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第十六章 闇射す光
14-1 未来開く鍵③
しおりを挟むディエラ国、王都。
この場所では、つい数日前、新たな女王が誕生したばかりである。
慈王と名高かったシルヴィア女王の老齢により、まだ十六歳という若さで戴冠したのは、双子の女王。
ルイ女王
ルカ女王
同じ見た目の二人を、本来ならその任に就いているはずであったルカイナとその夫であるキキョウが補佐し、支えていく事になる。
そうして、即位のゴタゴタが落ち着き、女王としての責務を二人で全う出来るようになったらようやく、今回、戴冠式の祝いに駆けつけていたサンジェイラの王弟、婚約者であるイズミとの婚姻となるだろう。それもそう遠くない未来の話だ。
だがそれよりも今は、新たな女王の誕生に国中が喜びに湧いている状態だった。
「はあッ? もう帰るのか!?」
ディエラ後宮、特別来賓用の上等な客室の一室に響いたのは、印象強い女性の声。女神の声を持つ、女神の娘であり、この国の王姉である女性。
肩先まである朱金の髪、凛々しい男装姿の美姫。
ジュリナは同じように驚きの表情で隣に並び立つ妹に目を向ける。
「ティアからも何とか言っておくれよ。これから、色々予定を立ててたっていうのにさ」
姉の言葉ににっこり笑って頷いたのは、二十歳前後程の年齢の可憐なる姫君。
腰まで伸びた姉と同じ色の髪は、成人した王族らしく美しく結い上げられ、牡丹の花を模した可憐な髪飾りで留められている。しとやかなデザインの、ローズ色のドレスがよく似合う姫君だ。
「どうかなさったのですか? リュセル様、レオンハルト様」
優しく問うティアラに、荷造りを終えた銀の髪の青年はすまなさそうに眉を下げた。
肩に少しかかる程の長さの、月の光を編み込んだような銀色の髪、薄い銀の瞳。二十代前半位の年齢のその青年は、数多の女性をうっとりとさせるような甘い美貌の美男子だった。
二十五歳になったリュセルだ。
その見た目の年齢は、兄やジュリナと同じように二~三年程前に止まってしまった。ティアラやアルティス、ローウェンもそろそろだろうと言われている。
「申し訳ありません、ティアラ姫、ジュリナ殿。つい先程、アシェイラより手紙が届きまして……」
「え? じゃあ」
リュセルの返答にティアラは驚きに目を見開く。
「産まれたのかい?」
「王子だそうだよ」
ティアラの言葉を引き継ぐようにして声を上げたジュリナに対し、今度は琥珀色の瞳の青年が答える。
腰まで届く胡桃色の髪、絶世の美姫のような麗しい美貌の青年。
ジュリナと同じように、既に七年前に成長と老化を止めたレオンハルトの姿は、スノーデュークを浄化したあの頃とまるで変っていなかった。成長が追い付いたリュセルとは同年齢にしか見えない。
「王子か~。そうだねぇ……。それは急いで帰らないといけないねぇ。名付け親としては」
そう言うと、ジュリナはリュセルが机の上に置いたままにしていた黒猫ノンちゃん柄のノートと白猫シャム姫柄のノートを無造作に手に取った。
「おいおい、大事な名前候補を書いたノートを忘れてるよ。産まれたのが王子じゃ、こっちの女の子の名前のノートはいらないんじゃないか?」
そう言ってパラパラと中身をめくって見たジュリナは、一瞬沈黙する。
「あははははははははははッ、なんっじゃ、こりゃ~~~~! リュセコ、レオコ、リュセミ、レオミ、リュセレオコ、リュセレオミ、リュセレオーヌ、リュセリュセ、レオレオコ…………どれどれ、男の子の方は……うわ、これもひどいッ!」
「何、見てるんだ! 返せ!」
ジュリナが大笑いしながら読み上げた、ずっと考え続けて記していた名前候補を馬鹿にされ、リュセルは顔を真っ赤にして怒る。
「お前…………相変わらずのネーミングセンスのなさだな」
ひとしきり笑ってノートを返したジュリナは、憐れむような視線をリュセルに送った。
「余計なお世話だ!」
ノートの後半には、比較的まともな名前が両方のノートに記されていたのが唯一の救いか。おそらく、レオンハルトが口を挟んだ結果だろう。
「おめでとう。先日のサンジェイラからの手紙でもルナが懐妊だって書いてあったし、こっち(ディエラ)は、ルイ、ルカの即位で、アシェイラでは第二王子誕生。三国共にめでたい事が続くねぇ」
「素晴らしい事ですわ。おめでとうございます」
二人から祝いの言葉をもらったリュセルとレオンハルトはそれに礼を言うと、今までの態度を一変させ、早く帰った方が良いと言う二人の言葉に従って、転移装置のある地下へと急いだ。
*****
そして、ディエラ国王都より遙か西にあるアシェイラ国王都。
壮麗なるアシェイラ城の後宮内にある王兄王弟の自室では、一人の少女がこれから戻ってくるであろう、この部屋の主達の為に隅々まで掃除を行っていた。
ピカピカに磨き上げたテーブルや調度品を見て、少女は一人満足そうに頷いた。
「よし、完璧」
年の頃なら十三~十四歳位の、平凡な顔立ちの少女である。
アシェイラ城の侍女見習いの黒いワンピースにフリフリのエプロン姿の彼女は、この部屋の主達と、昔少々縁があり、見習いであるにも関わらず、王兄、王弟である彼ら付きの侍女に大出世したのだ。
「お茶のご用意もしたし、お疲れになってすぐ休むってなった時の為に寝台の方の準備もしたし。後は……」
終了させた事を指折り数えていた時、部屋の扉が開き、一人の青年が少女に話しかけた。
「ルリカ、掃除は終わりましたか?」
ルリカと呼ばれた少女は振り返ると、自分の前任者であり、今は侍従職を務め、将来、小姓や侍女達をまとめる侍従長になるであろうと目されているその青年に頭を下げた。
「ティル様! はい、終わりました」
そばかすの目立つ愛嬌のある顔立ちの彼は、ルリカの返答に頷くと、部屋のチェックに入った。
「…………」
固唾を呑んでそれを見守っていたルリカは、厳しい表情を和らげ頷いたティルに気づき、ほっと安堵のため息を落とす。
「よし、いいでしょう。近日中にレオンハルト殿下とリュセル殿下はディエラよりご帰還の予定です。お二人がゆっくりとくつろげるようお願いしますね」
「はい!」
元気よく返事をしたルリカに微笑むと、ティルはソファの上にいつもいる彼がいないのに気づいた。
「あれ? 彼は?」
「あ! すみません、今日は天気が良かったので、日向ぼっこさせていました」
慌てて、バルコニーの椅子に腰かけさせていたそれを元の定位置に戻したルリカは、その薄茶の毛並みを優しく撫でる。
「クマ吉さんも、日に当たりたいと思っているかと思って……」
ティルと同じ、自分の先輩であるクマ吉に、ルリカは敬意を払っていた。
「そうですね」
七年前の核(コア)の破壊により、動かぬ普通のぬいぐるみとなってしまったクマ吉を見つめながら、ティルは小さく頷く。
彼はいつも、リュセルとレオンハルトの姿の見えるソファの上に置かれ、大切に扱われている。
「もうすぐリュセル殿下とレオンハルト殿下が戻ってきますよ、クマ吉さん」
その硝子の瞳を覗き込み、ティルは昔を懐かしむような目をしていた。
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