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第九章 怪盗イチゴミルク
2-2 オレンジ色の髪の貴婦人
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クマ吉で誤魔化せるのも時間の問題な為、開演ギリギリの時間に合わせてきたリュセルは、公演直前に劇場に辿り着く。
前に来た時(創世祭の時)座った特別席ではなく、今回は一階の一般席だ。しかも、チケットをとってくれたカイルーズが頑張ってくれたのか、中央一番前の席。
(おおおおおっ! こんなに前では、ノンちゃんがとてもよく見えすぎて、俺は興奮のあまり発狂してしまうかもしれない)
そんな事を考えながら、パンフレット片手にドキドキしていると、隣の席の人も一人なのに気づいた。一人で最前席など、よほどのノンちゃんマニア……いやいや、ファンだ。
自分の事を棚に上げて隣を盗み見ると、年の頃はレオンハルトと同年代位のオレンジ色の髪の女性だった。女性はリュセルの視線に気づいて、にこりと笑った。
半身たるレオンハルトの美貌に慣れたリュセルの目から見ても、美しい女性である。着ているドレスは、派手ではないが、最新の流行を取り入れたいいものだ。おそらく、裕福な家の子女か妻女なのだろう。肩先に広がるウエーブを描くオレンジ色の髪が印象的な美女だった。
「ノンちゃんがお好きなんですか?」
ハスキーヴォイスが耳に心地いい。
「はい。あなたもですか?」
そう言うと同時に、リュセルは着ていたコートを脱いだ。
侍従服になってしまうが、まあいいだろう。
「あら、その制服。……お城にお勤めになっている方ですのね?」
驚きに目を見張った美女にリュセルはにこやかに嘘をついた。
「ええ。今日は、公演の為に午後から休みをもらったんです」
「あらあら、あなたも私と同じように筋金入りのノンちゃんファンですね」
美女がそう言ったと同時に劇場内は暗くなり、舞台の始まりを促したのだった。
舞台は、それはそれは、素晴らしいものだった。
原作を忠実に再現したかのような内容。しかも、今回は、前回のように芝居だけではなかった。歌って踊るミュージカル付きだったのだ。軽快に踊るノンちゃんが目の前までやって来た時の興奮といったら、言葉で表すことなど出来ない程だった。
幕が降り、公演が終了しても、あまりの感動と興奮に、リュセルはしばらく身動き出来ずにいた。
「素晴らしい公演でしたね」
周りの観客達が劇場を後にする中、隣にいたノンちゃんマニア仲間の女性がそう声をかけてきた。女性も、興奮のあまり頬をわずかに紅潮させていた。
「はい。特に、姫君を助ける為にノンちゃんが単身、暗黒城に乗り込んでいく場面が素晴らしかったですね」
リュセルの言葉を聞き、女性も息を弾ませて答える。
「ええ。それにあの迫力の戦闘シーン! 息を飲みましたわ」
「私達は話が合うようですね」
「ふふ、そうですね。……ああ、申し遅れました。あたくしの名は、ミルフィーナ。小規模ですが、ディエラ国で宝石商を営んでいます」
「ディエラ国の方だったのですか。アシェイラへはお仕事で?」
「はい」
薄い微笑みを浮かべる清楚な女性、ミルフィーナに、リュセルは少しときめいてしまった。
年上の女性の魅力の魔力とは、恐ろしいものだ。今までリュセルが出会った年上の女性達に、こんなタイプがいなかった影響もあるかもしれないが。
何せ、彼が今まで接してきた年上の女性達は、一風変わった方々ばかりだった。
ディエラ代表、ジュリナは、年上の女性というより男性のような印象だし、サンジェイラ代表のユリエは、見た目的に幼くて、自分より年上の印象が薄い。
ミルフィーナに見蕩れていたリュセルは、変装眼鏡越しにもはっきりと分かる程、甘く輝く微笑みを浮かべる。
「俺……、私の名は……、ティル。そう、ティルと申します、美しい方。見ての通り、城勤めのしがない奉公人です」
咄嗟に自分付きの小姓の名を名乗ったリュセルの手を取り、ミルフィーナは蠱惑的にささやいた。
「うふふ、可愛らしい方。もし、お時間がよろしければ、どこかでお茶でも致しませんか? こうして出会えたのも何かの縁。ノンちゃんのお話がわかる方ともう少し話がしたいわ」
彼女の紺色の瞳が、その瞬間、妖しく輝いたのにリュセルは気づかなかった。
「お茶ですか……」
初めて出会ったノンちゃんマニア仲間。
リュセルも、もう少しこの魅力的な女性と話をしてみたかったし、お茶位なら付き合ってみてもいいかな~。という気持ちだったのだが。
(早く帰らないと、まずいかもしれない)
クマ吉リュセル(笑)でどの程度誤魔化せるか。
「駄目ですか?」
「いえ、是非」
寂しそうな顔をされて、リュセルは咄嗟に頷いてしまう。
(まあ、少しの間ならいいだろう)
相も変わらず、自分で墓穴を掘り、その中に自ら埋まってしまう男であった。
そうして、劇場を後にしたリュセルとミルフィーナが入ったのは、劇場前に出来たばかりの店だ。奥のテーブル席に案内され、やってきた給仕の者に紅茶を二つ注文する。
上品な内装のこの喫茶店で、二人は時を忘れて、黒猫ノンちゃんシリーズの素晴らしさについて語り合った。そうして、ひとしきり語り合った所で、ミルフィーナは”ティル”の仕事に興味を惹かれたらしく、しきりに城の事を聞いてきたのだった。
「でも、城勤めなんて大変でしょうね。王族の方をお見かけしたりする事とかあるのですか?」
見かけるも何も、王族の一人なのですが。そう思いながらも、誤魔化すようにリュセルは曖昧に返事を返す。
「いえ、私は下っ端ですので」
「そうですか……。ディエラ国の方にもアシェイラの王族の方々の噂は届いていますのよ。特に、深窓の姫君”と謳われる、麗しい姫君の事など、皆の注目の的ですわ」
「ぶふっ」
リュセルはミルフィーナの言葉に紅茶を噴出した。
「あらあら、大丈夫?」
いい香りのするハンカチで口元を優しく拭われ、リュセルは胸がドキドキするのを感じる。
「ありがとうございます、ミルフィーナ殿。……えっと、その……、先程の話ですが、大きな誤解があるようですよ?」
「誤解?」
首を傾げるミルフィーナに頷くと、リュセルは彼女の誤解を解く為に、真剣な表情で語った。
前に来た時(創世祭の時)座った特別席ではなく、今回は一階の一般席だ。しかも、チケットをとってくれたカイルーズが頑張ってくれたのか、中央一番前の席。
(おおおおおっ! こんなに前では、ノンちゃんがとてもよく見えすぎて、俺は興奮のあまり発狂してしまうかもしれない)
そんな事を考えながら、パンフレット片手にドキドキしていると、隣の席の人も一人なのに気づいた。一人で最前席など、よほどのノンちゃんマニア……いやいや、ファンだ。
自分の事を棚に上げて隣を盗み見ると、年の頃はレオンハルトと同年代位のオレンジ色の髪の女性だった。女性はリュセルの視線に気づいて、にこりと笑った。
半身たるレオンハルトの美貌に慣れたリュセルの目から見ても、美しい女性である。着ているドレスは、派手ではないが、最新の流行を取り入れたいいものだ。おそらく、裕福な家の子女か妻女なのだろう。肩先に広がるウエーブを描くオレンジ色の髪が印象的な美女だった。
「ノンちゃんがお好きなんですか?」
ハスキーヴォイスが耳に心地いい。
「はい。あなたもですか?」
そう言うと同時に、リュセルは着ていたコートを脱いだ。
侍従服になってしまうが、まあいいだろう。
「あら、その制服。……お城にお勤めになっている方ですのね?」
驚きに目を見張った美女にリュセルはにこやかに嘘をついた。
「ええ。今日は、公演の為に午後から休みをもらったんです」
「あらあら、あなたも私と同じように筋金入りのノンちゃんファンですね」
美女がそう言ったと同時に劇場内は暗くなり、舞台の始まりを促したのだった。
舞台は、それはそれは、素晴らしいものだった。
原作を忠実に再現したかのような内容。しかも、今回は、前回のように芝居だけではなかった。歌って踊るミュージカル付きだったのだ。軽快に踊るノンちゃんが目の前までやって来た時の興奮といったら、言葉で表すことなど出来ない程だった。
幕が降り、公演が終了しても、あまりの感動と興奮に、リュセルはしばらく身動き出来ずにいた。
「素晴らしい公演でしたね」
周りの観客達が劇場を後にする中、隣にいたノンちゃんマニア仲間の女性がそう声をかけてきた。女性も、興奮のあまり頬をわずかに紅潮させていた。
「はい。特に、姫君を助ける為にノンちゃんが単身、暗黒城に乗り込んでいく場面が素晴らしかったですね」
リュセルの言葉を聞き、女性も息を弾ませて答える。
「ええ。それにあの迫力の戦闘シーン! 息を飲みましたわ」
「私達は話が合うようですね」
「ふふ、そうですね。……ああ、申し遅れました。あたくしの名は、ミルフィーナ。小規模ですが、ディエラ国で宝石商を営んでいます」
「ディエラ国の方だったのですか。アシェイラへはお仕事で?」
「はい」
薄い微笑みを浮かべる清楚な女性、ミルフィーナに、リュセルは少しときめいてしまった。
年上の女性の魅力の魔力とは、恐ろしいものだ。今までリュセルが出会った年上の女性達に、こんなタイプがいなかった影響もあるかもしれないが。
何せ、彼が今まで接してきた年上の女性達は、一風変わった方々ばかりだった。
ディエラ代表、ジュリナは、年上の女性というより男性のような印象だし、サンジェイラ代表のユリエは、見た目的に幼くて、自分より年上の印象が薄い。
ミルフィーナに見蕩れていたリュセルは、変装眼鏡越しにもはっきりと分かる程、甘く輝く微笑みを浮かべる。
「俺……、私の名は……、ティル。そう、ティルと申します、美しい方。見ての通り、城勤めのしがない奉公人です」
咄嗟に自分付きの小姓の名を名乗ったリュセルの手を取り、ミルフィーナは蠱惑的にささやいた。
「うふふ、可愛らしい方。もし、お時間がよろしければ、どこかでお茶でも致しませんか? こうして出会えたのも何かの縁。ノンちゃんのお話がわかる方ともう少し話がしたいわ」
彼女の紺色の瞳が、その瞬間、妖しく輝いたのにリュセルは気づかなかった。
「お茶ですか……」
初めて出会ったノンちゃんマニア仲間。
リュセルも、もう少しこの魅力的な女性と話をしてみたかったし、お茶位なら付き合ってみてもいいかな~。という気持ちだったのだが。
(早く帰らないと、まずいかもしれない)
クマ吉リュセル(笑)でどの程度誤魔化せるか。
「駄目ですか?」
「いえ、是非」
寂しそうな顔をされて、リュセルは咄嗟に頷いてしまう。
(まあ、少しの間ならいいだろう)
相も変わらず、自分で墓穴を掘り、その中に自ら埋まってしまう男であった。
そうして、劇場を後にしたリュセルとミルフィーナが入ったのは、劇場前に出来たばかりの店だ。奥のテーブル席に案内され、やってきた給仕の者に紅茶を二つ注文する。
上品な内装のこの喫茶店で、二人は時を忘れて、黒猫ノンちゃんシリーズの素晴らしさについて語り合った。そうして、ひとしきり語り合った所で、ミルフィーナは”ティル”の仕事に興味を惹かれたらしく、しきりに城の事を聞いてきたのだった。
「でも、城勤めなんて大変でしょうね。王族の方をお見かけしたりする事とかあるのですか?」
見かけるも何も、王族の一人なのですが。そう思いながらも、誤魔化すようにリュセルは曖昧に返事を返す。
「いえ、私は下っ端ですので」
「そうですか……。ディエラ国の方にもアシェイラの王族の方々の噂は届いていますのよ。特に、深窓の姫君”と謳われる、麗しい姫君の事など、皆の注目の的ですわ」
「ぶふっ」
リュセルはミルフィーナの言葉に紅茶を噴出した。
「あらあら、大丈夫?」
いい香りのするハンカチで口元を優しく拭われ、リュセルは胸がドキドキするのを感じる。
「ありがとうございます、ミルフィーナ殿。……えっと、その……、先程の話ですが、大きな誤解があるようですよ?」
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