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第三章 王族
3-1 父と子
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日がもうすでに高い位置に昇り、うららかにその暖かい光を地上に照らし続ける午後、ティルは、最近通っていた客室ではなく、通い慣れたレオンハルトの自室へと足を運び、その扉をノックした。
「失礼致します」
礼儀正しくそう声をかけると、扉を開けて中に入る。室内には、誰もいなかった。自分の主たるリュセルは、まだ眠っているのだろう。
今日の朝、いつものようにリュセルの部屋(仮)に向かおうとした時、それを見計らったかのようにレオンハルトが現れ、リュセルが自分の部屋で休んでいる事を教えられた。それと、ひどく疲れているようだから、本人が自分で起きて来ない限り起こさぬように。といい含められ、最近のリュセルの様子がおかしかった事もあり、ティルは心配になった。
寝室で休んでいると思われるリュセルの様子を見に行こうとするが、それで起こしてしまったら申し訳ないと思い、思い直す。
「リュセル殿下……」
ティルの心配そうな呟きを知る事もなく、一方、リュセルは久しぶりの睡眠を堪能しまくっていた。
質のいいカーテンに覆われた、大きな窓の隙間から零れ落ちる午後の日の光に照らされて、ようやく薄く目を開く。
「…………」
無言で目をこすり、その動きにつられて日の光に照らされた艶やかな銀の髪が揺れた。そのまま身を起こすと、体にかかっていたシーツがハラリと肩から落ちる。
(……なんで、服を着てないんだ?)
寝起きのボーっとした頭で、そう考えながら頭を掻いた。
シーツの下は、寝る前に着ていた夜着はおろか、下着すら身に着けていない状態で、まさに産まれたままの姿だったのだ。
(それにしても、久しぶりによく眠ったな)
確か、昨夜も眠れずに羊を数えまくっていたような気がするが。でもこうして眠れたという事は、睡眠不足という悩みは解消されたという事になるのだろうか。
そんな事を考えていると、だんだんと頭がはっきりとしてきた。
「起きるか」
レオンハルトの残り香の残る、この居心地のいいベットから抜け出すのは名残惜しいが。
「レオンハルト?」
リュセルは一気に覚醒すると、ベットの周りを見回した。見覚えのあるその寝室は、最近リュセルが自室としていたあの客室ではない。
部屋の主の趣味だろう。
落ち着いた色合いで統一された家具や壁紙などは、見覚えがありすぎる兄の部屋のものだ。リュセルの脳裏を、昨夜の記憶が走馬灯のように駆け巡った。
レオンハルトの長い指が肌を這い、自分自身に触れ、愛撫した、あの忘れがたい感覚。思い出した途端、リュセルは真っ青になる。
自分は一筋程も服を乱す事なくリュセルを乱した、兄の優雅な指。己の肌上を辿ったそれに、心が乱されると共に背徳感でいっぱいになった。
何度も高められ、何度も達かされた。涙の霞む視線の先にあったのは、美しい妖艶な微笑み。啼き喘ぐ、リュセルの顔をじっと見つめる金の瞳。思い出すと、背筋に痺れが走る。
普通、兄弟でこんな事をするものだろうか?
与えられる口づけは甘く、くせになりそうだ。
(一体、どんな顔してレオンに会ったらいいんだ)
頭を抱えながら、またシーツの上に沈んだ時、起きた気配が伝わったのか、ティルの声が寝室の外から響いた。
「リュセル殿下、起きられたんですか?」
扉を開けようとするティルに、リュセルはとっさに叫んだ。
「開けるな!」
ビクッと動きを止めたのが気配で分かったリュセルは、慌てて言った。
「ちょっと、待っていてくれないか?」
「……はい」
素直に命令に従うティルをそのままに、リュセルは急いで昨夜ベットの下に落とされた下着を身に着け、夜着はそのままにクローゼットを開ける。
レオンハルトのものしかない。
「こっちか」
もう一つの、形の同じクローゼットが自分のものだったはずだ。中には、客室に大部分を移動したせいで少なくなっているが、自分の衣類が入っていた。慌ててその中の一つを身に着けようとして、裸の胸元に散った赤い欝血の痕を視界に入れてしまう。
「お、俺は何も見なかったぞ」
小さな声でそう呟き、動きやすさを重視した私服を着込んだ。
レオンハルトやカイルーズの着ている宮廷衣は着方が難しく、一人で着られない為、リュセルは貴族の子弟などが着るようなラフな格好をする方が多い。
レオンハルトなどは、それに最初、眉をひそめていたが、最近はあきらめたのか何も言わなくなっていた。
「やあ。おはよう、ティル」
着替えを終えて、寝室から出てきたリュセルに、一瞬ティルは見惚れた。
最近悪かった顔色や髪の輝きが艶やかさを増し、その銀の瞳には穏やかさが取り戻されていたのである。やつれていた時も逆に壮絶な美しさをかもし出していたが、一晩で元に回復し、輝きを増した主に、ティルは見惚れながらも首を傾げていた。
「ティル?」
いぶかしげなリュセルの声を聞き、ティルはようやく我に返る。
「おはようございます、リュセル様。すぐご朝食の用意をしますね」
朝食、昼食を通り越してもう午後のおやつの時間だったが。
そうして、ティルの用意した朝食兼昼食を食べていると、久しぶりの人物がやってきた。
邪気の影響から回復したばかりのレオンハルト直属の騎士の一人、ユージンである。
「申し訳ありませんでした」
会うなりそう言って深く頭を下げたユージンに、リュセルは困ったように彼を見た。
「殿下を守るように言われていながら、またしてもこの体たらく……。本当に」
もう一度頭を下げようとしたユージンを手で制すると、リュセルは言った。
「いくら騎士でも、邪気相手では素人なんだろう?今回の事は仕方がないって、レオンにも言われなかったか?」
「しかし」
ユージンのうなだれた様子にため息をつき、リュセルは言った。
「悪いと思っているのなら、これまで以上の忠誠をレオン、いや、兄上に誓ってくれ。決して裏切らず、決して傍を離れず、自分の命を賭して守る。それがお前の償いだと思え」
リュセルの言葉に顔を上げると、ユージンは真剣な顔で頷いた。
「……御意に」
その時だった。
パチパチパチ
軽い拍手がしたかと思うと、部屋にジェイドが入ってきた。
「話は、聞かせてもらったよ」
「こ、……国王陛下!」
慌てて礼をとったユージンに対し、にこやかに頷くと、ジェイドはそんな息子の騎士の肩をたたく。
「これからも、レオンを頼むよ」
「は、はい!」
この国の最高権力者に声をかけられて、ユージンは緊張に顔を強張らせ、一礼して退出して行った。
「よい騎士をレオンは持ったものだ」
そう言って威厳たっぷりに頷くが、そのTシャツの柄は、伊達男という太文字。
「もちろん、リュー君もユージンへのあの許しの言葉は格好良かったよ。パパは、もう、胸がきゅんきゅんしちゃったよ」
そう言って、体をくねくねとする父王の姿には、先程までの臣下を前にした時の威厳はなかった。
「……。仕事はいいんですか?」
胡乱げな目線をジェイドに送ると、彼は口笛を吹いてそっぽを向いた。
(これが、賢王として名高いジェイド王か)
読んだ本に書かれたジェイド王と、現実とのギャップにリュセルは遠い目をした。
「ねえ、ちょっと、パパに付き合ってくれないかい?」
息子の冷たい視線などまったく気にせず、ジェイドはそう言うとにっこり笑った。
そうして、ジェイドは、息子を部屋から連れ出し、後宮の中でも更に奥にある部屋へと案内した。
「ここだよ」
おもむろに扉を開け、中へとリュセルを招き入れるジェイドに続いて中へと入り、リュセルは目を見開いた。
そこにあったのは、大きな肖像画だった。
決して美人とは言えないが、人好きのする顔立ちの女性が穏やかな微笑みを浮かべている。
「お前達の母親だ」
「え!?」
リュセルはジェイドの言葉に目を見張り、肖像画の女性を凝視した。
「目元がカイルーズによく似ているだろう?」
「ああ」
頷くリュセルに、ジェイドは静かに言った。
「例え、私達に似通った所がなくても、お前達は私達の息子だよ」
ジェイドの言葉は、ゆっくりとリュセルの中に染み込んでくる。
「お前の母は、病気で五年前に死んだのだが、最後までこの世界に送り出す前に失くしてしまったお前の事を想っていたのだ。ルリカ、ああ、お前達の母の名だよ。見ての通り、平凡な容姿の女だった。でも、芯の強い人でもあった。その強さは、お前達兄弟の中に、それぞれの形で受け継がれていると思っているよ。」
ジェイドはそう言うと、まっすぐにリュセルを見つめた。
「例えばリュセル、国に変事が起こり、それと同時に邪気の浄化の仕事が重なったとする。そんな時は、迷わず浄化を優先させなさい」
母親の話から急に話題を変えた父王に、リュセルは眉をひそめた。
「僕とカイルーズは、直系の王族の責務として、国と民を守る義務がある。だが、剣鍵であるお前にその責はない」
「何を……」
意味がわからずリュセルが口を挟もうとするが、ジェイドはそれを許さず強い口調で言った。
「例え、国が滅びようとも、お前はお前の使命をまっとうするんだよ」
何故、そんな事を言うのか。
リュセルはジェイドの真意がわからずに、困惑の表情を浮かべた。
「失礼致します」
礼儀正しくそう声をかけると、扉を開けて中に入る。室内には、誰もいなかった。自分の主たるリュセルは、まだ眠っているのだろう。
今日の朝、いつものようにリュセルの部屋(仮)に向かおうとした時、それを見計らったかのようにレオンハルトが現れ、リュセルが自分の部屋で休んでいる事を教えられた。それと、ひどく疲れているようだから、本人が自分で起きて来ない限り起こさぬように。といい含められ、最近のリュセルの様子がおかしかった事もあり、ティルは心配になった。
寝室で休んでいると思われるリュセルの様子を見に行こうとするが、それで起こしてしまったら申し訳ないと思い、思い直す。
「リュセル殿下……」
ティルの心配そうな呟きを知る事もなく、一方、リュセルは久しぶりの睡眠を堪能しまくっていた。
質のいいカーテンに覆われた、大きな窓の隙間から零れ落ちる午後の日の光に照らされて、ようやく薄く目を開く。
「…………」
無言で目をこすり、その動きにつられて日の光に照らされた艶やかな銀の髪が揺れた。そのまま身を起こすと、体にかかっていたシーツがハラリと肩から落ちる。
(……なんで、服を着てないんだ?)
寝起きのボーっとした頭で、そう考えながら頭を掻いた。
シーツの下は、寝る前に着ていた夜着はおろか、下着すら身に着けていない状態で、まさに産まれたままの姿だったのだ。
(それにしても、久しぶりによく眠ったな)
確か、昨夜も眠れずに羊を数えまくっていたような気がするが。でもこうして眠れたという事は、睡眠不足という悩みは解消されたという事になるのだろうか。
そんな事を考えていると、だんだんと頭がはっきりとしてきた。
「起きるか」
レオンハルトの残り香の残る、この居心地のいいベットから抜け出すのは名残惜しいが。
「レオンハルト?」
リュセルは一気に覚醒すると、ベットの周りを見回した。見覚えのあるその寝室は、最近リュセルが自室としていたあの客室ではない。
部屋の主の趣味だろう。
落ち着いた色合いで統一された家具や壁紙などは、見覚えがありすぎる兄の部屋のものだ。リュセルの脳裏を、昨夜の記憶が走馬灯のように駆け巡った。
レオンハルトの長い指が肌を這い、自分自身に触れ、愛撫した、あの忘れがたい感覚。思い出した途端、リュセルは真っ青になる。
自分は一筋程も服を乱す事なくリュセルを乱した、兄の優雅な指。己の肌上を辿ったそれに、心が乱されると共に背徳感でいっぱいになった。
何度も高められ、何度も達かされた。涙の霞む視線の先にあったのは、美しい妖艶な微笑み。啼き喘ぐ、リュセルの顔をじっと見つめる金の瞳。思い出すと、背筋に痺れが走る。
普通、兄弟でこんな事をするものだろうか?
与えられる口づけは甘く、くせになりそうだ。
(一体、どんな顔してレオンに会ったらいいんだ)
頭を抱えながら、またシーツの上に沈んだ時、起きた気配が伝わったのか、ティルの声が寝室の外から響いた。
「リュセル殿下、起きられたんですか?」
扉を開けようとするティルに、リュセルはとっさに叫んだ。
「開けるな!」
ビクッと動きを止めたのが気配で分かったリュセルは、慌てて言った。
「ちょっと、待っていてくれないか?」
「……はい」
素直に命令に従うティルをそのままに、リュセルは急いで昨夜ベットの下に落とされた下着を身に着け、夜着はそのままにクローゼットを開ける。
レオンハルトのものしかない。
「こっちか」
もう一つの、形の同じクローゼットが自分のものだったはずだ。中には、客室に大部分を移動したせいで少なくなっているが、自分の衣類が入っていた。慌ててその中の一つを身に着けようとして、裸の胸元に散った赤い欝血の痕を視界に入れてしまう。
「お、俺は何も見なかったぞ」
小さな声でそう呟き、動きやすさを重視した私服を着込んだ。
レオンハルトやカイルーズの着ている宮廷衣は着方が難しく、一人で着られない為、リュセルは貴族の子弟などが着るようなラフな格好をする方が多い。
レオンハルトなどは、それに最初、眉をひそめていたが、最近はあきらめたのか何も言わなくなっていた。
「やあ。おはよう、ティル」
着替えを終えて、寝室から出てきたリュセルに、一瞬ティルは見惚れた。
最近悪かった顔色や髪の輝きが艶やかさを増し、その銀の瞳には穏やかさが取り戻されていたのである。やつれていた時も逆に壮絶な美しさをかもし出していたが、一晩で元に回復し、輝きを増した主に、ティルは見惚れながらも首を傾げていた。
「ティル?」
いぶかしげなリュセルの声を聞き、ティルはようやく我に返る。
「おはようございます、リュセル様。すぐご朝食の用意をしますね」
朝食、昼食を通り越してもう午後のおやつの時間だったが。
そうして、ティルの用意した朝食兼昼食を食べていると、久しぶりの人物がやってきた。
邪気の影響から回復したばかりのレオンハルト直属の騎士の一人、ユージンである。
「申し訳ありませんでした」
会うなりそう言って深く頭を下げたユージンに、リュセルは困ったように彼を見た。
「殿下を守るように言われていながら、またしてもこの体たらく……。本当に」
もう一度頭を下げようとしたユージンを手で制すると、リュセルは言った。
「いくら騎士でも、邪気相手では素人なんだろう?今回の事は仕方がないって、レオンにも言われなかったか?」
「しかし」
ユージンのうなだれた様子にため息をつき、リュセルは言った。
「悪いと思っているのなら、これまで以上の忠誠をレオン、いや、兄上に誓ってくれ。決して裏切らず、決して傍を離れず、自分の命を賭して守る。それがお前の償いだと思え」
リュセルの言葉に顔を上げると、ユージンは真剣な顔で頷いた。
「……御意に」
その時だった。
パチパチパチ
軽い拍手がしたかと思うと、部屋にジェイドが入ってきた。
「話は、聞かせてもらったよ」
「こ、……国王陛下!」
慌てて礼をとったユージンに対し、にこやかに頷くと、ジェイドはそんな息子の騎士の肩をたたく。
「これからも、レオンを頼むよ」
「は、はい!」
この国の最高権力者に声をかけられて、ユージンは緊張に顔を強張らせ、一礼して退出して行った。
「よい騎士をレオンは持ったものだ」
そう言って威厳たっぷりに頷くが、そのTシャツの柄は、伊達男という太文字。
「もちろん、リュー君もユージンへのあの許しの言葉は格好良かったよ。パパは、もう、胸がきゅんきゅんしちゃったよ」
そう言って、体をくねくねとする父王の姿には、先程までの臣下を前にした時の威厳はなかった。
「……。仕事はいいんですか?」
胡乱げな目線をジェイドに送ると、彼は口笛を吹いてそっぽを向いた。
(これが、賢王として名高いジェイド王か)
読んだ本に書かれたジェイド王と、現実とのギャップにリュセルは遠い目をした。
「ねえ、ちょっと、パパに付き合ってくれないかい?」
息子の冷たい視線などまったく気にせず、ジェイドはそう言うとにっこり笑った。
そうして、ジェイドは、息子を部屋から連れ出し、後宮の中でも更に奥にある部屋へと案内した。
「ここだよ」
おもむろに扉を開け、中へとリュセルを招き入れるジェイドに続いて中へと入り、リュセルは目を見開いた。
そこにあったのは、大きな肖像画だった。
決して美人とは言えないが、人好きのする顔立ちの女性が穏やかな微笑みを浮かべている。
「お前達の母親だ」
「え!?」
リュセルはジェイドの言葉に目を見張り、肖像画の女性を凝視した。
「目元がカイルーズによく似ているだろう?」
「ああ」
頷くリュセルに、ジェイドは静かに言った。
「例え、私達に似通った所がなくても、お前達は私達の息子だよ」
ジェイドの言葉は、ゆっくりとリュセルの中に染み込んでくる。
「お前の母は、病気で五年前に死んだのだが、最後までこの世界に送り出す前に失くしてしまったお前の事を想っていたのだ。ルリカ、ああ、お前達の母の名だよ。見ての通り、平凡な容姿の女だった。でも、芯の強い人でもあった。その強さは、お前達兄弟の中に、それぞれの形で受け継がれていると思っているよ。」
ジェイドはそう言うと、まっすぐにリュセルを見つめた。
「例えばリュセル、国に変事が起こり、それと同時に邪気の浄化の仕事が重なったとする。そんな時は、迷わず浄化を優先させなさい」
母親の話から急に話題を変えた父王に、リュセルは眉をひそめた。
「僕とカイルーズは、直系の王族の責務として、国と民を守る義務がある。だが、剣鍵であるお前にその責はない」
「何を……」
意味がわからずリュセルが口を挟もうとするが、ジェイドはそれを許さず強い口調で言った。
「例え、国が滅びようとも、お前はお前の使命をまっとうするんだよ」
何故、そんな事を言うのか。
リュセルはジェイドの真意がわからずに、困惑の表情を浮かべた。
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