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第五章 陰の日
4-1 レオンハルトの病気とリュセルの後悔
しおりを挟む「ここですわ!」
「さあ、どうぞ」
「遠慮なさらないで」
三人に引っ張られて入った部屋は、おとぎの国のお姫様の部屋のような部屋だった。ティアラの部屋も、白と薄いピンクを基調とした乙女チックな部屋だったが、この部屋はそれ以上だ。
それも、すべての家具が三個ずつあるのだ。
寝室も覗かせてもらったが、やはりフリルのたくさんついた小さなベットが三つ並んでいた。
(メルヘンだな)
まだ十歳なのだから当然かと、リュセルが考えていると、ベッドの脇に置かれた人形の存在に気づいた。
「あれって、まさか……」
「ティアラ姉さまの、手作りよ」
三つ子の一人がそう言いながら、ベットの脇の三体の人形を持ってきた。
白いフリフリのドレスエプロンと、ピンク、水色、黄色という、三体、色の違うドレスワンピを着た金髪の人形である。
大きさは、レオン人形より若干小さい。
それにしても
「器用だな」
三体とも、寸分の狂いもなく、同じ顔をしていた。
「ティアラ姉様は、わたくし達の目標なのよ」
部屋の中央に設置された、これまた、フリルをふんだんに使った、ピンク色のソファに、進められるまま、腰を下ろすと、両隣に2人の少女が陣取った。
「あ……」
三つ子の中でも一番おとなしいのだろう、出遅れた少女が残念そうな顔をすると、リュセルはその少女を手招いた。
「?」
そして、不思議そうに近づいてきたその少女の腕を引っ張り、膝の上に抱え上げたのだった。驚いたように、後ろのリュセルを見上げてくる少女に微笑みかけると、少女は顔を真赤にした。
「あ~、ずるいルナ! ねえ、リュセル様、わたくしも~」
「次は、わたくしよ! ルイはさっき、リュセル様の手を引いたじゃない」
喧嘩しそうになった少女達を見て、リュセルは言った。
「喧嘩しないで。順番に抱っこしてあげますよ」
そう言いながらも、ようやくリュセルの頭の中で、三つ子の名前と位置が合致した。膝の上にいるのがルナ、右隣がルイ、左がルカ。性格もやはり、三者三様で違うようだった。
おとなしい、ルナ
おしゃまな、ルカ
おてんばな、ルイ
しかし、一見するだけではわからないので、さっそくリュセルは目印をつける事にした。
「髪を結ってあげますよ。姫君方」
それからしばらくして……
「はい、終わりです」
少し考え込んだリュセルは、ルナの髪を昨日のティアラと同じ、二つに分けたお団子頭にし、花ではなくピンク色のリボンを飾った。ちなみに、ルカが黄色で、ルイが水色だ。人形のドレスワンピと同じにしてみたのだ。
「うわ~」
「リュセル様、お上手ね」
「すごい、すごい!」
やはり、三つある自分用の可愛らしい造りのドレッサーで自分達を見て、三つ子達は大興奮だ。
(これで区別がつくな)
リュセルは、三つ子付きの侍女が淹れてくれた紅茶を飲みながら、心の中で息を吐く。話をするにしても、見分けがつかない事には話にならないだろう。これが、今自分に出来る精一杯である。
ほっとしたのも束の間、その後はずっと、三つ子のおしゃべりに付き合わされた。ともかく、この少女達、上の姉姫達と違い、女の子らしく、よくしゃべるのだ。それが、×三倍なのだから、はっきり言ってうるさい。だが、相手は子供である。微笑みを浮かべながら、リュセルは忍耐を試されているのだと考える事にした。
そうして、きゃっきゃ、きゃっきゃと、楽しそうに話す少女達の話の内容は、女の子らしく(?)人の噂話が主だった。大人が話していたのを、どこかで聞いてきたのだろう。大人ぶって話しているのがおもしろい。
そんな噂話の中にそれは混じっていたのだ。自分にとって、とても重要な話。それを聞いた途端、リュセルはすぐに反応した。
「そういえば、レオンハルト様のご病気は大丈夫なのですか?」
ルナがそう尋ねてきたのだ。
「え?」
眉をしかめたリュセルに、ルイも言葉を続ける。
「わたくし、五日前にジュリナお姉様が話しているのを聞いたのよ。レオンハルト様は、”いんのひ”っていうご病気なんですって!」
「それは本当か!?」
驚いたリュセルがルイの両肩を強く掴むと、ルイはびっくりしたように目を見開いて、そのまま、はしばみ色の大きな瞳をうるうるさせた。
「リュセル様、怖い」
泣きそうなルイの様子を見たリュセルは慌てて手を離し、取り繕うように少女の頭を撫でる。
「すまない、ルイ姫」
「ううん、リュセル様はレオンハルト様のご病気の事ご存知なかったから、驚かれたんでしょう?」
目をこすりながらそう言ったルイに、リュセルは動揺を隠せないまま頷いた。
「でも、どうして、リュセル様にも隠しているのかしら?」
ルカも、不思議そうに首を傾げる。
「ええ、本当に」
リュセルは、青い顔でそう頷いた。
ジュリナは、レオンハルトは急用で閉じこもっているのだと言っていた。その仕事の邪魔をされたくないからだと……。
(まさか、あれは嘘だったのか)
だったら何故、そんな嘘をつくのか?考えられる可能性はただ一つ、レオンハルトがジュリナに頼んだのだ。リュセルに知らせるな。……と。
それ故、リュセルは、レオンハルトがどこの部屋に閉じこもっているのかもわからない。
(まさか、そんなに重病なのか?)
難しい顔をして考え込んでしまったリュセルを眺め、三つ子達は顔を見合わせた。
「”いんのひ”なんていう病気、聞いた事ないわよね?」
「ええ」
ルカとルナがそう言い合うと、リュセルは顔を上げて言った。
「あなた方でも、わからない病気なのですか……」
「「「ええ」」」
見事にハモったその言葉に、リュセルは衝撃を受けたのだった。
その後、今すぐにでもレオンハルトの元に飛んで行きたい気持ちをぐっと抑え込み、三つ子の相手を夕食時まで続けたリュセルは、部屋に戻り、室内をウロウロとしながら考え込んでいた。
(シルヴィア女王なら、レオンの部屋を知っているかもしれない)
しかし、一国の女王であるシルヴィアは超多忙だ。ディエラに到着した時に対面して以来、一度も会っていない。
三つ子姫は知らないようだったし……。
知っていると思われるジュリナは、現在、城にいない。
「なんでだ!?」
何故、病気なのに自分を傍に寄せないのか?リュセルにはまったく理解できない。自分にだって、看病位出来るはずだ。
憤っていたリュセルは、なんとか気持ちを落ち着けると、レオンハルト不在の五日を振り返ってみた。
レオンハルトが高熱で苦しんでいる時に(想像)
のん気に緑茶をすすり、桜餅を食べ
レオンハルトが頭痛に苦しんでいる時に(想像)
娼館で馬鹿騒ぎ
レオンハルトが喉を痛がっている時に(想像)
ジュリナと食い倒れツアーに参加
レオンハルトが関節を痛がっている時に(想像)
ティアラ姫と初デート
レオンハルトが……以下同文。
「うわあああああっ」
リュセルは叫び声を上げ、テーブルに頭をぶつけた。
「俺はなんて愚かなんだ! 半身が苦しんでいる時にのん気にディエラ国を満喫してるなどっ!」
リュセルが想像した事柄は、風邪の症状、そのものなのだが、普段、病気などしない彼に想像出来る事はこれ位だった。
しかし、いくら焦燥感を募らせようと、レオンハルトの閉じこもっている部屋がわからない事には、どうする事もできない。
「くそっ」
そう毒ついたリュセルは、椅子に腰掛けさせたままのレオン人形に縋った。
「どこにいるんだ。レオン」
しばらく固く目を閉じていたが、ふとある事に気づく。
「感知能力……」
そう、レオンハルトの気配を探ればいいのだ。
自分と違い、レオンハルトは気配を抑える事が出来るので、今までのリュセルなら探す事など不可能だったでだろう。だが、今のリュセルは、ティアラとの特訓の結果、元々高かった感知能力が格段に上がっている。
コントロールに関してのみ、今だいまいちではあるが……
「ふふふふふっ」
リュセルは不気味な笑い声を上げつつ、すぐに意識を城内に集中した。アシェイラもそうだが、ディエラも城内は広い。気配を探るのには少し時間がかかる。
だが、時間をかけ、だんだんと範囲を広げていくと、リュセルの現在いる部屋とは間逆の、最も遠い場所に、見知った気配を感じ取れた。
「なんか、不安定だな」
気配を最小限に抑えているのか、とてもわかりにくかったが、感じとったレオンハルトの気配は、ひどく不安定になっていた。
「病気だからか?」
おそらく、あのレオンハルトの事だ。
その、山よりも高く、谷よりも深い矜持(プライド)が邪魔をして、弱ったところを誰にも見せたくないのだろう。
そして、きっと、完璧なあの兄の事、扉の施錠は怠っていないはずだ。
となると、侵入可能なのは……
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