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第七章 黄昏往く国
2-2 サンジェイラ王族達との対面
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「……そ……、それで、そちらが噂の?」
軽くどもりながら、ミゼールは、頭を下げたままのリュセルに目を向けた。
「お初にお目にかかります、ミゼール陛下。アシェイラ国第三王子、リュセルと申します」
挨拶と共に頭を上げると、リュセルはその白皙の美貌に微笑みを浮かべる。女達を虜にする王子スマイルは、リュセルの武器になっていた。
甘い、完璧なる微笑に、ミゼールはポカンと口を開けたままにし、次の瞬間、彼の周囲に控えていた何人かの王女が一斉に昏倒した。
「きゃあああっ、姫様~~!」
「お気を確かに!」
控えめな、大人しい、それこそ”深窓の姫君”ばかりであった王女達は、七人中五人が倒れて、侍女達に抱えられ、部屋を後にしたのだった。
(やり過ぎたか)
さすがにリュセルは反省した。
「は……、ははは。リュセル殿は、噂通りの美男子ですな」
ミゼールの乾いた笑い声が、一気に華のなくなった謁見の間に響いた。
「リュセル」
小声でたしなめるレオンハルトに、リュセルは小声で反論した。
「俺は、社交辞令的に笑っただけだぞ」
確かにその通りである。
「気を取り直して、子供達を紹介しよう。大半の姫達は、先程退室してしまったが」
苦笑してそう言ったミゼールから、リュセルは気まずく目線を逸らした。
「では、こちらから。第一王子のソウルだ」
ミゼール王の言葉と共に、並んだ子供達の中で、一番父王の近くにいた青年が進み出る。派手な羽織を身にまとった、軟弱そうな青年だ。
(馬鹿王子か)
リュセルは、頭の中にメモ帳を広げると、じっくりとソウルを見た。
リュセルに見つめられたソウルは、それまでキザったらしい仕草で礼をしていたが、一瞬で頬を赤く染めると挙動不審になった。モジモジし始めたソウルに、リュセルは納得した。
(うん。馬鹿王子、そのものだな)
一目で見抜かれてしまったソウルだった。
「そして、第二王子のアサギ」
今度は焦げ茶色の髪をした、優しそうな顔立ちの青年が進み出た。
(垂れ目)
まさしく、垂れ目だ。
アサギは、にこにことした笑みを、絶えず浮かべているようだった。
(確かに、笑顔がポーカーフェイスになっていて、何考えてるんだか、まったくわからんな)
「第三王子のレイン」
出た! ジュリナが、気をつけろと念押しした王子。
(好色王子か)
しかし……
レイン王子はリュセルと目が合うと、にっこりと笑っただけだった。
「?」
見た目も、軟弱そうなソウルや、得体の知れない(ひどい)アサギと違い、黒髪の好青年だ。なかなかのハンサムでもある。着ている着物も普通の直衣だし、ジュリナが言っていたような王子にはまったく見えなかった。
(メモを間違えたか?)
リュセルは、頭の中に広げたメモ帳に、疑いを持ち始める。そんな風に意識が逸れていた為、リュセルの横でレオンハルトが眼光を鋭くした事になど、まったく気づかなかった。
「第四王子のシオン」
眼鏡をかけた真面目そうな青年が今度は進み出て、その性格がにじみでたような固い礼をした。
(真面目)
「第五王子のアルティスは、もう紹介は済ませたようだから、次は、第六王子のスカイ」
次に前に進み出て王子の礼をしたのは、赤い振袖姿の少女だった。
(高飛車で可愛い子……って、は!?)
「女の子!?」
リュセルは、つい、そう叫んでしまった。
客人の叫び声にスカイは驚きに目を見張った後、いたずらっぽく笑う。そして、その様子を見ていたミゼール王が説明する為に口を開いた。
「リュセル王子が驚くのも無理はない。我が国の王族のしきたりでね。王子は十五歳の誕生日を迎えるまで、姫の格好をして過ごすんですよ。特に、赤い着物を着てね。赤い着物は、古来より魔を退けると言われていますので、怪我や病魔から守る為でしょうな」
「そうですか」
変わったしきたりだ。
そして、更にミゼールは紹介を続けた。
「次は第八王子の……」
王子を紹介し終わった後、ミゼールは残った王女の紹介に入った。
「第三王女のユリエ」
二つに分けたおさげ頭の少女が進み出て、深く頭を下げた。眼鏡をかけた、特に特徴のない、平凡な少女である。着ている着物も紺色で、とても地味なものだ。王女の知識のないリュセルは、まるで”綾香”のような少女だなと、のんびりと考えていた。
「そして、第六王女のサクラだ」
ユリエが挨拶を済ませた後、薄紅色の振袖姿の黒髪の少女が愛らしい微笑みを浮かべて、ちょこんとお辞儀をした。
彼女は絵姿で見た事があった。前にローウェンが見せてくれたのだ。
「以上が、私の子供達です」
続いたミゼールの言葉。それを聞いたリュセルは、思いきり眉をひそめた。
(は!?)
ローウェンはどうした!?
(そういえば、この部屋にすらいないじゃないか)
冷遇されているとは聞いていたが、まさか、兄弟姉妹が集まる席にさえ、呼んでもらえていないのか?
ジュリナの「関わるな」という言葉が頭の中をエンドレスで過ぎったが、リュセルは自分を止められなかった。
「ローウェン王子はどうしたのですか?」
白皙の美貌に、またしても甘い微笑みを浮かべ、わざとそう尋ねた。本当に、なんでここに彼がいないんだか、わからないというように……。
だが、リュセルの言葉を聞いたミゼールは、不思議そうな顔をして見せたのだ。
「あれは、身分卑しい母親の子供故、ここに呼ぶまでもないのです。リュセル王子が気に止める程の者でもございますまい」
あんまりな言い方に、リュセルはキレそうになった。よくもまあ、あの、キレやすいジュリナが我慢したものだ。
「リュセル」
レオンハルトの制止の声が耳に届き、リュセルは言いたい言葉を仕方なく丸呑みする。
「では、あなた方のお相手は、アルティスがしますので。どうか、ごゆるりとご滞在下さい」
一件落着と言わんばかりにそう言うと、ミゼールはパンパンと手を叩く。すると、両手に酒瓶を持った肌もあらわな女達が、ミゼールの周りに侍り始めた。
それきりミゼール王は、リュセル達から興味を無くしたかのように、女と酒に夢中になってしまったようだった。
(まさしく、愚王)
謁見の間をアルティスに促されて退出した後、リュセルはそう思った。想像以上の愚かぶりだ。
「これからどうなさる?」
アルティスの問いを聞いたリュセルとレオンハルトが答える前に、一緒に退出して来た王子達……、特に、要注意と聞かされていた上の五人が騒ぎ始めた。
「ねえねえ、リュセル様。僕達と一緒にお茶でも飲みながらお話しましょうよ。いいででしょ?」
可愛らしく小首を傾げて、自分の腕にすがり付いてきたスカイを見下ろし、リュセルは困ったように微笑んだ。
今日は、笑い過ぎで、顔の筋肉が少々痛い。
スカイはリュセルの微笑みを間近で見て、うっとりと頬を染め、陶然となっていた。
「いいね。どうですか? レオンハルト王子、リュセル王子。皆でお茶会など」
スカイの提案に賛同した、温和なアサギの言葉を即座にさえぎったのはソウルだった。
「それよりも、僕の部屋でお茶をどうでしょうか? 是非三人で」
この麗しい兄弟と、誰の邪魔もなく話がしたいソウルの、いつものわがままだった。そして、彼のわがままは、大概今まで通ってきたのだ。
しかし、今回ばかりは違った。
「いや、行きたい所があるので……、大変申し訳ないが」
きっぱりとリュセルが断ったのだ。
「え……?」
断られると思ってもいなかったソウルは、浮かべていた笑みをひくつかせる。
「どこにだ? 案内して差し上げよう」
鷹揚に頷いてそう言ったアルティスに、リュセルは答えた。
「では、ローウェンの部屋に」
瞬間、その場が凍りついた。
「な……、なんで?」
その場にいた王子達を代表して、スカイが震える声で尋ねる。
「友人だからだ」
彼らが汚らわしい存在と位置づけてきたローウェンを、目の前の美貌の客人は、友人だとはっきり言ってのけたのだ。
何故?
どうして?
あなたのような方が、あんな奴を気にするのか?
集まった兄弟の顔の中に、そんな感情が渦巻いているようだった。
「……部屋に行くまでもない。もうすぐ来る」
じっとリュセルを見つめていたアルティスだったが、不意にそう言った。
軽くどもりながら、ミゼールは、頭を下げたままのリュセルに目を向けた。
「お初にお目にかかります、ミゼール陛下。アシェイラ国第三王子、リュセルと申します」
挨拶と共に頭を上げると、リュセルはその白皙の美貌に微笑みを浮かべる。女達を虜にする王子スマイルは、リュセルの武器になっていた。
甘い、完璧なる微笑に、ミゼールはポカンと口を開けたままにし、次の瞬間、彼の周囲に控えていた何人かの王女が一斉に昏倒した。
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「は……、ははは。リュセル殿は、噂通りの美男子ですな」
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「リュセル」
小声でたしなめるレオンハルトに、リュセルは小声で反論した。
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確かにその通りである。
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苦笑してそう言ったミゼールから、リュセルは気まずく目線を逸らした。
「では、こちらから。第一王子のソウルだ」
ミゼール王の言葉と共に、並んだ子供達の中で、一番父王の近くにいた青年が進み出る。派手な羽織を身にまとった、軟弱そうな青年だ。
(馬鹿王子か)
リュセルは、頭の中にメモ帳を広げると、じっくりとソウルを見た。
リュセルに見つめられたソウルは、それまでキザったらしい仕草で礼をしていたが、一瞬で頬を赤く染めると挙動不審になった。モジモジし始めたソウルに、リュセルは納得した。
(うん。馬鹿王子、そのものだな)
一目で見抜かれてしまったソウルだった。
「そして、第二王子のアサギ」
今度は焦げ茶色の髪をした、優しそうな顔立ちの青年が進み出た。
(垂れ目)
まさしく、垂れ目だ。
アサギは、にこにことした笑みを、絶えず浮かべているようだった。
(確かに、笑顔がポーカーフェイスになっていて、何考えてるんだか、まったくわからんな)
「第三王子のレイン」
出た! ジュリナが、気をつけろと念押しした王子。
(好色王子か)
しかし……
レイン王子はリュセルと目が合うと、にっこりと笑っただけだった。
「?」
見た目も、軟弱そうなソウルや、得体の知れない(ひどい)アサギと違い、黒髪の好青年だ。なかなかのハンサムでもある。着ている着物も普通の直衣だし、ジュリナが言っていたような王子にはまったく見えなかった。
(メモを間違えたか?)
リュセルは、頭の中に広げたメモ帳に、疑いを持ち始める。そんな風に意識が逸れていた為、リュセルの横でレオンハルトが眼光を鋭くした事になど、まったく気づかなかった。
「第四王子のシオン」
眼鏡をかけた真面目そうな青年が今度は進み出て、その性格がにじみでたような固い礼をした。
(真面目)
「第五王子のアルティスは、もう紹介は済ませたようだから、次は、第六王子のスカイ」
次に前に進み出て王子の礼をしたのは、赤い振袖姿の少女だった。
(高飛車で可愛い子……って、は!?)
「女の子!?」
リュセルは、つい、そう叫んでしまった。
客人の叫び声にスカイは驚きに目を見張った後、いたずらっぽく笑う。そして、その様子を見ていたミゼール王が説明する為に口を開いた。
「リュセル王子が驚くのも無理はない。我が国の王族のしきたりでね。王子は十五歳の誕生日を迎えるまで、姫の格好をして過ごすんですよ。特に、赤い着物を着てね。赤い着物は、古来より魔を退けると言われていますので、怪我や病魔から守る為でしょうな」
「そうですか」
変わったしきたりだ。
そして、更にミゼールは紹介を続けた。
「次は第八王子の……」
王子を紹介し終わった後、ミゼールは残った王女の紹介に入った。
「第三王女のユリエ」
二つに分けたおさげ頭の少女が進み出て、深く頭を下げた。眼鏡をかけた、特に特徴のない、平凡な少女である。着ている着物も紺色で、とても地味なものだ。王女の知識のないリュセルは、まるで”綾香”のような少女だなと、のんびりと考えていた。
「そして、第六王女のサクラだ」
ユリエが挨拶を済ませた後、薄紅色の振袖姿の黒髪の少女が愛らしい微笑みを浮かべて、ちょこんとお辞儀をした。
彼女は絵姿で見た事があった。前にローウェンが見せてくれたのだ。
「以上が、私の子供達です」
続いたミゼールの言葉。それを聞いたリュセルは、思いきり眉をひそめた。
(は!?)
ローウェンはどうした!?
(そういえば、この部屋にすらいないじゃないか)
冷遇されているとは聞いていたが、まさか、兄弟姉妹が集まる席にさえ、呼んでもらえていないのか?
ジュリナの「関わるな」という言葉が頭の中をエンドレスで過ぎったが、リュセルは自分を止められなかった。
「ローウェン王子はどうしたのですか?」
白皙の美貌に、またしても甘い微笑みを浮かべ、わざとそう尋ねた。本当に、なんでここに彼がいないんだか、わからないというように……。
だが、リュセルの言葉を聞いたミゼールは、不思議そうな顔をして見せたのだ。
「あれは、身分卑しい母親の子供故、ここに呼ぶまでもないのです。リュセル王子が気に止める程の者でもございますまい」
あんまりな言い方に、リュセルはキレそうになった。よくもまあ、あの、キレやすいジュリナが我慢したものだ。
「リュセル」
レオンハルトの制止の声が耳に届き、リュセルは言いたい言葉を仕方なく丸呑みする。
「では、あなた方のお相手は、アルティスがしますので。どうか、ごゆるりとご滞在下さい」
一件落着と言わんばかりにそう言うと、ミゼールはパンパンと手を叩く。すると、両手に酒瓶を持った肌もあらわな女達が、ミゼールの周りに侍り始めた。
それきりミゼール王は、リュセル達から興味を無くしたかのように、女と酒に夢中になってしまったようだった。
(まさしく、愚王)
謁見の間をアルティスに促されて退出した後、リュセルはそう思った。想像以上の愚かぶりだ。
「これからどうなさる?」
アルティスの問いを聞いたリュセルとレオンハルトが答える前に、一緒に退出して来た王子達……、特に、要注意と聞かされていた上の五人が騒ぎ始めた。
「ねえねえ、リュセル様。僕達と一緒にお茶でも飲みながらお話しましょうよ。いいででしょ?」
可愛らしく小首を傾げて、自分の腕にすがり付いてきたスカイを見下ろし、リュセルは困ったように微笑んだ。
今日は、笑い過ぎで、顔の筋肉が少々痛い。
スカイはリュセルの微笑みを間近で見て、うっとりと頬を染め、陶然となっていた。
「いいね。どうですか? レオンハルト王子、リュセル王子。皆でお茶会など」
スカイの提案に賛同した、温和なアサギの言葉を即座にさえぎったのはソウルだった。
「それよりも、僕の部屋でお茶をどうでしょうか? 是非三人で」
この麗しい兄弟と、誰の邪魔もなく話がしたいソウルの、いつものわがままだった。そして、彼のわがままは、大概今まで通ってきたのだ。
しかし、今回ばかりは違った。
「いや、行きたい所があるので……、大変申し訳ないが」
きっぱりとリュセルが断ったのだ。
「え……?」
断られると思ってもいなかったソウルは、浮かべていた笑みをひくつかせる。
「どこにだ? 案内して差し上げよう」
鷹揚に頷いてそう言ったアルティスに、リュセルは答えた。
「では、ローウェンの部屋に」
瞬間、その場が凍りついた。
「な……、なんで?」
その場にいた王子達を代表して、スカイが震える声で尋ねる。
「友人だからだ」
彼らが汚らわしい存在と位置づけてきたローウェンを、目の前の美貌の客人は、友人だとはっきり言ってのけたのだ。
何故?
どうして?
あなたのような方が、あんな奴を気にするのか?
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