて、ビゼンテの街に定住してしまったのだ。そこで建てた孤児院の院長として、孤児達の面倒を見続けている。
「兄上は待ってるんだよ。孤児達を引き取りながら、いなくなったマーリンの子供を探している」
マリーンが産み落とした邪混鬼は、七年前、邪神の浄化と共に消滅した可能性が高い。
それでも、レインは探し続けている。
ずっと
ずっと…………
「そういえば、ユリエの方はもうすぐだろうね」
レインの事を思い、暗くなった弟達を元気づけるように、アサギはアシェイラ国にいる妹の事に話題を変える。
「あれ? そういえば、そうだよね。もう産まれたのかな? アンリ王子が産まれた時は、すぐ知らせが来たよね?」
「まだ知らせが来ていませんので、まだなんじゃないでしょうか?」
ローウェンの言葉にシオンも頷き答える。
「アンリが王子だったから、今度は王女を望んでおるだろうなぁ。アシェイラに姫は、もうずっと誕生しておらぬから」
アルティスも笑いながらそう言うと、姉の産んだ甥っ子に会った事がないサクラが目を輝かせて尋ねる。
「アンリ王子は、もう三歳ですわよね? とても可愛らしいのでしょう?」
「ああ、とても姉上によく似ておる。利発そうな王子だ。アシェイラはカイルーズ王の即位と姉上との婚姻が重なったからなぁ。王室自体がしばらくゴタゴタしておって、なかなか子供が出来なかったから、兄上も心配しておったのを覚えておるよ」
数年前を思い出して笑うアルティスに、アサギも穏やかな口調で話す。
「何せ、ジェイド元国王陛下が退位と同時にすぐ隠居してしまったからね。それだけカイルーズ王の事を信頼していたのだろうけれど、とても大変だったと思うよ」
先代の引き継ぎがないどころか、国の立て直しから始めなければならなかった創王たるアサギ王の言葉には重みがあった。
「リュセル兄さんとレオンハルト兄さん、ユリエ姉上とカイルーズ義兄上から、これから産まれる二番目の子の名付け親になって欲しいって頼まれたみたいだけど。リュセル兄さんのネーミングセンスって、アレじゃない? 変な名前つけなきゃいいけど……」
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