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第八章 暁を呼ぶ者
7-1 二つ目の結び目の浄化
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その言葉と共に、弟のものであり、現在は自分のものでもある乱れた金の髪を、艶っぽい仕草でかき上げた。
急に妖しさを増したローウェンは、持っていた女神の玉を両手で掲げると、ダンッと、その柄の先を地面に打ちつける。
「一気に片をつけるよ、アル」
「承知」
ローウェンの口から、彼自身の声とアルティスの声が放たれるのを聞いて、初めて弟達の同化に立ち会ったユリエとレインは、ただ、驚きに目を見張るのみだ。
二人が意識を玉に集中させると同時に、再び銀の光が、玉を中心にして広がり、それは、この歓楽街一帯を包み込んだ。
「あ……」
「ううう…………」
うつろな目をしていたルルドの葉の中毒者達は、一瞬、大きく目を見開くと、小さく呻き声を上げた。その灰色の瞳は、邪気の浄化と共に本来の色を取り戻し、彼らは、そのまま意識を手放して、バタバタとその場に倒れ臥す。
玉から光が消えると同時に、その場に立っているのは、ローウェンとレオンハルト、リュセル、リュセルに抱き上げられたユリエ、レインの五人になってしまっていた。
折り重なるようにして倒れ臥した人々の中心で、ローウェンは小さく呟く。
「浄化完了」
その姿は、まるで、戦場に降り立った少年神のように神々しい姿だった。
「よくやった。ローウェン、アルティス」
レオンハルトの労いの言葉を聞くと、二人は同化を解いて、女神の玉を元の封印状態に戻した。そして、封印と同時に、目の前に現れた兄の体に飛びつき、ローウェンは叫ぶ。
「うわ~ん、アルー! 会いたかったよおおお!」
「ほんの少しの間、離れていただけであろうが。しかし、ふふ……、そんな風に言われるのも悪くない」
いつものように妖笑を浮かべると、アルティスは抱きついてきたローウェンの背に褐色の両腕を回し、弟の華奢な体を抱きしめた。
「久しぶりだな、レオン」
感動の再会を果たす玉主玉鍵の横で、リュセルは皮肉めいた台詞を兄に投げかける。
「……これからは、迷子札でもつけてあげようか?」
返って来た本気めいた答えを聞いたリュセルは、顔を引きつらせるしかなかった。
「しかし、ひどい事になったな」
ルルドの葉の影響により、邪気に蝕まれた数多の数の中毒者達は、女神の玉による浄化の影響で地面に倒れ伏し、彼らに襲われ、負傷した、強硬派・穏健派の者達も地面に倒れているという惨状。周囲を見回していたリュセルはため息をついた。
「大丈夫です。すぐにシュリが救護の為に残った者達を連れて来てくれるでしょう。…………ところで、あの……、その、リュセル王子……」
説明をしながら、ユリエは、リュセルの月の美貌を見上げ、言い難そうに小さな声で告げる。
「ん?」
そうして、意を決したのか、見返してくる銀の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「降ろして欲しいのですが」
リュセルの両腕に横抱きに抱かれたままの状態のユリエは、降ろしてくれる気配の皆無な美貌の王子に、遠慮がちにだが、はっきりと言い放った。
他の姫君や普通の女性だったら、いつまでもその腕に抱かれていたいと思うのだろうが、ユリエにしてみると、子供でもないのに抱き上げられっぱなしというのは、ただ、居心地が悪いだけだ。
「ああ、すみません」
抱き上げたままだったという事実に、今、気づいたのか、そう謝罪したリュセルは、だが、彼女を地面に降ろそうとはしなかった。
「……?あの…………」
ユリエが戸惑いの声を上げようとした瞬間、グッと抱かれた肩が引き寄せられ、リュセルの白皙の美貌が間近まで迫って来る。
(ひゃっ!)
瞬間、さすがに顔を赤くしたユリエの額に自分の額を重ねたリュセルは、彼女のその奥に、アサギの時と同じようにルルドの木の枝の幻影を見た。
「レオン」
ユリエから顔を離したリュセルは、彼女をようやく地面に降ろし、傍まで来ていた兄の名を呼んだ。
「……失礼、ユリエ姫」
レオンハルトが小さく頷くのを認めると、リュセルは断りを入れて、ユリエの額に片手をかざす。そのまま、彼女の肩にもう片方の腕を回し、引き寄せた。
瞬間、かざした右手から銀の光が溢れ出す。
そして、基本的に覚えのいいリュセルは、アサギの時にレオンハルトから習った浄化の仕方を、すぐさま再現してみせた。
浄化の光を受けて、ユリエの中のルルドの木の結び目が枯れていくのを感じる。
銀の光に包まれている間、ユリエは驚きに大きく目を見開いたまま、目の前のリュセルを見上げているだけだったが、唇がかすかに動いたのに気づいた。
「ぁ……、ューク…………さ、ま……」
前半部分は声が小さくてよく聞き取れなかったが、誰かの名前を呼んだようだった。リュセルが眉根を寄せると、ユリエはふと目を閉じて、再び開ける。
その、薄茶の双眸が放つ、強い意思の色。
優しく賢く……、そして、強い。そんな色。
ああ……、遠い場所から、声が聞こえるようだ。
ー泣かないで……。お願いだから、泣かないで……ー
心配そうに曇った、黒々とした優しい瞳が、ただ、泣き続ける自分に向けられる。
かつて子供だった優しい青年は、その優しい手で、自分の流す涙を拭ってくれたのだ。
しかし、そんな思考を邪魔するように声が響いた。
「リュセルっ!?」
いつまで経っても浄化の手を止めない弟に、レオンハルトは慌ててその手を掴んで止めさせる。
リュセルは、我に返ったようにユリエの額にかざした右手を下ろすと、真っ直ぐに自分を見上げてくる姫君に言った。
「ユリエ姫……。まさか、あなたは」
「?」
狼狽したようなリュセルの声。ユリエは現在の状況がよく飲み込めずに、小さく首を傾げる。
「……いえ、何でもありません」
これは、ただの憶測だ。まさか、そんな事があるはずがない。リュセルは、不思議そうなユリエにそう言って誤魔化すと同時に、自分を納得させた。
「リュセル殿、これで結び目の浄化は完了したのだな?」
黙って様子を見ていたアルティスがそう言うのを聞くと、ローウェンが驚きの声を上げた。
「え~~~!? 結び目って、ユリエ姉上だったの!?」
「ああ。後、アサギ王子がね。そちらはもう浄化して来たし、ユリエ姫の浄化が終わった所で、ルルドの木と中毒者達を結ぶ糸は切れた。後は、メルティス前王との決着を残すのみだ」
レオンハルトの説明に、リュセル、アルティス、ローウェンは、深く頷いたのだった。
急に妖しさを増したローウェンは、持っていた女神の玉を両手で掲げると、ダンッと、その柄の先を地面に打ちつける。
「一気に片をつけるよ、アル」
「承知」
ローウェンの口から、彼自身の声とアルティスの声が放たれるのを聞いて、初めて弟達の同化に立ち会ったユリエとレインは、ただ、驚きに目を見張るのみだ。
二人が意識を玉に集中させると同時に、再び銀の光が、玉を中心にして広がり、それは、この歓楽街一帯を包み込んだ。
「あ……」
「ううう…………」
うつろな目をしていたルルドの葉の中毒者達は、一瞬、大きく目を見開くと、小さく呻き声を上げた。その灰色の瞳は、邪気の浄化と共に本来の色を取り戻し、彼らは、そのまま意識を手放して、バタバタとその場に倒れ臥す。
玉から光が消えると同時に、その場に立っているのは、ローウェンとレオンハルト、リュセル、リュセルに抱き上げられたユリエ、レインの五人になってしまっていた。
折り重なるようにして倒れ臥した人々の中心で、ローウェンは小さく呟く。
「浄化完了」
その姿は、まるで、戦場に降り立った少年神のように神々しい姿だった。
「よくやった。ローウェン、アルティス」
レオンハルトの労いの言葉を聞くと、二人は同化を解いて、女神の玉を元の封印状態に戻した。そして、封印と同時に、目の前に現れた兄の体に飛びつき、ローウェンは叫ぶ。
「うわ~ん、アルー! 会いたかったよおおお!」
「ほんの少しの間、離れていただけであろうが。しかし、ふふ……、そんな風に言われるのも悪くない」
いつものように妖笑を浮かべると、アルティスは抱きついてきたローウェンの背に褐色の両腕を回し、弟の華奢な体を抱きしめた。
「久しぶりだな、レオン」
感動の再会を果たす玉主玉鍵の横で、リュセルは皮肉めいた台詞を兄に投げかける。
「……これからは、迷子札でもつけてあげようか?」
返って来た本気めいた答えを聞いたリュセルは、顔を引きつらせるしかなかった。
「しかし、ひどい事になったな」
ルルドの葉の影響により、邪気に蝕まれた数多の数の中毒者達は、女神の玉による浄化の影響で地面に倒れ伏し、彼らに襲われ、負傷した、強硬派・穏健派の者達も地面に倒れているという惨状。周囲を見回していたリュセルはため息をついた。
「大丈夫です。すぐにシュリが救護の為に残った者達を連れて来てくれるでしょう。…………ところで、あの……、その、リュセル王子……」
説明をしながら、ユリエは、リュセルの月の美貌を見上げ、言い難そうに小さな声で告げる。
「ん?」
そうして、意を決したのか、見返してくる銀の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「降ろして欲しいのですが」
リュセルの両腕に横抱きに抱かれたままの状態のユリエは、降ろしてくれる気配の皆無な美貌の王子に、遠慮がちにだが、はっきりと言い放った。
他の姫君や普通の女性だったら、いつまでもその腕に抱かれていたいと思うのだろうが、ユリエにしてみると、子供でもないのに抱き上げられっぱなしというのは、ただ、居心地が悪いだけだ。
「ああ、すみません」
抱き上げたままだったという事実に、今、気づいたのか、そう謝罪したリュセルは、だが、彼女を地面に降ろそうとはしなかった。
「……?あの…………」
ユリエが戸惑いの声を上げようとした瞬間、グッと抱かれた肩が引き寄せられ、リュセルの白皙の美貌が間近まで迫って来る。
(ひゃっ!)
瞬間、さすがに顔を赤くしたユリエの額に自分の額を重ねたリュセルは、彼女のその奥に、アサギの時と同じようにルルドの木の枝の幻影を見た。
「レオン」
ユリエから顔を離したリュセルは、彼女をようやく地面に降ろし、傍まで来ていた兄の名を呼んだ。
「……失礼、ユリエ姫」
レオンハルトが小さく頷くのを認めると、リュセルは断りを入れて、ユリエの額に片手をかざす。そのまま、彼女の肩にもう片方の腕を回し、引き寄せた。
瞬間、かざした右手から銀の光が溢れ出す。
そして、基本的に覚えのいいリュセルは、アサギの時にレオンハルトから習った浄化の仕方を、すぐさま再現してみせた。
浄化の光を受けて、ユリエの中のルルドの木の結び目が枯れていくのを感じる。
銀の光に包まれている間、ユリエは驚きに大きく目を見開いたまま、目の前のリュセルを見上げているだけだったが、唇がかすかに動いたのに気づいた。
「ぁ……、ューク…………さ、ま……」
前半部分は声が小さくてよく聞き取れなかったが、誰かの名前を呼んだようだった。リュセルが眉根を寄せると、ユリエはふと目を閉じて、再び開ける。
その、薄茶の双眸が放つ、強い意思の色。
優しく賢く……、そして、強い。そんな色。
ああ……、遠い場所から、声が聞こえるようだ。
ー泣かないで……。お願いだから、泣かないで……ー
心配そうに曇った、黒々とした優しい瞳が、ただ、泣き続ける自分に向けられる。
かつて子供だった優しい青年は、その優しい手で、自分の流す涙を拭ってくれたのだ。
しかし、そんな思考を邪魔するように声が響いた。
「リュセルっ!?」
いつまで経っても浄化の手を止めない弟に、レオンハルトは慌ててその手を掴んで止めさせる。
リュセルは、我に返ったようにユリエの額にかざした右手を下ろすと、真っ直ぐに自分を見上げてくる姫君に言った。
「ユリエ姫……。まさか、あなたは」
「?」
狼狽したようなリュセルの声。ユリエは現在の状況がよく飲み込めずに、小さく首を傾げる。
「……いえ、何でもありません」
これは、ただの憶測だ。まさか、そんな事があるはずがない。リュセルは、不思議そうなユリエにそう言って誤魔化すと同時に、自分を納得させた。
「リュセル殿、これで結び目の浄化は完了したのだな?」
黙って様子を見ていたアルティスがそう言うのを聞くと、ローウェンが驚きの声を上げた。
「え~~~!? 結び目って、ユリエ姉上だったの!?」
「ああ。後、アサギ王子がね。そちらはもう浄化して来たし、ユリエ姫の浄化が終わった所で、ルルドの木と中毒者達を結ぶ糸は切れた。後は、メルティス前王との決着を残すのみだ」
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