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第十章 盲目の神官
3-3 運命の再会
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驚いたような声に、セフィは小さく首を傾げる。
しかし、王子である自分達が小説の為に真夜中に城を抜け出したなどと口外する事も出来ないので、リュセルは口を閉ざすとレオンハルトに目線で訴えた。
一方、弟の驚愕を知っているレオンハルトは、それに小さく頷く事で答えたのだった。
「リュセル、紹介しよう。今回の任務に同行する事になったアルターコート神官だ」
「お初にお目にかかります、剣鍵様。セフィ・アルターコートと申します。あなた様のような尊い方とこの度ご一緒出来ます事を、大変光栄に思います」
深々と頭を下げるセフィの翠緑の髪を見つめたまま、リュセルはまだ呆然としたまま頷く。
「よ、よろしく」
「それと、この馬車に同乗させてくれたシャノン殿、アビス殿、ベイソン殿だ」
まだ人がいたのか!?
リュセルが軽くショックを受けながら視線を向けると、薄金の髪の青年が綺麗な微笑を浮かべて頭を下げた所だった。その拍子に、背を流れる癖のない髪がサラサラと肩から溢れ落ちる。
「お目にかかれて光栄です、リュセル王子殿下」
自国の王子。しかも、兄弟の濃厚な接触を見ても、平然としているシャノンの流れるような所作と綺麗に整った容貌に目を向けた後、すぐにリュセルは気まずくて視線を外した。
そして、そこでようやく、レオンハルトの言葉を頭の中で反復する。
(ん? 馬車……?)
「ここは、デコレート商会の所有する馬車の中だ。起きないから抱えて連れてきたのだよ」
リュセルの疑問がわかったのか、レオンハルトはパニックに陥っている弟を面白そうに見やりながら、そう説明したのだった。
その後、二日酔いの影響で吐き気と頭痛が治まらない体に鞭打ち、リュセルは着ていた夜着から荷物の中に入っていた自分の外出着に着替えた。
白い長衣の上に同色のケープを羽織り、黒のパンツ型の下衣を履く。黒の長衣(コート)をきっちりと着込んでいるレオンハルトと並んだ時に対になるように作られたものだ。
余談だがリュセルの着る服は外出着、宮廷服、正装を含め、兄レオンハルトと並んだ時に見栄えするように、色、素材、デザイン、すべて特別に作られている。
本人はまったく知らないが、これは、レオンハルトの意向と、父王ジェイドの親心も大きく関与している。まあ、双子の子供に同じデザインの服を親が着せたがるのと似たようなものだろう。
そんな訳で、外出着に着替えたリュセルの姿は、彼自身の美貌の効果もあり、多くの貴人を相手にしてきた男娼達をうっとりとさせるような、それは凛々しい姿だったのだが……。
(気分が悪い……)
リュセルは今までいた奥座から、シャノンに招かれるまま、彼らがいる馬車内の中央に移動し、クッションに背を預けると、うっぷと吐きそうになりながらそう思っていたのだ。
しかし、そんな気分の悪さとは裏腹に、気づくとリュセルの口は、甘い言葉を三人の男娼達に投げかけていた。
「男性にこんな事を言うのは失礼かもしれませんが、皆さん、本当に綺麗な方ばかりですね」
にっこりと魅惑的な王子スマイルでそう言われ、シャノンはともかく、アビスとベイソンの二人は昇天しかけてしまう。
眠っている姿も目が離せない程美しかった王子は、目覚めたら、それはそれは、今まで出会った事のないような魅力的な男だったのである。
「ふふ、お上手ですね」
涼やかなシャノンの答えに、リュセルは甘い響きのある声で再び返す。
「本当の事を言ったまでですよ、シャノン殿。こうしてあなた方のような美しい方達と一緒に旅出来る事を、とても嬉しく思います」
スラスラと口説き文句を口にするリュセルに、同じようにシャノンに招かれて男娼達のいる場所に腰を降ろしていたセフィは感心してしまう。
目が見えない為、彼に分かるのは、とてつもなく甘い低音と、普通の男が言ったら笑い話にでもなってしまうような臭い台詞だけだ。
「すごいですね、剣鍵様。傍で聞いているだけの私でも赤面してしまいますよ」
事実、セフィの頬はうっすらと赤く染まっている。
「剣鍵というのはやめてくれないか? リュセルでいい」
「そんな、恐れ多いっ! あなた様は、私達の崇める唯一神の神子であらされるのですから!」
神官にとって王よりも貴い存在、それが女神の子供である。決して名前で呼ばない頑固なセフィにため息をついた途端、ズキリと頭の芯が痛むのをリュセルは感じた。
(自業自得とはいえ、かなりつらいな)
そう思った時、奥座で何かカチャカチャとやっていたレオンハルトが、リュセル達のいる場所に戻って来る。
「レオン」
「まったく仕方のない奴だ。ほら、これを飲みなさい」
口では甘い口説き文句を言い続けながらも、二日酔いの影響が強いであろう弟に、持ってきた器を渡す。
「何だ、これ? うわっ、臭っ! すごい色してるぞ!」
「二日酔いに効く薬だよ」
「レオン……」
こんな、出立前日にやけ飲みなどして、二日酔いなんて起こしている馬鹿な自分の為に……。感動しながら、リュセルは器に入ったドロドロとした液体に口をつける。
その瞬間
「ぐほっ!!」
あまりのまずさに吐き出した。
(ま、まず過ぎる)
ゲホゲホと涙ぐみながらむせているリュセルの背をさすりながらも、全部それを飲みきるまで厳しい目で見守っていたレオンハルトは、相手が飲み終わったのがわかると、空の器を受け取り、薬のあまりの苦さ、まずさに涙目になっていたその頬を撫でた。
「ふふふ、よく飲めたな。えらいぞ」
まるでお手伝いが上手く出来た子供を褒めるような、優しい親の口調と微笑でレオンハルトにささやかれ、リュセルは周りの目が気になってしまう。
純朴な神官、セフィは微妙な笑顔を浮かべており(引きつっているとも言う)、シャノンはその顔に綺麗な微笑みを浮かべたまま、他の二人はうっとりとした表情でリュセルとレオンハルトを見つめ続けている。
(もう、どうでもいい…………)
気分が悪いのに周りの目まで気にしていると、頭痛が余計にひどくなる……、ような気がする。
考えるのを放棄したリュセルは、兄の優しくも力強い、抱かれるになれた腕に引き寄せられるがまま、その膝に頭を乗せて横になった。
(横になっていた方がいくらかマシだな)
優しく自分の髪を梳る兄の繊細な指の動きに、起きたばかりだというのに眠くなってくる。
(いかんいかん)
なんとか目を覚ましておこうと目に力を入れていると、自分達の向かいに座るシャノンの瞳がせつないような色を宿しているのに気付く。
(?)
その薄い緑色をした瞳は、まっすぐにレオンハルトに向けられる。
(何だ?)
他の二人の男娼の視線がリュセルとレオンハルトの二人に向けられているのに、この青年だけは、瞳の奥にもどかしい程の思いを秘めた視線を兄にのみ向けていたのだ。
リュセルの視線に気づいた彼は、一瞬でそれを綺麗に隠すと、にっこりと頬笑みかけてきたが……。
「リュセル殿下、今回の旅道には温泉もあるんですよ。任務でお急ぎでしょうが、馬車でくつろげる私達と違い、外で働き続けている者達の疲れを癒す為に寄らせていただく形になっております」
シャノンの口から紡がれた穏やかな声から、先程の顔は見間違いだったのかと思ってしまう。
「俺達は入れないのか?」
「私達の目的に温泉は必要ないだろう?」
元日本人としては是非入りたくて尋ねたリュセルに、即、レオンハルトからダメ出しが入る。残念に思っているリュセルの気持ちがわかったのか、シャノンはやんわりとレオンハルトに言った。
「いつも私達は他の者が入る大きな泉とは別の泉に入ります。若干小さな泉ですが、よろしければそちらをお使い下さい。どの道、その日はそこで野営をするのですから」
「そうか。では、機会があったら使わせてもらおう」
そっけないレオンハルトの答えにも、シャノンは嬉しそうに頷いた。
「ええ、是非」
何かを隠している。リュセルは、何となくそう思った。
この、シャノンという美しい青年は、一体何を隠しているのか……。悪いと思いつつ、気になったリュセルは、レオンハルトの膝から起き上がると、わざとよろける振りをした。
「あ、リュセル殿下」
慌てて伸ばされた目の前の青年の腕を掴み、罪悪感を覚えながらも、その内面を探ったのだった。
しかし、王子である自分達が小説の為に真夜中に城を抜け出したなどと口外する事も出来ないので、リュセルは口を閉ざすとレオンハルトに目線で訴えた。
一方、弟の驚愕を知っているレオンハルトは、それに小さく頷く事で答えたのだった。
「リュセル、紹介しよう。今回の任務に同行する事になったアルターコート神官だ」
「お初にお目にかかります、剣鍵様。セフィ・アルターコートと申します。あなた様のような尊い方とこの度ご一緒出来ます事を、大変光栄に思います」
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「それと、この馬車に同乗させてくれたシャノン殿、アビス殿、ベイソン殿だ」
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「お目にかかれて光栄です、リュセル王子殿下」
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そして、そこでようやく、レオンハルトの言葉を頭の中で反復する。
(ん? 馬車……?)
「ここは、デコレート商会の所有する馬車の中だ。起きないから抱えて連れてきたのだよ」
リュセルの疑問がわかったのか、レオンハルトはパニックに陥っている弟を面白そうに見やりながら、そう説明したのだった。
その後、二日酔いの影響で吐き気と頭痛が治まらない体に鞭打ち、リュセルは着ていた夜着から荷物の中に入っていた自分の外出着に着替えた。
白い長衣の上に同色のケープを羽織り、黒のパンツ型の下衣を履く。黒の長衣(コート)をきっちりと着込んでいるレオンハルトと並んだ時に対になるように作られたものだ。
余談だがリュセルの着る服は外出着、宮廷服、正装を含め、兄レオンハルトと並んだ時に見栄えするように、色、素材、デザイン、すべて特別に作られている。
本人はまったく知らないが、これは、レオンハルトの意向と、父王ジェイドの親心も大きく関与している。まあ、双子の子供に同じデザインの服を親が着せたがるのと似たようなものだろう。
そんな訳で、外出着に着替えたリュセルの姿は、彼自身の美貌の効果もあり、多くの貴人を相手にしてきた男娼達をうっとりとさせるような、それは凛々しい姿だったのだが……。
(気分が悪い……)
リュセルは今までいた奥座から、シャノンに招かれるまま、彼らがいる馬車内の中央に移動し、クッションに背を預けると、うっぷと吐きそうになりながらそう思っていたのだ。
しかし、そんな気分の悪さとは裏腹に、気づくとリュセルの口は、甘い言葉を三人の男娼達に投げかけていた。
「男性にこんな事を言うのは失礼かもしれませんが、皆さん、本当に綺麗な方ばかりですね」
にっこりと魅惑的な王子スマイルでそう言われ、シャノンはともかく、アビスとベイソンの二人は昇天しかけてしまう。
眠っている姿も目が離せない程美しかった王子は、目覚めたら、それはそれは、今まで出会った事のないような魅力的な男だったのである。
「ふふ、お上手ですね」
涼やかなシャノンの答えに、リュセルは甘い響きのある声で再び返す。
「本当の事を言ったまでですよ、シャノン殿。こうしてあなた方のような美しい方達と一緒に旅出来る事を、とても嬉しく思います」
スラスラと口説き文句を口にするリュセルに、同じようにシャノンに招かれて男娼達のいる場所に腰を降ろしていたセフィは感心してしまう。
目が見えない為、彼に分かるのは、とてつもなく甘い低音と、普通の男が言ったら笑い話にでもなってしまうような臭い台詞だけだ。
「すごいですね、剣鍵様。傍で聞いているだけの私でも赤面してしまいますよ」
事実、セフィの頬はうっすらと赤く染まっている。
「剣鍵というのはやめてくれないか? リュセルでいい」
「そんな、恐れ多いっ! あなた様は、私達の崇める唯一神の神子であらされるのですから!」
神官にとって王よりも貴い存在、それが女神の子供である。決して名前で呼ばない頑固なセフィにため息をついた途端、ズキリと頭の芯が痛むのをリュセルは感じた。
(自業自得とはいえ、かなりつらいな)
そう思った時、奥座で何かカチャカチャとやっていたレオンハルトが、リュセル達のいる場所に戻って来る。
「レオン」
「まったく仕方のない奴だ。ほら、これを飲みなさい」
口では甘い口説き文句を言い続けながらも、二日酔いの影響が強いであろう弟に、持ってきた器を渡す。
「何だ、これ? うわっ、臭っ! すごい色してるぞ!」
「二日酔いに効く薬だよ」
「レオン……」
こんな、出立前日にやけ飲みなどして、二日酔いなんて起こしている馬鹿な自分の為に……。感動しながら、リュセルは器に入ったドロドロとした液体に口をつける。
その瞬間
「ぐほっ!!」
あまりのまずさに吐き出した。
(ま、まず過ぎる)
ゲホゲホと涙ぐみながらむせているリュセルの背をさすりながらも、全部それを飲みきるまで厳しい目で見守っていたレオンハルトは、相手が飲み終わったのがわかると、空の器を受け取り、薬のあまりの苦さ、まずさに涙目になっていたその頬を撫でた。
「ふふふ、よく飲めたな。えらいぞ」
まるでお手伝いが上手く出来た子供を褒めるような、優しい親の口調と微笑でレオンハルトにささやかれ、リュセルは周りの目が気になってしまう。
純朴な神官、セフィは微妙な笑顔を浮かべており(引きつっているとも言う)、シャノンはその顔に綺麗な微笑みを浮かべたまま、他の二人はうっとりとした表情でリュセルとレオンハルトを見つめ続けている。
(もう、どうでもいい…………)
気分が悪いのに周りの目まで気にしていると、頭痛が余計にひどくなる……、ような気がする。
考えるのを放棄したリュセルは、兄の優しくも力強い、抱かれるになれた腕に引き寄せられるがまま、その膝に頭を乗せて横になった。
(横になっていた方がいくらかマシだな)
優しく自分の髪を梳る兄の繊細な指の動きに、起きたばかりだというのに眠くなってくる。
(いかんいかん)
なんとか目を覚ましておこうと目に力を入れていると、自分達の向かいに座るシャノンの瞳がせつないような色を宿しているのに気付く。
(?)
その薄い緑色をした瞳は、まっすぐにレオンハルトに向けられる。
(何だ?)
他の二人の男娼の視線がリュセルとレオンハルトの二人に向けられているのに、この青年だけは、瞳の奥にもどかしい程の思いを秘めた視線を兄にのみ向けていたのだ。
リュセルの視線に気づいた彼は、一瞬でそれを綺麗に隠すと、にっこりと頬笑みかけてきたが……。
「リュセル殿下、今回の旅道には温泉もあるんですよ。任務でお急ぎでしょうが、馬車でくつろげる私達と違い、外で働き続けている者達の疲れを癒す為に寄らせていただく形になっております」
シャノンの口から紡がれた穏やかな声から、先程の顔は見間違いだったのかと思ってしまう。
「俺達は入れないのか?」
「私達の目的に温泉は必要ないだろう?」
元日本人としては是非入りたくて尋ねたリュセルに、即、レオンハルトからダメ出しが入る。残念に思っているリュセルの気持ちがわかったのか、シャノンはやんわりとレオンハルトに言った。
「いつも私達は他の者が入る大きな泉とは別の泉に入ります。若干小さな泉ですが、よろしければそちらをお使い下さい。どの道、その日はそこで野営をするのですから」
「そうか。では、機会があったら使わせてもらおう」
そっけないレオンハルトの答えにも、シャノンは嬉しそうに頷いた。
「ええ、是非」
何かを隠している。リュセルは、何となくそう思った。
この、シャノンという美しい青年は、一体何を隠しているのか……。悪いと思いつつ、気になったリュセルは、レオンハルトの膝から起き上がると、わざとよろける振りをした。
「あ、リュセル殿下」
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