【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

5-3 再度の予告状

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 その後、テーブルについたリュセルの銀糸の髪を、世話役ティルやクマ吉に成り替わり、ミルフィンで世話焼きに慣れているハミルが丁寧に梳いていた。

 その儚い輝きは、まさしく神秘的な月のごとき。

(この髪を一房売れば、一体いくらになるんだろう)

 ただでさえ、銀髪は珍しいのだ。
 ハミルが銀髪の人間に会ったのは、リュセルが初めてだった。

(きっと、すごく高く売れるんだろうなぁ)

 庶民のハミルには、想像もつかない。髪質も、上等過ぎる位上等だし。

 当の王子は、ハミルの考えている事などまったく気にせずに、宿の朝食(ハミルの分)を優雅にとっている。

「おおっ、載ってる載ってる」

 片手でカップを傾けながら、もう片方の手で朝刊を持ち、内容を黙読していたリュセルは、その一面を飾っている怪盗イチゴミルクの第三王子誘拐事件に目を止める。

「外部に漏れたのか。大騒ぎになっているな」

 あれだけの大立ち回りを起こして騒ぎにならない訳がなかろうに、のん気にそう言って焼きたてのパンをかじるリュセルにハミルは顔を引きつらせた。

(やっぱり王族の方って、どこか変わってるよなぁ)

 髪を梳かし終える頃になると、リュセルの愛の下僕……、怪盗イチゴミルクこと、ミルフィンが、特製手作りフレッシュジュースを片手に部屋に戻ってくる。

「できましたわ! リュセル王子殿下っ! ミルフィン特製、フレッシュジュースですぅ」

 くねっとしながら、ウィンクをリュセルに向けて放つミルフィンは、何故かメイド姿をしていた。

「ありがとう」

 甘い微笑みを惜しみなくふりまくリュセルは、うっとりとした様子のミルフィンからグラスに入ったフレッシュジュースを受け取る。

「ところで、起きた時から気になっていたんだが、その、顔や体の傷はなんだ? 昨夜はなかっただろう?」

 リュセルの言葉を聞いたミルフィンは、わずかに顔を強張らせた。
 
 頬や額、腕や脚に、かすり傷と打ち身の痣をつくっていたミルフィンは、実は、昨夜、幾度となく目の前の銀の王子の唇をなんとか奪おうと試みて、その度に現れた守護結界にはじかれ、壁に叩きつけられていたのだ。

 その試みの数、一度や二度じゃない。

 途中でハミルが、あきらめましょうよ~っと、泣きながら止めに入って、無理矢理止めさせたのだ。その後、ミルフィンはあまりの悔しさにオイオイ泣いて、昨夜は泣き疲れて眠ったのである。

 そして朝、リュセルが目を覚ますと、どこからともなくメイドの衣装を持ってきて、朝の支度の手伝いをし始めたのである。そう……ミルフィンは、リュセルの唇を奪う事をあきらめていなかったのである。

 すごい根性だ。


「それで、リュセル王子殿下、そろそろ教えてくださってもよろしいのではありません?」

 朝食後、ミルフィンはそう言って、テーブルの向かいに座るリュセルに遠慮しながらそう尋ねた。

「ん? 何がだ」

 リュセルは銀の瞳をまたたかせて、尋ね返してくる。

(あんっ、目が合っちゃった!)

 目があっただけで腰がくだけそうになりながら、ミルフィンは言った。

「今夜、一体、何を狙うのですか?」

 そう……。昨夜、怪盗イチゴミルクに扮したリュセルは、再度予告を出したのだ。

 ”リュセル王子の一番大事なもの”

 それが、今回のターゲットらしい。

 数が少なく世界的に価値の高い虹石の純金ブレスレットを、ただの装飾品のように無造作に身につけている、このセレブ王子の一番大事なものとは?

 ものすごい価値のある絵画か?
 高価な宝石か?

 盗賊としては期待が膨らむ。

「それは……」

「それは?」

 ミルフィンの期待に満ちた顔を見返すと、リュセルは小さく笑った。

「秘密だ」

「いやんっ、罪なお方!」

 頬を赤く染めて首を振る、主の情けない姿を見ながらも、ハミルは言った。

「でも、本気でまた、アシェイラ城に忍び入るつもりですか? 一度忍び入っていますし、きっと、昨夜以上に警備が厳しくなりますよ。向こうは、王族の一人である、第三王子のあなたを誘拐されたと思っているんですし、どんな事をしてでも怪盗イチゴミルクを捕えようとしてきます」

 ヘタレだが、常識のあるハミルの最もな台詞である。しかし、そんな彼の不安にも、リュセルは自信満々に答えたのだ。

「俺を誰だと思っているんだ? 街の事に関しては今一だが、城から滅多に出た事がない為、城内の事については、俺はちょっと詳しいぞ」

(それもどうかと……)

 はっきり言って、自慢出来る事ではない。

(なるほど、だから”深窓の姫君”なのか)

 見た目から想像出来ないリュセルの二つ名の由来が、ハミルはなんとなく分かったような気がした。

「きゃ~~~っ、素敵ですわ! リュセル王子殿下~~~っ!」

 リュセルファンのミルフィンは自信に満ち満ちたその言葉に黄色い声を上げる。

「そうか? ふっ……、では、これから作戦会議といこうじゃないか」

 その言葉と共に、切れ長の瞳で流し見られて、ハミルは背筋がゾクリとするのを感じた。

 ハミルがそんな状態になったのだ。ミルフィンは興奮のあまり鼻血を流しながらその場に昏倒してしまった。

「ぎゃあああっ、ミルフィン様~! お気を確かにぃぃぃぃ!」

 うっとりとした表情を浮かべたまま、いきなり倒れ伏した主を見たハミルは悲鳴を上げたのだった。







「うう~……、枕が変わった所為か少し寝違えたな」

 怪盗イチゴミルクが再び忍び入ろうとしているアシェイラ城の後宮の廊下を歩きながら、ジュリナはあくびをかみ殺した。

「失礼~」

 泊まった客室から後宮の奥にある幼なじみの部屋に移動すると、軽く断りを入れ、無造作に扉を開ける。

 その向こうにあったのは……。

「うわああああっ、ゾンビ~~~~っ!」

 部屋の中央を陣取っていた会議用のテーブルの上に、青白い顔で倒れ伏していたジェイドの姿は、まさしく死人だった。泣き腫らして赤く染まった目元のおかげで彼がかろうじて生きているのが分かる。
 しかし、ぐったりとしているのは、彼だけではなかった。カイルーズもカイエも、一晩でかなり老けこんでしまっていたのだ。
 白くなって、そのまま燃え尽きかけている三人の、まさに死屍累々の状況を見たジュリナは、さすがにまずいと思った。

「レオ、レオレオレオ、レオンハルトっ! お前の身内、かなりやばいぞ!」

 慌ててレオンハルトの座るソファに駆け寄ると、そこでは一悶着が起きていた。

「殿下、お気を確かにもって下さい。必ず……、必ず、リュセル王子は俺達が助け出しますからっ」

 そう言って、くっと涙ぐむ金髪の騎士をジュリナは知っていた。
 確か、レオンハルトの直属の騎士だ。
 よく見ると、いるのは彼だけでなく、密かにジュリナがいいな~っと思っていた真面目そうな女騎士、それと、無骨な壮年の騎士もいる。

 ユージンと、アイリーンと、アントニオだ。

「ひどい目にあっていたらどうしたらいいのでしょうか!? ううう、リュセル殿下……」

 そばかすが可愛い小姓の少年ティルも、さめざめと泣きながら、持っていたハンカチで顔を覆っていた。その横では、クマ吉がそんな先輩をなぐさめるようにティルの背をさすってあげている。

(うわ~。また面倒くさい事になってるな~)

 そんな四人に囲まれているレオンハルトの横顔からは、感情の色は一切見られない。いつもの事ではあるが。

「城内の警備のみならず、街の調べも進めております。昨夜、すぐにカイルーズ王子が王都の門をすべて閉めてくれましたので、きっとまだ、リュセル王子は王都内にいるはずです」

 うっかり、昨夜、怪盗イチゴミルクに見惚れてしまったアイリーンは、そんな自分を恥じていたが、すぐに主たるレオンハルトを手伝う為に、ユージン、アントニオと共に動き出したのだ。

(まあ、いい線ついてるけれどね)

 リュセルが王都内にいるのは、間違いないようだし。

「我らアシェイラ王国の騎士一同、全力でリュセル王子をお助け致します」

 最後にそう言ったユージンの真剣な表情を見たジュリナは、自分の騎士達の訴えを冷静に聞いていたレオンハルトに視線を移す。
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