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第八章 暁を呼ぶ者
1-1 追憶
しおりを挟む遠い昔……
一人の女性と出会った。
出会いは偶然だったのか、必然だったのか。
その奇跡のように美しい女性に、まだ子供だった自分達は惹かれたのだ。それは初恋であり、最後の恋でもあったのかもしれない。
だから、美しいこの女(ひと)の、無垢な微笑みを守りたいと思った。そうして、そんな自分達だからこそ、大人になった時、汚れ無き誓いを彼女に捧げたのだ。
眠り往く、あなたへ捧げる。
この国がある限り、自分が死した後もあなたを守り続けるだろう。
あなたの眠りを見守り続けるだろう。
自分がこの国を愛し、慈しむ限り、それは続く……
きっと……、永遠に。
ルルドの葉。
強い常習性と幻覚作用。肉体と精神を蝕む、この恐ろしい麻薬の一番の広まりを見せているのが、サンジェイラ国王都だった。
過去、長い女神の子供の歴史上、何度かルルドの木の存在が確認されてきたが、すべて北の寒い地域であるサンジェイラ国内であったのである。その度、当時の神子達が木の浄化を繰り返してきたが、今回の広まりは過去最悪といってもいいかもしれない。
城下の街の機能が半分停止してしまう程、驚異的な広まり方だったのだ。日に日に死者の数は増える一方であった。原因の半分は飢えであり、もう半分がルルドの葉の中毒によるものである。麻薬になど手を出さないであろう者も、飢えるあまり、目の前の苦しみから逃れたくて手を染めてしまう……
それでも、最初、犠牲となっていたのは、ある程度裕福な金持ちばかりだったのだ。金がなければ、麻薬は手に入らなかったが故に。
それが、いつからだっただろう。金がなくとも、簡単に手に入るようになったのは。庶民にも簡単に手が届くものとなったそれが一気に広まったのは、当然と言えよう。
「どうして……」
今日もまた、人が死んだ。
灰色く濁った目を見開いたままの妹の両目に手を添え、閉じさせる。
「どうして」
大きな悲しみと、そして、悔しさのあまり涙が流れた。
どうして
どうして……、こんな国に産まれついてしまったのだろう。
「俺は……、俺は、許せない。俺達国民がこんな目にあっているというのに、のうのうと城の中で贅沢の限りを尽くす、王族の奴らが許せない」
涙を流す自分の横で、自分と同じように麻薬と飢えで家族を亡くした男が、そう呟くのが聞こえた。
「私達が何をしたというの? どうして、この子が死ななければならないの!?」
向こうでは、子供を亡くしたばかりの母親が泣き叫んでいた。
そして、次の瞬間、それに連動するように、火葬場に集まった人々の間から怒声が響き渡るようになった。
「殺せっ!!」
「王を殺せ!!」
「王族の奴らを皆殺しにしろ!!」
すべての因となる、サンジェイラの王族達を根絶やしにしろっ!!
その呪いの声は渦となり、激しい怒りの矛先は、国の……、国民の現状を見ようともしない王とその一族へと向かう。
そんな時
怒りと悲しみに我を失った人々の怒声と悲鳴の中、不思議な響きを持ってその声はこの場に響いた。
「激しい憎しみは、いずれは自分自身をも滅ぼしてしまう事でしょう」
若い女の声である。
決して、大きくはないし、印象強い声でもない。
でも何故か、その場にいた人々は口を閉ざして、現れた一人の女性に目を向けた。
被っていたフードをとった下から現れた彼女の顔は、少女といってもいいような幼い容貌の、これといった特徴もない、普通の女の顔だった。
黒髪を二つに分け、それを三つ編みにした平凡な少女。
「私の名は、ユリエ・サンジェイラ。あなた達の憎しみは、私にのみ向けなさい」
その名は、自分達が呪うべき王族の姫君の名であった……。
愛しい者達を亡くし、怒りに正気を失っていた人々は、憎悪という感情に身を任せ、目の前の姫君を怒りのままに八つ裂きにしようと目を血走らせる。だが、同時に続いた彼女の言葉を聞いた何人かの人間は正気に返った。
そう、少なくとも、自分は……
「ごめんなさい。許してくれとは……言えないわ」
死をも覚悟して、この場に姿を現した姫君を死なせてはならない。
この国から、この人を失わせてはならない!!
だから、守る為に走った。
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