【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第四章 朱金の姫君

3-1 ヘアアレンジの才能開花

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 そして……


「「ごめんなさい!!」」


 次の日の朝、朝食の席で、リュセルとユージンは、不機嫌そうに腕を組んだレオンハルトに、土下座して謝っていた。レオンハルトの後ろでは、アイリーンとアントニオが心配そうに見守っている。

 現在、ユージンが昨夜、心配していた通りになっていた。

「とりあえず、席に着きなさい」

 氷点下に冷え切ったレオンハルトの声。それにカタカタ震えながら、リュセルは、とりあえず椅子に腰掛けた。

 昨夜、この旅の間、触れられてこなかった兄の指に、体中を探られた。その事を思い出し、椅子に腰掛けた時、リュセルはわずかに眉をしかめる。

 まだ、体の中に兄の指の感覚が残っているようだ。

 男同士の行為がどんなものかは、向こうの世界でそういう事に詳しかった女友達もいたし、知っていたつもりだった。

(ううう、まさか、自分が体験する事になろうとは……)

 しかし、まだ最後までせずに、レオンハルトがかなりの自制心を有している事に、リュセルはまったく気づいていなかった。
 城にいた間は、高められて解放されるだけだったので、昨夜、指を入れられた時、かなりびびって許しを乞うた事だけ覚えている。

 まあ、許してはもらえなかったが

 さんざん自分を乱した兄は、清純な顔で、(表現が間違っているような気がするが)現在、お説教モードに入っていた。

「心配をかけた罰として、しばらく、このシリーズ本は私が預かる」

 延々と繋げられると思われたお説教の後に、レオンハルトは、昨夜、リュセルが命がけ(?)で持ち帰った黒い背表紙の単行本を右手に掲げた。

「お、俺のノンちゃんが……」

「何か文句でも?」

 キランと光ったその琥珀の瞳に、リュセルは口をつぐんだ。

「それとユージン、お前はこの旅の間、女禁だ。ナンパもするな」

 ユージンは、かなり哀しそうな顔をしながら、騎士たるもの、主の命に逆らう事も出来ず、返事をした。

「はい、殿下」

 それにレオンハルトは満足そうに頷き、ふっと、何かを思い出したかのように言った。

「それで、幽霊は見たのか?」

「見てない。見たのはクマリスだけだ」

 リュセルはレオンハルトの問いに、憮然として答えた。そのクマリスに対し、思いっきりビビッていたのは内緒だ。

「だろうな」

 そう言ってため息をついたレオンハルトに、リュセルはイライラした。

「後ろから、ずっと見ていたんじゃないのか?」

「追いついたのは、お前達が井戸の前で密着して見つめ合っていた時だから、その前は見ていない」

 レオンハルトの静かな声に、ユージンはひやりとした。

(リュセル王子! 地雷を踏まないで下さいいいい~)

 リュセルもその話題に戻るのはやばいと思い、顔を若干ひきつらせながら話題を変えた。

「それで、だろうな。ってどういう事なんだ? あの幽霊話は本当にあった事だって、レオンも言っていただろうが」

「私は、大体合っているとも言ったぞ」

「「……」」

 リュセルとユージンは、同時に屁理屈だと思った。

「あの話が最も事実と異なるのは、少女が死んでいないという事だ」

「え!? 生きてるんすか?」

 驚きに目を見張るユージンに、レオンハルトは頷いた。

「確かに、その少女は若者に恋をして、若者の愛する娘にいろいろと良からぬ事を考えていたが、最後には、その娘の優しさに心打たれ、若者と娘に仕える事を選んだのだよ」

 真相を聞いてみれば、なんて事ない話である。

「なんだ~、怖がって損しましたねぇ。リュセル王子」

「いつ、俺が怖がった?」

 兄の騎士の言葉に、銀の瞳をぎらつかせて睨みつけてきたリュセルに、ユージンは口端をヒクつかせた。

(思いっきり、しがみついてきたじゃないすか~!)

 心の中で絶叫を上げながら、ユージンはガクリと項垂れた。

「それにしても、その話についてレオンは詳し過ぎないか?」

 リュセルは落ち着く為、アイリーンが注いでくれた紅茶を一口飲むとそう言った。

「話に出てくる若者と娘は、私の知り合いだからな」

 知り合い……。

(それじゃあ、話の真相を知ってて当然だろうよ!)

 リュセルは自業自得だという事を忘れて、自棄酒(やけざけ)ならぬ、自棄紅茶(やけこうちゃ)を飲んだ。

「くそっ、もう一杯!」

 リュセルの差し出したカップに、アイリーンは何も言わずに紅茶を注ぐ。

(ああ、馬鹿馬鹿しい!)

 紅茶をがぶ飲みしているリュセルを横目に、レオンハルトは言った。

「では、朝食をとり終わったら出発するぞ。今日中に、ディエラ国内に入る」





 その日の午後にはディエラとアシェイラの間に位置する関所を通過して、ディエラ国内に入国する事に成功した。


 そして、この幽霊話騒動以降、リュセルへのレオンハルトの監視が強まったのは言うまでもない。あれから数日、リュセルは愛読書の黒猫ノンちゃんシリーズ全巻取り上げられ、ユージンの話を聞くのも今回の件で懲りてしまっていたので、馬車の中で暇を持て余していた。

(暇だ……)

 リュセルは頬杖をついて、目の前で単行本を読んでいるレオンハルトを憎憎しい気持ちで見つめていた。

(俺のノンちゃんを取り上げたくせに、自分は読書を満喫かい)

 恨めしい。

 弟の恨めしい視線を感じているくせに、いつもと同じ無表情でページを捲るレオンハルトの胡桃色の髪が、肩から一房ハラリと落ちた。

(しかし、本当に長い髪だな)

 長いだけでなく、その髪がサラサラとして柔らかいのを知っている。リュセルはなんとなく無意識に、その髪に手を伸ばした。指でクルクルと、レオンハルトの髪を巻いて弄(もてあそ)んでみる。

 柔らかいし、サラサラとしていい感触だし、おまけに男のくせにいい匂いがするのだ。リュセルはレオンハルトの向かいの席から隣に移動すると、本格的に兄の髪で遊び始めた。

 レオンハルトは、自分の隣に移動して髪を弄り始めたリュセルに一瞬目を向けたが、すぐに視線を単行本に戻したのだった。


「殿下~、今日の宿に着きましたよ~」

 日がとっぷり暮れたその日は結構道を進んだ為、宿のある街に着いたのが夜中近くになってしまっていた。

「ああ」

 アントニオが馬車を宿屋の前につけると、ユージンとアイリーンが馬を降り、ランプに灯を灯して、馬車を照らした。そして、馬車から降りてきたレオンハルトを見て、ユージンとアイリーンは絶句した。

「どうした?」

 怪訝そうなレオンハルトの言葉に、アイリーンは慌てて首を振った。

「いえ、何でもありません」

 そして、隣で噴出しかけているユージンの足を思いっきり踏みつけた。

 続いてレオンハルトの後からリュセルが出てくると、ユージンは小さな声で聞いた。

「リュ、リュセル王子、ちょっと聞いてもいいですか?」

 長時間馬車の中にいた為、腰が痛いのか、さすっている手を止めて、リュセルが目を向けてきた。

「何だ?」

「あ、あの殿下の髪って、リュセル王子が?」

 笑い出しそうになるのを堪えながら、やっとの事でそう言うと、リュセルは何でもない事のように頷いた。

「ああ、暇だったからな。」

 この日、朝、馬車に乗り込んだ時と今降りた時とでは、あきらかにレオンハルトの髪型が変わっていたのだ。

 腰まである長い髪を頭上で纏め上げ、いわゆるポニーテール状態になっていたのである。そして芸が細かい事に、髪の中から一房摘み取り、それを、縛った細紐の周りに巻きつけてあった。

 美しく、見事なヘアアレンジである。そして、それはこの日ばかりではなかった。

 レオンハルトの髪は、暇を持て余したリュセルの手によって、朝、馬車に乗り込む時は普通の髪型なのに、降りる時は色々弄くられ凝った髪型になっていたのだ。

 ある日など、二つに分けたおさげ髪になっていて、ユージンなどは堪えきれずに抱腹絶倒していた。アイリーンでさえ、目に涙をためている始末だ。 騎士達の中で唯一変わらぬアントニオは、さすが年の功というべきか。

 それも、日に日にその髪型が凝っていく……

 旅も終盤になると、笑うよりもリュセルの手先の器用さに感心してしまって、本日はどんな髪型だろうかと楽しみになってしまう程だった。
 そんなこんなで、ディエラ国王都に着く頃には、リュセルの美容師としての才能が開花しかけていた。



*****



 女神の眠るセイントクロスの地より、南東に位置する王国、鏡守りの国ディエラ。西に位置する大国、アシェイラ程大きくはないが、王都は芸術の都としても名高い美しい国である。

 そして、ディエラ城自体も、アシェイラ城の壮麗で偉大な外観と異なり、優美な印象を受ける、すべてにおいて、対照的な国であった。

 かの国を治めるのは、今年六十五歳になる老齢の女王、シルヴィア女王である。彼女には孫が五人おり、そのすべてが女の子であった。そして五人の孫の内、上の二人の王女が女神の娘としての宿命を背負って生まれてきたのだ。

 第一王女 ジュリナ・レイデューク・ディエラ
 第二王女 ティアラ・セイントクロス・ディエラ

 美しくも麗しいこの姉妹も、また、女神の力を受けた鏡の継承者として、お互いが強い絆で結ばれていた。

 だが、宝主と宝鍵、半身としてお互いの存在への依存関係にありながらも、ティアラ姫にはれっきとした他国の王子という婚約者がいるのである。

 アシェイラ国第三王子 リュセル・セイントクロス・アシェイラ

 彼もまた、剣鍵という宿命にあった。

 アシェイラ王ジェイドとディエラ王シルヴィアの間に交わされた、それは、約束であり、契約であったのだ。
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