【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
161 / 424
第十章 盲目の神官

3-1 デコレート商団との合流

しおりを挟む
 馬車を出発させ、そのまましばらく走らせると、目的地に到着する。

 東西南北に存在する王都と外界を隔てる門の内、西門の外に、数十台にもなる馬車と数多の商人、人夫、護衛兵の姿があった。

「坊ちゃん、ユージン坊ちゃん!」

 この、大きな行商の総責任を任されている商人であり、デコレート商会の従業員、コバルト・ハリーは、感動に目を潤ませて、幼い頃に面倒を見ていた本店の長男がいる馬車に駆け寄る。

「よ~、コバ爺。相変わらず頭が薄いなあ」

「余計なお世話です! ……ああ~、その言い方。ユージン坊ちゃんだ。お久しぶりです」

 馬車の御者台から飛び降りたユージンが実家でよく面倒をみてくれたコバルトに笑いかけると、彼は感極まったようにむせび泣く。

「ご立派になられて。ついこの前まで、蛙を私のかつらに忍ばせていたずらしていた悪ガキだったのに! うううう~~~、感動しました」

「そ、そんな昔の事、蒸し返されても困るんだけど」

 昔の既知に再開し、喜んだのもつかの間。いきなり過去の若気の至りをばらされたユージンは、軽く頬をひきつらせる。

「お前は昔からしょうがない奴だったんだな」

 同じように馬車の御者台から降りたアイリーンは、ため息をつきながらそう言った。

「あ、あなた様は…………」

「?」

 コバルトが驚きに目を見開く先で、アイリーンが不思議そうに首を傾げると、彼は小さな目を細めて呟く。

「坊ちゃん、こんな綺麗な奥様まで娶られて……。爺は嬉しいです」

「いや~」

 片思いをしている女性を、勘違いとはいえ、奥様と称されて、ユージンは照れたように赤くなる。

「いえ、ただの同僚です」

 しかし、続いた相手のはっきりとした台詞を聞き、彼はガックリと項垂れた。アイリーンはそんな同僚に構う事なく、主の為に馬車の扉を開く。

「殿下、着きました」

「ご苦労」

 そして、次の瞬間、今まで聞いた事もないような美しい響きの声がしたかと思ったら、馬車から美麗な男が優雅な仕草で降りて来る。

「っ………………!?」

 漆黒のロングコートが似合いすぎる程似合っている、その青年の整い過ぎた麗しい容貌に、コバルトを始め、そこに居合わせた人々は息をするのも忘れてしまう。

「爺、レオンハルト王子殿下だ。立拝でいいから礼を」

 最初に我に返ったコバルトが、慌てて王族に対する略礼をとる。

「これから世話になる」

「は、はははい。む、むさくるしい馬車ですが…………っ、ど、どうぞ、ごゆるりとおくつろぎ頂けたら幸いです!」

 声をひっくり返してそう答えたコバルトに対しレオンハルトが頷くと、立拝をとる人々の間をぬって一人の青年が進み出た。

 その青年を見た瞬間、レオンハルトの琥珀の瞳がわずかに揺れる。

「お初にお目にかかります、剣主様。セイントクロス神殿、アシェイラ支部より派遣されて参りました。セフィ・アルターコートと申します」

 そう自己紹介をして他の者のとった立拝と違うやり方で恭しく頭を下げた、背の高い翠緑の髪の神官をレオンハルトは知っていた。

(この者、あの時の)

 少し前にリュセルと共に行った真夜中の逢引(デート)……ではなくて、黒猫ノンちゃんシリーズの小説の最新刊を目的とした真夜中の買い物時に出会った盲目の神官。

 お馬鹿な弟の為に小説購入に必要な整理券を譲ってくれた心優しい青年だ。
 なんという偶然か。あの時の神官が、今回の任務で同行する事になろうとは……。

「これからしばらくの間、よろしく頼む。アルターコート神官」

 レオンハルトの言葉を聞き、固く閉ざした光のない目を伏せると、セフィは深く頭を垂れた。

「で、では、王子殿下方と神官様には事前に指示を頂きました通り、我が商団の者と一緒の馬車という事で、フェアリー達の馬車に御同乗下さい」

 挨拶が終了した後、動きを止めていた商団の部下達に目配せし、仕事の再開をさせたコバルトは、レオンハルト達の乗る馬車の説明をする。

 しかし、その説明の中にあった名前を聞いたユージンは、ギョッと目を見張った。

「ちょ、ちょっとコバ爺、フェアリーの馬車って、それはまずいだろう!? 王子殿下と神官を、あいつらの馬車に同乗させるのは……」

「でも、坊ちゃん。私達の所有する馬車の中で、あそこが一番綺麗で快適なんですよ」

「だからってさ~」

 ぼそぼそと言い合うユージンとコバルトの様子のおかしさを察し、セフィとアイリーンは首をかしげ、レオンハルトはいぶかしげに眉をひそめた。

「どの馬車でもいい。案内しろ」

「しかし、殿下~。フェアリーの馬車は……」

「何なんだ、一体」

 言いよどむユージンにレオンハルトが尋ねると、コバルトがそれに答えた。

「商品を乗せた馬車なのです。商品と言っても、物ではなく人なんですが…………。つまりは、高級男娼の」

 商売の幅が広過ぎるぞ、デコレート商会。

 アイリーンは、つい、呆れたような目線をユージンに向けてしまった。

「わかった、早く案内しろ」

 しかし、そんな事、意に介する事もなく、あっさりと頷くレオンハルトにユージンは度肝を抜かれる。

「えええっ!? ほ、本気ですか? 殿下」

「ああ、男娼という事は男だろう? 高級娼婦の馬車よりはいいだろうが」

「し、しかし」

 言いよどむユージンに、レオンハルトは信憑性のある答えを返す。

「普通の男娼と違い、高級男娼は貴族並の教育をされているから心配いらないだろう」

「……詳しいんですね」

 過去の陰の日の戦歴の所為で、高級男娼に詳しいレオンハルトに対し、つい、ユージンはつっこみを入れてしまっていた。



「では、ご案内致しますので、こちらへどうぞ」

 結論が出た事を察したコバルトの若干落ち付きを取り戻した声が響く。レオンハルトはそれに小さく頷くと、乗ってきた王族専用の馬車に残していた弟の体を再び横抱きに抱き上げる。

 慌ててアイリーンが手伝うが、それを見たコバルトは、ポカンと口を開けっぱなしにしてしまう。

 深い眠りについている様子の、神聖な程に整った銀髪の青年を軽々と抱き上げたレオンハルトは、淡々とした口調でコバルトに催促した。

「案内を」

「は、ははい!!」

 慌てて、眠っている銀髪の青年の美貌から視線を逸らしたコバルトは、彼らを案内する為に先導して歩き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...