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第四章 朱金の姫君
7-3 ジュリナの危惧
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その後わかった事だが、行方不明になっていた四人の若者は、屋敷の門の前に気を失って倒れていたという。彼らは街の自警団によって保護され、事件は無事片付いた。
任務を完全終了させたレオンハルト達は、そのまま宿屋を目指した。アムルの街の宿屋は、なんと邪気浄化の前に立ち寄った酒場と繋がっていたのだ。
酒場のマスターが、宿の主人も兼任しているらしい。
お世辞にも格があるとは言えぬ、まさに安宿だが、残念ながら宿屋はここしかなかった為、部屋を二部屋とり、リュセル達四人はやっと落ち着く事が出来たのだった。
「う……」
そんな中、リュセルは自分の呻き声で目を覚ますと、ゆっくりと身を起こした。
「気がつかれましたか?リュセル様」
城のような、柔らかく、無駄に広い寝台ではないが、安宿にしては寝心地のいい寝台の上で、リュセルは目を瞬かせた。
「ここは、どこです?」
「アムルの街の宿屋ですわ」
レオンハルトの腕の中で気絶したらしく、宿屋に着いた記憶がない。
(初任務で気絶するなど、情けない)
リュセルが自己嫌悪に陥っている横で、ティアラがグラスに水を注いでいた。
「どうぞ、お水です」
「ありがとう」
ティアラから水を受け取ると、それを一気に飲み干す。
「レオン達は?」
リュセルの問いに、ティアラはベットの近くの木の椅子に腰を下しながら優しく微笑んだ。
「大丈夫、レオンハルト様もお姉様も隣の部屋で話をしていますわ」
「俺はどれくらい寝ていたんですか?」
「一刻程」
質問ばかりするリュセルに律儀に答えると、ティアラは痛ましそうな目で、目の前の婚約者の首のあたりを見つめていた。
(何だ?)
不思議に思って首に手を触れると、布が巻かれているのがわかった。それに、布の下から独特の匂いがする。
「一通り、手当ては致しましたの。薬を塗りましたので、痣が消えるのは通常よりは早いはずです」
「痣?」
首なんて、自分で見えない為、痣が出来ていた事など気づきもしなかったリュセルである。
「お姉様よりすべて聞きました。ウィリア卿の娘、リーナの残留思念に引きずられて、彼女の死を再現なさったそうですね」
そう言ったティアラは、心配そうに眉をひそめた。現在、布に覆われて見えない、その下の痣は、見た者がぞっとするようなものだったのだ。
首を絞められた跡のような、手形の跡
外の闇の中ではぼんやりとしかわからなかったが、宿屋のベットの上に弟を下ろした後、燭台の明かりの下でリュセルの首を照らした時、レオンハルトの表情が一瞬で凍りついたのを間近で見たティアラは、胸が痛むのを感じていた。
「今回の事は、申し訳ありません。お姉様があなたを連れ去った事が、そもそもの原因ですもの……」
悲しそうに目を伏せたティアラの長い朱金の睫毛を眺めていたリュセルは、ふと我に返ると、慌てて言った。
「あなたの責任ではありません、ティアラ姫。それに、今回の事は、ジュリナ殿とも触れ合う事のできた、とてもいい経験だったと思っています」
そんなリュセルの言葉に、ティアラは嬉しそうににっこりと笑った。
「リュセル様……」
そして、二人、何を言うでもなく見つめ合う。なんだか甘酸っぱい雰囲気が、二人の間を流れていた。
(そういえば、純粋に二人きりになったのって初めてだな)
邪魔な互いの半身がいない状況など初めてだった。今なら聞けるかもしれない。
「ティアラ姫。聞きたい事があるのですが……」
「はい?」
愛らしく小首を傾げたティアラを見たリュセルは、わずかに頬を染めるが、軽く咳払いをして尋ねた。
「ティアラ姫は、ジュリナ殿が怖くなる時がありませんか?」
リュセルの言葉に、ティアラはきょとんとした顔になった。
「お姉様が、ですか? ありませんわ。お姉様はとても優しいですし」
そう、ジュリナはティアラには優しい。他人、特に、男には厳しいが。
「なんというか、そういうのではなく、……そう、ジュリナ殿との関係が怖くなる事ないですか?」
「お姉様との関係? それは、半身同士の関係が、という事ですか?」
ティアラの言葉にリュセルは頷くと、視線を下に向けた。
「リュセル様は、レオンハルト様とのご関係が怖いのですか?」
「……このままでは、レオンに対する依存が強くなっていってしまう気がするのです」
リュセルの不安を耳にしたティアラは、不思議そうな顔をした。
「依存が強くたって、いいじゃありませんか」
はっきり、きっぱりと、そう言い切った婚約者に、リュセルは驚きに目を見開いて、ティアラのその可憐な美貌の方へと顔を向けた。
「わたくしだって、お姉様に対する依存は強いですわ。お姉様なしでは生きてなどいかれません。それだけ愛している人を、わたくし達は生まれ落ちたその瞬間から得ているのです。それって、とても素敵な事ではありませんか?」
そう言って、女神のような微笑みを浮かべたティアラは美しく、リュセルは目を細めて彼女の光の美貌を見つめた。
「そう、ですね……。そうですね、ティアラ姫。あなたのような方が婚約者だなんて俺は幸運な男です」
「そんな……」
照れたように、頬をピンク色に染めたティアラの両手を握ると、リュセルは言った。
「あなたに口づけを贈りたいのですが、どこに口づければいいのですか?」
真面目な顔でそう言ったリュセルに、ティアラは頬を更に赤く染め上げて、その熟れた果実のような右頬を差し出した。
「わたくし達の唇は、半身のもの。つまり、わたくしの唇は、生涯、お姉様、ただお一人のものです。でも、リュセル様もわたくしの大切な方。リュセル様へは、わたくしの頬を許しますわ」
「ありがとう」
リュセルは微笑むと、上体をティアラの方へと倒し、その滑らかな頬へと軽く口づけた。
「……なんだか、照れますね」
「そうですわね」
リュセルとティアラは頬を染めながら、そう言い合い、小さく笑った。
二人の宝鍵が、ほのぼのと小さな恋のメロディを奏でている時、隣の部屋では、ジュリナがレオンハルトに謝罪している所だった。
「今回の事、すまなかった」
ジュリナのそんな言葉に、テーブルの向かいに座り、葡萄酒を飲んでいたレオンハルトは、衝撃のあまりグラスを傾ける手が止まった。
「なんだ? その顔は」
「いきなり謝るな。気色悪い」
昔、リュセルに謝った時、自分も同じような反応をされた事がある事を思い出したレオンハルトは、認めたくないが、この男装の美女と自分が類似している事を実感した。
「何だ! その言い草はっ!? 今回はさすがにやりすぎたと思って、謝ったというのに」
そう言って、自分も葡萄酒を飲んでいたジュリナは、持っていたグラスをダンッとテーブルの上に叩きつけた。
「お前に再会したら、殺してやろうかと本気で思ったよ。しかも、人の半身によくもあんな痣をつけてくれたな」
その言葉と共に冷気を感じたジュリナは、そんなレオンハルトを見て言った。
「ん? ”氷の王子”、復活かい?」
「ジュリナ」
ふざけたジュリナを咎めるように、名を呼んだレオンハルトを見ながら、彼女は腕を組むと、椅子に背をもたれさせて両手を広げた。
「連れ去った事は、私が悪かった。でも、あの痣に関しては不可抗力さ」
「不可抗力だと?」
不機嫌そうに眉をしかめた幼なじみに、ジュリナは言った。
「説明しただろう? あれは、リーナの死を体現した結果なのさ。宝鍵といえども、そこまで感応する事が出来るなど稀だ。初任務であそこまで邪気を正確に感知したのにも驚いたけれどね。あの子は、日常生活で不便をしていたりしないのかい?」
「いや、そんな事はないはずだが」
「じゃあ、あの高い感知能力は邪気にのみ反応するって事だねぇ。あれだけの能力だ。色々な者や物から残留思念を読み取ってしまって、難儀してるんじゃないかと心配になっただけさ」
ジュリナの言葉に、レオンハルトは目を見張った。
「心配? お前が? ティアラ姫以外の者を?」
「まあね。お前の弟にしては、いい子じゃないか?揶揄うとおもしろいし……」
おもしろそうに思い出し笑いをしたジュリナを、感情のわからぬ瞳で見つめると、レオンハルトは短く返事をした。
「そうか」
それを見たジュリナは、表情を一変させて言った。
「それと、話は変わるが、手紙で聞かれた件だが、お前の予測通り、三人の子供の犠牲が出た村の邪気は、アシェイラ城に侵入したという邪鬼と同一のものだった」
「やはりな」
レオンハルトの冷静な声に、ジュリナは真剣な表情でずっと考えていた事を口にした。
「邪気にしろ、邪鬼にしろ、今までの動きと違う。なんだか、組織的なものを感じないかい?いや、というより、奴らを束ねる親玉がいるような……」
「親玉?」
「実は、リュセルが帰還する少し前まで、ティアラの周りを特定の邪鬼がウロチョロしてたんだよ」
続くジュリナの言葉に、レオンハルトは眉をひそめた。
「初耳だぞ」
「だって、私達は、会うと喧嘩ばかりしていたじゃないか」
「……」
無言になったレオンハルトに肩をすくめると、ジュリナは話を更に続けた。
「そいつ、何をしてくるでもなくティアラを監視しているだけだったんだが、一度、私達の前に現れた事があるんだ。恐ろしい程の邪気を秘めていたそいつの名は……サイレン」
「サイレン」
「ああ、人型だった」
事実のみを語るジュリナの言葉を聞いたレオンハルトは、低く呻いた。人型の邪鬼は、最上級の邪気と、桁違いの力を持つと伝えられていた。
「マスターがあなたを求めた時、すぐにでも連れて行く。そう言って姿を消したのさ」
「マスター。そいつの主人か」
「でも、ある時からぷっつりとその監視が途絶えてねぇ。ティアラから興味が失せたのかと安心していたんだが…………私が言いたい事、わかるね?」
ジュリナの問いかけるような視線に、レオンハルトは頷いた。
「リュセルだな」
「そう。城でお前の弟が襲われたと聞いた時、私はピンときた。ターゲットが移ったと」
そうして、一旦話を区切ると、ジュリナは真剣な表情で忠告した。
「気をつけろ、レオンハルト」
その言葉に、レオンハルトは静かな声で答える。
「あれは私のものだ。誰にも渡さぬ……」
予測通りの答え。それを聞いたジュリナは、小さく苦笑したのだった。
任務を完全終了させたレオンハルト達は、そのまま宿屋を目指した。アムルの街の宿屋は、なんと邪気浄化の前に立ち寄った酒場と繋がっていたのだ。
酒場のマスターが、宿の主人も兼任しているらしい。
お世辞にも格があるとは言えぬ、まさに安宿だが、残念ながら宿屋はここしかなかった為、部屋を二部屋とり、リュセル達四人はやっと落ち着く事が出来たのだった。
「う……」
そんな中、リュセルは自分の呻き声で目を覚ますと、ゆっくりと身を起こした。
「気がつかれましたか?リュセル様」
城のような、柔らかく、無駄に広い寝台ではないが、安宿にしては寝心地のいい寝台の上で、リュセルは目を瞬かせた。
「ここは、どこです?」
「アムルの街の宿屋ですわ」
レオンハルトの腕の中で気絶したらしく、宿屋に着いた記憶がない。
(初任務で気絶するなど、情けない)
リュセルが自己嫌悪に陥っている横で、ティアラがグラスに水を注いでいた。
「どうぞ、お水です」
「ありがとう」
ティアラから水を受け取ると、それを一気に飲み干す。
「レオン達は?」
リュセルの問いに、ティアラはベットの近くの木の椅子に腰を下しながら優しく微笑んだ。
「大丈夫、レオンハルト様もお姉様も隣の部屋で話をしていますわ」
「俺はどれくらい寝ていたんですか?」
「一刻程」
質問ばかりするリュセルに律儀に答えると、ティアラは痛ましそうな目で、目の前の婚約者の首のあたりを見つめていた。
(何だ?)
不思議に思って首に手を触れると、布が巻かれているのがわかった。それに、布の下から独特の匂いがする。
「一通り、手当ては致しましたの。薬を塗りましたので、痣が消えるのは通常よりは早いはずです」
「痣?」
首なんて、自分で見えない為、痣が出来ていた事など気づきもしなかったリュセルである。
「お姉様よりすべて聞きました。ウィリア卿の娘、リーナの残留思念に引きずられて、彼女の死を再現なさったそうですね」
そう言ったティアラは、心配そうに眉をひそめた。現在、布に覆われて見えない、その下の痣は、見た者がぞっとするようなものだったのだ。
首を絞められた跡のような、手形の跡
外の闇の中ではぼんやりとしかわからなかったが、宿屋のベットの上に弟を下ろした後、燭台の明かりの下でリュセルの首を照らした時、レオンハルトの表情が一瞬で凍りついたのを間近で見たティアラは、胸が痛むのを感じていた。
「今回の事は、申し訳ありません。お姉様があなたを連れ去った事が、そもそもの原因ですもの……」
悲しそうに目を伏せたティアラの長い朱金の睫毛を眺めていたリュセルは、ふと我に返ると、慌てて言った。
「あなたの責任ではありません、ティアラ姫。それに、今回の事は、ジュリナ殿とも触れ合う事のできた、とてもいい経験だったと思っています」
そんなリュセルの言葉に、ティアラは嬉しそうににっこりと笑った。
「リュセル様……」
そして、二人、何を言うでもなく見つめ合う。なんだか甘酸っぱい雰囲気が、二人の間を流れていた。
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邪魔な互いの半身がいない状況など初めてだった。今なら聞けるかもしれない。
「ティアラ姫。聞きたい事があるのですが……」
「はい?」
愛らしく小首を傾げたティアラを見たリュセルは、わずかに頬を染めるが、軽く咳払いをして尋ねた。
「ティアラ姫は、ジュリナ殿が怖くなる時がありませんか?」
リュセルの言葉に、ティアラはきょとんとした顔になった。
「お姉様が、ですか? ありませんわ。お姉様はとても優しいですし」
そう、ジュリナはティアラには優しい。他人、特に、男には厳しいが。
「なんというか、そういうのではなく、……そう、ジュリナ殿との関係が怖くなる事ないですか?」
「お姉様との関係? それは、半身同士の関係が、という事ですか?」
ティアラの言葉にリュセルは頷くと、視線を下に向けた。
「リュセル様は、レオンハルト様とのご関係が怖いのですか?」
「……このままでは、レオンに対する依存が強くなっていってしまう気がするのです」
リュセルの不安を耳にしたティアラは、不思議そうな顔をした。
「依存が強くたって、いいじゃありませんか」
はっきり、きっぱりと、そう言い切った婚約者に、リュセルは驚きに目を見開いて、ティアラのその可憐な美貌の方へと顔を向けた。
「わたくしだって、お姉様に対する依存は強いですわ。お姉様なしでは生きてなどいかれません。それだけ愛している人を、わたくし達は生まれ落ちたその瞬間から得ているのです。それって、とても素敵な事ではありませんか?」
そう言って、女神のような微笑みを浮かべたティアラは美しく、リュセルは目を細めて彼女の光の美貌を見つめた。
「そう、ですね……。そうですね、ティアラ姫。あなたのような方が婚約者だなんて俺は幸運な男です」
「そんな……」
照れたように、頬をピンク色に染めたティアラの両手を握ると、リュセルは言った。
「あなたに口づけを贈りたいのですが、どこに口づければいいのですか?」
真面目な顔でそう言ったリュセルに、ティアラは頬を更に赤く染め上げて、その熟れた果実のような右頬を差し出した。
「わたくし達の唇は、半身のもの。つまり、わたくしの唇は、生涯、お姉様、ただお一人のものです。でも、リュセル様もわたくしの大切な方。リュセル様へは、わたくしの頬を許しますわ」
「ありがとう」
リュセルは微笑むと、上体をティアラの方へと倒し、その滑らかな頬へと軽く口づけた。
「……なんだか、照れますね」
「そうですわね」
リュセルとティアラは頬を染めながら、そう言い合い、小さく笑った。
二人の宝鍵が、ほのぼのと小さな恋のメロディを奏でている時、隣の部屋では、ジュリナがレオンハルトに謝罪している所だった。
「今回の事、すまなかった」
ジュリナのそんな言葉に、テーブルの向かいに座り、葡萄酒を飲んでいたレオンハルトは、衝撃のあまりグラスを傾ける手が止まった。
「なんだ? その顔は」
「いきなり謝るな。気色悪い」
昔、リュセルに謝った時、自分も同じような反応をされた事がある事を思い出したレオンハルトは、認めたくないが、この男装の美女と自分が類似している事を実感した。
「何だ! その言い草はっ!? 今回はさすがにやりすぎたと思って、謝ったというのに」
そう言って、自分も葡萄酒を飲んでいたジュリナは、持っていたグラスをダンッとテーブルの上に叩きつけた。
「お前に再会したら、殺してやろうかと本気で思ったよ。しかも、人の半身によくもあんな痣をつけてくれたな」
その言葉と共に冷気を感じたジュリナは、そんなレオンハルトを見て言った。
「ん? ”氷の王子”、復活かい?」
「ジュリナ」
ふざけたジュリナを咎めるように、名を呼んだレオンハルトを見ながら、彼女は腕を組むと、椅子に背をもたれさせて両手を広げた。
「連れ去った事は、私が悪かった。でも、あの痣に関しては不可抗力さ」
「不可抗力だと?」
不機嫌そうに眉をしかめた幼なじみに、ジュリナは言った。
「説明しただろう? あれは、リーナの死を体現した結果なのさ。宝鍵といえども、そこまで感応する事が出来るなど稀だ。初任務であそこまで邪気を正確に感知したのにも驚いたけれどね。あの子は、日常生活で不便をしていたりしないのかい?」
「いや、そんな事はないはずだが」
「じゃあ、あの高い感知能力は邪気にのみ反応するって事だねぇ。あれだけの能力だ。色々な者や物から残留思念を読み取ってしまって、難儀してるんじゃないかと心配になっただけさ」
ジュリナの言葉に、レオンハルトは目を見張った。
「心配? お前が? ティアラ姫以外の者を?」
「まあね。お前の弟にしては、いい子じゃないか?揶揄うとおもしろいし……」
おもしろそうに思い出し笑いをしたジュリナを、感情のわからぬ瞳で見つめると、レオンハルトは短く返事をした。
「そうか」
それを見たジュリナは、表情を一変させて言った。
「それと、話は変わるが、手紙で聞かれた件だが、お前の予測通り、三人の子供の犠牲が出た村の邪気は、アシェイラ城に侵入したという邪鬼と同一のものだった」
「やはりな」
レオンハルトの冷静な声に、ジュリナは真剣な表情でずっと考えていた事を口にした。
「邪気にしろ、邪鬼にしろ、今までの動きと違う。なんだか、組織的なものを感じないかい?いや、というより、奴らを束ねる親玉がいるような……」
「親玉?」
「実は、リュセルが帰還する少し前まで、ティアラの周りを特定の邪鬼がウロチョロしてたんだよ」
続くジュリナの言葉に、レオンハルトは眉をひそめた。
「初耳だぞ」
「だって、私達は、会うと喧嘩ばかりしていたじゃないか」
「……」
無言になったレオンハルトに肩をすくめると、ジュリナは話を更に続けた。
「そいつ、何をしてくるでもなくティアラを監視しているだけだったんだが、一度、私達の前に現れた事があるんだ。恐ろしい程の邪気を秘めていたそいつの名は……サイレン」
「サイレン」
「ああ、人型だった」
事実のみを語るジュリナの言葉を聞いたレオンハルトは、低く呻いた。人型の邪鬼は、最上級の邪気と、桁違いの力を持つと伝えられていた。
「マスターがあなたを求めた時、すぐにでも連れて行く。そう言って姿を消したのさ」
「マスター。そいつの主人か」
「でも、ある時からぷっつりとその監視が途絶えてねぇ。ティアラから興味が失せたのかと安心していたんだが…………私が言いたい事、わかるね?」
ジュリナの問いかけるような視線に、レオンハルトは頷いた。
「リュセルだな」
「そう。城でお前の弟が襲われたと聞いた時、私はピンときた。ターゲットが移ったと」
そうして、一旦話を区切ると、ジュリナは真剣な表情で忠告した。
「気をつけろ、レオンハルト」
その言葉に、レオンハルトは静かな声で答える。
「あれは私のものだ。誰にも渡さぬ……」
予測通りの答え。それを聞いたジュリナは、小さく苦笑したのだった。
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