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第三章 王族
3-2 王族と神子の役割
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「私達は国に縛られるが、お前達は創世の女神に縛られる宿命にある。お前は、邪気の浄化と、半身たるレオンハルトの事だけを考えていなさい」
「……はい」
頷いたリュセルを見て、ジェイドは満足そうに笑った。
「女神の息子であろうとも、お前達は僕の子供。愛している。ずっと、それは変わらない」
そんな温かいジェイドの言葉を聞いたリュセルは、何故、自分がここに連れてこられたのか分かった。
剣主・剣鍵という、重い宿命を背負った二人の息子の運命を、彼は憂いているのだ。だから、リュセルに国の事を考えなくてもいい事情と、自分の思いを告げた。
どんな事があろうとも愛していると。
両親の子供に対する、無償の愛。リュセルはそれを受け止めると、穏やかに微笑んでいる肖像画の母の姿をじっと見つめた。
とても優しそうな人だった。
「じゃあ、真面目な話も済んだ事だし、パパとお城の中の探検でもしようか?」
今までの真面目モードはどこへやら、急に元の口調に戻ったジェイドに冷たい視線を向けると、リュセルは言った。
「仕事に戻ってください。」
「……」
中でのそんなやりとりを、扉の外で聞いていた者がいた。
父王を仕事に戻す為にやって来ていた彼は、小さく微笑むと、長い胡桃色の髪を翻して、その場を離れていった。
*****
王族の役割と、宝主と宝鍵の役割。
その意味を父王から説明され、それでも息子として愛していると告げられて、リュセルはその意味を考えながら、中庭にある芝生に大の字に寝転がった。
王族である責務よりも、剣鍵としての責務の方が、自分にとって、とてつもなく重いらしい。
ジェイドは親馬鹿だが、やはり賢君だった。民の為に自分は在ると思っている。だが、自分はきっと、民よりも浄化を、ジェイドやカイルーズよりもレオンハルトを、優先させるのだろう。
「王族か」
リュセルはポツリと呟き、目を閉じた。
その瞬間、邪な気配を感じて目を見開くと、飛び起きる。
リュセルのいた場所に、変な粉が撒かれた所だった。
「あ、起きちゃった」
「カイルーズ!!」
残念そうな顔をしたカイルーズの姿を認めると、リュセルは警戒してじりじりと後ずさる。
「な、何を撒いたんだ」
「ん? 媚薬の粉」
んなもん、弟に撒いてど~するんだ!
リュセルの怒りを気にもせずに、隣に腰を下ろすと、カイルーズは言った。
「最近、毎日毎日、引き継ぎの為に兄上と顔を合わせるわ、僕の側近になった男が、これまた口うるさいわ、うんざりするよ」
愚痴りだしたカイルーズと距離をとりつつ、リュセルは答える。
「こんな所で油売ってていいのか?」
「今、休憩中だからね。あ~あ」
ぐちぐち言いながらも、意外にも、嫌いなレオンハルトから引継ぎを受けているカイルーズがリュセルは不思議だった。
それを聞くと、カイルーズは自嘲気味に笑った。
「だって、僕は王位継承者だから」
勝手気ままに生きそうなカイルーズだが、彼は自分の役目を充分理解していた。少し、ほんの少しだが、リュセルは、この、すぐ上の兄を見直した。
「カイルーズ殿下~!」
その時、遠くから聞こえた呼び声。それを聞いたカイルーズは、やれやれと重い腰を上げる。
「もう休憩は終わりか。は~い、今行くよ。じゃあね、リュセル」
そうして去っていく姿を見送ると、リュセルは小さくため息をついた。
ー子供達をお願いね、ジェイド-
五年前、その言葉を最後に息を引き取った、妻の事をひと時も忘れた事はない。
リュセルが中庭でボーっとしている時と同じ頃、たまった書類に目を通し王印を押していた手を止めると、不意に、ジェイドは、執務机の上に置かれた、今は亡き王妃、ルリカの小さな姿絵を見つめた。
先代の剣主と剣鍵が五百年という長い生を終え、永遠の眠りに同時につく日が決まった直後、妻に宿った命。自分はそれに畏怖を感じた。
それが、重い宿命を担って産まれてくるだろう事がわかっていたからだ。
剣主なのか、剣鍵なのかは当時わからなかったが、いつまでも暗い顔をしていたジェイドに、穏やかな性格だったルリカは本気で怒った。
後にも先にもあんなに怒ったルリカを見たのは、あれが最初で最後だ。
「どうしてそんな顔をするの!? 私は、この子を愛している。産まれる前から、愛している。あなたは違うの!?」
そう怒鳴って、ぼろぼろと涙を流したルリカの姿を見て、自分は我に返る事ができたのだ。女神の子供であろうとも、自分の子なのだ。重い宿命を背負っていようとも、それは変わらない。
そうして産まれた子供は、自分達のどちらにも似ておらぬ、胡桃色の髪と琥珀の瞳をした、美しい子供だった。
レオンハルト
強く、凛々しく、そして、優しくあれ。
そんな願いを込めて、そう名づけた子供が四つになった時、ルリカは、ジェイドによく似た二人目の男の子を産み落とした。
ルリカは、レオンハルトもカイルーズも平等に愛した。
自分は、ルリカがいなかったら、きっと、カイルーズにしか関心を示す事は出来なかっただろう。
女神の美貌を受け継ぐレオンハルトは、四歳で既にどんな美女も敵わぬ華やかさを身に着けていたのだ。
そしてリュセル。
三人目の子供が失われた時、ルリカが泣いたのは一度だけだった。半身を失ったレオンハルトを支える為に、泣くのを止めたのだろう。
強い女だった。
あれが、本当の強さというものなのだろう。
「レオンもカイルもリュセルも、君の強さを受け継いでいるよ、ルリカ」
ジェイドはそう言うと、ルリカの姿絵に熱い口づけ(ベーゼ)を贈った。
同じ執務室で仕事をしていた王の側近達は、亡き王妃の姿絵に、ぶちゅううううと口付けている王の姿を生暖かい目で見守っていたのだった。
「父上、母上の絵姿を唾液でドロドロにするのは止めてください。側近達が困っているではないですか」
物思いにふけっていた父王の奇行を止めたレオンハルトは、持ってきた書類をジェイドの執務机の上にどっさりと置いた。
「仕分けはしておきましたから、遊んでいないで仕事して下さい」
「はいはい」
ジェイドはそう頷くと、わかりやすく仕分けされた書類に感心しながらも言った。
「カイルーズへの引継ぎは、終わったのかい?」
「大体終わりました。後は、カイエもついていますし、大丈夫でしょう」
カイエとは、最近カイルーズの側近についた青年の事である。有能な男で、仕事も早く、無駄な手は一切うたない。彼がついていれば、政務に慣れないカイルーズも安心だろう。
「そういえば、父上。私から話そうと思っていた話を、リュセルにしてくれたみたいですね」
「ん? 余計な事だったかな?」
ジェイドの言葉に、レオンハルトは緩く首を振る。
「いえ、助かりました」
それにジェイドは小さな微笑みを浮かべた。
「ここはもういいよ。今まで僕の右腕のような仕事をさせて悪かったね。これからは、自分の役目を果たしなさい」
「はい」
父王の言葉に一礼して、王の執務室を出て行こうとしたレオンハルトに、ジェイドは言った。
「リュセルを頼むね、レオン」
その言葉にレオンハルトは力強い微笑みを残し、部屋を出て行ったのだった。
「ルリカ。息子達を守ってくれよ」
ジェイドの熱いベーゼを受け止めすぎて、唾液でドロドロになった亡き妻の絵姿を見つめながら、ジェイドは呟いた。
「……はい」
頷いたリュセルを見て、ジェイドは満足そうに笑った。
「女神の息子であろうとも、お前達は僕の子供。愛している。ずっと、それは変わらない」
そんな温かいジェイドの言葉を聞いたリュセルは、何故、自分がここに連れてこられたのか分かった。
剣主・剣鍵という、重い宿命を背負った二人の息子の運命を、彼は憂いているのだ。だから、リュセルに国の事を考えなくてもいい事情と、自分の思いを告げた。
どんな事があろうとも愛していると。
両親の子供に対する、無償の愛。リュセルはそれを受け止めると、穏やかに微笑んでいる肖像画の母の姿をじっと見つめた。
とても優しそうな人だった。
「じゃあ、真面目な話も済んだ事だし、パパとお城の中の探検でもしようか?」
今までの真面目モードはどこへやら、急に元の口調に戻ったジェイドに冷たい視線を向けると、リュセルは言った。
「仕事に戻ってください。」
「……」
中でのそんなやりとりを、扉の外で聞いていた者がいた。
父王を仕事に戻す為にやって来ていた彼は、小さく微笑むと、長い胡桃色の髪を翻して、その場を離れていった。
*****
王族の役割と、宝主と宝鍵の役割。
その意味を父王から説明され、それでも息子として愛していると告げられて、リュセルはその意味を考えながら、中庭にある芝生に大の字に寝転がった。
王族である責務よりも、剣鍵としての責務の方が、自分にとって、とてつもなく重いらしい。
ジェイドは親馬鹿だが、やはり賢君だった。民の為に自分は在ると思っている。だが、自分はきっと、民よりも浄化を、ジェイドやカイルーズよりもレオンハルトを、優先させるのだろう。
「王族か」
リュセルはポツリと呟き、目を閉じた。
その瞬間、邪な気配を感じて目を見開くと、飛び起きる。
リュセルのいた場所に、変な粉が撒かれた所だった。
「あ、起きちゃった」
「カイルーズ!!」
残念そうな顔をしたカイルーズの姿を認めると、リュセルは警戒してじりじりと後ずさる。
「な、何を撒いたんだ」
「ん? 媚薬の粉」
んなもん、弟に撒いてど~するんだ!
リュセルの怒りを気にもせずに、隣に腰を下ろすと、カイルーズは言った。
「最近、毎日毎日、引き継ぎの為に兄上と顔を合わせるわ、僕の側近になった男が、これまた口うるさいわ、うんざりするよ」
愚痴りだしたカイルーズと距離をとりつつ、リュセルは答える。
「こんな所で油売ってていいのか?」
「今、休憩中だからね。あ~あ」
ぐちぐち言いながらも、意外にも、嫌いなレオンハルトから引継ぎを受けているカイルーズがリュセルは不思議だった。
それを聞くと、カイルーズは自嘲気味に笑った。
「だって、僕は王位継承者だから」
勝手気ままに生きそうなカイルーズだが、彼は自分の役目を充分理解していた。少し、ほんの少しだが、リュセルは、この、すぐ上の兄を見直した。
「カイルーズ殿下~!」
その時、遠くから聞こえた呼び声。それを聞いたカイルーズは、やれやれと重い腰を上げる。
「もう休憩は終わりか。は~い、今行くよ。じゃあね、リュセル」
そうして去っていく姿を見送ると、リュセルは小さくため息をついた。
ー子供達をお願いね、ジェイド-
五年前、その言葉を最後に息を引き取った、妻の事をひと時も忘れた事はない。
リュセルが中庭でボーっとしている時と同じ頃、たまった書類に目を通し王印を押していた手を止めると、不意に、ジェイドは、執務机の上に置かれた、今は亡き王妃、ルリカの小さな姿絵を見つめた。
先代の剣主と剣鍵が五百年という長い生を終え、永遠の眠りに同時につく日が決まった直後、妻に宿った命。自分はそれに畏怖を感じた。
それが、重い宿命を担って産まれてくるだろう事がわかっていたからだ。
剣主なのか、剣鍵なのかは当時わからなかったが、いつまでも暗い顔をしていたジェイドに、穏やかな性格だったルリカは本気で怒った。
後にも先にもあんなに怒ったルリカを見たのは、あれが最初で最後だ。
「どうしてそんな顔をするの!? 私は、この子を愛している。産まれる前から、愛している。あなたは違うの!?」
そう怒鳴って、ぼろぼろと涙を流したルリカの姿を見て、自分は我に返る事ができたのだ。女神の子供であろうとも、自分の子なのだ。重い宿命を背負っていようとも、それは変わらない。
そうして産まれた子供は、自分達のどちらにも似ておらぬ、胡桃色の髪と琥珀の瞳をした、美しい子供だった。
レオンハルト
強く、凛々しく、そして、優しくあれ。
そんな願いを込めて、そう名づけた子供が四つになった時、ルリカは、ジェイドによく似た二人目の男の子を産み落とした。
ルリカは、レオンハルトもカイルーズも平等に愛した。
自分は、ルリカがいなかったら、きっと、カイルーズにしか関心を示す事は出来なかっただろう。
女神の美貌を受け継ぐレオンハルトは、四歳で既にどんな美女も敵わぬ華やかさを身に着けていたのだ。
そしてリュセル。
三人目の子供が失われた時、ルリカが泣いたのは一度だけだった。半身を失ったレオンハルトを支える為に、泣くのを止めたのだろう。
強い女だった。
あれが、本当の強さというものなのだろう。
「レオンもカイルもリュセルも、君の強さを受け継いでいるよ、ルリカ」
ジェイドはそう言うと、ルリカの姿絵に熱い口づけ(ベーゼ)を贈った。
同じ執務室で仕事をしていた王の側近達は、亡き王妃の姿絵に、ぶちゅううううと口付けている王の姿を生暖かい目で見守っていたのだった。
「父上、母上の絵姿を唾液でドロドロにするのは止めてください。側近達が困っているではないですか」
物思いにふけっていた父王の奇行を止めたレオンハルトは、持ってきた書類をジェイドの執務机の上にどっさりと置いた。
「仕分けはしておきましたから、遊んでいないで仕事して下さい」
「はいはい」
ジェイドはそう頷くと、わかりやすく仕分けされた書類に感心しながらも言った。
「カイルーズへの引継ぎは、終わったのかい?」
「大体終わりました。後は、カイエもついていますし、大丈夫でしょう」
カイエとは、最近カイルーズの側近についた青年の事である。有能な男で、仕事も早く、無駄な手は一切うたない。彼がついていれば、政務に慣れないカイルーズも安心だろう。
「そういえば、父上。私から話そうと思っていた話を、リュセルにしてくれたみたいですね」
「ん? 余計な事だったかな?」
ジェイドの言葉に、レオンハルトは緩く首を振る。
「いえ、助かりました」
それにジェイドは小さな微笑みを浮かべた。
「ここはもういいよ。今まで僕の右腕のような仕事をさせて悪かったね。これからは、自分の役目を果たしなさい」
「はい」
父王の言葉に一礼して、王の執務室を出て行こうとしたレオンハルトに、ジェイドは言った。
「リュセルを頼むね、レオン」
その言葉にレオンハルトは力強い微笑みを残し、部屋を出て行ったのだった。
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