【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第七章 黄昏往く国

3-1 迫害されるローウェン

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「まがりなりにもあやつは玉主だ。剣主殿と剣鍵殿に挨拶位せねばならんだろう」

 非難めいた視線を向ける兄弟達に対し、アルティスはそう説明した。

 国王だけでなく、ローウェンは兄弟たる王子達からも嫌われているらしい。その事実にリュセルは胸がもやもやするのを感じながら、隣のレオンハルトを睨んだ。

 非難めいたリュセルの視線を受けとめたレオンハルトは、黙って首を振る。

 ーおとなしくしていなさいー

 唇の動きのみで釘をさされ、リュセルは自分の感情を無理矢理押さえ込む。

 そんな時だった。

 一人の少年が、慌てた様子で、こちらに向かって早足に歩いて来るのが目に映った。格好はまるで少女だが、まぎれもない、その天使のような容貌は、ローウェンである。
 袖と襟元、それに、膝下のスカートの裾に白いフリルをあしらった赤い着物風のドレス姿。金糸の髪に飾った薔薇の髪飾りが似合っている。トレードマークだった眼帯の代わりに左目を覆うのは、包帯のような形の白布だ。

 ローウェンは、リュセルとレオンハルトの姿を認めると嬉しそうに顔を輝かせたが、すぐに彼らの周りに兄弟達の姿を見つけ、俯いた。

 しずしずと、前に会った傍若無人なローウェンの姿から考えられない、気弱そうな足取りで近づいてくる少年に、リュセルは眉をしかめる。そして彼が俯きながらやってくる原因にようやく気づく。

 不快なものを見るような目で、他の兄弟達に睨まれてるのだ。まあ、アサギとレイン、年長者二人については、興味深そうな目で弟達の様子を見ているだけではあったが……。それでも、無数の突き刺さるような冷たい視線に、すっかりローウェンは縮こまってしまっている。

 冷静なレオンハルトは、そんな兄弟の中でも、縮こまるローウェンを心配そうに見守る二対の視線に気づいた。

 サクラとユリエだ。

 王女達はローウェンに批判的な王子達の手前、どうしたらいいのかわからないような表情をしていた。

「ローウェン!」

 リュセルはそんな冷たい空気を払うように、大声でローウェンの名を呼ぶと、少年の体を抱き上げた。そう、まるでジュリナに自分がやられた時のように……。驚いたように目を丸くするローウェンにリュセルは言った。

「はははっ。可愛いな、お前」

 そう言いながらローウェンに頬ずりするリュセルは、超絶美貌がなければ、少女にいたずらする怪しいお兄さんのようである。
 そうして、抱き上げていた、華奢な体を床に降ろしてからも、リュセルは熱烈にローウェンを抱きしめ続けていた。

「苦しいよ、リュセル兄さん」

 抱きつぶされそうになっていたローウェンが小声で言ったのを聞いて、そこでようやくリュセルはローウェンを解放する。

「ああ。すまない、ローウェン」

 久しぶりに感じる同胞の優しさに、ローウェンは知らず知らずの内に微笑んでいた。

「元気にしていたか? ローウェン」

 今度は横からレオンハルトの手が伸びてきて、金の髪を撫でて来る。

「はい」

 答えるローウェンの表情は、まだ固い。

 リュセルは嫌悪と嫉妬の入り混じった視線を送るローウェンの兄弟達に気づくと、とりあえず場所を移す事にした。

「とりあえず、お前の部屋に行こうか」

「え!?」

 驚きに目を見張るローウェンに、リュセルはそわそわしながら小声で言った。

「黒猫ノンちゃんシリーズの作者様の部屋を見てみたいという、俺のせつない胸の内をわかってくれ」

「……わかったよ」

 気づくとローウェンは、つい、素に戻って、しらけたような目で頷いていた。

「私は、少し、アルティスと話がある。先にローウェンの部屋に行っていなさい。後で合流する」

 レオンハルトはリュセルにそう言うと、話と聞いていぶかしげに眉をひそめたアルティスに確認をとった。

「いいだろうか? アルティス」

 それに対し、アルティスは小さく頷く。

「よかろう」

 やはり、なんだか偉そうだ。

 リュセルがそう思っている隣で、ローウェンが何も期待しないような冷めた目を、自分の半身に向ける。こちらを見ようともしないアルティスの顔を見つめ、ローウェンは唇を噛み締める。

 知らず知らずの内に自分の服の裾を固く握り締めてきた少年に目を向けると、リュセルはその小さな手をとった。

「ではな、レオン」

「ああ。問題を起こすんじゃないよ」

 ローウェンと手をつないで歩き出したリュセルに対し、レオンハルトは釘を刺すのを忘れなかった。




「……で? 話とは何であろうか。レオンハルト殿」

 仲良く手をつないでリュセルとローウェンが立ち去った後、不満そうな兄弟達を尻目に、アルティスはレオンハルトを近くに用意させた客室に案内した。

 薦められた桜の花の彫刻が美しい椅子に腰をかけたレオンハルトは、同じ彫刻の彫られたテーブルを挟み、向かい側の席に着いたアルティスに目を向ける。

「私達の今回の訪問の理由。お前はわかっているんだろう?」

「…………」

 嘘やごまかしを一切許さない、厳しい琥珀の瞳に見つめられて、アルティスは口を閉ざした。どんなに大人ぶった所で、所詮アルティスは十五の少年だ。レオンハルトに敵うはずがない。

「ルルドの葉であろう?」

 重々しい口調で断言したアルティスにレオンハルトは頷いた。

「ああ。お前はどこまで掴んでいる?」

 レオンハルトの口調は、既に、アルティスがこの事について調べを進めていると確信しているようだった。

「ルルドの木の位置まではわからない」

「では、その木から葉を摘み取り、薬にしてさばいている者はわかっているのだな?」

 その言葉は容赦がなかった。

「…………」

 アルティスは目を伏せると、闇色の瞳に迷いを映した。

「国の恥故、誰にも言うつもりはなかった。しかし、そうも言っていられない程、ルルドの葉は広がっているのであろう?」

「ああ、アシェイラやディエラにも流出してきている」

 レオンハルトの答えを聞いたアルティスは、夜の美貌を絶望に歪めた。

「他国の事情にも詳しい、レオンハルト殿程の方なら、たやすく予測がつくのではないか? そのような危険な麻薬の規制がまったくされない要因を……」

 呻くような彼の言葉を、レオンハルトは黙って聞いていた。

「ルルドの葉を城下に流し、それによって得た利益を己の快楽の為に使っている者……、それは、この国の君主、我が父だ」

 予測していたとはいえ、レオンハルトはその答えに苦々しい思いを抱き、静かに瞑目した。

「一体どこに、木自体を隠し、育てているのか……。城中を探ったが、まったく見つからぬ」

 アルティスの言葉には疲れがにじんでいた。

「最近は、ローウェンの奴も単独でそれを調べ始めている故、更に手がかかるのだ」

 絶対に協力しようとしない玉鍵と玉主の在り方に何を言うつもりもない。その義務も権利もない。しかし、レオンハルトはあえてそれを告げた。

「お前は、いつまでローウェンに興味のない振りをしているつもりだい?」

 何の前触れもなく切り込んできたレオンハルトの言葉。不覚にも、一瞬、アルティスは息を呑んだ。

「先程も、リュセルがローウェンを抱きしめた時、お前の呼吸がわずかに乱れるのを感じたからね。自分の半身に手を出されて不快にならぬはずがないからな。弟の非礼は、私が詫びよう」

 特に、祖父に育てられ、古風な考え方をしている部分のあるアルティスは、ジュリナやティアラのように柔和な考えの持ち主ではないはずだ。

「レオンハルト殿。お主の言うておる意味が、我にはまったくわからぬのだが……」

 あくまでしらを切り続けるアルティスの返答を聞き、レオンハルトはそれ以上突っ込む事は止めにした。

「そうか」

 感情のない、平坦な声で、短く返事をしたレオンハルトにすべてを見透かされているように感じ、アルティスは目の前の同胞の琥珀の瞳からそっと目を逸らした。

 そして、しばらく重苦しい沈黙が場を支配したが、レオンハルトがそれを破るように話題を切り替えた。

「では、これからの対策をとろう。協力させてくれるね? この問題は、既にサンジェイラだけのものではない。本来なら、ここにディエラの二人の女神の娘がいてもおかしくないような問題だ。さすがに、ここで女神の子供が六人全員そろってしまったら、サンジェイラの王族達に不審に思われるだろうから、私達だけで来たがな」

 レオンハルトの、事実のみを告げる冷たい響きのある声。それを聞いたアルティスは、固く目を閉じると、今まで誰にも下げた事のない頭を下げた。

「アルティス……」

 困ったように自分の名を呼ぶレオンハルトに、アルティスは愚かな父王に代わって謝る。

「申し訳ない。レオンハルト殿……」

 その、悲壮な響きを持つ声に、レオンハルトはそれ以上何も言わなかった。いや、言えなかった……。この、尊大だが誠実な少年が、自分の半身であるるローウェンを遠ざける理由にも、なんとなく予測がつく。

まだ子供と呼んでもいいような年齢の、玉主と玉鍵、二人の境遇が憐れでならない。ローウェンもつらい立場にあるが、アルティスも、また、つらいのだろうとレオンハルトは思うのだった。
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